上 下
324 / 394
第十八章

第312話 戦い終わって

しおりを挟む
 旅する宮殿ヴェルーユは素材を載せ、ナブム氷原を出発。

 目的地はフォルド帝国の帝都サンドムーンだ。
 ナブム氷原から半日もかからない距離なので、アガスが一人で操縦。

 シドは研究室で、竜種リジュールから血清を作るための準備に取りかかる。
 抽出には一週間ほどかかるそうだ。

 レイは寝室で寝ている。
 狂戦士バーサーカーにより、肉体の限界を越えて身体を酷使したため、腕から出血していたり体中の内出血が酷かった。
 意識もまだ戻っておらず、しばらくは動けないと思う。

 始祖二柱はリジュールの血を舐めた。
 これでリジュールの能力を獲得。
 現時点でリジュールの能力は分からないが、その内判明するだろう。

 オルフェリアとローザは、倉庫でリジュールの素材を確認。
 本格的な解体や研究は帰国してからとなる。

 旅する宮殿ヴェルーユは、予定通りサンドムーンに到着。
 シルヴィア陛下に面会を求め、竜種討伐を報告。
 陛下や家臣たちは大変驚いていた。
 それもそうだろう、俺たちが討伐を行うと連絡した翌日には討伐完了だ。
 我ながら恐ろしいスピードだと思う。

 陛下からは、リジュール討伐やナブム氷原の正常化について、直接感謝の言葉をいただいた。
 また、光る鉱石などの発掘に関しても、我々ラルシュ王国と共同で発掘することになる予定だ。
 高い技術を誇るラルシュ工業に、ウグマ鉱山のリフトのような装置の開発を期待しているのだろう。
 我々にとっても光る鉱石の採掘はありがたいので、ギブアンドテイクの関係だ。

 その夜、急遽晩餐会が催された。
 レイはまだ動かせないので、ラルシュ王国の代表は俺一人。
 さらにシド、オルフェリア、ローザ、アガスが出席。
 リマ、エルザ、マリンは、レイの看病で旅する宮殿ヴェルーユに残った。

 シドとオルフェリアは夫婦なので、こういった場では当然ながらパートナーとして振る舞う。
 今やオルフェリアもドレスに慣れており、その清楚な姿に感嘆の声が漏れていた。

 ローザは年齢よりも大幅に若く見えるのだが、ドレスを着るとしっかり年相応に見える。
 その美しい姿からは、神の金槌シャイオンの称号を持つほどの鍛冶師とは想像できない。
 今回、ローザのパートナーは正装したアガスが務める。

「ロロロローザさん。よよよよろしくお願いいたします」
「何をそんなに緊張しているのだ。アガスよ」
「あ、いや、その……」

 シドがアガスの肩を叩いた。

「ハッハッハ。アガスはローザが好きだからな。今日はチャンスじゃないか?」

 我々は皆知っていたが、アガスはローザのことが好きだった。
 だが、恋愛に疎いアガスは何もできずに日々過ごしている。
 ローザはアガスのことを全く気にしていないし、そもそも恋愛に興味があるのかも分からない。

 シドの言葉を聞いたオルフェリアが、驚きながら焦った表情を浮かべた。

「ちょ、ちょっとシド! もう……あなたは相変わらずですね」
「本当だよ。空気ってものが読めないんだから。そりゃレイに嫌悪されるわけだ」

 オルフェリアと俺は呆れていた。

 当の本人であるアガスの顔が夕焼けのように赤く染まり、滝のような汗が流れ出す。

「み、皆さん! 勝手なことを言わないでください!」
「なんだアガス。私がいいのか?」

 ローザがアガスの顔を見つめている。

「え? い、いや、その、あの」
「ハッキリしろ。ハッキリしないやつは好かんぞ」
「は、はい! 僕はローザさんが好きです!」
「ふむ……そうだな……」

 腕を組み考え込むローザ。

「いいぞ。うむ。お前だったらいいぞ」
「え?」
「「「え?」」」

 当事者のアガスはもちろん、俺、シド、オルフェリアが同時に声を出した。

「ま、待てローザよ。いいとはどういうことだ?」
「シド様。私も四十歳ですよ? 遅すぎましたが、そろそろ身を固めようかと」
「身を固める? は? け、結婚だと?」

 付き合うとかではなく、いきなり結婚のようだ。
 常日頃からローザの決断力は凄いと思っていたが、あまりに突然の結婚宣言だった。

「ロ、ローザよ。アガスでいいのか?」
「私のことを好きであれば問題ありません。アガスの人柄は知ってますので」
「そ、そうか」

 さすがのシドも驚いている。
 
 ローザと結婚が決まったことで、一番驚いているのがアガス本人だった。
 アガスは完全に身体が硬直。

「アハハ。おめでとうローザ、アガス」
「アルよ。証人はお前だぞ」
「もちろんだよ。俺とレイが証人になるよ」

 俺にとって、長年苦楽を共にしてきたかけがえのない仲間であるローザとアガス。
 それに俺が国王になってから、仲間内で初めての結婚だ。
 これは盛大に祝うことにしよう。

 身内でハプニングがあったものの、晩餐会は無事終了。
 この日は宮殿に宿泊し、翌日帰国の途に就く。
 報酬の金貨十五万枚やその他の条件については、また改めてシドが帝国へ赴き調整することになった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

ダブル魔眼の最強術師 ~前世は散々でしたが、せっかく転生したので今度は最高の人生を目指します!~

雪華慧太
ファンタジー
理不尽なイジメが原因で引きこもっていた俺は、よりにもよって自分の誕生日にあっけなく人生を終えた。魂になった俺は、そこで助けた少女の力で不思議な瞳と前世の記憶を持って異世界に転生する。聖女で超絶美人の母親とエルフの魔法教師! アニメ顔負けの世界の中で今度こそ気楽な学園ライフを送れるかと思いきや、傲慢貴族の息子と戦うことになって……。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】

雪乃カナ
ファンタジー
世界が退屈でしかなかった1人の少年〝稗月倖真〟──彼は生まれつきチート級の身体能力と力を持っていた。だが同時に生まれた現代世界ではその力を持て余す退屈な日々を送っていた。  そんなある日いつものように孤児院の自室で起床し「退屈だな」と、呟いたその瞬間、突如現れた〝光の渦〟に吸い込まれてしまう!  気づくと辺りは白く光る見た事の無い部屋に!?  するとそこに女神アルテナが現れて「取り敢えず異世界で魔王を倒してきてもらえませんか♪」と頼まれる。  だが、異世界に着くと前途多難なことばかり、思わず「おい、アルテナ、聞いてないぞ!」と、叫びたくなるような事態も発覚したり──  でも、何はともあれ、女神様に異世界召喚されることになり、生まれた世界では持て余したチート級の力を使い、異世界へと魔王を倒しに行く主人公の、異世界ファンタジー物語!!

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

転生弁護士のクエスト同行記 ~冒険者用の契約書を作ることにしたらクエストの成功率が爆上がりしました~

昼から山猫
ファンタジー
異世界に降り立った元日本の弁護士が、冒険者ギルドの依頼で「クエスト契約書」を作成することに。出発前に役割分担を明文化し、報酬の配分や責任範囲を細かく決めると、パーティ同士の内輪揉めは激減し、クエスト成功率が劇的に上がる。そんな噂が広がり、冒険者は誰もが法律事務所に相談してから旅立つように。魔王討伐の最強パーティにも声をかけられ、彼の“契約書”は世界の運命を左右する重要要素となっていく。

ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜

むらくも航
ファンタジー
ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。 幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。 そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。 故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。 自然と共に生き、魔物たちとも触れ合ってきた。 だが、エアルは知らない。 ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。 遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。 これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。

処理中です...