鉱夫剣を持つ 〜ツルハシ振ってたら人類最強の肉体を手に入れていた〜

犬斗

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アルの採掘潜入編

第13話 鉱夫の正体

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「な! バ、バカな!」

 驚愕の表情を浮かべながらも、さらに投短剣ナイフを二本投げつけるワイズ。
 だが、俺は地上の王者レ・オルで叩き落とした。
 ワイズは諦めたように大きく息を吐く。

投短剣ナイフは無理なようだ。だがな、接近戦は俺に分がある!」

 その言葉と同時に暗殺短剣アサシンダガーを両手に構えながら、神速とも言える踏み込みで俺の眼前に迫るワイズ。

「死ね!」

 ワイズの猛攻が始まった。
 二本の手が、まるで四本になったかのような激しい連撃。
 左右から不規則な軌道を描き、迫りくる双剣。
 この剣速は、世界最高の双剣使いと呼ばれるウィルと同等かもしれない。

「速いな」
「余裕ぶりやがって!」

 俺は冷静に長剣ロングソードで捌く。

「クソ! お前何者だ!」

 二本の暗殺短剣アサシンダガーで攻撃しながら、時折蹴りも織り交ぜるワイズ。
 ブーツのつま先にも暗殺短剣アサシンダガーが仕込まれていた。
 禍々しい色をした刃先だ。
 毒が塗られているだろう。
 だが俺は、その全ての攻撃を地上の王者レ・オルで防御。

「くっ! 化け物め!」
「よく言われるよ」

 俺はワイズの隙を見つけ、剣を振り上げた。
 危険を察知したのか、後方へ大きく飛び退くワイズ。

「はあ、はあ。お前冒険者だろ? しかし見ない顔だ。腕の良い冒険者は全員知っているが、お前みたいな奴は見たことがない。もしかしてギルドハンターか?」

 ギルドハンターは、素性を隠して冒険者を取り締まる治安機関シグ・スリーの実行部隊だ。
 大抵はAランクから選ばれる。

「そんな良いもんじゃないさ。何でも屋だよ」
「何でも屋?」
「ワイズこそ暗殺者ギルドの上位暗殺者なんだろ? お前が持つ空気感もその腕も本物だ。それに先週レイとリマが来た時、素性がバレることを恐れて姿を見せなかった」
「……ま、まさか!」

 一気に顔色が悪くなったワイズ。
 そして右手で口を抑えた。

「くくく、くくく! そうか。そうだったか。信じられん! 傑作だ! ギルドに問い合わせても情報がないのは当然か」

 ワイズは突然笑い出し、指笛を鳴らした。

「全ての疑問が繋がった」

 ラルシュ式の最敬礼を行うワイズ。

「遅ればせながら、これまでの無礼をお許しください。ラルシュ国王陛下」

 ワイズは跪いた状態で、顔だけを俺に向ける。

「冒険者ギルドで私と互角なのは、Aランク最上位の双竜や賭博師だけです。その私がこうも簡単にあしらわれるとは……。Aランクを超えた冒険者は、この世にSランクのお二人しかおりませぬ。アル陛下とレイ王妃です。それにアル陛下は元鉱夫というではありませんか。それも一流だったと聞き及んでおります。ここへの潜入にはうってつけの人物。してやられました」
「今も鉱夫だよ。しかし良く知ってるな」
「商売敵ですから……。ところで陛下。噂の黒神の剣音ストラス黒轟竜鎧フレーベはどうされたのですか?」

 ワイズは不自然なほど会話を引き伸ばす。
 もちろん俺はその意図に気づいていた。

「時間を稼いで岩食竜ディプロクスを待つのか? さっき呼んだだろう?」
「くくく。まいったね」

 ワーズが立ち上がり、暗殺短剣アサシンダガーを両手に構える。

「当たり前だ。三体の竜種殺しトライトロンで、十万人斬りディリオンの異名を持つ貴様に敵うわけがない。切り札を使う」
「あのディプロクスは危険過ぎる。外殻は竜種と同じ硬度だぞ」
「ほう、貴様にそう言わせるほどか。それは光栄だ」

 ワイズは身体を少し落とし、重心を下げた。
 両足に力を溜めているようだ。

「貴様は殺す」

 ワイズが俺に向かって突進しようと、暗殺短剣アサシンダガーを強く握った。
 俺はその瞬間、突きを放つ。

「遅いよ?」
「な! 貴様が……速い……ばけ……もの……め」

 五メデルトの距離を一気に縮め、ワイズの腹部に地上の王者レ・オルの柄をめり込ませる。
 ワイズはその場に倒れ、意識を失った。

 あのディプロクスを使役されるのは厄介だ。
 体内生成により、外殻は硬度を上げた竜光石を纏っている。
 ディプロクスとワイズを同時に対処するのは、さすがに分が悪い。

 上空から翼が羽ばたく音が聞こえた。

「ディプロクス!」

 ディプロクスは俺やワイズに目もくれず、籐籠に入った竜光石を貪りつく。
 元々ディプロクスは温厚な性格をしているが、唯一食事の邪魔をされると激昂する。
 しかし、このディプロクスは食事に関係なく、凶暴な性格をしている様子だった。
 ワイズがそう教育したのか、元来の性格か、もしくは竜光石の影響なのか不明だ。
 
「ギィィイエェェェェ!」

 籐籠ごと竜光石を食べ尽くしたディプロクスが、俺を睨みつけ咆哮を上げた。
 青白く光る外殻で覆われている体長約八メデルトの身体。
 二本足で立つその姿は、竜種を想像させるほど神々しい。

 俺は地上の王者レ・オルを構え、全力で突きを放つ。
 渾身の突きが腹部に決まった。

地上の王者レ・オルが刺さらない!」

 強固な外殻は剣を弾き返した。
 ネームド最強の一角、レ・オルの素材を世界最高の鍛冶師であるローザが打った地上の王者レ・オル
 その剣が効かない。
 辛うじて刃こぼれはしていないが、このディプロクス相手に下手な攻撃を繰り返せば剣が折れるだろう。
 慎重にやるしかない。

 以前、ディプロクスのネームドであるウォール・エレ・シャットを討伐した時も、同じような状況だった。
 硬い外殻に小さな傷をつけ、そこから破壊していくしか方法はない。

 ディプロクスが約三メデルトの短く太い尻尾を振り上げ、身体を回転させて攻撃してきた。
 俺は後方に飛び退き、再度地上の王者レ・オルを構える。

「ギィィイエェェェェ!」

 だが、ディプロクスは咆哮を上げ、飛び立ってしまった。
 中型の翼を持つディプロクスの飛行速度は遅い。
 俺はすぐに走って追いかける。

「ま、まさか。この方向はナブム洞窟か」

 ナブム洞窟の最深部は竜光石の鉱脈だ。
 竜光石を主食としているこのディプロクスにとっては、格好の餌場だろう。
 人間には分からない感覚で、竜光石の存在を察知できるようだ。

「くっ! ギルドが危険だ!」
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