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11 真実1

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◇◆◇


 一年ぶりに見たリオ様の長い黒髪は短く切り落とされていた。
 太陽の日差し溢れるこの国で、日に焼かれていたのだろう。浅黒い肌になっていて、その健康そうな顔に美しい笑みを浮かべて私を見つめていた。

「久しぶりだな。エミリア」
「……リオ様」

 漆黒の輝く瞳はまっすぐに私に向けられ、その表情には喜びを感じさせる。

「ずっと会いたかった。あの時の礼を言いたかったのだ」
「そんな、私の方こそです。リオ様……」

 私は混乱していた。
 ここは魔法研究所。私が配属されて、その初日に紹介された上司がリオ様だ。

「お元気で……いらっしゃいましたか?」
「ああ、あれからこの国に保護されていた。エミリアも元気でいたか?」
「ええ……ええ」

 無事で生きていらっしゃった……!
 それだけで泣きそうに嬉しい。
 リオ様はあの日のやつれたお姿からは想像出来ないくらいに、生き生きとしている。きっとイシュハル様はリオ様を守ってくださっていたのだろう。

「どういうことですか?リオ様は魔法研究所にいらっしゃったんですか?」
「そうだ。イシュハルに依頼され、俺自身も望んで、魔道具の開発に携わっていた。やっとエミリアを呼び寄せられるほどに開発が進んできた」
「私を……?」

 リオ様は微笑むと、研究所の中を案内してくれる。研究員たちを紹介してくれて、最後に建物の地下にある研修室に辿り着く。

「ここに入れる者は限られている」
「はい」

 地下には柱がありながらも仕切り壁のない広い空間が広がっていた。
 檻のようなところに入っている獣のようなものに目をやると、そこに入っているのは魔物だった。

「ひっ……!!」
「大丈夫だ」

 リオ様は安心させるように言った。

「あの檻が分かるか」

 リオ様はひと際暴れまわる魔物を閉じ込めた檻を指を指した。小さな黒い塊のような魔物が私たちに向けて飛び回っている。

「はい……」
「魔物は人の持つ強い魔力に反応し、恐れ攻撃しようとしてくるのだ。俺の魔力ならば、檻から出せば命を奪おうとしてくる」
「は、はい……」
「だが……こうすると」

 そう言うとリオ様は箱から小さな魔道具を取り出し、それを机の上に置く。
 そうして私を促して檻とは反対方向に歩いていく。
 すると魔物は魔道具に飛び掛かろうとするように暴れていて、私たちの方は見ていない。

「膨大な魔力を詰め込んだ魔道具だ。魔物はあれを敵だと認識している」
「あんなものどうやって……」

 魔道具の致命的なところは、強すぎる魔力を与えようとすると壊れてしまうところだ。
 だから良い効果を得るものを作る成功率は低くて、貴族の一部の間にしか魔道具は出回っていない。

「……魔法国家ミーニアムですでに開発されていたのだ。それを、フィリアでも同じものを作れるところまで来た。今はその次の段階に進んでいる」
「ミーニアムで……?」
「ああそうだ。俺たちの祖国だ」

 嫌な予感がする。イシュハル様も言っていたではないか。人為的に起こせたらどうする?と。

「今は具体的に言うと、これの機能を進化させたものを作っている」

 そう言ってリオ様は私の胸のペンダントにそっと触れた。
 お父様が残してくれた、魔物除けの機能の付与された魔道具。

「魔物除けの魔術は……人の放つ魔力を中和し、魔物から感知させないようにするものだ。その魔術そのものを使える者が少ないから魔道具として出回っているものも少ない。開発しているものには、あの魔力を注ぎこんだ魔道具を無効化させる役割が出来るものを期待している。エミリアにも協力してもらいたい」

 ああ……と私は頭を抱えたくなる。

「あの魔道具は魔物をおびき寄せることが出来るんですね?」
「そうだ」
「私のうちの領地は、たて続けの災害に襲われました。魔物が関与していましたか?」
「ああ、エミリア・バートン。同級生だった君を、俺は思い出している」
「え?」
「バートン領の災害は兄が亡くなった場所だ……恐らく。雨を呼ぶ魔物は土砂崩れくらいなら容易く起こせる。数を集めれば、水害を起こすことも可能だろう」
「……そんな……そんな!!」

 どうしようもなかったと、何も出来なかったと、無力な自分を責め続けていたけれど、それが誰かの手によって引き起こされていただなんて考えたこともない。

「ならば私がこれを貰っていてはいけなかったのに、領地のお父様が持っているべきだったのに!」

 泣きながらペンダントを握り締めて気付いてしまう。お父様は分かっていて私に渡した……?

「私だけは助けるために……私に託した……?」

 何かあっても私だけは生き残れるようにお父様はペンダントを私の首にかけたの?

「お父様……!」
「エミリア……」

 ぼろぼろと涙の止まらない私の肩をリオ様が抱きしめる。

「聞いてくれエミリア」

 涙の向こうに真剣な表情のリオ様がいる。

「過去は変えられない。けれど、もう二度と同じことは起こさせない。そのために俺はここにいる。未来の被害は俺が、俺たちが防ぐ」

 ぐっと強く肩を握られる。

「俺は約束を守る。必ず守ると誓う。そして、エミリア、君の悲しみにも寄り添う。涙が枯れるまで泣いていて構わない」

 そう言ったリオ様にそっと頭を撫でられ、思わず声を上げて泣いてしまうと、今度は優しく抱きしめられた。
 一年ぶりのリオ様の胸の中は、何も変わらず温かかった。
 もう二度と逢えないと思っていたのに、あんな旅の途中の口約束を覚えていてくれて、また誓ってくれた。

「リオ様……会いたかったです」
「俺もだ」
「寂しかったです」
「……俺もだ」

 同じ気持ちでいたなんて、そんなことあるんだろうか。泣きながら不思議な気持ちで顔を上げると、リオ様は言った。

「エミリアに顔向け出来るようになれるまで会えないと思っていたんだ」
「顔向けですか?」
「俺が情けない男だということだ」

 首を傾げる私を見てリオ様は困ったように笑った。
 そんなことないのに。リオ様はいつだって格好良いのに。そう思う私を、リオ様は愛しい者を見つめるような眼差しで見つめ、撫でてくれている。
 そうしてそのまま涙が止まるまでリオ様は私を抱きしめてくれていた。

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