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第一章 第一幕 「傀儡を追うは、少年少女」
第二十話 「突然過ぎる変化」
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【9/13 5:58】
「あんた……っ! 本当に大丈夫なの!?」
「問題ない。というか、痛くないならなんでもいいんだよ! 第一お前がそれを聞いたって、どうにもならんだろ!
腕は治してもらえるし、俺は生きてる。今回の戦闘では、誰も死んじゃいない。それじゃ不服か?」
あの後俺たちは、目標の書類やその場にあった必要そうな物を回収。そのまま帰投し、昨日の夜から諜報班が解析を行っているらしい。まあ主にはあの家から集めた文書の解析で、桐島の集めていた物は後回しになっているようだが。
「不満とかそんなんじゃなくて、私は……!」
「私はなんだ? 言ってみろよ。いつもみたいに口喧嘩始める未来は見えてんだろ?
俺は怪我人なんだ、傷が開くと流石に痛い。あんまり口を開かせないでくれよ。」
……そんな中、唯一かなり大きな怪我を負った俺は現在、医務室にて応急処置中。優子さんが言うには、ここまでやられると切断面の状況によっては治せないこともあるらしい。まあ最低限の応急処置は自分でもしていたので、大丈夫だとは思うがな。
「そ、そういう事言いたいんじゃなくて! ただ、その……」
「鬱陶しいな、何だよお前! 何か言いたいんならとっとと言え!」
今のこいつは、どこかおかしいような気がする。いつものような刺々しさが感じられないのは、なぜだ?もっとこう、“ざまぁないわね、お似合いよ”とぐらい言われると考えての態度だったんだが……
「その……ごめんなさい!」
……はい? こいつ今何と言った?
ごめんなさい、と言ったのか?
「おま、え……? おま、誰だ?」
正直なところ、俺は本気で困惑している。目の前にいる同級生の形をした女が、敵の変装だと疑い初めている。
「私のせいで、こんな事になって……!」
何言ってんだこいつ?そんなキャラじゃなかっただろ、お前。
「初めて会った時からずっとそうよ、貴方は私のせいで傷ついて、酷い目に遭ってきた!」
ずいぶん素直……いや、素直なのか? 何かのドッキリじゃないのか?
落ち着け、落ち着くんだ。とりあえず、脳内会議をしよう。自分の脳内に議場を制定し、自分の二面性からくる別の側面と対話するんだ。この会話を続けるためには、手段はそれしかない。
そう考えると、俺の意識は落ちてゆき……
【?/?? ??:??】
ー……こんな下らない事で僕を呼ばないでくれるかな、
「いや、それは悪いと思ってるよ。けどやっぱり、この状況は理解できん。」
ー理解できない、なんて嘘が僕に通じると思う?僕は君の事なら何だって分かるんだよ。
「……ああ、そうだったな。だってお前は、俺だものな。」
ーそう、君は僕だ。そして、僕は君だ。だって僕達は、同じなんだからね。
といっても、別に表裏って訳じゃないが。
「あれ?お前って俺の裏の人格とか、そんなんじゃないのか?てっきり、そうだと思っていたんだが。」
ーいいや?そうじゃない。もっと別の存在だ。
君があの研究所を調べていれば、そのうち僕の正体は分かる。
「おい、どういうことだ?何であの組織が俺に繋がってくる!」
ーそれはまだ言えないね。
おっと、もう時間だ。まあ君も分かってると思うけど、彼女は僕達のことが好きだから。いい感じに対応しておいて。
「おいちょっと待て、結局何もかも俺に投げてんじゃねえか!おい待て、待て!」
【6:09】
何の成果もないまま、戻ってきてしまった。正直な所賭けではあったが、成功したのは驚きだ。
まあ想定していたほどの意味はなかったが。
「なのに私は、私は……っ!」
こうして見ると、意外とこいつもいい奴なのかもしれない。俺は特にそうだが、人間が持っている側面は一つに限定されない。
とにかくここは、とりあえず宥める事が先決だ。
「お、落ち着けよ。別に俺だって今までの事……まあ、根には持ってたが。けど、今回はお前のせいじゃない。お前が追ってた奴らのせいだ。奴らが何もしていなければ、こんな事にはならなかった。
何かしていたとしても、せめてもう少しまともな活動をしていればな。」
「……そう、かしら。」
はえーなオイ。もう少し説得した方がいいと思っていたんだが、まあ手間が省けたからよしとするか。
まあそんな訳で、バカをなだめていると。ドアが開き、後ろから声がした。
「幸樹君、どう?大丈夫?」
桐咲さんだ。今日はあんまり見なかったが、この人も無傷らしい。いい事だな。
「大丈夫か……と聞かれると、微妙ですがね。まあ、命に別状はないので。」
「そう……そっか。ぞめんね、こんな事になっても何もしてあげられなくて……」
「いや、桐咲さんのせいじゃないんですから!
その、なんて言いましたっけ?昨日俺たちが行った敵拠点の持ち主。」
そう、俺たちは別に研究所が直接送り込んできた人間と戦っていた訳ではない。研究所の下部組織、金で雇われたヤクザからの攻撃だった。
名前が、たしか多超組。名前の威勢がよく、またそれに恥じない戦闘能力も持っている。
俺が初めて戦った森兄弟、そしてさっきの家にいた奴も構成員らしい。
つまるところ、優秀な連中のオンパレード。我々にとっては最悪の存在だ。
「多超組の奴らのせいで、俺はこうなった。この場にいる誰にも、責任はありません。」
「……君がそう思ってくれるなら、何よりだけどね。」
桐咲さんがそう言ったっきり、沈黙が場を支配する。
……嫌いなんだけどな、こういう気まずいの。何も言い出せない、言い出したくならないようなこのクソッタレの空気感。
だが俺から何か言い出さないと、この空気は永遠に終わらない。さしずめ究極的な二律背反、あるいは終わりの見えないジレンマといった所か。
……仕方ない。最悪極まりないが、ここは俺がやろう。そうでもないと、この二人は口を開くどころか呼吸すらしないだろうからな。
「……そういやさ、お前の能力ってまだ聞いてなかったよな。仲直りって言うとガキっぽく聞こえるが……関係修復の第一歩と行こうじゃないか。
それに、こういうこと言うとアレだけどさ。俺多分、お前の護衛をやれって言われると思うんだよ。だから、情報交換は必須だろ?
……ダメか?」
嘘ばかり口を衝くが、俺の発言の中に一つだけ真実がある。俺がこいつの護衛をさせられる、という部分だ。
とりあえず、桐島は絶対に狙われるだろう。俺たちにとっての貴重な情報源になりうるのだから、排除には絶対に来る。
だが学校を無理やり休ませてもそれはそれで心配されるだろう。最悪誰かが何かの理由で来た時に発覚、なんて事にもなりかねない。だから学校には行かせなければならない。
だが、絶対に護衛は必要だ。そういう理由か?あるいは俺たちのように諜報員に仕立て上げ、任務のための追加人員として使わせてくるかもしれない。
どちらにせよ、俺が面倒見ることになるのは分かってる。だから、これだけは真実だ。
「……わかった。けどその代わり、あんたの能力を先に教えて。」
よし、一歩前進だ。俺の能力なんぞ、知られても何のダメージもない。
「俺の能力は、運動を操る能力だ。名前も教えといた方がいいか?」
「えっ、あんたも名前つけてるの?」
「ああ。つっても、この人に言われてだがな。
聞きたくなかろうが勝手に言うぞ。能力名は『ヴァリアス Lv』……いや、もう違うな。
Lv3だ。『ヴァリアス Lv3』」
「ん?Lv2じゃないの?」
「ええ、Lvは3です。俺が干渉できるのは、もう物質的な運動だけに留まらない。だから、Lv3です。」
「ちょっと、こっち無視して話を進めないでくれる? 私に教えてくれるんじゃなかったの?」
おっと、そういえばそうだったな。危うく本来の目的を見失う所だった。
正直こいつ、影が薄いんだよな。話してみると気が強いんだが、アクションを起こすまでは不干渉を貫いている。まあ、俺に対しては稀に何もしなくてもイチャモンを付けてくる事はあるがな。
「おう、悪いな。それで、お前の能力は何なんだ?」
「……そうね、なんて言えばいいかしら。私の、能力は……」
「あんた……っ! 本当に大丈夫なの!?」
「問題ない。というか、痛くないならなんでもいいんだよ! 第一お前がそれを聞いたって、どうにもならんだろ!
腕は治してもらえるし、俺は生きてる。今回の戦闘では、誰も死んじゃいない。それじゃ不服か?」
あの後俺たちは、目標の書類やその場にあった必要そうな物を回収。そのまま帰投し、昨日の夜から諜報班が解析を行っているらしい。まあ主にはあの家から集めた文書の解析で、桐島の集めていた物は後回しになっているようだが。
「不満とかそんなんじゃなくて、私は……!」
「私はなんだ? 言ってみろよ。いつもみたいに口喧嘩始める未来は見えてんだろ?
俺は怪我人なんだ、傷が開くと流石に痛い。あんまり口を開かせないでくれよ。」
……そんな中、唯一かなり大きな怪我を負った俺は現在、医務室にて応急処置中。優子さんが言うには、ここまでやられると切断面の状況によっては治せないこともあるらしい。まあ最低限の応急処置は自分でもしていたので、大丈夫だとは思うがな。
「そ、そういう事言いたいんじゃなくて! ただ、その……」
「鬱陶しいな、何だよお前! 何か言いたいんならとっとと言え!」
今のこいつは、どこかおかしいような気がする。いつものような刺々しさが感じられないのは、なぜだ?もっとこう、“ざまぁないわね、お似合いよ”とぐらい言われると考えての態度だったんだが……
「その……ごめんなさい!」
……はい? こいつ今何と言った?
ごめんなさい、と言ったのか?
「おま、え……? おま、誰だ?」
正直なところ、俺は本気で困惑している。目の前にいる同級生の形をした女が、敵の変装だと疑い初めている。
「私のせいで、こんな事になって……!」
何言ってんだこいつ?そんなキャラじゃなかっただろ、お前。
「初めて会った時からずっとそうよ、貴方は私のせいで傷ついて、酷い目に遭ってきた!」
ずいぶん素直……いや、素直なのか? 何かのドッキリじゃないのか?
落ち着け、落ち着くんだ。とりあえず、脳内会議をしよう。自分の脳内に議場を制定し、自分の二面性からくる別の側面と対話するんだ。この会話を続けるためには、手段はそれしかない。
そう考えると、俺の意識は落ちてゆき……
【?/?? ??:??】
ー……こんな下らない事で僕を呼ばないでくれるかな、
「いや、それは悪いと思ってるよ。けどやっぱり、この状況は理解できん。」
ー理解できない、なんて嘘が僕に通じると思う?僕は君の事なら何だって分かるんだよ。
「……ああ、そうだったな。だってお前は、俺だものな。」
ーそう、君は僕だ。そして、僕は君だ。だって僕達は、同じなんだからね。
といっても、別に表裏って訳じゃないが。
「あれ?お前って俺の裏の人格とか、そんなんじゃないのか?てっきり、そうだと思っていたんだが。」
ーいいや?そうじゃない。もっと別の存在だ。
君があの研究所を調べていれば、そのうち僕の正体は分かる。
「おい、どういうことだ?何であの組織が俺に繋がってくる!」
ーそれはまだ言えないね。
おっと、もう時間だ。まあ君も分かってると思うけど、彼女は僕達のことが好きだから。いい感じに対応しておいて。
「おいちょっと待て、結局何もかも俺に投げてんじゃねえか!おい待て、待て!」
【6:09】
何の成果もないまま、戻ってきてしまった。正直な所賭けではあったが、成功したのは驚きだ。
まあ想定していたほどの意味はなかったが。
「なのに私は、私は……っ!」
こうして見ると、意外とこいつもいい奴なのかもしれない。俺は特にそうだが、人間が持っている側面は一つに限定されない。
とにかくここは、とりあえず宥める事が先決だ。
「お、落ち着けよ。別に俺だって今までの事……まあ、根には持ってたが。けど、今回はお前のせいじゃない。お前が追ってた奴らのせいだ。奴らが何もしていなければ、こんな事にはならなかった。
何かしていたとしても、せめてもう少しまともな活動をしていればな。」
「……そう、かしら。」
はえーなオイ。もう少し説得した方がいいと思っていたんだが、まあ手間が省けたからよしとするか。
まあそんな訳で、バカをなだめていると。ドアが開き、後ろから声がした。
「幸樹君、どう?大丈夫?」
桐咲さんだ。今日はあんまり見なかったが、この人も無傷らしい。いい事だな。
「大丈夫か……と聞かれると、微妙ですがね。まあ、命に別状はないので。」
「そう……そっか。ぞめんね、こんな事になっても何もしてあげられなくて……」
「いや、桐咲さんのせいじゃないんですから!
その、なんて言いましたっけ?昨日俺たちが行った敵拠点の持ち主。」
そう、俺たちは別に研究所が直接送り込んできた人間と戦っていた訳ではない。研究所の下部組織、金で雇われたヤクザからの攻撃だった。
名前が、たしか多超組。名前の威勢がよく、またそれに恥じない戦闘能力も持っている。
俺が初めて戦った森兄弟、そしてさっきの家にいた奴も構成員らしい。
つまるところ、優秀な連中のオンパレード。我々にとっては最悪の存在だ。
「多超組の奴らのせいで、俺はこうなった。この場にいる誰にも、責任はありません。」
「……君がそう思ってくれるなら、何よりだけどね。」
桐咲さんがそう言ったっきり、沈黙が場を支配する。
……嫌いなんだけどな、こういう気まずいの。何も言い出せない、言い出したくならないようなこのクソッタレの空気感。
だが俺から何か言い出さないと、この空気は永遠に終わらない。さしずめ究極的な二律背反、あるいは終わりの見えないジレンマといった所か。
……仕方ない。最悪極まりないが、ここは俺がやろう。そうでもないと、この二人は口を開くどころか呼吸すらしないだろうからな。
「……そういやさ、お前の能力ってまだ聞いてなかったよな。仲直りって言うとガキっぽく聞こえるが……関係修復の第一歩と行こうじゃないか。
それに、こういうこと言うとアレだけどさ。俺多分、お前の護衛をやれって言われると思うんだよ。だから、情報交換は必須だろ?
……ダメか?」
嘘ばかり口を衝くが、俺の発言の中に一つだけ真実がある。俺がこいつの護衛をさせられる、という部分だ。
とりあえず、桐島は絶対に狙われるだろう。俺たちにとっての貴重な情報源になりうるのだから、排除には絶対に来る。
だが学校を無理やり休ませてもそれはそれで心配されるだろう。最悪誰かが何かの理由で来た時に発覚、なんて事にもなりかねない。だから学校には行かせなければならない。
だが、絶対に護衛は必要だ。そういう理由か?あるいは俺たちのように諜報員に仕立て上げ、任務のための追加人員として使わせてくるかもしれない。
どちらにせよ、俺が面倒見ることになるのは分かってる。だから、これだけは真実だ。
「……わかった。けどその代わり、あんたの能力を先に教えて。」
よし、一歩前進だ。俺の能力なんぞ、知られても何のダメージもない。
「俺の能力は、運動を操る能力だ。名前も教えといた方がいいか?」
「えっ、あんたも名前つけてるの?」
「ああ。つっても、この人に言われてだがな。
聞きたくなかろうが勝手に言うぞ。能力名は『ヴァリアス Lv』……いや、もう違うな。
Lv3だ。『ヴァリアス Lv3』」
「ん?Lv2じゃないの?」
「ええ、Lvは3です。俺が干渉できるのは、もう物質的な運動だけに留まらない。だから、Lv3です。」
「ちょっと、こっち無視して話を進めないでくれる? 私に教えてくれるんじゃなかったの?」
おっと、そういえばそうだったな。危うく本来の目的を見失う所だった。
正直こいつ、影が薄いんだよな。話してみると気が強いんだが、アクションを起こすまでは不干渉を貫いている。まあ、俺に対しては稀に何もしなくてもイチャモンを付けてくる事はあるがな。
「おう、悪いな。それで、お前の能力は何なんだ?」
「……そうね、なんて言えばいいかしら。私の、能力は……」
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