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第二十章

第337話 邂逅

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 俺は旅する宮殿ヴェルーユに戻り、皆に状況を報告した。
 シドは腕を組み、迷いがあるような渋い表情を浮かべている。

「洞窟内にノルンがいたのか」
「ああ、旅する宮殿ヴェルーユで入ってこいって言ってる」
「罠の可能性は?」
「ないと思う」
「そうか……」
「ノルンに会うためにここまで来たんだ。行くしかないだろう。とはいえ、皆を危ない目に合わせたくない。降りるのは俺、シド、エルウッドだ。他の者は旅する宮殿ヴェルーユで待機してくれ」

 レイが両手を腰に当て、俺を睨んでいる。

「私も行くわ。止めでも無駄よ」
「レイ……いくらなんでも危険だ」
「私はラルシュ王国の女王なのよ? ノルンの対応は世界会議ログ・フェスで決めたことでしょう?」
「クッ。わ、分かった」

 するとオルフェリアが手を挙げた。

「待ってください! 私も行きます! 私はシドの妻ですよ」
「……分かった。オルフェリアも一緒だ」

 皆には言えないが、シドはノルンの系譜だろう。
 家族であるオルフェリアの同席は当然といえば当然だ。

 旅する宮殿《ヴェルーユ》は洞窟内へ進む。
 マルコの操縦は神がかっており、銀灰の鉄鎖スタル・ヨールに並列させて停泊した。

「じゃあ、行ってくる。何かあった時は皆、頼んだよ」

 最初に俺が下船。
 すると、少し離れたところで、ノルンが見上げるように旅する宮殿ヴェルーユを眺めていた。
 出迎えてくれてるのか。

「何度見ても素晴らしい船じゃのう」
銀灰の鉄鎖スタル・ヨールだって特別製だぞ」
「素材が違う。これは火竜ヴェルギウスの素材じゃ。それに他の竜種の素材も使っておる」

 三体の竜種の素材を使っていることは、ノルンにお見通しのようだ。

 次に下船したシド。
 ノルンに対して、古代王国式の最敬礼をする。

「お初にお目にかかります。初代国王、ノルン・サージェント・バレー陛下」
「貴様がシドの小僧か。ふん、尊敬の念なぞ持ち合わせておらぬじゃろう。呼び捨てで良い」

 俺は二人の表情を見ていたが、表情は全く変わらない。
 特に駆け引きしてるようでもなく、自然な対応だった。

 そしてレイとオルフェリアも下船すると、ノルンは銀灰の鉄鎖スタル・ヨールの扉を指差した。

「外は寒い。貴様たちは火竜の鎧を着ているから関係ないじゃろうがな」

 俺とレイはもちろんのこと、シドとオルフェリアもヴェルギウスの素材で作った軽鎧ライトアーマーを着ている。
 そのため外気温に左右されない。

 俺たちはノルンの後ろを歩き、銀灰の鉄鎖スタル・ヨールに搭乗。
 製造はラルシュ工業だが、俺は他国の飛空船に入るのは初めてだった。
 内装は旅する宮殿ヴェルーユに引けを取らない。
 さすがは国家を代表する旗艦だ。
 首都メルデスで見たような木造建築の温もりと、鉄板などの素材が美しく融合している。
 旗艦の内装に関しては、各国の建築士がデザインしているため、その国の特色が色濃く出るのだった。

「こっちじゃ」

 ノルンの後をついていくと、会議室のような広い部屋に入った。

「適当に座るがよい」

 部屋の中心には長方形の八人用机。
 一枚板で作られた美しい机だ。
 椅子も同じ木材から作られているのだろう。
 やはりデ・スタル連合国の木材加工技術は高い。

「で、後ろの奥方たちは何しに来たのじゃ?」
「レイはラルシュ王国の女王だ。オルフェリアだって研究機関シグ・セブンの局長で、狂戦士バーサーカーの毒を研究している。それに、二人はシドの秘密も知っているんだよ」
「なるほど。では、シドの小僧のことを話しても大丈夫なのじゃな」
「そうだ。なんだ、気を使っているのか?」
「普通ならこんな話は信じられないじゃろうて」

 シドの不老不死を隠すつもりだったノルン。
 思ったより常識を持ち合わせていて驚いた。

 それにしても、先程から船内で人を見かけない。
 ノルン一人しかいないようだ。
 大型船の旗艦なのだから、もっと人がいてもいいはずだが。

「儂一人しかおらぬからの。何も出せないぞ」

 ノルンが俺の考えに気付いたようだ。

「他の者はいないのか?」
「そうじゃ。儂以外全員狂戦士毒バーサルクを浴びておる。今頃は進軍中じゃ」
「それを止めに来た」
「グハハハハ。できるかどうかは、シドの小僧が知っとるじゃろ」

 全員がシドの顔を見る。
 シドの表情は暗い。

「……無理……だな」
「その通りじゃ! 流石は一族最高傑作と呼ばれたほどの天才じゃ。もう解析したのか。狂戦士毒バーサルクは発動したが最後、絶対に止まらんのじゃ! グハハハハ!」
「ノルン様でも解毒剤は作れないのですか?」
「敬称も敬語もいらぬわ小僧。それにしても、この解析の早さ……。貴様、自ら試したじゃろう」
「はい、試しま……試した」
「そうか。グハハハハ。なら分かったじゃろう! これは絶対に止まらん! 止まらんのじゃ! 無駄足だったな!」

 俺は思わず机の上で拳を握りしめた。
 ヴェルギウスの革グローブが、締めつけられて音を立てる。

「悔しいか? え? 悔しいのか?」

 ノルンが人をバカにしたような薄ら笑いを浮かべていた。

「儂を殺すのか? え? 三体の竜種殺しトライトロンの勇者様よ。貴様なら人を殴り殺すなんて簡単じゃろう。グハハハハ」
「貴様は……死なないだろう」
「そうじゃ! その通りじゃ! 貴様のように次々とモンスターを殺していく悪魔でも儂は殺せん! グハハハハ」
「クッ」
「悔しいか! グハハハハ! 貴様たちは儂らの思い通りに動くだけじゃ! 無様だのう! 愉快じゃ! ああ愉快じゃ! グハハハハ」

 拳を握る手に、さらに力が入った。
 すると、俺の右手にそっと手を乗せるレイ。

「ねえ、ノルン。どうして宣戦布告なんてしたの? あなたの目的は何?」
「なんじゃ、狂戦士バーサーカーか。貴様のおかげで狂戦士毒バーサルクが完成したのじゃ。感謝しとるよ狂戦士バーサーカー様。グハハハハ」

 以前のように、レイの狂戦士バーサーカーを話題に出すノルン。

「貴様!」
「グルゥゥゥ」

 俺とエルウッドが同時に反応する。
 俺は机を叩きながら立ち上がり、エルウッドは牙を向けた。
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