鉱夫剣を持つ 〜ツルハシ振ってたら人類最強の肉体を手に入れていた〜

犬斗

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第二十章

第333話 守るべきもの

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 俺の報告を聞き、リマが拳でテーブルを殴った。

「まさか! ノルンは井戸に毒を入れたのか!」
「井戸に毒を盛る戦術はあるのよ。忌み嫌われてるけどね。その街の水は使えなくなり、人が住めなくなるから」

 声を上げるリマに、レイが冷静に説明した。
 レイの言葉にシドも頷いている。

「レイの言う通りだ。昔からある戦術でな。都市を壊滅させるために使う。つまり……」

 シドが言葉を止めた。

「つまり、メルデスを完全放棄したということか」

 俺はシドが止めた言葉を続けた。

「恐らくデ・スタル連合国の全ての都市で同じことをやったのだろう。もちろん、街や村に住んでいない民もいるとは思うが、無事ではないはずだ」
「え? アル君、どうしてだい?」
「人間だけじゃない。ノルンはモンスターも狂戦士バーサーカー化させている。狂戦士バーサーカーとなったモンスターは、正直人間の手に負えるものではない。さっき遭遇した吐水竜プレシウスも信じられないほど能力が上がっていたからね」
「プレシウス? あの水を吐く?」
「そうだ。プレシウスは狂戦士バーサーカー化して強くなったことで、人間や上位のモンスターに襲いかかり、狂戦士毒バーサルクを撒き散らしたのだろう」
「そ、そんな……。飲み水、生活用水、そして水を吐くモンスターを利用して感染させていったのか」

 元騎士団の隊長として、人を守ることを職業としていたリマにとっては辛い事実だ。

「他にも水を攻撃に使うモンスターはいます。特に飲み込んだ水を霧状に放出するモンスターは厄介です。そういったモンスターたちも狂戦士毒バーサルクを広げた要因でしょう」
「オルフェリアの言う通りでしょうね。だけど、感染したモンスターのコントロールはどうやったのかしら?」

 レイが疑問をぶつけた。

「どうやったかまでは分かりませんが、黒竜ウェスタードが関わっていることは間違いないでしょうね」

 世界的なモンスター学者で、研究機関シグ・セブンの局長であるオルフェリアだ。
 モンスターの生態に関しては誰よりも詳しいが、明確な答えは出ない。

「ねえシド。ノルンは首都であるメルデスどころか、デ・スタル連合国を放棄したっことよね?」
「そのようだな」
「どうしてかしら?」
「ふむ……確かにそうだな。さすがレイだ。そこから考えた方がいいかもしれん。自国を放棄するような事件があったことで、今回の行動に出たのかもしれんな」

 ここまでの話をまとめると、デ・スタル連合国に何か事件が発生し、ノルンは全国民に狂戦士毒バーサルクを盛った。
 同時に、国内にいたモンスターも狂戦士バーサーカー化に成功。
 そして、デ・スタル連合国を放棄。
 あくまでも仮説だが、ほぼ間違いないように思える。

「レイ。ひとまず、ここまでの情報を本国のユリアに伝えよう。各国に共有するんだ」
「分かったわアル。大鋭爪鷹ハーストを飛ばすわね。オルフェリア、準備しましょう」

 レイとオルフェリアが一階の倉庫へ向かった。

「シド。そういえば黒竜って、この国の洞窟にいたんだよな」
「そうだ。最も深き洞窟エルサルドと言う洞窟だ」
「行ってみるしかないだろう。もしかしたらノルンがいるかもしれない」
「ここからさらに北東で極寒地帯だぞ? 危険だ」
「ここに来てる時点でもう危険だろう?」
「……そうだな。行くしかないか」

 右手で後頭部を掻くシド。
 普段からボサボサの白髪がさらに乱れた。

「マルコとアガスよ。旅する宮殿ヴェルーユの操縦を頼む。ここから最も深き洞窟エルサルドまでは約二千キデルトだ。後ほど地図で説明する。今日はこの付近に空中停泊して、明日出発だ」
「了解しました!」
「準備します!」

 マルコとアガスが部屋を出た。
 続いてローザに視線を向けるシド。

「アルが持ち帰った水と血液を分析する。ローザ手伝ってくれ」
「かしこまりました」
「ではアル。さっそく作業に入るぞ」

 これで会議室に残ったのは俺、リマ、エルザ、マリンだ。
 俺はエルザとマリンの顔を交互に見る。

「エルザ、マリン。今日の夕食は各自作業しながら取ると思う。個別に対応できるかな?」
「もちろんでございます」

 エルザが丁寧にお辞儀をした。

「では、皆様にお飲み物をお持ちしますね」
「ああ、頼むよマリン」

 エルザとマリンがキッチンへ向かった。
 最後に残ったのは俺とリマだ。

「さて、リマには確認したいことがある」
「え? 確認?」
「さっきも言ったけど、狂戦士バーサーカー化したモンスターは能力が底上げされる。凶暴性も合わせてね。俺とレイ、そしてリマが戦うことになるけど大丈夫か?」

 リマは無言だ。
 確かに答えようがないだろう。

「Cランクの吐水竜プレシウスの動きは、もはやAランクの槍豹獣サーべラル並だった。俺の体感ではランクが二つ上がる。もし相手がAランクのモンスターだったら、それはもうネームド以上ということになる」
「ネ、ネームド以上……」
「それに、狂戦士バーサーカー化した兵士はほとんどが民間人だ。君に殺せるか? 首を撥ねないと死なないぞ」
「民間人の首を……」
「もちろん俺はやる。守るべきものがあるからだ。リマ、本当の君は優しく正義感が強い。だから強要はしない」

 リマが瞳を閉じた。

 俺は知っている。
 リマは守るべきものがあると無類の強さを発揮する。
 だが、今回は守るためとはいえ、狂戦士バーサーカーとなった民間人を殺すのだ。
 正義感が強いリマには厳しいだろう。

「アル君、いやアル陛下……」

 リマが俺の正面に立つ。

「やります! やらせてください! アタシの家族であるレイを守るんです!」
「ああ、それでいいと思うよ。俺は立場上、皆や国民を守る義務があるし、守りたいと思っている。でも、人数とか規模は関係なくて、自分にとって大切な人を守る気持ちがあれば立ち向かえるさ」
「はい!」

 リマがラルシュ式の最敬礼をした。

 そして、燃えるような赤い髪を揺らし、屈託のない笑顔を見せ俺の両肩に手を置く。
 リマの身長は俺よりも高い。
 女性の中では高身長だ。

「それにしても、五年前はまだ子供だったのに……。アル君は成長したなあ」
「まあそれなりに経験してきたからね。それに今や国王なんてやらせてもらってるもん。しかし、リマは変わらないね。アハハ」
「な、なななんだと!」
「リマはそのままでいて欲しいってことだよ」
「アタシも成長してるっつーの! 見ろよ! この胸を!」

 俺の肩に手を置いたまま、リマが胸を強調してきた。

「ちょ、ちょ、リマ!」
「見ろ! 成長したんだぞ!」
「や、やめろって!」
「大きくなっただろ! ほらほら! フハハハ!」

 すると、扉が開く音が聞こえた。

「なーにーをーやってるの!」
「ゲッ! レイ! ち、違うんだ。こ、これはアル君が」

 リマがすぐに手を話した。

「ちょっと! リマだろ!」
「どっちでもいいわ。二人とも夕食抜きね」
「レ、レイ……」

 レイが両腕を腰に当てて、仁王立ちしている。
 その姿は神話に出てくる鬼神そのものだった。

「オ、オルフェリア、助けて」

 俺は後ろに立つオルフェリアに助けを求めた。

「アルもそういうことするんですねえ。レイ、行きましょう」
「ちょっと!」

 レイとオルフェリアが扉に向かって歩き出した。

「フハハハ、こうなっては仕方ない。アル君。今日の夕食は我慢だ」
「リマのせいだろ! 君は今月の給料なしだ!」
「え! そ、それは困るよ! それだけは勘弁してください!」
「ダメだ! 反省しろ!」
「アル陛下ああ! 借金がああ!」

 俺の両肩を掴み、揺さぶりながら絶叫するリマ。

「ふふふ」
「フフ」

 レイとオルフェリアが、その様子を見て笑っていた。
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