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最終章

第352話 捨て身の攻撃

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 一旦旅する宮殿ヴェルーユを離れた鉤爪鷲竜アトルス
 上空で身体を反転させ大きく旋回。
 急降下で船体の横へ突進した。

「きゃっ!」
「グッ!」

 衝撃で揺れる旅する宮殿ヴェルーユ
 ローザとオルフェリアは足を滑らせ転倒。
 もし命綱がなければ、地上へ落下していただろう。

 ロープをつたい、手すりに捕まるオルフェリア。

「ローザ、知ってますか?」

 焦りと恐怖心を隠すかのように、ローザへ話しかけた。

「何をだ?」
「あの鉤爪鷲竜アトルスを投石で撃ち落とした冒険者がいるんです」
「な!」

 驚くローザ。
 こんな緊急時に冗談を言うオルフェリアではないし、そもそもオルフェリアが嘘をつくわけがない。
 そして、そんな非現実的なことをやってのける冒険者に心当たりがあった。

「そうだな。そんなことができる冒険者は一人しかいないだろう?」
「そうです。我らがアル陛下です。そして撃ち落としたアトルスの首を、一撃で斬り落としたのがレイ陛下です」
「ククク、我が君主は化け物だな」
「はい。その臣下である私たちも、負けてはいられません」
「そうだな」

 オルフェリアの表情が一層引き締まる。
 決意と覚悟を持った面持ちだ。

「ローザ、捨て身の攻撃で迎え撃ちます」
「分かった。アトルスが避けられないギリギリの距離まで引きつけよう」

 旅する宮殿ヴェルーユの周囲を旋回するアトルス。
 後部ハッチに向かって急降下を開始。

 二人は立ち上がり弓を構える。

「左目です!」
「右目だ!」

 猛スピードで迫るアトルスを限界まで引きつけ、矢を放つ二人。
 打ったあとのことは考えていない。
 まさに捨て身の攻撃だ。

 アトルスの猛烈な突進が二人を直撃。
 腰にくくりつけたロープが切れ、船内に大きく弾き飛ぶ。
 オルフェリアは壁に打ちつけられ、ローザは床に投げ出された。

「かはっ!」
「グホッ!」

 あまりの衝撃で吐血する二人。

 アトルスは突進の勢い余って、船内倉庫に乗り上げていた。
 その両目には一本ずつ矢が刺さっている。

「ギィィイイィィィィ!」

 光を失ったアトルスが咆哮を上げた。
 怒りなのか、痛みなのか分からない。
 船内で倒れた状態で巨大な翼を激しく羽ばたかせ、必死に立ち上がろうとしている。

「ロ、ローザ! 首を! 首を落としてください!」
「グッ! わ、分かった!」

 ローザは腰の長剣ロングソードを抜き、アトルスの首に振り下ろす。

「ギィィイイィィ!」

 白狂戦士ハイ・バーサーカーとはいえ、両目が見えない状態では逃げることもできない。
 ローザは一撃で首を落とせなかったものの、三撃目で胴体と頭部を切断した。

「レイのようには……いかないか。クッ! グホッ!」

 ローザは剣をその場に落とし、脇腹を抑えながら吐血。
 負傷した状態でもアトルスの首を落とせたのは、ローザ自身が打った剣を使用したからだ。
 世界最高の鍛冶師であるローザが、貴重なモンスター素材で打った剣。
 その切れ味を自ら証明した。

「で、でも、さすがです。白狂戦士ハイ・バーサーカーの首を……落とせるのですから」
「アルが採った素材で……作ったからな」

 激しい痛みに襲われながらも、討伐した安堵から笑顔を見せ、倉庫の床に座り込む二人。

「ローザさん! オルフェリアさん! 大丈夫ですか!」

 そこへ血相を変えたアガスが走ってきた。
 アトルスの襲撃が収まったことで、操縦をマルコに任せている。

「兄さん! ハッチを閉めて!」

 伝声管でマルコに指示を出す。
 すぐさまローザの元へ駆けつけ片膝をつく。

「ローザさん!」
「大きな声を出すな。ウグッ。だ、大丈夫だ」
「で、でも! 血が!」
「ゴホッ!」

 再度吐血するローザ。

「私が診ます」

 解体師だったオルフェリアは、人体の診察も可能だ。
 ローザの正面で膝をたたみ床に座る。

「肋骨が……ぐっ……五本折れています。ひとまず包帯を巻いて固定します。ベッドで安静にしてください。な、内臓も損傷していますので、帝都に帰還したら手術しましょう」

 診察したオルフェリアの顔も真っ青だ。

「お前だって……肋骨が折れてるだろう?」

 ローザに言われ、オルフェリアは自身の身体を触診した。

「私は……肋骨四本……ローザより軽症です。フフ」

 そんな二人を心配そうに見つめるアガス。

「ふ、二人とも重傷です! 部屋に運びますから、安静にしてください!」

 まずは怪我が重いローザを抱き上げる。

「グッ!」
「すみません。ローザさん。我慢してください! オルフェリアさん! すぐに戻ってきます!」

 ローザを抱きかかえたまま部屋へ向かうアガス。
 ローザに衝撃が伝わらないように、優しく慎重に、それでいて急いで歩く。

「フフ、アガスは意外と力があるのですね」

 その様子を見ながら、脇腹を抑えるオルフェリア。

「後でローザに麻酔を打たなきゃ。うっ!」

 全身を貫く痛みに耐えながら、ローザの心配をするオルフェリア。
 オルフェリアは解体師として、毒耐性を極限まで上げており、麻酔が効かない身体だった。
 だがそれは解体師として名誉なことだと考えている。

「ちょっと……今の状況では解体できそうに……ありませんね」

 痛みで呼吸も辛い状況の中、仕留めたアトルスに視線を向けた。

「でも……思わぬお土産が……できました。この白狂戦士ハイバーサーカーのアトルスは……研究に使えるかもしれません」

 脇腹を押さえたまま、床に倒れ込むオルフェリア。

「かはっ」

 吐血するオルフェリア。
 ローザには伝えなかったが、オルフェリアも内蔵を損傷している。

「実際にモンスターを討伐すると……アルとレイの凄さが……本当に分かりますね。フフ……」

 君主であり、親友であり、今や家族だと思っている二人のことを考えながら意識を失った。
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