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第十九章

第320話 砂漠の生態系

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 アフラから目的地までは六千キデルト。
 ノンストップで飛行しても三日はかかる。
 移動だけで往復六日だ。
 今回は俺一人なので、三日間ノンストップの飛行は難しい。
 何度か睡眠を挟む必要がある。

 予定では二週間のうち、十日を移動に当て、残りの四日で古代遺跡を探索するつもりだ。
 とはいえ、今回は遺跡を見るだけなので、滞在日数は一日か二日の予定にしている。

 飛空船がアフラ火山を超えた。
 眼下に広がるのは、溶岩が冷え固まった黒灰色の岩盤地帯。
 過去大噴火を起こしたアフラ火山から西へ流れ出た溶岩は、数百キデルトも広がった。
 もしこの溶岩が逆の東方面に流れていたら、今のラルシュ王国はなかっただろう。

 そして、この溶岩地帯を越えると、世界最大の砂漠に入る。
 東西に四千キデルト以上、南北に千キデルトと、大国の領土と同じ広さだ。

「こ、これが世界最大のクルシス砂漠か」

 上空から見ても見渡す限り砂漠が広がっている。
 東西南北全ての方角が砂漠だ。

「す、凄い。広いなんてものじゃない」

 ここにも始祖と竜種は存在するそうだが、今回は関わらず通過する。
 それにあまりに広大なため、遭遇する確率は限りなくゼロだろう。

 俺は王の赤翼ラルクスの高度を三十メデルトまで下げた。
 砂漠の様子を見たいからだ。
 この高さだと風紋がよく見える。

 地平線の彼方まで広がる風紋。
 それはまるで、地上に描かれた美しい絵画のようだった。

「あれは砂潜竜サンキロスだな。空から見ると結構いるんだ」

 視力が良い俺は、砂から出てるサンキロスの眼球が目視できる。
 サンキロスは砂漠や砂丘に生息するCランクモンスターだ。
 砂から大きな眼球を出し、近くを通る動物や小型モンスターを伸びる粘着質の舌で絡め取る。
 捕獲後は、砂の中を泳いで移動していく。
 俺は過去クエストで捕獲したことがあった。

「ん、あれは……」

 砂の中から、一本の巨大な柱が飛び出ている。
 三メデルトはあるだろう。

「砂漠に柱?」

 何かの遺跡かと思ったが、俺はすぐに思い出した。

「セ、砂泳角竜セントラウスか! 凄く立派な角だ」

 だが、角は一旦砂漠に潜ってしまった。

「消えた?」

 一瞬の静寂の後、砂漠が爆発し、巨大な物体が地上へ飛び出す。
 セントラウスが巨大な口でサンキロスを捕獲していた

「凄い! セントラウスの捕食シーンだ! オルフェリアに教えたら喜ぶぞ!」

 砂漠の王と呼ばれるAランクモンスターのセントラウス。
 以前砂に潜って移動している姿を見かけたことはあったが、全身を見るのは初めてだ。
 しかも捕食シーンを見られるなんて貴重な体験だ。

「オルフェリアの気持ちが分かるような気がするな」

 幼少期からモンスター事典を読んで育ったオルフェリア。
 今ではモンスター研究の最先端である研究機関シグ・セブンの局長まで上り詰めた彼女だが、未だにモンスターを見ると目を輝かせる。

 モンスターといえども、生態系を作る上では欠かせない生物だ。
 人間を襲うこともあるが、それは捕食者として自然の行動だと思う。
 近頃の俺は、人間も、動物も、モンスターも自然の一部と考えるようになっていた。

 その後も俺は、上空から砂漠のモンスターを探していた。

 ――

「今日はこのまま上空でキャンプだ」

 日が暮れ、月が顔を出す。
 この飛空船は夜間飛行も可能だが、俺は睡眠を取ることにした。

 この王の赤翼ラルクス旅する宮殿ヴェルーユは、空中で停泊が可能だ。
 シドとトーマス兄弟が開発した新機能で、この二隻にしか搭載されていない特別な機能だった。
 振臓アンプによる空気の振動を細かく変化させ、上昇と下降の気流、前進と後進の気流を相殺することで長時間の停止が実現。
 説明されても、俺には全く意味が分からなかった。

 船体を空中で停止。
 さらに地上へ錨を下ろす。

「空中で停泊なんて信じられないよな。ラルシュ工業の技術は本当に凄い」

 王の赤翼ラルクスは竜種の素材を使用しているため、モンスターが近付くことはないだろう。
 急激な天候の変化さえなければ問題はないはずだ。

 キッチンへ移動し調理を開始。
 といっても、保冷庫から凍ったシチューを取り出し、火で温めて解凍しただけだ。
 保冷庫の温度は二種類設定されており、凍ってしまうほどの冷凍室と、冷やしておく冷蔵室がある。

 俺は冷蔵室から野菜を取り出しサラダを作った。
 あとは乾燥パンを切って完成。
 冷たい飲料も用意。

「保冷庫は便利だな。こんな場所でもエルザの料理を食べられるんだから」

 始祖二柱にも食事を出した。
 食後は珈琲を飲みながら地図を確認。

「今日一日で千五百キデルトは進めたかな。明日はもっと距離を稼ごう」

 何かあった時にすぐ対応できるように、操縦室のソファーで就寝。

 翌日は日の出前から飛行開始。

 地図と羅針盤を確認しながらひたすら前進。
 太陽が顔を出し、頭上を超え、地平線に沈む。
 それでもまだ砂漠地帯を飛行している。

「一体どこまで続いてるんだ」

 この砂漠が大陸の最西端まで続いていることは知っているが、実際に体験するとその大きさに驚くばかり。
 さすがは世界最大のクルシス砂漠だ。

「レイにも見せたかったな」

 日没を迎えたが、この日は限界まで進むことにした。
 月が頭上に来た深夜、眠気が限界に達したところで、飛空船を空中停止させ仮眠。
 そして、日の出前に出航。

 翌日も同じように進む。
 アフラを出発して四日目の朝、ようやく砂漠の終わりが見えた。

「海だ!」

 この海の先に目的の島がある。
 島といってもイーセ王国の半分近い面積があるそうだ。
 大陸と言ってもいいだろう。
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