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4 旅の始まり
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隣国に着くまでの馬車の中、彼はあまり話さなかった。
時々眠りに落ちていて、そんなときは苦しそうに魘されていた。
起きているときは難しい顔をしていて、これからのことでも考えているのだろう。私も人のことどころではないので、フィリア語の復習に語学書を読んで過ごしていた。彼はそんな私をちらりと見たけれど何も言わなかった。きっと王子であった彼は語学も堪能なんだろう。
隣国に着くと、馬車の御者さんにお礼を言って別れた。
ここで一晩泊ってから、乗合馬車でフィリアを目指すつもりなのだったけれど……リオ様を連れて乗合馬車に乗るわけにもいかないし、どうしようかと思い相談すると、それでいいと言われた。
宿屋に行く前に「換金は出来るのか?」と言われる。
どうやら身に着けていた宝飾品を売りたいらしい。金銭を持っていないと言う。その事実で、本当に追放などではなく、死刑のつもりで置き去りにされたんだと伝わってくる。
親切にしてくれた食べ物屋のおじさんに聞いて換金場所に行くと、それなりの値段で買い取ってくれた。買い叩かれていなそうな様子なのは、彼の威圧感ある容姿に気圧されているのかもしれない。
「いいお値段で買い取ってくれましたね。それだけでもフィリアに着いて暫く暮らせるほどあります。残りはフィリアで換金してくださいね。貨幣が変わりますから」
そう言うと、彼はマジマジと私を見つめた。初めて私に興味を持ったような態度だ。
「お前は学校を出ているのか?世慣れているように見える」
ぎくぎく。
「平民も行ける学校ですよ」
「フィリア語など学べるのか?」
「え、えーとぉ」
そうこう言っていると、御者のおじさんが換金所に入っていくのを見た。きっと私が渡した指輪を売るのだろう。そう思っていると、リオ様が言った。
「……お前はどうやって馬車を雇ったんだ?何か渡したのか?」
「え」
そんなこと言われると思っていなくて驚いていると、返事をしない私を置いてリオ様が走って店の中に入っていく。馬車を雇ったのは、山奥の学校からはそもそも馬車を手配しないと街までも行けなかったからなのだ。
呆然としていると、リオ様が私を見据えながら戻ってくる。
「世話料だ」
そう言って、私の手に、ポトン、と母の形見の指輪を落としてくれた。
「わっ」
「道中の金は俺が出す。これは長く手入れがされてきたものだ。大事なものだったのではないか?」
「……母の形見です」
「……は?」
ぎゅっと握り締めて、笑顔を向けて言う。
「ありがとうございます!とても嬉しいです!」
「なんだお前は」
呆れられるようにそんなことを言われた。
そうしてリオ様は、もう一度マジマジと私の顔を見つめた。珍獣を見つめるような眼差しの気がしたけれど、気にしないことにした。
私は感動していた。
すごい。この人は本当に王子様なんだ!
なんだろう……これ。
私のこともろくに興味がないようだったのに、とても自然に……守るべき者のように接してくれた。
第三王子は、徒党を組んで誰かの悪口を言うような集団だったのに。そこに元婚約者も入っていたから本当に辛かった。リオ様だって、多少横柄な口調な気はするけど、行動が全然違う。どこか清らかさを感じる。
王子たちには欠片も興味がなかったけれど……私はたぶん、この時初めて、リオ様に強い興味を持った。
宿屋で二部屋取ってからハタと気が付いてしまった。
「資金が潤沢なのですから、もう私がご一緒してなくてよろしいんじゃないんですか?」
首をかしげてそう言うと、彼は少し考えていた。
「確かにそうだが、迷惑でなければ同行したい」
なぜだろう。
「身を隠して旅をしたい。女性との旅の方が怪しまれない」
リオ様はずっとローブを頭からかぶったままだ。
「そして、俺自身が世間を知らないのもあるが、お前を一人にするのも気がひける。女の一人旅は危ないだろう?」
それはそうだけど、リオ様と一緒に居る方が危険かも……とも思う。
リオ様が生きていると分かれば、きっと狙われる。だから本当は安全な旅のためなら別れるべき……でも。
「確かにそうですね……では!旅のお供をお願いします」
「宜しく頼む」
私の中にはもう、指輪を返してくれたリオ様を心配する気持ちが芽生えてしまっている。
あと、興味がある。
この人には指導者となるのに向いている人の気質のようなものを感じる。きっとそんな人にはもう出逢うこともないだろうから、今だけでもおそばで見ていたいなって、ちょっとした好奇心だ。
そうして私たちは大国までの三週間ほどの行程を一緒に過ごすことにした。
時々眠りに落ちていて、そんなときは苦しそうに魘されていた。
起きているときは難しい顔をしていて、これからのことでも考えているのだろう。私も人のことどころではないので、フィリア語の復習に語学書を読んで過ごしていた。彼はそんな私をちらりと見たけれど何も言わなかった。きっと王子であった彼は語学も堪能なんだろう。
隣国に着くと、馬車の御者さんにお礼を言って別れた。
ここで一晩泊ってから、乗合馬車でフィリアを目指すつもりなのだったけれど……リオ様を連れて乗合馬車に乗るわけにもいかないし、どうしようかと思い相談すると、それでいいと言われた。
宿屋に行く前に「換金は出来るのか?」と言われる。
どうやら身に着けていた宝飾品を売りたいらしい。金銭を持っていないと言う。その事実で、本当に追放などではなく、死刑のつもりで置き去りにされたんだと伝わってくる。
親切にしてくれた食べ物屋のおじさんに聞いて換金場所に行くと、それなりの値段で買い取ってくれた。買い叩かれていなそうな様子なのは、彼の威圧感ある容姿に気圧されているのかもしれない。
「いいお値段で買い取ってくれましたね。それだけでもフィリアに着いて暫く暮らせるほどあります。残りはフィリアで換金してくださいね。貨幣が変わりますから」
そう言うと、彼はマジマジと私を見つめた。初めて私に興味を持ったような態度だ。
「お前は学校を出ているのか?世慣れているように見える」
ぎくぎく。
「平民も行ける学校ですよ」
「フィリア語など学べるのか?」
「え、えーとぉ」
そうこう言っていると、御者のおじさんが換金所に入っていくのを見た。きっと私が渡した指輪を売るのだろう。そう思っていると、リオ様が言った。
「……お前はどうやって馬車を雇ったんだ?何か渡したのか?」
「え」
そんなこと言われると思っていなくて驚いていると、返事をしない私を置いてリオ様が走って店の中に入っていく。馬車を雇ったのは、山奥の学校からはそもそも馬車を手配しないと街までも行けなかったからなのだ。
呆然としていると、リオ様が私を見据えながら戻ってくる。
「世話料だ」
そう言って、私の手に、ポトン、と母の形見の指輪を落としてくれた。
「わっ」
「道中の金は俺が出す。これは長く手入れがされてきたものだ。大事なものだったのではないか?」
「……母の形見です」
「……は?」
ぎゅっと握り締めて、笑顔を向けて言う。
「ありがとうございます!とても嬉しいです!」
「なんだお前は」
呆れられるようにそんなことを言われた。
そうしてリオ様は、もう一度マジマジと私の顔を見つめた。珍獣を見つめるような眼差しの気がしたけれど、気にしないことにした。
私は感動していた。
すごい。この人は本当に王子様なんだ!
なんだろう……これ。
私のこともろくに興味がないようだったのに、とても自然に……守るべき者のように接してくれた。
第三王子は、徒党を組んで誰かの悪口を言うような集団だったのに。そこに元婚約者も入っていたから本当に辛かった。リオ様だって、多少横柄な口調な気はするけど、行動が全然違う。どこか清らかさを感じる。
王子たちには欠片も興味がなかったけれど……私はたぶん、この時初めて、リオ様に強い興味を持った。
宿屋で二部屋取ってからハタと気が付いてしまった。
「資金が潤沢なのですから、もう私がご一緒してなくてよろしいんじゃないんですか?」
首をかしげてそう言うと、彼は少し考えていた。
「確かにそうだが、迷惑でなければ同行したい」
なぜだろう。
「身を隠して旅をしたい。女性との旅の方が怪しまれない」
リオ様はずっとローブを頭からかぶったままだ。
「そして、俺自身が世間を知らないのもあるが、お前を一人にするのも気がひける。女の一人旅は危ないだろう?」
それはそうだけど、リオ様と一緒に居る方が危険かも……とも思う。
リオ様が生きていると分かれば、きっと狙われる。だから本当は安全な旅のためなら別れるべき……でも。
「確かにそうですね……では!旅のお供をお願いします」
「宜しく頼む」
私の中にはもう、指輪を返してくれたリオ様を心配する気持ちが芽生えてしまっている。
あと、興味がある。
この人には指導者となるのに向いている人の気質のようなものを感じる。きっとそんな人にはもう出逢うこともないだろうから、今だけでもおそばで見ていたいなって、ちょっとした好奇心だ。
そうして私たちは大国までの三週間ほどの行程を一緒に過ごすことにした。
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