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第一章 第一幕 「傀儡を追うは、少年少女」

第三十六話 「勝利:フェーズ2 『残された謎』」

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【18:12】

「舐めてくれる……!」

舐めている、という訳ではない。事実なんだよね、これは。

「ああ、頭には確かに直撃したさ。だが、ダメージは少ない。
俺の能力の、真の姿ならば……」
「知っていますよ、あなたの能力の真の姿くらいはね。といっても幸樹が教えてくれてくれた事なので、僕がこんなに威張るというのもおかしな話ですがね。
“温度”なんでしょう? あなたの能力が持つ本質は。温度で、僕が撃ち込んだ氷を消し去った。」
「……っ! 馬鹿な! お前にそれを教えたはずは!」
「そうとも。貴方は、何も言ってはいない。
もう一人の僕が、解明した真実なんだ。貴方の能力を見て、そこにあった数少ない情報だけで割り出した真実。
その能力ゆえに貴方は降ったものをすぐに出したり消したりできないし、降る氷が大きくなればなるほどその量は減少する。あなたの起こす自然現象は、全て温度変化による副産物にすぎないんだ。
そして、温度を上げられる……物体を高温へ変化させられるからこそ、氷でできた弾を消し飛ばして防げるんだ。まあ、僕と違って一つか二つずつしか変化させられないはずですけどね。」
「く……っ!」
 
そこまでわかるのか、と言いたげな表情をしているな。彼とてそれを言う訳にはいかないのだろうが、もしそれができるならこう言っているのだろう。
『そんな事まで読まれているのか』と。

「知識として、お前が出てくるのは知っていたよ、ユウキ。
お前が何を起こすか分からないから、俺はお前の方を重点的に警戒していたんだ。もし仮にでも、出てきたらまずい……とな。
だが、認識に間違いがあったようだ。真に警戒すべきだったのは、お前ではなかった。お前でありお前ではない、前田幸樹の方だったのか……!」

そういうことだよ、負け犬さん。
俺たちの勝ちだ。もう、彼は僕らを止められない。

「だからといって、俺が敗北する理由などならん!
温度変化をどうする事もできない以上、抵抗のしようはないはずなのだ!」
「そうですか? そう思うなら、試してみればいいじゃないですか。」

勝ち誇りつつ、僕は言う。後ろの二人は怪訝そうに見てきたが、問題ない。
このために……という訳ではないのだが、これも幸樹が解決してくれている。

「そうまで言うって事は、理由があるのか……?
しかし、今更止められるものか!穴だらけの蜂の巣に成り果てろ!」

そして、また雹が降り注ぐ。当然僕は迎撃し……
少しすると、雹は雨へと変わった。ただの水滴になったのだ。

「な……! 何故だ!大気の温度が上がっている⁉︎
まさか、お前は!」
「もちろん、貴方ほどの方なら熱運動の存在は知っていますね? 僕たちならできる。熱運動を操作し、温度を変化させるくらいはね!
運動を操る能力は、すでに圧倒的な進化を遂げている!」
「何……っ⁉︎ 馬鹿な!
中射程支援タイプの能力に、こんな使い道が!?」
「能力の源、精神を縛り付けていてはね。そんな状態で本来の性能を出し切るなんて、今から考えてみれば冗談みたいなものさ。」
技術的特異点シンギュラリティ・ワンが言う事か! 制御も進化予測もできない兵器に、意味などない!」

兵器、だと? 彼は僕らを、兵器と?
自分が教育した息子のような存在だとしても、兵器として扱うのか? 馬鹿なことを!

「違う、僕らは兵器なんかではない! 人間だ!
考えず、ただ糸で操られているだけの生体兵器とは違うんだ!」
「その目的で作られた存在が、ほざけ!」

彼はもう能力で勝利する事を諦めたのか、腰の後ろから拳銃とナイフを取り出す。
俺の事を兵器とするくせに、兵器で勝とうとするのか。馬鹿らしいことだ!

「この野郎っ、喰らえ!」

乾いた発砲音と共に、弾丸が射出される。
その弾丸をちゃんと安全な位置に弾き飛ばし、薬莢を排莢口に挟み込む。
すると当然、次弾は発砲できない。自分の安全を確実とした後、銃を手から弾き飛ばして奪う。
ふむ、これもグロックか。僕と違って、人気なものだな。

「投降してくれ。たった数ヶ月教育を受けただけとはいえ、あなたに恩もある。殺したくはないんだ、撃たせないでくれ。」

奪った銃を彼に向け、投降を勧告してみる。まあ、無駄な事にはなるだろうがね。

「クソ、クソっクソっクソっ! 舐めるなよ、人でなし! てめぇなんざなぁ! ナイフ一本で十分だぁぁぁぁぁ!」

まだ諦めたくないのか、腕を振りかぶってを動かしてナイフを投げつけてくる。親とはいえ、無様なものだな。

「やった、当たった!当たっ……⁉︎ 当たっていない⁉︎」
「本当に、無様なものだな。自分がそういう事を散々してきたくせに、自分がそうされると分からないものなんだな。
氷だ。空気中の水と、あんたが馬鹿みたいに雹を溶かして作った水を利用して氷の盾を作った。それだけのことさ。
やむを得ない。あんたを……始末する。」
「おい嘘だろ、ちょっと待っ……!」

もう一度、乾いた銃声が響く。これで、全て終わりだ。
……これで、良いんだよね。幸樹。

【18:31】

「おお、幸樹……くんでは、ないんだったね。ユウキ君と言ったかな?」
「どうやら、見た目は変化しないみたいですね……二重人格を持つ人の中には精神だけでなく身体的変化をする人もいるようですが、彼は違うみたいですね。」

現在、幸樹の復活待ち中。その間に彼の仲間が来てくれたようなので、事情を説明して帰りの車に乗せてもらった。幸いにも幸樹のほうの友人がいたので、証拠には事欠かなかったね。
あと、八重さんの死体も回収されたらしい。まあ死体からろくな情報は得られないだろうし、あまり興味がある訳ではないけどね。

「ええ。僕は幸樹ではありませんが、身体的特徴はまったく変わっていないんですよね。すみません、分かりづらくて。
お二方は、相川さんと桐し……桐咲さんでしたっけ? 合ってましたか?」
「そうだけど、どうして知っているの? 幸樹くんが言ってた?」
「ええ、そりゃあもう。彼は僕に色々と外のことを教えてくれるんですよ。まるで子供が寝る前に、読み聞かせをしてくれる親みたいに。
ただ、彼自身悩んでいるらしく……なんというか、その癖が高じて普段から説明口調になっているのが、自分でも嫌になっているらしいですよ?」
「へぇ、あれ本人は嫌がってたんだ。別に私はいいと思うけどな。」
「桐咲君、そういうのは本人にしか分からないものだよ? 本人が嫌だと思っているなら、それはそれで何とかしてあげないと。」

おや、この人たちは結構善良なようだ。幸樹の事をよく考えてくれている。
僕と違って、幸樹はただの高校生だったはずだからね。もちろんT持ちであるという特徴はあるが、まあこの世界では個性の一つみたいなものだろう。“Talent”、才能という言葉が元らしいからね。

「……さて、無駄話はここまでだ。
単刀直入に言う。君はさっき死体で発見された敵と、繋がりがあるようだね?
それを教えてもらおう。内通を疑う訳ではないが、無意識のうちに近しい行為をしている可能性は否定できない。」

おっと、いきなり核心を突いてくるような質問だな。まあいい、この質問に対する答えは既に持っている。

「それは、僕が言うべき事ではないんだ。
あなた方がこの言葉で何を思うかは分からない。
僕を内通者だと疑うのかもしれないし、そうでないかもしれない。だが少なくとも、僕に言えるのはここまで。
けど、安心してください。あなた方は、必ず僕に辿り着けるはずだ。僕を作り出した研究所の裏切り者と、彼女すら望まなかった技術の結晶。
だから、僕を追い続けてください。真実に辿り着きたいのなら……ね。」
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