鉱夫剣を持つ 〜ツルハシ振ってたら人類最強の肉体を手に入れていた〜

犬斗

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第十九章

第318話 ローザとアガスの結婚式

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 一週間後、ローザとアガスの結婚式を迎えた。
 実は世界会議ログ・フェス前ということで、結婚式に関しては他国へ知らせていない。

 だが、今や世界最大の企業であるラルシュ工業の最高責任者と、世界最高の鍛冶師で冒険者ギルド開発機関シグ・ナインの局長ローザの結婚だ。
 問い合わせが殺到し、結局千人近く招待することになった。
 ラルシュ工業や開発機関シグ・ナインに取り入りたい商人たちもいることだろう。

 懐かしい面々も来てくれた。
 ラバウトの鍛冶師クリスと、その弟子となったシーラ。
 シーラの父親で、クリスの双子の兄ウォルターも出席。
 なお、ウォルターは開発機関シグ・ナインのフォルド帝国支部長という局長に次ぐ地位に就き、フォルド帝国の帝都サンドムーンで業務を行っていた。
 その他にも他国支部のギルド関係者たちが出席。

 ローザは純白のウエディングドレスに身を包む。
 鍛冶師とは思えないほど美しい。
 アガスは大緊張の様子で挙動がおかしくなっていたが、俺とレイが証人として立ち会うと落ち着きを取り戻していた。

「アガス、今日の君は今までで一番輝いてるよ」

 俺は小さい声でアガスに告げた。
 親族として出席している兄のマルコは大号泣だ。

 そして指輪交換となった。
 ローザは結婚指輪を自分で製作。
 その鉱石は、アフラ火山で俺が採掘した虹鉱石だ。

「国王陛下が採掘して、花嫁自身が指輪を作るなど聞いたことがない。ハッハッハ」

 この話を聞いたシドは笑っていた。

 なお、ウエディングドレスとスーツは、ラルシュ王国で新たに立ち上げた服飾ブランドで製作。
 このブランドのメインモデルはレイで、瞬く間に世界で人気が出たのは言うまでもない。
 ブランド名はステラー。
 レイは嫌がっていたが、ユリアの説得により渋々承諾。

 なお、カミラさんの服飾ブランドであるカミーユも、この国に販売代理店がある。
 カミラさんは、思わぬライバルブランドの出現に嫌な顔一つせず、むしろ喜んでいた。

 結婚式は無事に終了。
 千人もの招待客に対しトラブルなく給仕ができたことで、使用人たちは自信がついたことだろう。
 世界会議ログ・フェスでは、さらに高いレベルの仕事をしてくれるはずだ。
 メイド長のエルザや執事のステムは、大きな仕事を終え明るい表情を浮かべていた。

 俺は懐かしい面々と再会。
 ユリアがそのための時間を取ってくれたのだ。

「ア、アル陛下。こ、この度はお招きいただき」
「アハハ、そう緊張しないでクリス。国王なんかになったけど、俺とクリスの関係は変わらないよ?」
「あ、ありがとうございます」
「ラバウトの皆は元気?」
「はい。皆元気でやってます」
「セレナやファイさんにも会いたいな」
「それを聞いたら喜びますよ。帰ったら伝えますね」
「うん。ありがとう」

 ラバウトの鍛冶師クリスと握手した。

「シーラもありがとう」
「とととと、とんでもないですアル様」
「鍛冶屋の修行はどう?」
「じゅ、順調です!」
「本当! 良かった。そうだ、シーラに剣を一本頼みたいんだ」
「え! ぼ、僕にですか!」
「うん。友人が作った剣を持っていたいじゃん」
「そ、そんな! 友人だなんて!」
「できる?」
「は、はい! 喜んで!」

 シーラとも握手を交わす。
 シーラは可愛らしい女の子だが、その手のひらは固い。
 何度も金槌を振った鍛冶師の手だ。
 シーラの努力が垣間見えて、俺は心から嬉しくなった。

「ガハハハ。アル陛下。それはまだ早いですぜ!」

 横にいたウォルターが大声で笑っている。
 シーラの父ウォルターは冒険者ギルドに勤務しているので、この国の職員だ。
 俺が国王になってからも何度か会っていた。

「あら、どうして? シーラだってもう一人前でしょ?」
「レイ様、鍛冶師は一人前になるのに十年はかかると言われているんです。そうだろ、クリスよ」

 クリスとウォルターの会話は初めて見る。
 顔はもちろん、声や体型までそっくりな双子だ。

「まあそうだな。だけどな兄貴、シーラは頑張ってるぞ。今は固定客もついて、シーラの指名だって入るようになったんだ」
「さすがクリス師匠は分かってる! もう親父は黙ってて!」

 愛娘に怒られて、大きな身体を小さく丸めるウォルター。
 その姿を見て全員が笑った。

「クリス。アフラの宿を取ってあるから楽しんでいって。足りないものとかも用意するからさ」
「アル様。お心遣い感謝します」

 クリスがお辞儀をした。

「シーラ。ラバウトの皆にもお土産を用意してある。渡してもらえるかな?」
「は、はい! もちろんです!」

 皆にアフラを楽しんで貰うために、最高級宿を数日間押さえてある。
 もちろん俺のポケットマネーだ。

 俺は国王という立場になったことで、昔のように気軽な会話ができない。
 それでも俺にとっては大切な友人たちだ。
 こんなことしかできないが、お世話になった皆に、少しずつ恩返ししていこうと思う。

 ――

 俺とレイは、ユリアを伴って新郎新婦の部屋へ移動。

「アガス、本当におめでとう」
「アル陛下! ありがとうございます。陛下に出会えたことで僕の人生は変わりました。本当に、本当にありがとうございます」

 アガスが深く頭を下げた。

「そんなことないって。アガスの努力は知ってるもん。ここまで一緒に来ることができて本当に嬉しいよ」

 俺はアガスの肩に手を回す。

「俺たちの絆は永遠だ」
「は、はいぃぃぃ」

 号泣するアガス。
 アガスは冒険者時代からの友だ。
 当時の運び屋は差別されており、生活も苦しかっただろう。
 それでも俺のクエストのために、常に時間を開けてくれていたトーマス兄弟。
 俺は今でも感謝している。

「ローザ、おめでとう。あなたの結婚は本当に嬉しいわ。幸せになってね」
「レイ様、ありがとうございます。お二人のような夫婦になりたいと思ってます」
「あら。ふふふ、嬉しいこと言ってくれるわね」

 レイとローザが話していると、ユリアが二人の前に立った。

「ということは、アガスは尻に敷かれるのかしらね」
「ちょっと! 何よユリア! 私たちは対等に付き合ってるわよ」
「そうですか?」
「そうよ!」

 言い争う二人に微笑みかけるローザ。

「ククク、ユリアも結婚すれば分かるんじゃないか? 意外と結婚はいいぞ?」
「言うわねローザ……」

 女性陣の会話に入ると面倒なことになるので、俺はマルコにお祝いを伝えることにした。

「マルコもおめでとう。アガスの結婚は自分のことのように嬉しいんじゃない?」
「うぐぅ。は、はい。本当に肩の荷が下りたというか。うぐぅ。これで思い残すことはありません。うぐぅ」

 兄のマルコは涙が枯れるんじゃないかというくらい号泣していた。

「何言ってるんだよ。次はマルコの番だよ」
「へ、陛下! ちょっ! それは!」

 泣いていたマルコの表情が一変。
 ただひたすら焦っている。
 すると、後ろでユリアが睨んでいた。

「アハハ、マルコなら大丈夫だよ。俺はマルコの凄さを知ってるからね。君は本当に良い男だよ」
「ぐふぅ、ありがとうございます。頑張ります」

 呆れたような表情を浮かべたユリアが、アガスにハンカチを渡す。

「マルコ、あなたは運輸大臣なのよ? あまり人前で泣いたりしないの!」
「あ、ありがとうございます。でも、男手一つで育ててきたアガスの結婚です。こんなに嬉しいことはありません」
「もう……全く。今日だけよ。明日からシャンとしなさい」
「は、はい。ぐふぅ」

 その様子をレイとローザが温かい眼差しで見つめていた。

 戦友と言えるトーマス兄弟のお祝いだ。
 俺はまだまだ祝福したい気分だった。

「皆、今日は飲むぞ!」
「それってアルの奢り?」
「もちろんさ」
「さすが太っ腹ね。国王陛下」
「こういう時のために貯めてるんだもん。マルコの時だって全部出すよ!」

 やっぱりユリアが睨んできた。

 その後はシドやオルフェリア、他の仲間たちと合流。
 久しぶりに皆で夜遅くまで騒いだのだった。
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