鉱夫剣を持つ 〜ツルハシ振ってたら人類最強の肉体を手に入れていた〜

犬斗

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最終章

第362話 雷の神

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「ヒヒィィィィン!」

 ヴァルディが俺の目の前に着地した。
 首をひねり、背中の鞍に視線を向けている。
 乗れという合図だ。

「分かった! ありがとうヴァルディ!」

 このまま地上で戦うのは無理だろう。
 ヴァルディの提案通り、俺はすぐに背中へ飛び乗った。

「ヴァルディ。スピードで翻弄してくれ」
「ヒヒィィン!」

 ヴァルディが空を翔ける。
 俺の意志を汲んでいるかのように、ウェスタードへ突進。
 俺はすかさず紅竜の剣イグエルを振り下ろす。

 火花を散らし、弾き返される紅竜の剣イグエル
 いくら竜種の剣といえども、強固なウェスタードの鱗に傷はつかない。
 だが、繰り返せば活路は見いだせるはずだ。

「いいぞヴァルディ! これを続けよう!」
「ヒヒィィン!」

 人馬一体となり愚直に攻撃を繰り返す。
 対してウェスタードは、巨大な黒翼や黒尾で、俺とヴァルディを叩き落とそうと試みる。
 肉眼で捕えることが難しいほどの速度を持つウェスタードの攻撃すら、華麗にかわすヴァルディ。
 さすがのウェスタードも始祖の最高速度は捉えられないようだ。
 だが、こちらも決定打がない。
 いたずらに時だけが過ぎていく。

 ――

「はあ、はあ。二柱とも大丈夫か!」
「ウォンウォン!」
「ヒヒィィン!」

 どれくらいの時が経っただろう。
 一日、いや二日は経ったのか、それともまだほんの僅かな時間しか経過してないのか。
 洞窟の中にいるため、時間の感覚を失っている。

 洞窟の地面や岩壁には、ウェスタードの咆哮で抉られた穴がいくつも発生。
 だが、幸いにも直撃はない。
 一度でも直撃したら死は免れないウェスタードの攻撃を、始祖二柱は見事な立ち回りでかわしていた。

 とはいえ、俺も始祖二柱もかなりの疲労が溜まっている。
 特に俺の疲労は限界に近い。
 それに引き換え、狂戦士バーサーカー化したウェスタードは能力が底上げされており、体力は無限に感じる。

「ウォウウォウ!」

 エルウッドが心配そうに俺を見ていた。
 エルウッドにはお見通しのようだ。

「エルウッド! このままでは俺が限界を迎えてしまう」
「ウォウ!」
「隙を見て雷の道ログレッシヴを放つんだ! 全力だ! 全力を出すんだ!」
「ウォン!」

 エルウッドに指示を出すと、突然ヴァルディが全速力で飛び退く。
 洞窟の出口側へ向かって、一気に数百メデルトの距離を取った。

「ど、どうしたんだ!」
「ヒヒィィン!」

 ヴァルディが振り返る。

「ウォォォォォォォォン!」

 これまで聞いたことがないほどの大きな咆哮を上げるエルウッド。

「エ、エルウッド?」

 身体が銀色に輝き強烈な光を放っている。
 全ての体毛が逆立ち、瞳の色が深紫色に輝く。

「エルウッド! つ、角が!」

 エルウッドの角が光ると、いくつもの稲妻が角の周囲に発生。

「吸収しているのか!」

 次の瞬間、見たこともない強烈な閃光がウェスタードに降り注ぐ。
 それはまるで、雲の切れ間から光が差すかのような神々しさだ。

「グッ! 目が!」

 あまりの眩しさに目が眩む。
 そして、洞窟が崩れるほどの轟音が発生。

「グガアァァァァアアァァァァ!」

 これまでの雷の道ログレッシヴとは比較にならないほどの巨大な雷を発生させたエルウッド。
 いや、雷なんてものではない。
 巨大な光の柱だ。
 ウェスタードの全身から煙が立ち上り、明らかにダメージを受けていた。

「ウォウウォウ!」

 エルウッドが一旦ウェスタードと距離を置く。
 どうやら息が上がっているようだ。
 口から舌を出している。

「ごめん! ありがとうエルウッド!

 これほどの一撃だ。
 身体の負担が大きいのだろう。
 無理させてしまった。

「エルウッド! 休んでくれ!」

 エルウッドのおかげで、少しばかり呼吸が整った。
 俺も最後の力を振り絞る。

「ヴァルディ! 行くぞ!」

 ウェスタードに超高速で接近するヴァルディ。

「角だ! 黒角を攻撃する!」
「ヒヒィィン!」
 
 ヴァルディはたった一歩で、注文通り頭部へ接近。
 俺は右手に握る紅竜の剣イグエルを黒角に向かって振り下ろす。
 甲高い衝突音が鳴り響く。

「傷だ! 傷がついたぞ!」

 左角の根本に、僅かながら傷がついた。
 エルウッドの雷の道ログレッシヴが効いていたのだろう。

 だが、紅竜の剣イグエルも刃こぼれしている。
 信じられないことに、三体もの竜種の素材で加工した紅竜の剣イグエルと、ウェスタードの黒角は互角だった。

 ヴァルディが着陸すると、俺の目の前を横切る銀色の光。

「ウォン!」

 ウェスタードに突進するエルウッドだった。
 恐らくエルウッドにとって、これが最後の全力攻撃だろう。

「エルウッド! 左角だ! 左角に集中攻撃するぞ!」
「ウォウウォウ!」

 エルウッドが超特大の雷の道ログレッシヴを放出。
 離れた場所にいる俺にも、全身に強烈な痺れと痛みを感じた。

「ぐががっ! 身体が!」

 あまりにも巨大な雷の道ログレッシヴは周囲を巻き込む。
 だからエルウッドは、今までこの攻撃を控えていたのだろう。
 もし紅炎鎧ファラムを着てなかったら、俺は耐えられなかったはずだ。

 ウェスタードに視線を向けると、完全に動きが止まっていた。
 全身から立ち上る黒煙。
 そして白色だった眼球が漆黒に変化。
 金色の瞳孔が見えない。
 雷の道ログレッシヴで意識が飛んだのかもしれない。

「ヴァルディ! チャンスだ!」
「ヒヒィィィィン!」

 すかさずヴァルディが、ウェスタードの左角に向かって炎の矢となる。
 衝突寸前で、俺は鞍から天井へ向かって大きくジャンプ。

 それと同時に激しい衝突音が発生。
 ヴァルディが前足で左角に蹴りを入れていた。
 大きく振動する黒角。
 さらにヴァルディは、蹴りの反動を利用し、宙に浮く俺の背後へ回る。

「ヴァルディありがとう!」

 俺は空中で身体を反転。
 紅竜の剣イグエルを構え、ヴァルディの背中を土台として、突きの体勢に入る。

「ウェスタァァァァド! 目を覚ませぇぇ!」

 ヴァルディの背中を蹴り、ウェスタード目掛けて降下。
 スピードに乗った俺は、左角の根本にレイ直伝の神速の突きを放つ。
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