鉱夫剣を持つ 〜ツルハシ振ってたら人類最強の肉体を手に入れていた〜

犬斗

文字の大きさ
上 下
325 / 414
第十八章

第313話 二人の絆

しおりを挟む
 リジュール討伐から帰還して一週間が経過。

 シドは狂戦士バーサーカーの血清を抽出し、レイに接種した。
 様子を見る暇もなく、事後を俺やオルフェリアに託し、ユリアを伴って帝国へ出発。
 国家の正式な外交だ。
 役員、護衛、使用人たちを引き連れていく必要があるため、旅する宮殿ヴェルーユの使用を許可。

 研究機関シグ・セブンの広大な研究所では、リジュールと眷属の凍蝙蝠竜ラヴィトゥルの解体が開始。
 リジュールはオルフェリアとジョージ、そして研究機関シグ・セブンの上級研究者たちが担当だ。
 ラヴィトゥルは白い個体や通常種含めて、研究機関シグ・セブンの研究者や職員たちが総出で対応している。
 解体後は狂戦士バーサーカーの毒を含めて、様々な研究が行われるだろう。

 リジュールの素材は解体が終わり次第、開発機関シグ・ナインで研究と開発が進められ、新装備や飛空船へ採用される。

 俺は王城の寝室で、ベッドの横で椅子に座っていた。

「レイ、体調はどう?」
「うん。大丈夫よ」

 レイは三日前に意識を取り戻していた。
 今も大事を取ってベッドで横になっている。

「レイ、俺は怒ってるんだ」
「え? あ……。は、はい……」
「覚えているかい?」
「ええ、あの時は……あなたに剣を向けるくらいなら……死にたかった」
「うん。だから怒ってる」
「……はい」
「俺がレイを殺せるわけないだろう」
「……はい」
「今度からは俺を頼ってくれ。助けてと言って欲しい」
「はい」

 レイの気持ちは理解できる。
 最愛の養母に剣を向け、夫である俺にも剣を向けたんだ。
 だが俺にレイを殺せるわけがない。

「もし俺が同じことを言ったら、レイだって怒るだろう?」
「そう……ね」
「以前も言っただろう? 君の過去に何があろうと、君が何者であろうと、俺がレイを想う気持ちは変わらない。俺はレイを愛してる。一生守る。何があろうと、その手は絶対に離さないって」
「うん」
「レイ、俺たちはどんなことがあろうと絶対に離れない」

 レイは横になりながらシーツから手を出した。
 俺はその手を握る。

「アル、ごめんなさい」
「何を言うんだ! 謝るのは俺なんだ。今回はレイを守ると言いながら守れなかった」
「そんなこと……」
「もう二度とレイに辛い思いはさせない。俺はもっと強くなる。そしてレイと生きていく」
「はい」

 涙を流すレイ。
 狂戦士バーサーカーは完全に解けた様子だ。
 これまで以上に感情を見せるようになっていた。 

 俺はレイの頬に伝わる雫を指でなぞる。
 すると、レイは泣きながら笑顔を見せた。

「ふふふ。でもね、私も強くなるわよ。私だって皆のことも、アルのことも守りたいもの」
「な、何言ってるんだ。俺がレイを守るんだ」
「それは嬉しいけど私だって剣士。アルと同じ思いよ?」
「でも……俺の方が強いから」
「ふーん、分からないわよ?」
「え? なんで?」
「あのねアル。正直に言うわ。リジュールの狂戦士バーサーカーにかかって分かったのだけど、これまでずっと私の狂戦士バーサーカーは解けてなかったみたいなの。それが、リジュールの討伐で完全に解けたと理解できた。その証拠に、それまでずっと頭の中に靄がかかっていたような感覚だったのだけど、今はもう雲一つない青空のように晴れ渡っているわ。今まで以上に頭も身体も動くような気がするのよ」
「い、今まで以上って……今までだって化け物みたいだったじゃん? それ以上になるの?」
「ちょっと! 失礼ね」

 ようやく普通に会話ができるようになってきた。
 レイの表情は柔らかく、笑顔を浮かべている。

「それとね。リジュールの狂戦士バーサーカーはとにかく強力だったの。身体の限界の三つくらい上のレベルで私は動いたわ。本当に辛かったけど、今はその動きも再現できるような気がするのよ」
「そ、それって、人間の限界を超えた動きってことでしょ? そんな動きをしたらレイの身体が壊れるんじゃ」
「大丈夫よ。以前より肉体が強くなった自覚があるもの」
「そうなんだ……。狂戦士バーサーカーから復活した人間はいないってシドが言ってたけど、本当の意味で復活すると、自我を持った狂戦士バーサーカーになるってことか」
「なにか……言い方が悪いけどね」
「アハハ。ごめんごめん。でもそうか。つまり肉体の限界を超えたことで、身体が順応したってことか」
「そう思うわ」

 実は俺も同じような自覚があった。
 リジュールに放った最後の一振りは、竜種の身体を切り裂き、地面の奥深くまで切り裂いていた。
 あの感触が身体に残っている。
 怒りで到達したが、あの力を常時出せれば竜種にだって通用するだろう。

「俺もレイに負けないようにもっと頑張るよ」
「私もよ」
「そうだな。俺たちには時間がある。レイ、一緒に強くなろう」
「ええ、ずっと一緒よ……。アル、ありがとう」

 窓から入り込む風が、レースのカーテンを揺らす。
 俺はレイと口づけを交わした。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

異世界生活〜異世界に飛ばされても生活水準は変えません〜 番外編『旅日記』

アーエル
ファンタジー
カクヨムさん→小説家になろうさんで連載(完結済)していた 【 異世界生活〜異世界に飛ばされても生活水準は変えません〜 】の番外編です。 カクヨム版の 分割投稿となりますので 一話が長かったり短かったりしています。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

処理中です...