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第二十章

第331話 いつか皆で別荘を

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「アルよ、外を見ろ。デ・スタル連合国に入るぞ」

 出発から三日、フォルド帝国の上空を飛ぶ旅する宮殿ヴェルーユは、ついに目的地であるデ・スタル連合国に入った。
 森林が多いフォルド帝国よりも、さらに深い森林に覆われている印象だ。

 俺とレイは、シドの研究室に来ていた。

「まずは首都メルデスへ向かう」

 デ・スタル連合国は建国からまだ五十年と若い。
 連合国のためメルデス、メガス、アラックス、スレイの四カ国から成り立っている。
 現在の主権国家はメルデスで、首都はメルデス。
 連合国の全人口は八十万人だ。
 ノルンの話によると、それが全て狂戦士バーサーカー化している。

「デ・スタル連合国は四カ国から成るが都市は少ない。各国の都市は二、三しかない。はっきり言って国力は高くない。そして常に黒い噂がつきまとう」
「そうね。騎士団時代は数々の犯罪組織を潰したけど、そのほとんどの黒幕が現在の主権国家であるメルデスって言われていたのよ。残念ながら、メルデスまでは辿り着けなかったけどね」

 犯罪国家として噂されていたデ・スタル連合国。
 確証がないだけで、黒幕なのは間違いない。

「ここまで巧妙に隠し通せたのは、全てノルンが取り仕切っていたからじゃないか? シド以上の知識を持っているんだろう?」
「そうだな。一万二千年も生きているのだ。私以上に世界や人間を知っているだろう」

 三日も経つとシドの口調は素に戻っていた。

 ノルンの進軍は約三週間後だ。
 俺たちはその前に、ノルンと決着をつけるつもりだった。

「もう間もなくメルデスに到着します」

 操縦桿を握るマルコの声が伝声管から聞こえた。
 俺たちは操縦室へ向かう。

 ――

「これがデ・スタル連合国の首都メルデスか。シド、どうする? 一旦空中に停泊させる?」
「まずはメルデスの上空を飛んで様子を見よう」

 眼下に見える首都メルデス。
 体感的にはフォルド帝国の古都ウグマと同じくらいの規模か。

 だが、ウグマと違い木造の建物が多い。
 デ・スタル連合国は森林が多いため、木材が豊富なのだろう。
 丸太で作られた家屋が並ぶ姿は、イメージとは正反対だった。

「もっと殺伐としていると思ってたけど、木造の温かさを感じる建物ばかりだよ」
「そうね。メルデスのログハウスを初めて見た人は、皆同じ感想になるわね」

 丸太の家屋をログハウスと呼ぶらしい。
 これは俺も真似したいと思った。

「全てが終わったら、俺もログハウスを建ててみようかな。難しいのかな。どうなんだろう」
「いいわね。アフラ湖の畔に建てましょう。お庭でゆっくりするの。アルは釣りをして、私は料理をするわ。エルウッドとヴァルディが湖畔を散歩するの。ふふふ、楽しそうね」

 レイが笑顔を浮かべながら、腕を組んできた。
 俺は操縦桿に立つトーマス兄弟に視線を移す。

「マルコ、アガス。君たちはログハウスを作ったことはあるかい?」
「はい! ウグマに住んでいた頃はお金がなかったので、自分たちでログハウスを建てました。ですからお任せください! 陛下には我々が最高のログハウスを作ります!」
「アハハ、ありがとうマルコ。だけど自分で作ってみたいんだ。……でも、そうだな。初心に戻ってマルコとアガスと三人で作ろうか」
「え! へ、陛下と一緒にですか! ぜひ! ぜひやりましょう!」

 マルコとアガスが感動していた。

「何だずるいじゃないか。では私が設計図を書こう、立派なログハウスにしてやるぞ」

 シドが羨ましそうな声で参加してきた。
 皆ログハウスが好きなのだろうか。
 驚くほど盛り上がっている。
 すると、ちょうど全員分の飲み物を用意していたマリンが手を挙げた。

「はい! はい! シド様! 私のお部屋も作ってください!」
「ハッハッハ! いいぞマリン。とっておきの屋根裏部屋を作ってやろう」
「そ、それって倉庫じゃないですか!」

 全員が笑う。

「ねえシド、私たちもアルのログハウスの近くに別荘を建てましょう。設計図を書いてください」
「ふむ、そうだな。我々のログハウスも建てるか」

 贅沢をしないオルフェリアが別荘とは珍しい。

「オルフェリアが別荘なんて珍しいね」
「フフ、私もアルとレイの近くでゆっくりしたいのですよ。一緒に釣りをしましょう」
「アハハ。じゃあオルフェリアの別荘も俺が建てるよ」
「え? 本当ですか? それならば私も手伝いますね。なんだかあの冒険者時代を思い出しますね。フフ、懐かしいです」

 するとシドが少し怒ったように、両手を腰に当てていた。

「アルよ。私の別荘だぞ?」
「俺はオルフェリアのために建てるんだよ。なあマルコ、アガス」

 オルフェリアの言う通り、俺は冒険者時代を思い出していた。
 俺とオルフェリアとマルコとアガス。
 この四人でパーティーを組んだことで、ギルドの歴史が変わっていったのだった。

 マルコとアガスを見ると、満面の笑みを浮かべ敬礼している。

「「はい! もちろんですアル様!」」
「おいおい! マルコとアガスよ。君たちと私の仲だろう?」
「シド様! お言葉ですが、アル様とオルフェリアさんと私たちは永遠にパーティーなんです!」
「ハッハッハ! そうか! そうだな! 君たちはギルドの歴史を変えた伝説のパーティーだったな!」

 シドが大笑いしていた。

 ――

 旅する宮殿ヴェルーユはメルデスの上空二十メデルトを進む。
 可能な限り低空で飛行し、全員で街の様子を観察。
 レイとリマが並んで街を眺めていた。

「誰もいないわね」
「なあレイ。メルデスってデ・スタル連合国の最大都市なんだろ?」
「そうね。人口は十五万人から二十万人と言われているわ」
「そんなに? でも誰もいないってどういうことだ?」

 俺は操縦桿を握るシドに振り返る。

「シド、すでに進軍を始めてると思うか?」
「その可能性はあるだろう。狂戦士バーサーカー化した兵士は徒歩だ。移動に時間がかかる。とはいえ、狂戦士バーサーカーと言えども、食料も補給せず、昼夜歩き続けるのはどうなのか……。死んでいく者たちもいるかもな」

 シドが腕を組み考え込んでいる。

 上空からでは分からないこともあるだろう。
 直接見た方が良いような気がする。

「シド、一旦俺は降りる。ヴァルディとエルウッドと行くから問題ない」
「分かった。無理するなよ」
「ああ、様子を見てくるだけだ」

 俺はエルウッドを伴い、一階の倉庫へ向かった。

「ヴァルディ、偵察へ行くよ」
「ヒヒィィン!」

 ヴァルディに専用の鞍を装着し、飛び乗った。
 エルウッドも後ろに座る。

「シド、ハッチを開けてくれ」
「了解!」

 ヴァルディは空へ優雅に飛び出した。
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