上 下
328 / 352
第十九章

第316話 破壊と創造

しおりを挟む
 リジュールを討伐してから二ヶ月が経過。

 国王の執務室で書類に目を通していると、オルフェリアが入室してきた。
 この部屋に入れる人間はごく僅かだ。
 それこそシドやオルフェリアなど幹部のみ。

 俺の執務室には警護の人間がいない。
 常にエルウッドがいるからだ。
 生物として頂点に立つ始祖が守る部屋なんて他にはない。

「陛下の護衛は不要だろう。エルウッドがいるし、そもそも陛下は人類最強なのだ。もし護衛が怪我でもしたら、逆に陛下の責任問題になる。ハッハッハ」

 シドは笑っていた。
 確かに俺を守って怪我されるのは困るし、俺一人ならどうとでもなる。
 なお、レイの執務室はリマが警護していた。

「やあオルフェリア。どうしたんだい?」
「陛下、リジュールの素材の解析がほぼ終わりました」
「そうか! で、内容は?」

 オルフェリアが説明してくれた。

 リジュールの皮を研究したところ、雷を通さない素材と判明。
 エルウッドの雷の道ログレッシヴが効かなかった理由が分かった。
 そして強い弾力性は、衝撃を吸収する素材として使用できるとのこと。
 
 これは我が国の飛空船に使用する。
 空を飛ぶ飛空船にとって、雷と衝撃は大敵だからだ。

 これで超大型飛空船の旅する宮殿ヴェルーユと、俺専用の小型飛空船である王の赤翼ラルクスは大幅に進化することになる。
 ヴェルギウスの素材により世界最高の硬度と耐久性を誇り、内部の気温を一定に保つ。
 ルシウスの素材で、気圧の変化や水圧に耐えられ、水中でも空気を取り入れることが可能。
 そして、リジュールの素材により雷を通さず、外部からの衝撃を吸収する。

「それと面白い内臓があったのです」
「面白い内臓?」
「はい。空気を冷却するのです」
「そういえばリジュールは冷気を吐いていたな」
「その内臓を冷臓フェイザーと名付けました。さらにトーマス兄弟とエルウッドが協力して、冷臓フェイザーから保冷庫を作りました」
「保冷庫? エルウッドと?」
「はい。エルウッドの雷の道ログレッシヴを放つと稼働するそうです」
「もしかして、振蔵アンプと同じ構造?」
「はい。仰る通り振蔵アンプと同じで原理で、雷の道ログレッシヴが動力となります。一回の雷の道ログレッシヴの放出で、一年は稼働するそうですよ」
「そうなんだ。で、その保冷庫は何に使うの?」
「冷気を放出するので、食材などの保存に使用できます。すでに巨大な貯蔵庫を建築して、大型の保冷庫で食材などを凍らせました。肉も魚も凍ってます」
「そ、それは凄いね」
旅する宮殿ヴェルーユを始め、王の赤翼ラルクスにも専用の保冷庫を作りました。食材や飲料を冷やしておけます。例えば調理済みの食品を凍らせることもできますし、冷たいデザートも簡単に作ることができます。これは料理における革命です」

 料理好きのオルフェリアの表情は、とても嬉しそうだった。

「今まではモンスターを解体すると、凍蝙蝠竜ラヴィトゥルから精製した防腐剤で防腐処理を行っていました。これは最大でも一ヶ月ほどが限度です。しかし、|冷凍保存なら数年は保存できます」
「本当に凄いな。でも、素材となる冷臓フェイザーは限られてるから普及できないでしょ?」
「そうです。だから国家機密です。フフ」

 その後もオルフェリアから、いくつかの報告を聞く。
 だが、モンスターが生き返った事件については未だに不明で、引き続き調査を行うこととなった。

 オルフェリアが退室。
 俺はミニキッチンで珈琲を淹れる。
 こんな姿を見られたら「私がやります! 余計なことしないでください!」とマリンに怒られるだろう。
 珈琲を飲みながら、窓の外を眺め一息つく。

 アフラの街は、ラルシュ工業と冒険者ギルドの施設で占められている。
 それでも通常の街と同じ景観となるように、シドを中心に都市計画を立て建築していった。
 他国の首都と比べると非常に小規模だが、俺はこの美しい街がとても好きだった。

「竜種の討伐か……」

 俺のリジュール討伐は、レイの狂戦士バーサーカー完治後に公表。

 ラルシュ国王が三体目の竜種を討伐したというニュースは瞬く間に世界へ広がった。
 俺が世間から三体の竜種殺しトライトロンと呼ばれているのも知っている。
 イーセ王国のヴィクトリア女王陛下や、エマレパ皇国のキルス皇帝陛下からお祝いも届いたほどだ。

 シドやマリアは、リジュール討伐の依頼主であるフォルド帝国から報酬の金貨十五万枚を受け取る。
 さらに協議を重ね、リジュールの住処だったナブム氷原の洞窟にある光る石の共同発掘も正式に決定した。
 
 なお、リジュールを討伐したことで、ナブム氷原は早くも安定した気候に変化したそうだ。
 ただし、ナブム氷原は始祖もいないため、今後気候がどうなるのか全く不明だった。

 「初めに竜種と始祖が生まれる。竜種が壊し、新たに作る。始祖が育み、終りを告げる。世界は破壊と創造の繰り返し……か」

 この言葉は、シド宛に送られてきた竜種と始祖に関する古代書に記されている最後の一文だった。
 シドに聞いた瞬間から、俺の心に深く刻まれている。

 古の時代から、竜種と始祖は敵対しているそうだ。
 我が国には始祖が二柱も住んでいることで、必然的に竜種は敵となる。
 竜種は人間にとって危険極まりない存在だ。
 だがそれは人間の視点であって、竜種から見ると人間は闇雲に世界を壊している存在なのかもしれない。

 近頃の俺は、竜種と人間の関係について考えていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

幼馴染み達が寝取られたが,別にどうでもいい。

みっちゃん
ファンタジー
私達は勇者様と結婚するわ! そう言われたのが1年後に再会した幼馴染みと義姉と義妹だった。 「.....そうか,じゃあ婚約破棄は俺から両親達にいってくるよ。」 そう言って俺は彼女達と別れた。 しかし彼女達は知らない自分達が魅了にかかっていることを、主人公がそれに気づいていることも,そして,最初っから主人公は自分達をあまり好いていないことも。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

処理中です...