上 下
393 / 406
最終章

第380話 帰国

しおりを挟む
 翌日、俺はローザを見舞うため、皇城内の病室へ足を運んだ。
 窓際のベッドに横になり、安静にしているローザ。

「ローザ、大丈夫?」
「陛下! ご足労いただきありがとうございます」
「ローザの活躍を聞いたよ。白狂戦士ハイバーサーカー鉤爪鷲竜アトルス
を討伐したなんて凄いじゃないか」
「その結果がこのザマです」
「何言ってるんだよ。まだ冒険者としても活躍できるでしょ」
「もう引退してる身です。無理ですよ」

 Aランクモンスターの白狂戦士ハイバーサーカーの討伐は、現役のAランク冒険者だって難しいだろう。
 それを引退しているローザと、解体師のオルフェリアの二人で討伐した。
 冷静に考えると信じられない偉業だ。

 俺に同行しているマリンが、ローザに水を入れてくれた。

「ローザ様、果物はいかがですか?」
「ああ、ありがとう」

 マリンが真っ赤に熟れた林檎の皮を剥く。
 俺の分も用意してくれた。

「そうだ。ローザにお願いがあるんだ」
「何を改まって。臣下ですよ? 何でも仰ってください」
「アハハ。ありがとう。新しい剣と鎧を作って欲しいんだ」
「新しい剣と鎧? 紅竜の剣イグエル紅炎鎧ファラムがあるじゃないですか?」
「一度折れてしまったんだ。ウェスタードの血で繋がったんだけど、せっかくだから新しい装備を作ろうと思ってね」
「そうは言っても、あれ以上の素材なんて……」
「ウェスタードの黒角があるっていったら?」
「なんですって!」
「俺から見ても、信じられない硬度だよ。完治したら取りかかって欲しい」
「分かりました。お任せください」
「ありがとう。頼むよ」

 その後もウェスタードとの戦いや新装備の希望を伝えると、ローザは熱心に聞いてくれた。

「アル様、そろそろ」
「もうそんな時間か。分かったよ」

 マリンが声をかけてきた。

「さて、じゃあオルフェリアにも会ってくるよ」

 俺は部屋の扉へ向かう。

「陛下」

 背後からローザに呼びかけられた。

「ん?」
「あ、あの……ありがとうございます」
「え? 何が?」
「私は陛下についてきて本当に良かったと、心から感謝しております」
「な、何だよ改まって! 俺だってローザには感謝してもしきれないよ! 俺が使える剣はローザにしか作れないんだから!」
「陛下専属の鍛冶師ですから。ククク」

 ローザが作る剣は、世界で最も人気が高い。
 剣士や冒険者にとって羨望の対象で、投資目的に購入する者までいる。
 そんなローザが、冒険者時代から俺専属と言って剣を作ってくれていた。
 俺こそローザに感謝している。

「これからも頼むよ」
「もちろんです」

 続いてオルフェリアの病室へ向かう。
 マリンが部屋をノックし扉を開けると、奥のベッドで横になり、本を読むオルフェリアの姿が見えた。

「陛下!」
「オルフェリア。体調はどうだい?」
「はい、大分良くなりました」
「手術……大変だったでしょ?」

 オルフェリアには麻酔が効かない。
 壮絶な手術だったと聞いている。

「解体師の勲章ですから」
「君は強いな」

 マリンがオルフェリアに水を渡し、俺には珈琲を淹れてくれた。

「オルフェリアに報告があるんだ」
「報告? え? ど、どうしたのですか?」
「君の師匠に会ったよ」
「師匠? 師匠って……」
「シーリア・コルトレだよ」
「え! シーリア師匠! 本当ですか!」

 俺はシーリアに会った経緯を伝えた。
 デ・スタル連合国の永久凍森フォーリンに一人で住んでいるシーリア。

「シーリアお養母さん……師匠は森の住人エフーラという解体師の一族です。永久凍森フォーリンに集落があると聞いていましたが……」
「オルフェリアがギルマスって伝えたら驚いていたよ」
「フフ、そうでしょうね。解体師がギルマスになるなんて、これまでだったらあり得ないことでしたから」

 差別の対象だった解体師と運び屋。
 今は地位も向上し、むしろ人気職業の一つだ。

「ねえ、オルフェリア。シーリアをラルシュ王国に迎えたいって言ったらどうかな?」
「え?」
「いや、恐らくなんだけど、戦後処理の関係でデ・スタル連合国には住めなくなると思う。だからシーリアには引っ越してもらって、ラルシュ王国に住みながらギルドで解体師の顧問をしてもらいたんだ」
「私は賛成ですが、師匠が故郷から離れるかどうか……」
「オルフェリアが完治したら、一緒に永久凍森フォーリンへ行こう。まずはシーリアとの再会だ」
「はい。ありがとうございます」
「じゃあ、俺たちはひとまず国へ帰る。仕事のことは考えなくていいから、ゆっくり休んでね」

 俺は病室を後にした。

 ローザとオルフェリアの怪我は回復に向かっているが、まだしばらく安静が必要とのこと。
 シルヴィアから、このまま皇城の病室に滞在するように勧められた。
 そのため、医師による完治の診断が下り次第、旅する宮殿ヴェルーユで二人を迎えに行くつもりだ。

 ――

 各国の旗艦が順次帰路につく。

 王たちに別れを告げ、俺とシドとノルンは銀灰の鉄鎖スタル・ヨールに乗船しラルシュ王国へ帰国する。
 ノルンの今後については、改めて話し合いの場が持たれるが、それまで俺が監視することになった。

 残りのラルシュ王国のメンバーは旅する宮殿ヴェルーユに乗り込んだ。
 エルウッドとヴァルディも乗船し、ウェスタードは自ら飛行する。

 ウィルは現在住んでいるサンドムーンの自宅を引き払って、改めてラルシュ王国へ来るそうだ。

 帰国すると、国民による盛大な出迎えが待っていた。
 街を上げて盛り上がっている。
 どうやら、我々が勝利したことをすでに知っているようだ。

「皆アルが無事に帰ってきて嬉しいのよ」
「そうかな。でも、ありがたいな」

 王城でユリアに全てを報告し、今後について話し合う。
 さらに竜種が住むことを伝えると頭を抱えていた。

「陛下、さすがに竜種を街に住ませるのは……」
「そ、そうだよな。ウェスタードに伝えてくるよ」

 俺はヴァルディに騎乗し、エルウッドを引き連れ街の郊外へ向かった。
 人目のつかない草原にウェスタードが待機している。

「ウェスタード。しばらくはアフラ火山に住んでもらっていいかな?」
「グゴォォ」
「だけど、火山は噴火させないでくれよ」
「グゴゴゴ」

 ウェスタードが笑っていた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

おっさん商人、仲間を気ままに最強SSランクパーティーへ育てる

シンギョウ ガク
ファンタジー
※2019年7月下旬に第二巻発売しました。 ※12/11書籍化のため『Sランクパーティーから追放されたおっさん商人、真の仲間を気ままに最強SSランクハーレムパーティーへ育てる。』から『おっさん商人、仲間を気ままに最強SSランクパーティーへ育てる』に改題を実施しました。 ※第十一回アルファポリスファンタジー大賞において優秀賞を頂きました。 俺の名はグレイズ。 鳶色の眼と茶色い髪、ちょっとした無精ひげがワイルドさを醸し出す、四十路の(自称ワイルド系イケオジ)おっさん。 ジョブは商人だ。 そう、戦闘スキルを全く習得しない商人なんだ。おかげで戦えない俺はパーティーの雑用係。 だが、ステータスはMAX。これは呪いのせいだが、仲間には黙っていた。 そんな俺がメンバーと探索から戻ると、リーダーのムエルから『パーティー追放』を言い渡された。 理由は『巷で流行している』かららしい。 そんなこと言いつつ、次のメンバー候補が可愛い魔術士の子だって知ってるんだぜ。 まぁ、言い争っても仕方ないので、装備品全部返して、パーティーを脱退し、次の仲間を探して暇していた。 まぁ、ステータスMAXの力を以ってすれば、Sランク冒険者は余裕だが、あくまで俺は『商人』なんだ。前衛に立って戦うなんて野蛮なことはしたくない。 表向き戦力にならない『商人』の俺を受け入れてくれるメンバーを探していたが、火力重視の冒険者たちからは相手にされない。 そんな、ある日、冒険者ギルドでは流行している、『パーティー追放』の餌食になった問題児二人とひょんなことからパーティーを組むことになった。 一人は『武闘家』ファーマ。もう一人は『精霊術士』カーラ。ともになぜか上級職から始まっていて、成長できず仲間から追放された女冒険者だ。 俺はそんな追放された二人とともに冒険者パーティー『追放者《アウトキャスト》』を結成する。 その後、前のパーティーとのひと悶着があって、『魔術師』アウリースも参加することとなった。 本当は彼女らが成長し、他のパーティーに入れるまでの暫定パーティーのつもりだったが、俺の指導でメキメキと実力を伸ばしていき、いつの間にか『追放者《アウトキャスト》』が最強のハーレムパーティーと言われるSSランクを得るまでの話。

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

異世界で俺だけレベルが上がらない! だけど努力したら最強になれるらしいです?

澤檸檬
ファンタジー
旧題 努力=結果  異世界の神の勝手によって異世界に転移することになった倉野。  実際に異世界で確認した常識と自分に与えられた能力が全く違うことに少しずつ気付く。  異世界の住人はレベルアップによってステータスが上がっていくようだったが、倉野にだけレベルが存在せず、行動を繰り返すことによってスキルを習得するシステムが採用されていた。  そのスキル習得システムと異世界の常識の差が倉野を最強の人間へと押し上げていく。  だが、倉野はその能力を活かして英雄になろうだとか、悪用しようだとかそういった上昇志向を見せるわけでもなく、第二の人生と割り切ってファンタジーな世界を旅することにした。  最強を隠して異世界を巡る倉野。各地での出会いと別れ、冒険と楽しみ。元居た世界にはない刺激が倉野の第二の人生を彩っていく。

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

処理中です...