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第二十章

第332話 水

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 メルデスの街道を進む。
 俺はヴァルディの背に乗り、エルウッドは徒歩だ。
 
 街道はお世辞にも整備されているとは言い難い。
 土を固めたもので、所々に水たまりができており、馬車の轍が残っている。
 だが、上空から見たように、ログハウスの温かい雰囲気と良く似合う。
 ここは首都だが、雰囲気的には大国のイーセ王国やフォルド帝国の地方都市という感じだ。

 街道を歩いていると、いくつかの区画に一つ井戸を見かける。
 大都市になると水路、水道橋、井戸を併用することで水の確保が容易だった。
 だが、このメルデスは井戸しかないようだ。

「ウォン」

 井戸に向かってエルウッドが吠えた。

「どうしたエルウッド?」

 俺はヴァルディから下り、井戸の前に立つ。
 直径三メデルトもある屋根つきの大きな井戸。
 井戸の真横には、水を貯める大きな水桶もある。
 ここは付近の住人が集まる憩いの場になっていたのだろう。

 井戸の中を覗くと水は豊富にある。
 俺は滑車を使い、水を汲んでみた。

「水も普通だな」
「ウォン!」
「ヒヒィィン!」

 俺は臭いを嗅ぐため鼻を近付けると、始祖二柱が騒ぎ出した。

「ん? 二柱ともどうしたの?」

 大きく首を振る二柱。
 俺は顔を近付けずに、木桶に汲んだ水を観察する。

「ウォンウォン」
「ブルゥゥ」
「これは?」

 僅かに、ほんの僅かだが、水に色がついているような気がした。

「ま、まさか……、バ、狂戦士毒バーサルクか!」
「ウォン!」
「ヒヒィィン!」

 考えたくもないが、住民にとって最も大切な水に毒を入れたというのか。

 俺はヴァルディの鞍に装着しているバッグから、水筒を取り出した。
 中の飲み水を捨て、井戸の水を入れる。

「これはシドに見てもらおう。二柱の言う通り狂戦士毒バーサルクかもしれない」

 ネームドのカル・ド・イスクの毒から作られたという狂戦士毒バーサルク
 その大元は、カル・ド・イスクを使役していた氷竜リジュールの毒と同じだそうだ。
 始祖の二柱は、竜種の毒を感じ取ったのだろう。

 その瞬間、背後から気配を感じた。

「グルゥゥゥゥ」

 俺は紅竜の剣イグエルの柄に手を置き振り返る。

「ウォン!」
「ヒヒィィン!」
「こ、こいつは、吐水竜プレシウス!」

 ――

 吐水竜プレシウス

 階級 Cランク
 分類 竜骨型脚類

 体長約二メデルト。
 小型の脚類モンスター。

 長い尻尾でバランスを取りながら移動する二足歩行モンスター。
 手は使用しないため短く退化しており、一般的な小型脚類の姿をしている。

 川や湖などの水辺に生息。
 鱗の色は生息地の水の色に変化することで、保護色になっている。

 最大の特徴は、水を飲み込み圧縮して吐き出し獲物を気絶させる。
 小型の動物や低ランクモンスターを狩る。
 人間を襲うことは少ないが、漁師や釣り人が襲われることがある。

 ――

 一頭のプレシウスが、こちらに向かって突進。
 人を襲うことはほぼないと言われているが、躊躇なく襲ってきた。

「目が白い! 狂戦士バーサーカーか!」

 俺の目の前で、鋭く飛びかかってきたプレシウス。

「クッ!」

 俺は前方にダイブして避ける。
 前転し起き上がると、水を吐き出してきたプレシウス。

「は、速い!」

 今度は右方向にダイブして避ける。
 先程の突進も、この水を吐く水流も信じられない速さだった。

狂戦士バーサーカーの力か!」

 二回目の水を吐くプレシウス。
 このプレシウスが吐く水の勢いは弓よりも速い。

「この水って……狂戦士毒バーサルクじゃないのか!」

 俺は叫びながらダイブして避ける。
 状況から考えると、この水は狂戦士毒バーサルクの可能性が高い。

 水を吐きながら飛びかかってくるプレシウス。
 Cランクモンスターのプレシウスだが、スピードはAランクモンスターの槍豹獣サーべラルに匹敵する。

 だが二回も見ればスピードに慣れる。
 飛びかかるプレシウスに、俺は紅竜の剣イグエルを抜く。
 それと同時に首を落とした。

 狂戦士バーサーカー化したとはいえ、首と胴体を切断すれば活動は止まる。
 頭部と胴体に別れたプレシウスの死骸。
 俺はバッグから採取キットを取り出し、小瓶にプレシウスの血液を入れた。

「ここは危険だ。一旦戻ろう」
「ウォン」
「ヒヒィィン」

 ヴァルディの背に乗り、旅する宮殿ヴェルーユへ戻った。

 ――

「アル! 大丈夫だったか?」

 一階のハッチの前でシドが出迎えてくれた。
 レイとオルフェリアもいる。

「ああ、渡したい物がある。一旦研究室へ行こう」

 研究室に入るやいなや、俺は水筒と小瓶を取り出し状況を説明。
 三人は言葉も出ないほど驚いている。

「シド、この水と血液の分析を頼む。恐らく狂戦士毒バーサルクが検出されると思う」
「う、うむ。分かった」
「全員にも報告しよう」

 部屋にある伝声管の蓋を開ける。

「アルだ。全員すぐに会議室へ集まってくれ。緊急会議だ」

 俺たちも四階にある会議室へ移動。
 全員が集まったところで、改めて状況を説明した。
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