鉱夫剣を持つ 〜ツルハシ振ってたら人類最強の肉体を手に入れていた〜

犬斗

文字の大きさ
上 下
343 / 414
第二十章

第330話 王の迷い

しおりを挟む
 ノルン捕獲のため旅する宮殿ヴェルーユでラルシュを出発。

 操縦桿を握るのはアガス。
 船長席の机で地図を広げるシド。

 船長席なんて、いつの間にそんなものを作ったのだろうか。
 まあ好きにすればいい。
 俺もこういうのノリは好きだから。

「陛下。このまま行けば、三日後に到着します」

 シドが地図に線を引きながら計算していた。
 アフラからデ・スタル連合国までの距離は約七千キデルト。
 これまでの移動で最も遠距離となるが、旅する宮殿ヴェルーユは夜間飛行が可能なので停泊の必要がない。

「確かに急いでるけど、何も三日間ノンストップで進む必要はないんじゃない?」
「操縦は私、マルコ、アガスがローテーションを組むので問題ありません。むしろ陛下はこれから何が起こるか分からないので、ゆっくり休んでいてください」
「はいはい。あ、そうだ。シド、ここからは普通に話してよ」
「そうは言っても、最近はこちらに慣れているので、なかなか難しいのですよ。まあ、気が向いたら戻します。ハッハッハ」

 まあ強制はしないが、今は普通に話してくれた方が嬉しい。

「そろそろフラル山です! 陛下の故郷です!」

 アガスが伝声管で船内に伝えると、レイとエルウッドが操縦室へ入ってきた。
 
「ふふふ、一緒に見ようと思ってね」
「ウォン!」
「ありがとう。それにしても懐かしいな」
「二年振りかしら」
「たまには帰りたいね」

 俺とレイが窓際に並んでフラル山を眺めていると、シドが肩に手を置いてきた。 

「全てが終わったら、皆で陛下の実家へ行きましょうか」
「登山で?」
「それは無理です! ですが陛下の父上……バディの墓参りもしたい」
「そうだね。父さんも喜ぶよ」

 世界一高いアフラ山はクラップ山脈の主峰で、標高九千メデルトを超える。
 クラップ山脈自体、平均標高は六千から七千メデルトもあるため、旅する宮殿ヴェルーユで越えることは難しい。
 そのため、南側のマルソル内海から迂回する。

「アル陛下、マルソル内海が見えました」

 アガスが教えてくれた。
 マルソル内海は、以前俺が竜種ルシウスを討伐したため、穏やかな海となっている。
 今となっては竜種の討伐が正しいのか疑問に思うこともあるが、当時は人間の生活を脅かす存在として認識していた。
 もし今だったら、俺はどうしただろうか。

「また何か考えてる?」
「え? ……うん。竜種ルシウスのことを考えてたよ」
「あの時はあれが最善だったのよ。あまり深く考えないで」
「ありがとう」

 レイが俺の右腕を両腕で抱えた。

 俺は竜種の存在意義を知ったことで、最近は世界の理や人間の傲慢さを考えることが多くなっている。
 もし黒竜ウェスタードと対峙した時はどうするべきか。
 俺は未だに答えを出せていない。

「昼食の支度ができました。皆様、食堂へお集まりください」

 伝声管からエルザの声が聞こえた。

「アル、行くわよ」
「ああ行こう」

 俺の腕を組んだまま食堂へ向かうレイ。
 悩んでいる俺に気を使ってくれているのだろう。

 ――

 出港から二日が経過。

 旅する宮殿ヴェルーユはマルソル内海からエマレパ皇国へ入り、その後フォルド帝国の上空を進む。
 今は非常事態ということで、各国より旅する宮殿ヴェルーユの上空飛行を無条件で許可してもらっていた。

 先程起床したばかりの俺は、寝間着のまま国王室で窓の外を眺める。
 窓は濡れており、雲の中を進んでいた。

「雨か。シドは凄いな」

 雨が降ってもシドたちは羅針盤と各種計器、そして地図を使って正確に飛行する。
 そもそも何も見えない深夜でも飛行するくらいだ。
 彼らにとって、雨の飛行など容易いのだろう。
 旅する宮殿ヴェルーユは水竜ルシウスの素材を使っている影響で、雨でも安定して飛行できる。

「おはようアル」
「レイ、おはよう」

 レイが起きてきた。

「雨なのね。ねえ、近頃元気がないけど大丈夫?」
「やっぱりそう見える?」
「そうね。ずっと悩んでるでしょう?」
「レイにはお見通しか。世界のこと、竜種のこと、そしてノルンのことを考えてるんだ。一万二千年も生きてきて、なぜこのタイミングで宣戦布告なんてしたんだろうって。どういう結果になっても、ノルンにメリットはないんだよ」
「ええ、少し変よね。アルの言う通り未来がないもの。一時の感情でこれほどの事件を起こすような人でもないでしょう?」
「そうなんだよ。調べると、古代王国初代国王は賢王だったそうだし」
「でも不老不死になって人格が変わることもあるでしょう。いずれにしても、今の世界に混乱を招いてるのは間違いないわよ」
「そうだね……そう思う」
「厳しいようだけど、あなたが毅然な態度を取らないと皆が迷うわよ。私たちにはそういう責任があるのよ」
「そうか、そうだよね。うん、ありがとう」

 若くして騎士団団長で、今は国を引っ張る女王という立場のレイ。
 その言葉には説得力がある。
 組織のトップが悩むと皆が迷う。
 確かにそうだ。
 責任ある立場にいることは理解していても、最近の俺は余計なことを考えすぎていたのかもしれない。

「レイ、ありがとう」
「ふふふ、私だって明るいあたなを見ていたいもの」
「うん、もう大丈夫。ありがとう」

 俺はレイを抱き寄せた。

「ありがとうレイ」
「ふふふ、アル。好きよ」
「俺もだよ。愛してる」

 レイと口づけを交わす。
 エルウッドは相変わらず、横であくびをしていた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

異世界でパッシブスキル「魅了」を得て無双する〜最強だけど最悪なスキルに振り回されてます〜

蒼井美紗
ファンタジー
突然異世界に飛ばされた涼太は、何故か最大レベルの魅了スキルを得た。しかしその魅了が常時発動のパッシブスキルで、近づいた全ての人や魔物までをも魅了してしまう。 綺麗な女性ならまだ良いけど、ムキムキの筋肉が目をハートにして俺に迫ってくるとか……マジで最悪だ! 何なんだよこのスキル、俺を地球に帰してくれ! 突然異世界に飛ばされて、最強だけど最悪なスキルを得た主人公が、地球への帰り方を探しながら異世界を冒険する物語です。 ※カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅

聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。

無能スキルと言われ追放されたが実は防御無視の最強スキルだった

さくらはい
ファンタジー
 主人公の不動颯太は勇者としてクラスメイト達と共に異世界に召喚された。だが、【アスポート】という使えないスキルを獲得してしまったばかりに、一人だけ城を追放されてしまった。この【アスポート】は対象物を1mだけ瞬間移動させるという単純な効果を持つが、実はどんな物質でも一撃で破壊できる攻撃特化超火力スキルだったのだ―― 【不定期更新】 1話あたり2000~3000文字くらいで短めです。 性的な表現はありませんが、ややグロテスクな表現や過激な思想が含まれます。 良ければ感想ください。誤字脱字誤用報告も歓迎です。

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。 異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。 せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。 そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。 これは天啓か。 俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜

むらくも航
ファンタジー
ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。 幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。 そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。 故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。 自然と共に生き、魔物たちとも触れ合ってきた。 だが、エアルは知らない。 ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。 遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。 これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。

異世界を服従して征く俺の物語!!

ネコのうた
ファンタジー
日本のとある高校生たちが異世界に召喚されました。 高1で15歳の主人公は弱キャラだったものの、ある存在と融合して力を得ます。 様々なスキルや魔法を用いて、人族や魔族を時に服従させ時に殲滅していく、といったストーリーです。 なかには一筋縄ではいかない強敵たちもいて・・・・?

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

処理中です...