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第一章 第一幕 「傀儡を追うは、少年少女」

第十二話 「オカルト研究部との邂逅」

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【9/12  16:05】

「……ここね。北館二階の第三教室、間違いない。」
「尾行はなし、今なら行けるな。侵入するぞ。」

俺は前に出て、部室を三回ノックする。すると中に誰かが居るのか、声が返って来た。そして、特徴的な音を鳴らしてドアが開く。

「はいはい、どちら様で……って、お前か。それと転校生も。」

出て来たのは、桐島ではなかった。
北笠先生。うちの担任であり英語担当の教師、そしてこの同好会の顧問でもある。
俺には女教師の良さは分からんが、まあ人気はあるらしい。一年の頃にいた数少ない友人曰く、“顔と体がいいから”という何とも学生的な理由だったと聞く。
個人的には、出してくる課題が多いからこの人は嫌いだがな。

「ええ、俺と転校生です。桐島います?」
「いるわよ。」

奥から、いかにもお上品な声がする。と言っても中身はクソ野郎だが。

「何か用かしら? 前田。」
「冷やかしだ。入るぞ。」

先生とクズが居るせいで少々入り口は狭いが、まあ入ってみようじゃないか。

「お前、冷やかしが冷やかしって自分で言うか? 普通。」
「事実、冷やかしですから。こいつに用ないですし。」

まあ、こいつの所持している情報には用があるのだが。むしろ、それだけが用なのだが。とはいえ、それはそれで機密情報になり得るのだから簡単には言えないがな。

「ちょっと前田! もう少し穏便にやれないの⁉︎」

……なんて言ってくる無知な奴も居るだろうから、教えるついでに嫌がらせだ。

「あのな、一つ教えるぞ転校生。こいつに対して下手に出ることは、何の意味もない。
こいつはな、仕事の一環として下手に出ているコンビニのバイトをわざわざいびる奴なんだよ。相手が仕事じゃなく、本気で自分より下なんだと思い込むクソ野郎だからな。」
「何ですって! 私がいつそんな事したのよ!」
「お前、してなかったのか⁉︎ していると思われても当然だぞ!」
「言い返すな桐島! というか二人とも、いい加減やめろ! 転校生の前だぞ!」

まあ、流石に切れるか。桐島のアホはともかく、あまりにも上手く言ったもんだから、先生も可哀想だと思ったのかもな。

「桐島! 気持ちは十分理解するが、それにしたって仮にも自分を助けた相手に対して失礼だぞ! 例えそれが、お前の意に反する行動であってもだ!
前田も! 折角の人助けが台無しだぞ! もう少し言葉を選べ!」

……この言葉に賛同できないって事だけは、皮肉にもお互い一致していた。

「ふざけないでください! 私はこいつがした事、忘れていませんからね!」
「ざけんな、生娘みたいな事言いやがって!
俺が自分の性分を嫌うようになったのは、お前のせいだ! 自分の人助けしちまう性分で、わざわざいい気分になってたのになぁ! こいつのせいで!」
「つ、着いていけない……」

おっと、流石に優子さんには早い話だったか。こんな醜い争いは見たくないもんな。

「とにかくですよ。俺はこの教室から情報を見つけて、帰ります!」
「待ちなさい。あんたたち二人が書類に触ることは許さないわよ。」
……っざけやがって。俺を舐めているようなら、二ヶ月のトレーニングの成果をこいつで見せてやろうかな?

「前田、それに相川。書類に触るには、その……同好会員でないと駄目なんだ。すまんが、規則でな。」
「そうよ! さあ、早く入部届を書きなさい!」
「はっ! 同好会所属届じゃなくてか?」

……この学校には、部活動と同好会の二種類が存在する。同好会は三名以下もしくは顧問不在、部活動は顧問ありの三名以上が対象だ。
主に、部費がかなり違うらしい。当然同好会の部費は少なく、部活の部費は比較すると高い。
あと二人で、部活扱いか。俺でも構わないから入ってきて部活にしたいという魂胆だな。
こいつも、なりふり構わないでやんの……。

「残念ね、違うわ! 当該人物の入部によって部活動認定がされるという状況では、出すのは“入部書”と“同好会所属届”の、どちらでもいい。部活動届を出しても問題ないのよ!
さあ、早く書きなさい!」

……こいつ、本当にやろうとしてるのか? だとしたら、部活にしたいがあまり見境なくなってないか? なんで俺まで部活に入れようとしてんだよ。俺の事を嫌いなんじゃないのか?

「あー、その……悪いな。このまま行くと、同好会としての活動も難しくなるんだ。一つ、頼まれちゃくれないか?」
「ええ、構いませんよ。桐島がそういう事言うのは気に食わないが、俺も入る理由がある。入部届の二枚や三枚、喜んで書いてやりますよ。優子さんも、書いてもらえます?」
「そうね。私も入ることにするわ。」
「そう。それじゃ、そこに色々書いといて。」

そう言われる間もなく二人ともサッと書き終わると、先生がそれを横から取っていく。

「それじゃ、私はこれを職員室に持っていく。
まだ少し早いが、入部おめでとう。これからよろしくな、二人とも。」
「はい、お願いします。」
「お願いします……。」

これで、俺たちは正式な部員だ。この部活に存在する書類を、確認する権利を得たという訳だな。

「で? 何が知りたいのよ。」

侵入部員の歓迎をしようという気持ちすら持たない桐島は、しかし我々に書類について聞いてくる。

「……この学校の秘密だ。どこにある?」
「学校の秘密っていうと……あれだけね。持って来てあげるわ。」
「おう、頼む。」

すると桐島は、大きめの段ボール箱を持ってくる。その横面には、『クローン研究所と高明高校との関係』とマジックで書かれていた。
……これは、本当にもしかするか?ワンチャンあるか?

「それ、持てるのか? お前。」
「お気遣いどうも。舐めてんの?」
「お前は脳みそもそうだが、それと同じくらい肉体も貧弱だからな。」
「あんたには言われたくない。」

これだから、こいつは嫌いなんだ。本当に、訓練の成果を見せつけてやりたくなってくる。
まあとにかく、桐島が段ボールを持って来た。中を見ると入っていたのは、大量のレポート用紙。中に仕切りが入っていて、右半分は記入がされている物が。左半分は、ただの紙が入っている。

「重要なデータを紙で保管する所はよくやったと言いたいが、もう少し保管方法を何とかできなかったのか?」
「見たくないなら見なくてもいいわよ。」
「はいはい、そうですか……。」

つべこべ言っていても仕方がないので、中身を見てみる。
まず一番左から見てみると、日付は【9/11】と書かれていた。

「これ……昨日の集会の記録か?  俺が出ていたやつ?」
「ええ、そうよ。しっかり話していた内容は紙に映しておいたわ。全く、私も舐められたものよね。結果を誰も信じないなんて言っちゃって。」

……間違いない、昨日のやつだ。俺が聞いた事は一言一句、全て記録してある。

「これ、過去のやつもあるのか?」
「ええ、あるわよ。去年から集めてる。」
「……よくやった、最高だ!  俺はお前の事を結構下に見てたけど、今日から訂正してやる! お前、最高だよ!
優子、今すぐ上に連絡して人を集めろ! こいつ本人とこいつが集めた資料、全て回収して脱出する! 急げ!」
「わ、分かった!」
「ちょっと貴方たち、何やってんのよ⁉︎ 勝手に資料漁らないで!」

何やってる……か。俺も三ヶ月前は、そう思ってたもんだな。しかし、今考えるべきはそれじゃないはずだ。

「ちょっと前田!  何ボサっとしてんのよ、早く物全部かき集めて!  あんたが言ったんでしょ⁉︎」
「やめなさいよ、あんた…!」

取っ組み合いをする二人は、俺にとっては微笑ましくすら見えた。俺が普通の高校生であった事が、もう懐かしく感じられる。
だが、俺はもう普通の高校生じゃない。
……これも、任務のうちだ。

「桐島結衣!」

少し声を荒らげてしまったせいで、二人は取っ組み合いの姿勢のままに動きを止める。

「最初に言っておくが、俺は君を尊敬している。
強靭な精神力もそうだが、その情報収集能力は評価に値する。
俺は尊敬する人間だからこそ、こういうギリギリの事を言うんだ。それを分かってほしい。」
「何よ、おだてて何がしたい訳?  さっさと言いなさい。」
「前田、あんた言う気⁉︎」
「多くは語らない。ただ俺は、少しは知る事ができたんだ。まだ一般人だった頃にもな。
それはきっと、“あの人”の信頼故だった。
俺は桐島を信頼している。俺だからこそ言いたいんだ、この事はな。」
「そう……そう、なの。で? 何なのよ!」

分かってくれたようなのか、優子さんは黙りこくる。まあ、この状況なら信用して構わんだろう。
それに桐島も、一瞬萎縮した。多分話だけは聞いてくれるだろう。

「桐島。君はその類稀なる情報収集能力で、君自身を危険に晒している。だがその反面、君自身をそれから救う事にも繋がっている。」
「だから、話が見えないのよ! 何が言いたいの⁉︎」
「……君は、見てはならないものを見た。知ってはならない事を、知ってしまった。三ヶ月前の俺と、同じようにな。
このままだとお前は、死と隣り合わせの生活を送る事になる。
君の言葉が誰かに信じられれば、死ぬだろう。真実を知りすぎても同様だ。君は死ぬ。そういう世界なんだ。知れば、もう戻れない。」
「……オカルト研究部の部長である私がこんな事言うのも、アレかもしれないけどね。
信じられると思う? そんな荒唐無稽な事が。」
「君の言う“そんな事”を調査するのが、俺たちオカルト研究部だ。違うか? お前がやって来た事は。」
「そりゃそうだけど、だけど!」

まったく、聞き覚えが悪いな。まあ、自分がそうでなかった自信はないが。

「とにかく、君はもう戻れない。俺たちと共に……」

来い、と言いかけた時だった。少し小さい炸裂音が、後ろで鳴る。
最初に感じたのは、痛みではなく熱だった。焼けるような感覚に、襲われる。痛みが来たのはその後だ。

「そうはさせない。」

ああ、終わった、と。俺は激痛によって崩れ落ちる中、そう感じていた……
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