鉱夫剣を持つ 〜ツルハシ振ってたら人類最強の肉体を手に入れていた〜

犬斗

文字の大きさ
上 下
380 / 414
最終章

第367話 アルの覚悟

しおりを挟む
「見えてきたぞ!」

 メルデス上空に到着した。
 まだ日没前だ。
 驚くほどの速度で飛行してくれたウェスタード。

「ありがとう! ウェスタード!」
「グゴォォ」

 ログハウスが立ち並ぶ素朴な街を越え、メルデス城の上空を旋回するウェスタード。
 エルウッドが遠吠えしながら、城の塔に軽く雷の道ログレッシヴを放つ。
 シドに到着の合図を出したのだろう。
 しばらくすると、城の一部から狼煙が上がった。

「あそこだ! あそこにシドがいる!」
「グゴォォ」

 ウェスタードが狼煙に向かって羽ばたく。

 ――

「ア、アルよ。ど、どういうことなんだ?」

 城のバルコニーに降り立ったウェスタードを目の前に、驚きを隠せないシド。

「ウェスタードの狂戦士バーサーカーを解いたら、色々と協力してくれたんだ」

 ノルンにいたっては表情に恐怖すら見える。

「ア、アルよ」
「ノルン。ウェスタードは正常に戻ったよ。謝罪を受け入れてくれた」
「そ、そうか」

 ノルンがウェスタードに向かって、改めて頭を下げた。
 正式な謝罪だ。

「偉大なる竜種ウェスタードよ。お主の尊厳を弄んだのは儂じゃ。罪を償いたい。儂の命を捧げたいところだが儂は死なぬ。ど、どうしたらよいのか……」
「グゴォォォォ」

 ウェスタードが顔を近付け、ノルンに向かって大きく鼻息を吹きかけた。
 強烈な突風で後ろに倒れるノルン。

「グゴゴゴ」
「ウォウォウォ」
「ヒヒィィン」

 三柱が笑っていた。

「な、なんじゃ!」
「グゴォォォォ」

 声を上げながら、もう一度鼻息を吹きかけるウェスタード。

「ノルンのことを許すと言ってるよ。でも、次はないってさ」
「アルよ。ウェスタードの言ってることが分かるのか?」
「いや、分からないけど、きっとそう言ってると思うよ」
「そうか……。君はもう本当に人間じゃなくなってしまったんだな」
「な、なんでだよ!」

 シドが溜め息をつきながら、肩をすくめる。

「グゴゴゴ」
「ウォウォウォ」
「ヒヒィィン」

 三柱が笑っていた。

「なんだよ! 三柱まで! まったく……」

 和やかな雰囲気の中、険しい表情のノルンは立ち上がり再度頭を下げた。

「偉大なる竜種ウェスタードよ。心から謝罪する。申し訳なかった」
「グゴォォ」

 完全に謝罪を受け入れた様子のウェスタード。
 白竜クトゥルスは竜種で最も理性的と言われているが、このウェスタードも同じように知的で理性的だ。

「シド、ここまでのことを共有しよう」
「分かった。ウェスタードもいるし、ここで報告する」

 バルコニーの床に座る俺、シド、ノルン、エルウッド、ヴァルディ、ウェスタード。

 まずは俺の状況からだ。
 ウェスタードが正常に戻った状況を説明。
 黒角を折ったことと、その際の猛烈な咆哮で狂戦士バーサーカーが解けたこと、始祖たちがウェスタードの血を飲んだことも合わせて伝えた。

「なるほど。アルの紅炎鎧ファラムが黒く変色したのもウェスタードの血液の影響か?」
「そうだよ。折れた紅竜の剣イグエルもウェスタードの血で繋がったんだ」
「それは凄いな」
「で、そっちはどうなんだ?」
「ああ、白竜クトゥルスの元へ行って、血液を分けてもらったよ」
「クトゥルス?」

 ノルンが右手で白髭をさする。

「クトゥルスの血は終焉の血なのじゃ」
「終焉の血? どういうことなんだ?」
「その名の通りじゃ。儂やシドの不老不死ですら終えることができる」

 ノルンの呼び方がシドの小僧からシドに変わっていた。
 だが、そこには触れない。

「その血液から、死の病に効く薬が完成した」
「な、なんだって! 凄いじゃないか! じゃあその薬を使えば狂戦士バーサーカーも治るのか?」
「そうは上手くいかぬ。狂戦士バーサーカーは命を担保にして力を発揮する。つまり狂戦士バーサーカーが解けると、感染者の命は尽きるのじゃ。こればかりはどうしようもない」
「そ、そんな……。いや待て! ウェスタードの咆哮は? 狂戦士バーサーカーは特殊な音に反応するんだろう? ウェスタードの咆哮なら狂戦士バーサーカーが解けるはずだ!」

 首を横に振るウェスタード。

「ウェスタードは理解しておるのう。狂戦士バーサーカーが解けるということは、それはもう死ぬことなのじゃ。あの女……レイだけが特別じゃったのだ」
「そんな……」

 俺は立ち上がり、拳を強く握った。
 自分の無力さが腹立たしい。
 シドが俺の肩に手を置く。

「アルよ。こればかりはどうしようもない。私もノルンと様々な角度から検証したが、どうしても無理だった。現在狂戦士バーサーカーに感染している者たちは、世界を救う礎になるのだ。彼らのおかげで、死の病の特効薬を作ることができた。名誉ある死だ」
「なんだよ! 見殺しにしろっていうのか!」

 ノルンが立ち上がった。
 小さな身体が小刻みに震えている。

「アルよ。頼みがあるのじゃ。どうか、どうか皆を葬ってくれ。お主の手で葬ってくれ。狂戦士バーサーカーとなった者たちの希望は、世界と戦うことなのじゃ。だから世界最高の剣士であるアルの手で……」

 ノルンの頬に、大粒の雫が流れている。

「お願いじゃ。儂の……儂の……。た、大切な……仲間じゃった。仲間だったのじゃ。皆の願いを叶えてやってくれ」
「グゴォォォォ」

 ノルンと一緒にウェスタードも頭下げた。
 あれほどのことをされたにも関わらず、ノルンを気遣うウェスタード。
 狂戦士バーサーカーに感染しても、ノルンと過ごした日々を覚えていたのだろう。

「きっと軍を配備しているはずだし、俺一人でどうにかできる人数ではないはずだ」
「構わない。それでも構わないのじゃ」
「数十万人の首を……刎ねるのか……俺の手で……」
「お主の罪は儂が償う。一生かけて償う。お願いじゃ」

 何度も頭を下げるノルン。

「ふうう」

 俺は大きく息を吐いた。

「人を斬る覚悟か……」

 覚悟はできている。
 それに以前、リマに覚悟を説いたのは俺だ。

「分かった。悪魔と呼ばれようとやるよ。それが俺の覚悟だし、王の責務だ」
「そ、そうか。やってくれるか。すまぬ。すまぬ」

 号泣しながらも、俺の手を両手で握るノルン。
 ノルンだって辛かったはずだ。

「ノルン。俺は不老不死の辛さが分からない。だけど、一万年も生きてきたあなたの辛さを俺も一緒に背負うよ。だからさ、これからは楽しく幸せに生きていこう」
「ぐふぅ、アルよ。アルよ。すまぬ。すまぬ」

 俺はノルンの肩に手を置きながら、シドに視線を向けた。

「シド。薬は完成してるんだな?」
「もちろんです」
「進軍の予想はついてるのか?」
「恐らく、モルシュ河のゴドイム大橋で迎撃するでしょう」
「分かった地図を用意してくれ」
「かしこまりました」

 シドが一礼して城内へ走る。
 その瞳には薄っすらと涙を溜めていた。

「ノルン。銀灰の鉄鎖スタル・ヨールで、シドと一緒にモルシュ河のゴドイム大橋へ向かうんだ。最速で行ってくれ」
「わ、分かったのじゃ」
「俺は先にウェスタードと行く」
「す、すぐに準備する」

 ノルンも城内へ入った。

「ウェスタード」
「グゴォォ」
「すまないが、また俺を乗せてくれるかい?」
「グゴォォォォ」

 大きく頷くウェスタード。

「エルウッドとヴァルディも一緒に来てくれ」
「ウォン!」
「ヒヒィィン!」

 すると、三柱が一列に並び、姿勢を正し俺に向かって頭を下げた。

「ウォン!」
「ヒヒィィン!」
「グゴォォォォ!」
「な、何だよ! やめろって! どこで覚えたんだよ!」

 これは服従の姿勢だ。
 始祖と竜種が、俺に服従すると言っている。

「やめろって! 君たちは仲間であり家族なんだぞ!」
「ウォンウォン!」
「ヒヒィィン!」
「グゴォォォォ!」
「ウェスタードまで……。まったく、分かったよ。じゃあ君たちは最後まで俺と一緒にいるんだぞ。約束だからな」
「ウォン!」
「ヒヒィィン!」
「グゴォォォォ!」
「よし、準備が終わり次第すぐに出発するぞ!」
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

追放されたギルドの書記ですが、落ちこぼれスキル《転写》が覚醒して何でも《コピー》出来るようになったので、魔法を極めることにしました

遥 かずら
ファンタジー
冒険者ギルドに所属しているエンジは剣と魔法の才能が無く、文字を書くことだけが取り柄であった。落ちこぼれスキル【転写】を使いギルド帳の筆記作業で生計を立てていた。そんなある日、立ち寄った勇者パーティーの貴重な古代書を間違って書き写してしまい、盗人扱いされ、勇者によってギルドから追放されてしまう。 追放されたエンジは、【転写】スキルが、物やスキル、ステータスや魔法に至るまで何でも【コピー】できるほどに極められていることに気が付く。 やがて彼は【コピー】マスターと呼ばれ、世界最強の冒険者となっていくのであった。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。 異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。 せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。 そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。 これは天啓か。 俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。

職業・遊び人となったら追放されたけれど、追放先で覚醒し無双しちゃいました!

よっしぃ
ファンタジー
この物語は、通常1つの職業を選定する所を、一つ目で遊び人を選定してしまい何とか別の職業を、と思い3つとも遊び人を選定してしまったデルクが、成長して無双する話。 10歳を過ぎると皆教会へ赴き、自身の職業を選定してもらうが、デルク・コーネインはここでまさかの遊び人になってしまう。最高3つの職業を選べるが、その分成長速度が遅くなるも、2つ目を選定。 ここでも前代未聞の遊び人。止められるも3度目の正直で挑むも結果は遊び人。 同年代の連中は皆良い職業を選定してもらい、どんどん成長していく。 皆に馬鹿にされ、蔑まれ、馬鹿にされ、それでも何とかレベル上げを行うデルク。 こんな中2年ほど経って、12歳になった頃、1歳年下の11歳の1人の少女セシル・ヴァウテルスと出会う。凄い職業を得たが、成長が遅すぎると見捨てられた彼女。そんな2人がダンジョンで出会い、脱出不可能といわれているダンジョン下層からの脱出を、2人で成長していく事で不可能を可能にしていく。 そんな中2人を馬鹿にし、死地に追い込んだ同年代の連中や年上の冒険者は、中層への攻略を急ぐあまり、成長速度の遅い上位職を得たデルクの幼馴染の2人をダンジョンの大穴に突き落とし排除してしまう。 しかし奇跡的にもデルクはこの2人の命を救う事ができ、セシルを含めた4人で辛うじてダンジョンを脱出。 その後自分達をこんな所に追い込んだ連中と対峙する事になるが、ダンジョン下層で成長した4人にかなう冒険者はおらず、自らの愚かな行為に自滅してしまう。 そして、成長した遊び人の職業、実は成長すればどんな職業へもジョブチェンジできる最高の職業でした! 更に未だかつて同じ職業を3つ引いた人物がいなかったために、その結果がどうなるかわかっていなかった事もあり、その結果がとんでもない事になる。 これはのちに伝説となる4人を中心とする成長物語。 ダンジョン脱出までは辛抱の連続ですが、その後はざまぁな展開が待っています。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

ハズレ職〈召喚士〉がS級万能職に化けました〜無能と蔑まれた俺、伝説の召喚獣達に懐かれ力が覚醒したので世界最強です~

ヒツキノドカ
ファンタジー
 全ての冒険者は職業を持ち、その職業によって強さが決まる。  その中でも<召喚士>はハズレ職と蔑まれていた。  召喚の契約を行うには『召喚スポット』を探し当てる必要があるが、召喚スポットはあまりに発見が困難。  そのためほとんどの召喚士は召喚獣の一匹すら持っていない。  そんな召喚士のロイは依頼さえ受けさせてもらえず、冒険者ギルドの雑用としてこき使われる毎日を過ごしていた。  しかし、ある日を境にロイの人生は一変する。  ギルドに命じられたどぶさらいの途中で、ロイは偶然一つの召喚スポットを見つけたのだ。  そこで手に入ったのは――規格外のサーチ能力を持つ最強クラスの召喚武装、『導ノ剣』。  この『導ノ剣』はあらゆるものを見つけ出せる。  たとえそれまでどんな手段でも探知できないとされていた召喚スポットさえも。    ロイは『導ノ剣』の規格外なサーチ能力によって発見困難な召喚スポットをサクサク見つけ、強力な召喚獣や召喚武装と契約し、急激に成長していく。  これは底辺と蔑まれた『召喚士』が、圧倒的な成長速度で成り上がっていく痛快な物語。 ▽ いつも閲覧、感想等ありがとうございます! 執筆のモチベーションになっています! ※2021.4.24追記 更新は毎日12時過ぎにする予定です。調子が良ければ増えるかも? ※2021.4.25追記 お陰様でHOTランキング3位にランクインできました! ご愛読感謝! ※2021.4.25追記 冒頭三話が少し冗長だったので、二話にまとめました。ブクマがずれてしまった方すみません……!

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

処理中です...