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第十八章

第313話 二人の絆

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 リジュール討伐から帰還して一週間が経過。

 シドは狂戦士バーサーカーの血清を抽出し、レイに接種した。
 様子を見る暇もなく、事後を俺やオルフェリアに託し、ユリアを伴って帝国へ出発。
 国家の正式な外交だ。
 役員、護衛、使用人たちを引き連れていく必要があるため、旅する宮殿ヴェルーユの使用を許可。

 研究機関シグ・セブンの広大な研究所では、リジュールと眷属の凍蝙蝠竜ラヴィトゥルの解体が開始。
 リジュールはオルフェリアとジョージ、そして研究機関シグ・セブンの上級研究者たちが担当だ。
 ラヴィトゥルは白い個体や通常種含めて、研究機関シグ・セブンの研究者や職員たちが総出で対応している。
 解体後は狂戦士バーサーカーの毒を含めて、様々な研究が行われるだろう。

 リジュールの素材は解体が終わり次第、開発機関シグ・ナインで研究と開発が進められ、新装備や飛空船へ採用される。

 俺は王城の寝室で、ベッドの横で椅子に座っていた。

「レイ、体調はどう?」
「うん。大丈夫よ」

 レイは三日前に意識を取り戻していた。
 今も大事を取ってベッドで横になっている。

「レイ、俺は怒ってるんだ」
「え? あ……。は、はい……」
「覚えているかい?」
「ええ、あの時は……あなたに剣を向けるくらいなら……死にたかった」
「うん。だから怒ってる」
「……はい」
「俺がレイを殺せるわけないだろう」
「……はい」
「今度からは俺を頼ってくれ。助けてと言って欲しい」
「はい」

 レイの気持ちは理解できる。
 最愛の養母に剣を向け、夫である俺にも剣を向けたんだ。
 だが俺にレイを殺せるわけがない。

「もし俺が同じことを言ったら、レイだって怒るだろう?」
「そう……ね」
「以前も言っただろう? 君の過去に何があろうと、君が何者であろうと、俺がレイを想う気持ちは変わらない。俺はレイを愛してる。一生守る。何があろうと、その手は絶対に離さないって」
「うん」
「レイ、俺たちはどんなことがあろうと絶対に離れない」

 レイは横になりながらシーツから手を出した。
 俺はその手を握る。

「アル、ごめんなさい」
「何を言うんだ! 謝るのは俺なんだ。今回はレイを守ると言いながら守れなかった」
「そんなこと……」
「もう二度とレイに辛い思いはさせない。俺はもっと強くなる。そしてレイと生きていく」
「はい」

 涙を流すレイ。
 狂戦士バーサーカーは完全に解けた様子だ。
 これまで以上に感情を見せるようになっていた。 

 俺はレイの頬に伝わる雫を指でなぞる。
 すると、レイは泣きながら笑顔を見せた。

「ふふふ。でもね、私も強くなるわよ。私だって皆のことも、アルのことも守りたいもの」
「な、何言ってるんだ。俺がレイを守るんだ」
「それは嬉しいけど私だって剣士。アルと同じ思いよ?」
「でも……俺の方が強いから」
「ふーん、分からないわよ?」
「え? なんで?」
「あのねアル。正直に言うわ。リジュールの狂戦士バーサーカーにかかって分かったのだけど、これまでずっと私の狂戦士バーサーカーは解けてなかったみたいなの。それが、リジュールの討伐で完全に解けたと理解できた。その証拠に、それまでずっと頭の中に靄がかかっていたような感覚だったのだけど、今はもう雲一つない青空のように晴れ渡っているわ。今まで以上に頭も身体も動くような気がするのよ」
「い、今まで以上って……今までだって化け物みたいだったじゃん? それ以上になるの?」
「ちょっと! 失礼ね」

 ようやく普通に会話ができるようになってきた。
 レイの表情は柔らかく、笑顔を浮かべている。

「それとね。リジュールの狂戦士バーサーカーはとにかく強力だったの。身体の限界の三つくらい上のレベルで私は動いたわ。本当に辛かったけど、今はその動きも再現できるような気がするのよ」
「そ、それって、人間の限界を超えた動きってことでしょ? そんな動きをしたらレイの身体が壊れるんじゃ」
「大丈夫よ。以前より肉体が強くなった自覚があるもの」
「そうなんだ……。狂戦士バーサーカーから復活した人間はいないってシドが言ってたけど、本当の意味で復活すると、自我を持った狂戦士バーサーカーになるってことか」
「なにか……言い方が悪いけどね」
「アハハ。ごめんごめん。でもそうか。つまり肉体の限界を超えたことで、身体が順応したってことか」
「そう思うわ」

 実は俺も同じような自覚があった。
 リジュールに放った最後の一振りは、竜種の身体を切り裂き、地面の奥深くまで切り裂いていた。
 あの感触が身体に残っている。
 怒りで到達したが、あの力を常時出せれば竜種にだって通用するだろう。

「俺もレイに負けないようにもっと頑張るよ」
「私もよ」
「そうだな。俺たちには時間がある。レイ、一緒に強くなろう」
「ええ、ずっと一緒よ……。アル、ありがとう」

 窓から入り込む風が、レースのカーテンを揺らす。
 俺はレイと口づけを交わした。
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