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最終章

第376話 アルとレイの戦い

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 俺はウェスタードの背に乗り、ゴドイム大橋を出発した。
 
「レイ、エルウッド、ヴァルディ。頼む。生きていてくれ」
「グゴォォ」
「ありがとうウェスタード」

 俺たちはモルシュ河の上空を北に進む。
 ゴドイム大橋から流れ出した血が大河を赤く染めていた。

 ――

 しばらく上空を飛ぶ。
 俺は思い出したように、シドが用意してくれた食料を補給。

「ウェスタード! 全てが終わったら美味いもの食べさせるからな」
「グゴォォ」

 すでに数百キデルトは飛んだだろう。
 前方に湿原が見えた。

「ん? 橋?」
「グゴォォ」
「あれか!」

 ビオル湿原のモルシュ河に浅瀬が現れると聞いていたが、あれかもしれない。

「ウェスタード! あれだ! 高度を下げてくれ」
「グゴォォ」

 デ・スタル連合国側から無数のモンスターが浅瀬に侵入し、フォルド帝国側にいる軍隊が阻止している。
 上空にも僅かながら、翼を持つモンスターの姿が見えた。

「ウェスタード! 俺が降りたら空を飛ぶモンスターの始末を頼む!」
「グゴォォォォ!」

 ウェスタードが急降下を開始。

「あれは! レイか!」

 レイの姿を確認し、ひとまず安心した。
 一頭のモンスターと戦っているレイ。

牙獅獣ラーヴェ? い、いや違う! あ、あれはレ・オルだ!」

 ラーヴェのネームド、レ・オル。
 以前討伐したティル・ネロと同格のネームド最強格だ。
 鬣と黄金の毛皮は、王者の風格が漂っている。

「エルウッドとヴァルディも戦ってるのか」

 レイと始祖二柱に対し、互角以上に戦うレ・オル。
 ネームドの白狂戦士ハイバーサーカーは竜種に匹敵、いやそれ以上かもしれない。

死の彗星デ・モールだ!」

 レイの突きが完璧に決まった。
 だが、首を落とさない限り死なないレ・オル。
 いくらレイでも、レ・オルの首を落とすの難しいだろう。

「ウェスタード! 俺は浅瀬の中心で降りる!」
「グガアァァァァアアァァァァ!」

 降下しながら咆哮を上げるウェスタード。
 恐らくモンスターたちへ牽制したのだろう。

 レイたちの頭上十メデルトに到着した。

「ウェスタード! ありがとう! 降りるぞ!」
「グゴォォォォ!」

 俺はウェスタードの背中から飛び降り、紅竜の剣イグエルを抜く。

「レイ!」

 剣を振りながら着地。
 同時に大岩が落ちたかのような振動と、水が噴射するような音が発生。

「レイ! 大丈夫だったか!」
「アル!」
「遅くなってごめん」

 俺はレイの正面に立つ。

「ウォン!」
「ヒヒィィン!」

 エルウッドとヴァルディが走り寄ってきた。
 俺の背後には、先程まで猛威を振るっていたレ・オルの巨大な頭部が落ちている。
 身体からは大量の血が吹き出し、砂地を赤く染めていた。

「あなたって本当にデタラメね。ふふふ」
「な、なんだよ! レイだってそうだろ!」
「私たちがあれほど苦労したレ・オルを、あなたは一瞬で討伐してしまったわ」
「皆が引きつけてくれてたからだよ」
「もう、あなたって本当に……」

 レイが涙ぐみながら、俺の胸に額をつけてきた。
 そして顔を上げ、優しく微笑む。
 久しぶりに見たレイの微笑み。
 いつ見ても、何万回見てもやっぱり美しい。

「アル、詳しい話は終わってから全部聞くわ。今は白狂戦士ハイバーサーカーを殲滅させましょう」
「ああ、もちろんだ。そのために来たんだから」
「ウォン!」
「ヒヒィィン!」

 俺とレイ、エルウッドとヴァルディが、白狂戦士ハイバーサーカーを倒しながら浅瀬の対岸に攻め込む。

 ◇◇◇

 レイたちがレ・オルと戦っている間、他のモンスターの侵入を阻止していたリマとウィル。
 圧倒的な強さを見せるモンスターに苦戦していた。

「クッ! 強すぎんだろ!」
「レイ様はこんなのと戦ってたのか!」

 二人は世界最高峰の剣士として、戦いにおいて久しく怪我をしていない。
 だが今は血を流し、怪我を負いながら戦っていた。 
 それが頭上に黒竜の姿を見た瞬間から、モンスターの猛攻がやんだ。

 アルの登場だ。

 アルは一撃でレ・オルの首を落とし、レイと始祖を引き連れ、対岸に向かって攻め込んだ。
 リマとウィルも臣下としてついて行くが、モンスターと戦うことはほとんどなかった。

「本当にバカげた二人だ」
「国王と王妃……なんだよな」
「そうだぞ。アタシたちの国で一番偉いんだ。そして、この世で最も強い二人だ」
「なあリマ。オイラがラルシュ王国へ行っても、近衛隊なんていらなくないか?」
「正直に言うとだな。……近衛隊隊長であるアタシの役職もいらないと思ってる。フハハハ」

 立ち止まってアルとレイの戦いを眺めるリマとウィル。
 その二人に、クロトエ騎士団団長のジルと討伐隊隊長デイヴが近付く。

「お、ジル団長。そっちはどうだ?」
「リマ隊長。討伐隊から犠牲者は出てますが、想定より少ないです」
「そうか。死者は残念だけど……犠牲者が少なかったのは何よりだ。それにここからはもう、死者どころか負傷者も出ないだろうしね」
「そうですね。アル様とレイ様に勝てる存在など、この世にいませんから。ははは」
「ラルシュ王国との争いは気をつけるんだな。フハハハ」
「私が団長でいる限りそれはありません。それに、ヴィクトリア陛下が在位しておられる。ラルシュ王国とは最も友好的な国家ですよ?」
「確かにそうだ。フハハハ」
「それに……」
「それに? なんだい?」
「あのお二人に挑むなんて、死にに行くようなものですからね」
「確かにな。フハハハ」

 二人が話している背後で、デイヴがウィルに会釈した。

「ウィル殿。さすがの双剣でした」
「アンタの双剣も凄かったよ」
「世界最高の双剣使い、双竜ウィルにそう言っていただけて光栄です」
「まあ、まだまだだけどね」
「そうですか? 試してみますか?」

 二人の会話に気付いたリマが両手を広げる。

「おいおい、こんなところでやめろよ! どうせ戦うならアタシのような美女を取り合えっつーの!」
「は?」
「え?」

 リマの何気ない一言だが、実は二人ともリマに好意を持っていた。

 ◇◇◇
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