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第二十章
第342話 アルの決意と覚悟
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ノルンが目を閉じ、何やら考え込んでいた。
それより気になったのが、シドが発した死の病という言葉だ。
「ノルン、死の病って……」
俺が声をかけると、ノルンが全員を見渡した。
そして俺の言葉を無視し、視線をレイに移す。
「レイとやら。貴様はニルスを覚えているか?」
「ニルス?」
「使役師じゃ」
「シーク・ド・トロイを使役したニルス・ハンスかしら?」
「そうじゃ。ニルスとロヴィチの二人は、この国で拾ったのじゃ。貴様に組織を潰され、路頭に迷っておったからの」
「私は何も悪くないわよ?」
「無論じゃ」
「それでどうしたの? 確か恩赦になったと聞いたけど」
「ニルスとロヴィチは死んだ。自ら狂戦士毒を飲んだのじゃ」
「そう……」
「死に顔は満足げじゃったよ」
続いてノルンはオルフェリアに視線を向けた。
「オルフェリアといったか、解体師や運び屋の差別は儂らが広めたのじゃ」
「そ、そうだったのですか?」
「冒険者ギルドを内側から崩壊させるためにな。じゃがそれほど効果はなかったようじゃ。今となってはその差別も解消されたしのう」
そして、シドに顔を向けるノルン。
「シドの小僧。貴様の冒険者ギルドには千年もの間、邪魔され続けてきた」
「それは私の知るとことではない」
「もちろんじゃ。古代王国が滅び、儂も拠り所を作ろうと思ってな。じゃが、貴様のようには上手くいかなかった。グハハハハ」
ようやくノルンが俺の顔を見た。
「アルよ。シドの小僧の言う通り、この国は死の病に侵された。感染したら必ず死ぬ病じゃ」
「なっ!」
俺もレイもオルフェリアも言葉が出ないほど驚いていた。
当たり前だ。
国を滅ぼすほどの疫病なんて初めて聞いた。
だが落ち着いているシドの様子を見る限り、これまでもあったのだろう。
歴史に残らなかった病が。
「世界に恨みを持つ儂らじゃ。世界と戦う。それが儂らの意思であり、死にゆく者の希望じゃ」
「な、なんとかならないのか?」
「和解はない」
「違う。宣戦布告のことじゃない。病を治す方法だ。ないのか?」
「……薬がある」
「じゃ、じゃあ、それを使えば!」
「それが狂戦士毒じゃ。狂戦士毒を飲めば病は治る。じゃが狂戦士になって死ぬ。病で死ぬか、狂戦士毒で死ぬか。その二択じゃ」
「そ、そんなバカな」
俺は全てを理解した。
レイもシドもオルフェリアも理解しただろう。
「どうせ疫病で死ぬのじゃ。であれば、儂の作った薬で狂戦士となって暴れて死にたいのじゃろう。世界に恨みを持つ者ばかりじゃからな。貴様とレイとやらは特に恨まれてるぞ。グハハハハ」
もし俺がデ・スタル連合国の国王で、同じような状況ならどう判断するだろう。
ノルンの判断も、ウルヒ陛下の希望も理解できるような気はする。
だけど、俺なら……。
俺の仲間たちなら……。
「ノルン。もういい。どうせ話し合いは平行線だ。俺はお前たちがどう動こうと関係ない。俺がしたいように動く」
「なんじゃ、貴様に何ができるのじゃ」
「俺は止める! 進軍も病も全部止める!」
「無理じゃ。すでに動き出しておる。この国の者は狂戦士毒を飲み侵攻中じゃ。狂戦士《バーサーカー》となった民も、モンスターも絶対に止まらん。止まる時は死ぬ時じゃ」
「それでもだ! それでも俺は諦めない!」
「グハハハハ。立派じゃのう。じゃが、いくら狂戦士とはいえ、貴様に民を殺せるのか? 首を飛ばせるのか! ええ?」
覚悟はできてる。
悪魔と言われようが、地獄に落ちようが、俺は自国の民を守る。
そのために、他国の国民を殺す。
それが俺の王としての責任だ。
それに……人を斬る覚悟。
レイに剣を教わった時に言われた言葉だ。
「できる! だけど、それは最後の選択だ! 俺は最後まで諦めない!」
「小僧に何ができる!」
「やってみなければ分からない! 俺は絶対に諦めない!」
最後まで足掻く。
諦めなかったから今の俺があるのだ。
「レイ」
「なあに?」
「少し無理をするかもしれない」
「ダメって言ってもやるんでしょう?」
「そうだ」
「止めても聞かないんでしょう?」
「そうだ」
「じゃあ、何を言っても無駄ね」
レイが両手を大きく広げ、ため息をつく。
「これから別行動?」
「ああ、俺とレイにしかできないことをやろう」
「本当は離れたくないけど……仕方ないわね。いいわ」
「離れるのは少しだけさ。それに、気持ちはいつだって一つだよ。俺はレイと出会ったからここまで来れたんだ。君は俺の師匠で、最愛の人。俺の人生は最後までレイと……、いやその先も、永遠に君と一緒だよ。愛してるレイ」
シド、オルフェリア、ノルンがいるが、俺は構わずレイに口づけした。
しばらく抱き合う。
「レイ。俺の夢は君と冒険に出ることだ」
「アル……」
「だからさ、絶対に戻ってくるよ」
それより気になったのが、シドが発した死の病という言葉だ。
「ノルン、死の病って……」
俺が声をかけると、ノルンが全員を見渡した。
そして俺の言葉を無視し、視線をレイに移す。
「レイとやら。貴様はニルスを覚えているか?」
「ニルス?」
「使役師じゃ」
「シーク・ド・トロイを使役したニルス・ハンスかしら?」
「そうじゃ。ニルスとロヴィチの二人は、この国で拾ったのじゃ。貴様に組織を潰され、路頭に迷っておったからの」
「私は何も悪くないわよ?」
「無論じゃ」
「それでどうしたの? 確か恩赦になったと聞いたけど」
「ニルスとロヴィチは死んだ。自ら狂戦士毒を飲んだのじゃ」
「そう……」
「死に顔は満足げじゃったよ」
続いてノルンはオルフェリアに視線を向けた。
「オルフェリアといったか、解体師や運び屋の差別は儂らが広めたのじゃ」
「そ、そうだったのですか?」
「冒険者ギルドを内側から崩壊させるためにな。じゃがそれほど効果はなかったようじゃ。今となってはその差別も解消されたしのう」
そして、シドに顔を向けるノルン。
「シドの小僧。貴様の冒険者ギルドには千年もの間、邪魔され続けてきた」
「それは私の知るとことではない」
「もちろんじゃ。古代王国が滅び、儂も拠り所を作ろうと思ってな。じゃが、貴様のようには上手くいかなかった。グハハハハ」
ようやくノルンが俺の顔を見た。
「アルよ。シドの小僧の言う通り、この国は死の病に侵された。感染したら必ず死ぬ病じゃ」
「なっ!」
俺もレイもオルフェリアも言葉が出ないほど驚いていた。
当たり前だ。
国を滅ぼすほどの疫病なんて初めて聞いた。
だが落ち着いているシドの様子を見る限り、これまでもあったのだろう。
歴史に残らなかった病が。
「世界に恨みを持つ儂らじゃ。世界と戦う。それが儂らの意思であり、死にゆく者の希望じゃ」
「な、なんとかならないのか?」
「和解はない」
「違う。宣戦布告のことじゃない。病を治す方法だ。ないのか?」
「……薬がある」
「じゃ、じゃあ、それを使えば!」
「それが狂戦士毒じゃ。狂戦士毒を飲めば病は治る。じゃが狂戦士になって死ぬ。病で死ぬか、狂戦士毒で死ぬか。その二択じゃ」
「そ、そんなバカな」
俺は全てを理解した。
レイもシドもオルフェリアも理解しただろう。
「どうせ疫病で死ぬのじゃ。であれば、儂の作った薬で狂戦士となって暴れて死にたいのじゃろう。世界に恨みを持つ者ばかりじゃからな。貴様とレイとやらは特に恨まれてるぞ。グハハハハ」
もし俺がデ・スタル連合国の国王で、同じような状況ならどう判断するだろう。
ノルンの判断も、ウルヒ陛下の希望も理解できるような気はする。
だけど、俺なら……。
俺の仲間たちなら……。
「ノルン。もういい。どうせ話し合いは平行線だ。俺はお前たちがどう動こうと関係ない。俺がしたいように動く」
「なんじゃ、貴様に何ができるのじゃ」
「俺は止める! 進軍も病も全部止める!」
「無理じゃ。すでに動き出しておる。この国の者は狂戦士毒を飲み侵攻中じゃ。狂戦士《バーサーカー》となった民も、モンスターも絶対に止まらん。止まる時は死ぬ時じゃ」
「それでもだ! それでも俺は諦めない!」
「グハハハハ。立派じゃのう。じゃが、いくら狂戦士とはいえ、貴様に民を殺せるのか? 首を飛ばせるのか! ええ?」
覚悟はできてる。
悪魔と言われようが、地獄に落ちようが、俺は自国の民を守る。
そのために、他国の国民を殺す。
それが俺の王としての責任だ。
それに……人を斬る覚悟。
レイに剣を教わった時に言われた言葉だ。
「できる! だけど、それは最後の選択だ! 俺は最後まで諦めない!」
「小僧に何ができる!」
「やってみなければ分からない! 俺は絶対に諦めない!」
最後まで足掻く。
諦めなかったから今の俺があるのだ。
「レイ」
「なあに?」
「少し無理をするかもしれない」
「ダメって言ってもやるんでしょう?」
「そうだ」
「止めても聞かないんでしょう?」
「そうだ」
「じゃあ、何を言っても無駄ね」
レイが両手を大きく広げ、ため息をつく。
「これから別行動?」
「ああ、俺とレイにしかできないことをやろう」
「本当は離れたくないけど……仕方ないわね。いいわ」
「離れるのは少しだけさ。それに、気持ちはいつだって一つだよ。俺はレイと出会ったからここまで来れたんだ。君は俺の師匠で、最愛の人。俺の人生は最後までレイと……、いやその先も、永遠に君と一緒だよ。愛してるレイ」
シド、オルフェリア、ノルンがいるが、俺は構わずレイに口づけした。
しばらく抱き合う。
「レイ。俺の夢は君と冒険に出ることだ」
「アル……」
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