鉱夫剣を持つ 〜ツルハシ振ってたら人類最強の肉体を手に入れていた〜

犬斗

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アルの採掘潜入編

第14話 惨劇

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「クソ! まだ職員はいるんだぞ!」

 この時間は集められた大量の鉱石を仕分けしている最中だ。
 当然ながら今日採掘された竜光石もある。
 そんな現場に、この凶暴な岩食竜ディプロクスが現れたら何人もの死人が出るだろう。

「間に合え!」

 俺は全速力で走った。

「あれは! ワイズの配下か! おい! 逃げろ! 逃げるんだ!」

 ディプロクスは、ワイズの配下二人に襲いかかった。
 為す術なく無惨にも上半身を失う配下たち。
 そして、短山馬ロトウルに喰らいつく。
 竜光石の匂いを感じ取ったのだろう。

「くそ! ここはもうダメだ! 先に洞窟だ!」

 俺はディプロクスを追い抜き、ナブム洞窟へ走った。

「逃げろ! 早く逃げるんだ!」

 洞窟の入口に到着し、集石場で仕分けしている職員たちに向かって叫ぶ。

「ディプロクスが! モンスターが来る! 逃げるんだ!」
「何言ってんだ?」
「早く逃げろ!」
「こいつヴァンって鉱夫だろう? 成績が良いからって調子に乗ってるって話だ」

 誰一人として俺の声に耳を傾けない。
 確かに突拍子もない話だ。

「死ぬぞ! 早く逃げるんだ!」
「バーカ、お前が死ね! ギャハハ」

 忠告を無視する職員たち。
 もう時間がない。

「ヴァンの言うことを聞け! この場を離れろ!」

 俺の様子を見た鉱夫の班長ランカが大声を上げた。

「ありがとう! ランカさん!」

 俺とランカは、集石場にいる数百人の鉱夫や職員に声をかけて回った。

「ギィィイエェェェェ!」

 ついにディプロクスの咆哮が聞こえた。
 上空から巨体を一気に下降させ、竜光石の集石場付近に着地。
 巨大な地震が発生したかのような揺れが発生。
 それと同時に、先ほど俺をバカにしていた職員や鉱夫たちが、地面を這う蜜蟻ミュストのように潰されいた。

「早く逃げろ! ランカさんも逃げるんだ!」

 目の前で潰された人間を見て、絶叫しながら逃げ惑う職員たち。
 ようやく事の重大さに気づく。

 ディプロクスが尻尾を振り回すと、巻き込まれた人々が簡単に潰れていく。
 尻尾にこびりついた肉塊は、床に落としたゼリーのようだ。
 青白く光る尻尾が赤く染まり始める。

「ヴァン! お前も逃げろ!」

 ランカの声が聞こえた。

「俺はここでこいつを足止めする! ランカさんは早く逃げろ!」
「足止めだと?」
「いいから早く逃げろ!」
「わ、分かった」

 ランカもこの場を離れた。

「ギイエェェ!」

 周囲に人がいなくなると、集められた竜光石に喰らいつくディプロクス。
 完全に竜光石しか目に入ってないようだ。

 俺はディプロクスに向かって突きを放った。
 先ほど突きを放った腹部へ、一ミデルトの狂いもなく地上の王者レ・オルを突き刺す。
 予想通り弾き返されたが、俺はこれを繰り返すつもりだった。

「ギィィイエェェェェ!」

 食事を邪魔されたディプロクスが、長さ三メデルトの短く太い尻尾を振り回す。
 あの外殻を纏う尻尾が直撃したら、骨折どころか簡単に死ぬだろう。

 俺は尻尾の薙ぎ払いをかわし、再度突きを放つ。

「傷をつけるまで繰り返す!」

 地上の王者レ・オルが折れないように、細心の注意を払いながら戦う。
 ディプロクスの攻撃パターンは知っている。
 尻尾の振り回しと巨体の突進だ。
 パワーはあるが動きは遅い。

 ここからは持久戦だ。
 一回でも攻撃を受けたら鎧を着てない俺は死ぬ。
 そして、地上の王者レ・オルが折れても終わりだ。
 慎重に集中力を切らさぬよう、突きを放つ。

「くっ! 硬すぎる!」

 何度も同じ場所へ突きを放つも、傷つく気配すらない。
 
「硬度だけで見たら竜種以上だぞ! なんというモンスターを生み出したんだ!」

 地上の王者レ・オルもこの世に二つとない剣だが、このディプロクスには荷が重い。

「せめて黒神の剣音ストラスがあれば」
「ウオォォン!」
「ヒヒィィン!」

 長期戦を覚悟したその時、聞き覚えのある声が聞こえた。
 それと同時に、目の前が真っ白になるほど輝く。

「うわ!」

 直後に空気が割れるほどの轟音。

「こ、これは! 雷の道ログレッシヴか!」

 ディプロクスの動きが止まった。

「ウォン!」
「エルウッド! なぜ!」
「ウォンウォン!」

 俺の目の前に現れたのは、嬉しそうに尻尾を振るエルウッドだった。
 竜光石は雷の道ログレッシヴを通す。
 始祖たるエルウッドの雷の道ログレッシヴをまともに浴びて、平気な生物などいない。

「ヒヒィィン!」
「ヴァルディまで!」

 ヴァルディの背中には、俺の剣である黒神の剣音ストラスがくくりつけられていた。

「持ってきてくれたのか!」
「ヒヒィィン!」
「ありがとう!」

 俺はすぐに黒神の剣音ストラスを抜く。
 全ての光を吸い込むような漆黒の剣身。
 全長は約二百セデルト。
 身幅は十五セデルトもある片刃の大剣。

 素材は黒竜ウェスタードの黒角と三体の竜種。
 この世に並ぶものがない世界最高の剣だ。

「ギイイィィイエェェェェェェ!」

 最大の咆哮を上げたディプロクス。
 俺を睨みつけ突進してくる。
 喰らったら死ぬ。

 俺は黒神の剣音ストラスを左から右へ水平に振った。

「やっぱり黒神の剣音ストラスは凄いな」

 突進してくるディプロクスの首から上が転げ落ちた。
 そのまま力なく巨体が崩れる。

 俺はたったの一振りで、竜種と同格のディプロクスの外殻を斬り、首を落とした。
 胴体から吹き出す大量の血液。
 ディプロクスは完全に息絶えた。

「エルウッド! ヴァルディ!」
「ウォン!」
「ヒヒィィン!」

 俺の前に立つ二柱の始祖。

「もしかして、レイと一緒に来てたのか?」
「ウォン!」
「ヒヒィィン!」
「じゃあ、二柱はサンドムーンからここまで走って来たってこと?」
「ウォン!」
「ヒヒィィン!」 
「どうせ、わがまま言ってレイを困らせたんだろう?」
「ウォウウォウ」
「ブフゥゥ」

 首を横に振る二柱。
 だが、間違いなくわがままを言ったはずだ。

 レイが外交で帝都サンドムーンに来た際、この二柱も旅する宮殿ヴェルーユに搭乗。
 そして、俺の元へ行くと言って聞かない二柱に根負けしたレイが、ヴァルディの背に黒神の剣音ストラスをくくりつけ送り出したのだろう。

「来てくれて助かったけどさ。あまりレイを困らせるなよ」
「ウォウウォウ!」
「ブフゥゥ!」

 俺に反論する二柱。
 俺が心配だったと言いたげだ。

「まあでも、ウェスタードは留守番してくれたから良かった……い、いや待てよ。ま、まさか……」

 俺は嫌な予感がして、すぐさま空を見上げた。

「ウェ、ウェスタードまで……」

 遥か上空に見える小さな黒い点。

 地上から見えないように配慮して、上空を飛んでいるのだろう。
 だが視力の良い俺には見える。

「おいおい、ダメだって! 竜種の移動は国際問題に発展するんだよ!」
「ウォウォウォ」
「ブフゥゥ」
「笑いごとじゃないんだよ!」
「ウォウォウォ」
「ブフゥゥ」
「全く……」

 俺は二柱の顔を擦る。
 そしてヴァルディの背に乗り、ワイズの元へ戻った。
 気を失っているワイズを縛り上げ、宿舎へ運ぶ。

 宿舎のロビーに入ると、モンスター襲撃の影響で混乱を極めていた。
 さらに、俺が縛り上げたワイズを担いでいたため、職員たちは困惑。

「き、貴様! 何をしているのか分かっているのか! ワイズの紐を解け! この鉱夫風情が! 殺すぞ!」

 俺に怒鳴りながら迫ってくるギルマス。
 ギルマスは、ワイズがディプロクスを使役していたことを知っている。

「さて、どう処理するかな」

 ギルマスを拘束すべきか。
 しかし俺にその権限はない。

 怒り狂ったギルマスが、俺の胸ぐらを掴んできた。

「陛下。ご無礼をお許しください」

 背後から声が聞こえると同時に、篭手ガントレットがギルマスの顔面を殴りつけた。
 吹き飛ぶギルマス。
 壁まで吹き飛び、鼻血を出し、歯が折れ口から血を流している。
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