344 / 402
第二十章
第331話 いつか皆で別荘を
しおりを挟む
「アルよ、外を見ろ。デ・スタル連合国に入るぞ」
出発から三日、フォルド帝国の上空を飛ぶ旅する宮殿は、ついに目的地であるデ・スタル連合国に入った。
森林が多いフォルド帝国よりも、さらに深い森林に覆われている印象だ。
俺とレイは、シドの研究室に来ていた。
「まずは首都メルデスへ向かう」
デ・スタル連合国は建国からまだ五十年と若い。
連合国のためメルデス、メガス、アラックス、スレイの四カ国から成り立っている。
現在の主権国家はメルデスで、首都はメルデス。
連合国の全人口は八十万人だ。
ノルンの話によると、それが全て狂戦士化している。
「デ・スタル連合国は四カ国から成るが都市は少ない。各国の都市は二、三しかない。はっきり言って国力は高くない。そして常に黒い噂がつきまとう」
「そうね。騎士団時代は数々の犯罪組織を潰したけど、そのほとんどの黒幕が現在の主権国家であるメルデスって言われていたのよ。残念ながら、メルデスまでは辿り着けなかったけどね」
犯罪国家として噂されていたデ・スタル連合国。
確証がないだけで、黒幕なのは間違いない。
「ここまで巧妙に隠し通せたのは、全てノルンが取り仕切っていたからじゃないか? シド以上の知識を持っているんだろう?」
「そうだな。一万二千年も生きているのだ。私以上に世界や人間を知っているだろう」
三日も経つとシドの口調は素に戻っていた。
ノルンの進軍は約三週間後だ。
俺たちはその前に、ノルンと決着をつけるつもりだった。
「もう間もなくメルデスに到着します」
操縦桿を握るマルコの声が伝声管から聞こえた。
俺たちは操縦室へ向かう。
――
「これがデ・スタル連合国の首都メルデスか。シド、どうする? 一旦空中に停泊させる?」
「まずはメルデスの上空を飛んで様子を見よう」
眼下に見える首都メルデス。
体感的にはフォルド帝国の古都ウグマと同じくらいの規模か。
だが、ウグマと違い木造の建物が多い。
デ・スタル連合国は森林が多いため、木材が豊富なのだろう。
丸太で作られた家屋が並ぶ姿は、イメージとは正反対だった。
「もっと殺伐としていると思ってたけど、木造の温かさを感じる建物ばかりだよ」
「そうね。メルデスのログハウスを初めて見た人は、皆同じ感想になるわね」
丸太の家屋をログハウスと呼ぶらしい。
これは俺も真似したいと思った。
「全てが終わったら、俺もログハウスを建ててみようかな。難しいのかな。どうなんだろう」
「いいわね。アフラ湖の畔に建てましょう。お庭でゆっくりするの。アルは釣りをして、私は料理をするわ。エルウッドとヴァルディが湖畔を散歩するの。ふふふ、楽しそうね」
レイが笑顔を浮かべながら、腕を組んできた。
俺は操縦桿に立つトーマス兄弟に視線を移す。
「マルコ、アガス。君たちはログハウスを作ったことはあるかい?」
「はい! ウグマに住んでいた頃はお金がなかったので、自分たちでログハウスを建てました。ですからお任せください! 陛下には我々が最高のログハウスを作ります!」
「アハハ、ありがとうマルコ。だけど自分で作ってみたいんだ。……でも、そうだな。初心に戻ってマルコとアガスと三人で作ろうか」
「え! へ、陛下と一緒にですか! ぜひ! ぜひやりましょう!」
マルコとアガスが感動していた。
「何だずるいじゃないか。では私が設計図を書こう、立派なログハウスにしてやるぞ」
シドが羨ましそうな声で参加してきた。
皆ログハウスが好きなのだろうか。
驚くほど盛り上がっている。
すると、ちょうど全員分の飲み物を用意していたマリンが手を挙げた。
「はい! はい! シド様! 私のお部屋も作ってください!」
「ハッハッハ! いいぞマリン。とっておきの屋根裏部屋を作ってやろう」
「そ、それって倉庫じゃないですか!」
全員が笑う。
「ねえシド、私たちもアルのログハウスの近くに別荘を建てましょう。設計図を書いてください」
「ふむ、そうだな。我々のログハウスも建てるか」
贅沢をしないオルフェリアが別荘とは珍しい。
「オルフェリアが別荘なんて珍しいね」
「フフ、私もアルとレイの近くでゆっくりしたいのですよ。一緒に釣りをしましょう」
「アハハ。じゃあオルフェリアの別荘も俺が建てるよ」
「え? 本当ですか? それならば私も手伝いますね。なんだかあの冒険者時代を思い出しますね。フフ、懐かしいです」
するとシドが少し怒ったように、両手を腰に当てていた。
「アルよ。私の別荘だぞ?」
「俺はオルフェリアのために建てるんだよ。なあマルコ、アガス」
オルフェリアの言う通り、俺は冒険者時代を思い出していた。
俺とオルフェリアとマルコとアガス。
この四人でパーティーを組んだことで、ギルドの歴史が変わっていったのだった。
マルコとアガスを見ると、満面の笑みを浮かべ敬礼している。
「「はい! もちろんですアル様!」」
「おいおい! マルコとアガスよ。君たちと私の仲だろう?」
「シド様! お言葉ですが、アル様とオルフェリアさんと私たちは永遠にパーティーなんです!」
「ハッハッハ! そうか! そうだな! 君たちはギルドの歴史を変えた伝説のパーティーだったな!」
シドが大笑いしていた。
――
旅する宮殿はメルデスの上空二十メデルトを進む。
可能な限り低空で飛行し、全員で街の様子を観察。
レイとリマが並んで街を眺めていた。
「誰もいないわね」
「なあレイ。メルデスってデ・スタル連合国の最大都市なんだろ?」
「そうね。人口は十五万人から二十万人と言われているわ」
「そんなに? でも誰もいないってどういうことだ?」
俺は操縦桿を握るシドに振り返る。
「シド、すでに進軍を始めてると思うか?」
「その可能性はあるだろう。狂戦士化した兵士は徒歩だ。移動に時間がかかる。とはいえ、狂戦士と言えども、食料も補給せず、昼夜歩き続けるのはどうなのか……。死んでいく者たちもいるかもな」
シドが腕を組み考え込んでいる。
上空からでは分からないこともあるだろう。
直接見た方が良いような気がする。
「シド、一旦俺は降りる。ヴァルディとエルウッドと行くから問題ない」
「分かった。無理するなよ」
「ああ、様子を見てくるだけだ」
俺はエルウッドを伴い、一階の倉庫へ向かった。
「ヴァルディ、偵察へ行くよ」
「ヒヒィィン!」
ヴァルディに専用の鞍を装着し、飛び乗った。
エルウッドも後ろに座る。
「シド、ハッチを開けてくれ」
「了解!」
ヴァルディは空へ優雅に飛び出した。
出発から三日、フォルド帝国の上空を飛ぶ旅する宮殿は、ついに目的地であるデ・スタル連合国に入った。
森林が多いフォルド帝国よりも、さらに深い森林に覆われている印象だ。
俺とレイは、シドの研究室に来ていた。
「まずは首都メルデスへ向かう」
デ・スタル連合国は建国からまだ五十年と若い。
連合国のためメルデス、メガス、アラックス、スレイの四カ国から成り立っている。
現在の主権国家はメルデスで、首都はメルデス。
連合国の全人口は八十万人だ。
ノルンの話によると、それが全て狂戦士化している。
「デ・スタル連合国は四カ国から成るが都市は少ない。各国の都市は二、三しかない。はっきり言って国力は高くない。そして常に黒い噂がつきまとう」
「そうね。騎士団時代は数々の犯罪組織を潰したけど、そのほとんどの黒幕が現在の主権国家であるメルデスって言われていたのよ。残念ながら、メルデスまでは辿り着けなかったけどね」
犯罪国家として噂されていたデ・スタル連合国。
確証がないだけで、黒幕なのは間違いない。
「ここまで巧妙に隠し通せたのは、全てノルンが取り仕切っていたからじゃないか? シド以上の知識を持っているんだろう?」
「そうだな。一万二千年も生きているのだ。私以上に世界や人間を知っているだろう」
三日も経つとシドの口調は素に戻っていた。
ノルンの進軍は約三週間後だ。
俺たちはその前に、ノルンと決着をつけるつもりだった。
「もう間もなくメルデスに到着します」
操縦桿を握るマルコの声が伝声管から聞こえた。
俺たちは操縦室へ向かう。
――
「これがデ・スタル連合国の首都メルデスか。シド、どうする? 一旦空中に停泊させる?」
「まずはメルデスの上空を飛んで様子を見よう」
眼下に見える首都メルデス。
体感的にはフォルド帝国の古都ウグマと同じくらいの規模か。
だが、ウグマと違い木造の建物が多い。
デ・スタル連合国は森林が多いため、木材が豊富なのだろう。
丸太で作られた家屋が並ぶ姿は、イメージとは正反対だった。
「もっと殺伐としていると思ってたけど、木造の温かさを感じる建物ばかりだよ」
「そうね。メルデスのログハウスを初めて見た人は、皆同じ感想になるわね」
丸太の家屋をログハウスと呼ぶらしい。
これは俺も真似したいと思った。
「全てが終わったら、俺もログハウスを建ててみようかな。難しいのかな。どうなんだろう」
「いいわね。アフラ湖の畔に建てましょう。お庭でゆっくりするの。アルは釣りをして、私は料理をするわ。エルウッドとヴァルディが湖畔を散歩するの。ふふふ、楽しそうね」
レイが笑顔を浮かべながら、腕を組んできた。
俺は操縦桿に立つトーマス兄弟に視線を移す。
「マルコ、アガス。君たちはログハウスを作ったことはあるかい?」
「はい! ウグマに住んでいた頃はお金がなかったので、自分たちでログハウスを建てました。ですからお任せください! 陛下には我々が最高のログハウスを作ります!」
「アハハ、ありがとうマルコ。だけど自分で作ってみたいんだ。……でも、そうだな。初心に戻ってマルコとアガスと三人で作ろうか」
「え! へ、陛下と一緒にですか! ぜひ! ぜひやりましょう!」
マルコとアガスが感動していた。
「何だずるいじゃないか。では私が設計図を書こう、立派なログハウスにしてやるぞ」
シドが羨ましそうな声で参加してきた。
皆ログハウスが好きなのだろうか。
驚くほど盛り上がっている。
すると、ちょうど全員分の飲み物を用意していたマリンが手を挙げた。
「はい! はい! シド様! 私のお部屋も作ってください!」
「ハッハッハ! いいぞマリン。とっておきの屋根裏部屋を作ってやろう」
「そ、それって倉庫じゃないですか!」
全員が笑う。
「ねえシド、私たちもアルのログハウスの近くに別荘を建てましょう。設計図を書いてください」
「ふむ、そうだな。我々のログハウスも建てるか」
贅沢をしないオルフェリアが別荘とは珍しい。
「オルフェリアが別荘なんて珍しいね」
「フフ、私もアルとレイの近くでゆっくりしたいのですよ。一緒に釣りをしましょう」
「アハハ。じゃあオルフェリアの別荘も俺が建てるよ」
「え? 本当ですか? それならば私も手伝いますね。なんだかあの冒険者時代を思い出しますね。フフ、懐かしいです」
するとシドが少し怒ったように、両手を腰に当てていた。
「アルよ。私の別荘だぞ?」
「俺はオルフェリアのために建てるんだよ。なあマルコ、アガス」
オルフェリアの言う通り、俺は冒険者時代を思い出していた。
俺とオルフェリアとマルコとアガス。
この四人でパーティーを組んだことで、ギルドの歴史が変わっていったのだった。
マルコとアガスを見ると、満面の笑みを浮かべ敬礼している。
「「はい! もちろんですアル様!」」
「おいおい! マルコとアガスよ。君たちと私の仲だろう?」
「シド様! お言葉ですが、アル様とオルフェリアさんと私たちは永遠にパーティーなんです!」
「ハッハッハ! そうか! そうだな! 君たちはギルドの歴史を変えた伝説のパーティーだったな!」
シドが大笑いしていた。
――
旅する宮殿はメルデスの上空二十メデルトを進む。
可能な限り低空で飛行し、全員で街の様子を観察。
レイとリマが並んで街を眺めていた。
「誰もいないわね」
「なあレイ。メルデスってデ・スタル連合国の最大都市なんだろ?」
「そうね。人口は十五万人から二十万人と言われているわ」
「そんなに? でも誰もいないってどういうことだ?」
俺は操縦桿を握るシドに振り返る。
「シド、すでに進軍を始めてると思うか?」
「その可能性はあるだろう。狂戦士化した兵士は徒歩だ。移動に時間がかかる。とはいえ、狂戦士と言えども、食料も補給せず、昼夜歩き続けるのはどうなのか……。死んでいく者たちもいるかもな」
シドが腕を組み考え込んでいる。
上空からでは分からないこともあるだろう。
直接見た方が良いような気がする。
「シド、一旦俺は降りる。ヴァルディとエルウッドと行くから問題ない」
「分かった。無理するなよ」
「ああ、様子を見てくるだけだ」
俺はエルウッドを伴い、一階の倉庫へ向かった。
「ヴァルディ、偵察へ行くよ」
「ヒヒィィン!」
ヴァルディに専用の鞍を装着し、飛び乗った。
エルウッドも後ろに座る。
「シド、ハッチを開けてくれ」
「了解!」
ヴァルディは空へ優雅に飛び出した。
11
お気に入りに追加
184
あなたにおすすめの小説
生活魔法は万能です
浜柔
ファンタジー
生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。
それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。
――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。
女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません
青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。
だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。
女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。
途方に暮れる主人公たち。
だが、たった一つの救いがあった。
三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。
右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。
圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。
双方の利害が一致した。
※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
悪役貴族の四男に転生した俺は、怠惰で自由な生活がしたいので、自由気ままな冒険者生活(スローライフ)を始めたかった。
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
俺は何もしてないのに兄達のせいで悪役貴族扱いされているんだが……
アーノルドは名門貴族クローリー家の四男に転生した。家の掲げる独立独行の家訓のため、剣技に魔術果ては鍛冶師の技術を身に着けた。
そして15歳となった現在。アーノルドは、魔剣士を育成する教育機関に入学するのだが、親戚や上の兄達のせいで悪役扱いをされ、付いた渾名は【悪役公子】。
実家ではやりたくもない【付与魔術】をやらされ、学園に通っていても心の無い言葉を投げかけられる日々に嫌気がさした俺は、自由を求めて冒険者になる事にした。
剣術ではなく刀を打ち刀を使う彼は、憧れの自由と、美味いメシとスローライフを求めて、時に戦い。時にメシを食らい、時に剣を打つ。
アーノルドの第二の人生が幕を開ける。しかし、同級生で仲の悪いメイザース家の娘ミナに学園での態度が演技だと知られてしまい。アーノルドの理想の生活は、ハチャメチャなものになって行く。
愛無き子供は最強の神に愛される
神月るあ
ファンタジー
この街には、『鬽渦者(みかみもの)』という子供が存在する。この子供は生まれつき悪魔と契約している子供とされ、捨てられていた。13歳になった時の儀式で鬽渦者とされると、その子供を捨てる事で世界が救われる、としていたらしい。
捨てられた子供がどうなったかは誰も知らない。
そして、存在が生まれるのはランダムで、いつ生まれるかは全くもって不明らしい。
さて、捨てられた子供はどんな風に暮らしているのだろうか。
※四章からは百合要素、R13ぐらいの要素を含む話が多くなってきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる