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第十九章
第316話 破壊と創造
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リジュールを討伐してから二ヶ月が経過。
国王の執務室で書類に目を通していると、オルフェリアが入室してきた。
この部屋に入れる人間はごく僅かだ。
それこそシドやオルフェリアなど幹部のみ。
俺の執務室には警護の人間がいない。
常にエルウッドがいるからだ。
生物として頂点に立つ始祖が守る部屋なんて他にはない。
「陛下の護衛は不要だろう。エルウッドがいるし、そもそも陛下は人類最強なのだ。もし護衛が怪我でもしたら、逆に陛下の責任問題になる。ハッハッハ」
シドは笑っていた。
確かに俺を守って怪我されるのは困るし、俺一人ならどうとでもなる。
なお、レイの執務室はリマが警護していた。
「やあオルフェリア。どうしたんだい?」
「陛下、リジュールの素材の解析がほぼ終わりました」
「そうか! で、内容は?」
オルフェリアが説明してくれた。
リジュールの皮を研究したところ、雷を通さない素材と判明。
エルウッドの雷の道が効かなかった理由が分かった。
そして強い弾力性は、衝撃を吸収する素材として使用できるとのこと。
これは我が国の飛空船に使用する。
空を飛ぶ飛空船にとって、雷と衝撃は大敵だからだ。
これで超大型飛空船の旅する宮殿と、俺専用の小型飛空船である王の赤翼は大幅に進化することになる。
ヴェルギウスの素材により世界最高の硬度と耐久性を誇り、内部の気温を一定に保つ。
ルシウスの素材で、気圧の変化や水圧に耐えられ、水中でも空気を取り入れることが可能。
そして、リジュールの素材により雷を通さず、外部からの衝撃を吸収する。
「それと面白い内臓があったのです」
「面白い内臓?」
「はい。空気を冷却するのです」
「そういえばリジュールは冷気を吐いていたな」
「その内臓を冷臓と名付けました。さらにトーマス兄弟とエルウッドが協力して、冷臓から保冷庫を作りました」
「保冷庫? エルウッドと?」
「はい。エルウッドの雷の道を放つと稼働するそうです」
「もしかして、振蔵と同じ構造?」
「はい。仰る通り振蔵と同じで原理で、雷の道が動力となります。一回の雷の道の放出で、一年は稼働するそうですよ」
「そうなんだ。で、その保冷庫は何に使うの?」
「冷気を放出するので、食材などの保存に使用できます。すでに巨大な貯蔵庫を建築して、大型の保冷庫で食材などを凍らせました。肉も魚も凍ってます」
「そ、それは凄いね」
「旅する宮殿を始め、王の赤翼にも専用の保冷庫を作りました。食材や飲料を冷やしておけます。例えば調理済みの食品を凍らせることもできますし、冷たいデザートも簡単に作ることができます。これは料理における革命です」
料理好きのオルフェリアの表情は、とても嬉しそうだった。
「今まではモンスターを解体すると、凍蝙蝠竜から精製した防腐剤で防腐処理を行っていました。これは最大でも一ヶ月ほどが限度です。しかし、|冷凍保存なら数年は保存できます」
「本当に凄いな。でも、素材となる冷臓は限られてるから普及できないでしょ?」
「そうです。だから国家機密です。フフ」
その後もオルフェリアから、いくつかの報告を聞く。
だが、モンスターが生き返った事件については未だに不明で、引き続き調査を行うこととなった。
オルフェリアが退室。
俺はミニキッチンで珈琲を淹れる。
こんな姿を見られたら「私がやります! 余計なことしないでください!」とマリンに怒られるだろう。
珈琲を飲みながら、窓の外を眺め一息つく。
アフラの街は、ラルシュ工業と冒険者ギルドの施設で占められている。
それでも通常の街と同じ景観となるように、シドを中心に都市計画を立て建築していった。
他国の首都と比べると非常に小規模だが、俺はこの美しい街がとても好きだった。
「竜種の討伐か……」
俺のリジュール討伐は、レイの狂戦士完治後に公表。
ラルシュ国王が三体目の竜種を討伐したというニュースは瞬く間に世界へ広がった。
俺が世間から三体の竜種殺しと呼ばれているのも知っている。
イーセ王国のヴィクトリア女王陛下や、エマレパ皇国のキルス皇帝陛下からお祝いも届いたほどだ。
シドやマリアは、リジュール討伐の依頼主であるフォルド帝国から報酬の金貨十五万枚を受け取る。
さらに協議を重ね、リジュールの住処だったナブム氷原の洞窟にある光る石の共同発掘も正式に決定した。
なお、リジュールを討伐したことで、ナブム氷原は早くも安定した気候に変化したそうだ。
ただし、ナブム氷原は始祖もいないため、今後気候がどうなるのか全く不明だった。
「初めに竜種と始祖が生まれる。竜種が壊し、新たに作る。始祖が育み、終りを告げる。世界は破壊と創造の繰り返し……か」
この言葉は、シド宛に送られてきた竜種と始祖に関する古代書に記されている最後の一文だった。
シドに聞いた瞬間から、俺の心に深く刻まれている。
古の時代から、竜種と始祖は敵対しているそうだ。
我が国には始祖が二柱も住んでいることで、必然的に竜種は敵となる。
竜種は人間にとって危険極まりない存在だ。
だがそれは人間の視点であって、竜種から見ると人間は闇雲に世界を壊している存在なのかもしれない。
近頃の俺は、竜種と人間の関係について考えていた。
国王の執務室で書類に目を通していると、オルフェリアが入室してきた。
この部屋に入れる人間はごく僅かだ。
それこそシドやオルフェリアなど幹部のみ。
俺の執務室には警護の人間がいない。
常にエルウッドがいるからだ。
生物として頂点に立つ始祖が守る部屋なんて他にはない。
「陛下の護衛は不要だろう。エルウッドがいるし、そもそも陛下は人類最強なのだ。もし護衛が怪我でもしたら、逆に陛下の責任問題になる。ハッハッハ」
シドは笑っていた。
確かに俺を守って怪我されるのは困るし、俺一人ならどうとでもなる。
なお、レイの執務室はリマが警護していた。
「やあオルフェリア。どうしたんだい?」
「陛下、リジュールの素材の解析がほぼ終わりました」
「そうか! で、内容は?」
オルフェリアが説明してくれた。
リジュールの皮を研究したところ、雷を通さない素材と判明。
エルウッドの雷の道が効かなかった理由が分かった。
そして強い弾力性は、衝撃を吸収する素材として使用できるとのこと。
これは我が国の飛空船に使用する。
空を飛ぶ飛空船にとって、雷と衝撃は大敵だからだ。
これで超大型飛空船の旅する宮殿と、俺専用の小型飛空船である王の赤翼は大幅に進化することになる。
ヴェルギウスの素材により世界最高の硬度と耐久性を誇り、内部の気温を一定に保つ。
ルシウスの素材で、気圧の変化や水圧に耐えられ、水中でも空気を取り入れることが可能。
そして、リジュールの素材により雷を通さず、外部からの衝撃を吸収する。
「それと面白い内臓があったのです」
「面白い内臓?」
「はい。空気を冷却するのです」
「そういえばリジュールは冷気を吐いていたな」
「その内臓を冷臓と名付けました。さらにトーマス兄弟とエルウッドが協力して、冷臓から保冷庫を作りました」
「保冷庫? エルウッドと?」
「はい。エルウッドの雷の道を放つと稼働するそうです」
「もしかして、振蔵と同じ構造?」
「はい。仰る通り振蔵と同じで原理で、雷の道が動力となります。一回の雷の道の放出で、一年は稼働するそうですよ」
「そうなんだ。で、その保冷庫は何に使うの?」
「冷気を放出するので、食材などの保存に使用できます。すでに巨大な貯蔵庫を建築して、大型の保冷庫で食材などを凍らせました。肉も魚も凍ってます」
「そ、それは凄いね」
「旅する宮殿を始め、王の赤翼にも専用の保冷庫を作りました。食材や飲料を冷やしておけます。例えば調理済みの食品を凍らせることもできますし、冷たいデザートも簡単に作ることができます。これは料理における革命です」
料理好きのオルフェリアの表情は、とても嬉しそうだった。
「今まではモンスターを解体すると、凍蝙蝠竜から精製した防腐剤で防腐処理を行っていました。これは最大でも一ヶ月ほどが限度です。しかし、|冷凍保存なら数年は保存できます」
「本当に凄いな。でも、素材となる冷臓は限られてるから普及できないでしょ?」
「そうです。だから国家機密です。フフ」
その後もオルフェリアから、いくつかの報告を聞く。
だが、モンスターが生き返った事件については未だに不明で、引き続き調査を行うこととなった。
オルフェリアが退室。
俺はミニキッチンで珈琲を淹れる。
こんな姿を見られたら「私がやります! 余計なことしないでください!」とマリンに怒られるだろう。
珈琲を飲みながら、窓の外を眺め一息つく。
アフラの街は、ラルシュ工業と冒険者ギルドの施設で占められている。
それでも通常の街と同じ景観となるように、シドを中心に都市計画を立て建築していった。
他国の首都と比べると非常に小規模だが、俺はこの美しい街がとても好きだった。
「竜種の討伐か……」
俺のリジュール討伐は、レイの狂戦士完治後に公表。
ラルシュ国王が三体目の竜種を討伐したというニュースは瞬く間に世界へ広がった。
俺が世間から三体の竜種殺しと呼ばれているのも知っている。
イーセ王国のヴィクトリア女王陛下や、エマレパ皇国のキルス皇帝陛下からお祝いも届いたほどだ。
シドやマリアは、リジュール討伐の依頼主であるフォルド帝国から報酬の金貨十五万枚を受け取る。
さらに協議を重ね、リジュールの住処だったナブム氷原の洞窟にある光る石の共同発掘も正式に決定した。
なお、リジュールを討伐したことで、ナブム氷原は早くも安定した気候に変化したそうだ。
ただし、ナブム氷原は始祖もいないため、今後気候がどうなるのか全く不明だった。
「初めに竜種と始祖が生まれる。竜種が壊し、新たに作る。始祖が育み、終りを告げる。世界は破壊と創造の繰り返し……か」
この言葉は、シド宛に送られてきた竜種と始祖に関する古代書に記されている最後の一文だった。
シドに聞いた瞬間から、俺の心に深く刻まれている。
古の時代から、竜種と始祖は敵対しているそうだ。
我が国には始祖が二柱も住んでいることで、必然的に竜種は敵となる。
竜種は人間にとって危険極まりない存在だ。
だがそれは人間の視点であって、竜種から見ると人間は闇雲に世界を壊している存在なのかもしれない。
近頃の俺は、竜種と人間の関係について考えていた。
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