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最終章

第370話 戦い前夜

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 軍議が終わり、俺はエルウッドとヴァルディを呼んだ。

「二柱とも、ここはもう大丈夫だ。レイの元へ行って欲しい」
「ウォン!」
「ヒヒィィン!」

 首を大きく横に振り、身体を乗り出し俺に抗議する始祖二柱。

「ち、違うんだ! モンスターに対応するレイを助けて欲しいんだ。状況を聞いたが、ここよりもレイの方が厳しい。絶対に二柱の力が必要になる」
「ウォウ」
「ブフゥゥ」
「恐らくレイは最前線で戦うだろう。だからレイを守って欲しい。二柱の力が必要なんだ」
「ウォウウォウ!」
「ブフゥゥ!」
「ありがとう! 俺もここを片付けたらウェスタードと行く」
「ウォン!」
「ヒヒィィン!」

 水の上を走ることができる二柱はモルシュ河に降り立ち、北へ向かって走り出す。
 疾風のように一瞬で見えなくなった。

「二柱がいれば、しばらくは大丈夫だな」

 モンスターの種類は不明だが、始祖なら対抗できるだろう。
 俺が行くまで持ちこたえてくれるはずだ。

 夜になると、全兵士にいつもよりも多めの食事と、特別に酒が振る舞われた。
 軍全体の緊張感が高まるのと同時に、士気が上がっていく。

「アルよ。軍の戦いは初めてだろう?」
「そうだね。俺は冒険者だから軍は初めてだよ」
「戦い前夜というものは特別でな。高まる士気を肌で感じるのだ」

 俺とキルスは軍の中を歩き、兵士たちに顔を見せて回った。
 皆同じように歓声を上げてくれる。

「凄いな。これが戦い前夜か」
「そうだ。死ぬかもしれない恐怖をねじ伏せ、戦いに挑むのだ」
「全員死なずに終わらせたい」
「難しいだろうな。お前に聞いた話だと、白狂戦士ハイバーサーカーはまさに脅威だ」

 俺は白狂戦士ハイバーサーカーの強さを説明した。
 俺の体感上、モンスターの強さはランクが二つほど上がる。
 恐らく人間も同じだろう。
 デ・スタル連合国の一般市民でも、鍛え抜かれた兵士と同等以上の力を発揮するはずだ。
 デ・スタル連合国の暗黒騎士団マノウォル鉄鎖の戦士ブルバスの兵士であれば、その力は精鋭揃いの連合軍を軽く超えるだろう。

「それでも生き残って欲しい」
「そうだな。そうなるように我々が全力を尽くそう」

 俺とキルスは笑顔で兵士たちに手を振り、彼らの健闘を祈った。

 ――

 ゴドイム大橋にシドとノルンが到着。
 さっそく銀灰の鉄鎖スタル・ヨール内の会議室にロート、シルヴィア、キルス、俺の各国君主が集合。
 ノルンが真摯な態度で謝罪し、今回の状況を改めて説明した。

 死の病が発生し、デ・スタル連合国内の感染が免れないことを悟った。
 国を滅ぼすほどの強力な感染力で、世界へ蔓延する死の病。
 唯一の対処方法が狂戦士毒バーサルクで、他国に病を蔓延させない代わりに、世界と戦う選択を取ったデ・スタル連合国だった。

「罪を赦すわけではない。じゃが、他に方法がないのも分かる。儂でもそうしたかもしれん」
「責任を追求する必要はあるが……責められない事情もあるじゃろうて」

 ロートとシルヴィアが寛大な心を見せると、キルスがノルンに視線を向けた。

「今回は厳しい戦いになります。連合軍で死者が出るかもしれません。もし狂戦士毒バーサルクがなければ死ななくて済んだかもしれない。だが、死の病に感染して死んだかもしれない。可能性を言い出したらきりがないが、世界を混乱させたデ・スタル連合国の罪は重く、それはノルン卿の罪でしょう」
「分かっておる」

 頷くノルン。
 今のノルンは、まるで心を入れ替えたかのように協力的だ。
 人類で最も博識なノルンの存在は心強い。
 俺はノルンの肩に手を置く。

「ノルン。新薬は量産できるんだよね?」
「もちろんじゃ。クストゥルの血液がなくとも量産できる方法を発見したから、製造方法を無償で公開する。その後も儂は様々な薬の開発を続ける。せめてもの罪滅ぼしじゃ」
「まあその話は全てが終わってからだ」

 俺は全員の顔を見渡す。

「皆さん。全てが終わったら一緒に食事でもいかがですか?」
「それではサンドムーンでフォルド料理を振る舞おうぞ」
「おお、それはいいですな。フォルドの料理は美味いですから。わははは」
「儂もフォルドの料理は好きじゃ。ふぉっふぉっ」

 君主同士の親睦が深まれば世界の和平に繋がるだろう。

「ノルンもだ」
「儂は……いい」
「確かにノルンの罪はあるかもしれないけど、俺も一緒に償うよ。だからこれからはもっと世界を楽しもう」
「わ、儂に……そんな資格は」

 俺はノルンの背中を軽く叩いた。

「そんな態度だと、またレイにお爺ちゃんって言われちゃうよ?」
「う、うるさい!」

 咳き込みながら、顔を赤くしたノルンだった。

「さて、アルよ。獅子の双翼マルティラで食事につき合え。ファステルが会いたがっていた」
「それはありがたいけど、辛い料理は勘弁してよ?」
「何を言うんだ。戦い前夜は、真っ赤な料理で勝利を祈願するのがエマレパ流だ」
「うぅ、白狂戦士ハイバーサーカーよりも、辛い料理の方が怖いよ」
「わははは。これもゲン担ぎだ。ほら、行くぞ」

 キルスに背中を叩かれ、俺は獅子の双翼マルティラへ移動した。
 ノルンはこのまま銀灰の鉄鎖スタル・ヨールで、シドと新薬の調合を続けるという。
 ロートとシルヴィアはそれぞれの旗艦へ戻った。

 いよいよ明日、世界の命運をかけた戦いが始まる。
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