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第十八章

第311話 強さを求め

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「レイ!」

 俺はレイの元へ駆け寄った。
 エルウッドとヴァルディがレイに寄り添っている。

「二柱ともありがとう」

 レイは気を失っているようだ。
 ぐったりと倒れている。
 顔色は雪のように白い。

「ヴァルディ、すぐに旅する宮殿ヴェルーユへ戻ろう」
「ヒヒィィン!」

 レイをヴァルディにまたがせ、俺が後ろから支えながら騎乗。
 洞窟を駆け抜け、雪原を飛び越え、ほんの僅かな時間で旅する宮殿ヴェルーユに到着。
 ヴァルディはレイに負担をかけないよう優しく、それでいて最速で運んでくれた。

 ――

 旅する宮殿ヴェルーユの入り口では、全員が揃って出迎えていた。
 だが、そこに笑顔はなく、皆心配そうな表情を浮かべている。
 俺はレイを両腕で抱えたまま、全員の前に立つ。

「シド! 説明は後だ! まず旅する宮殿ヴェルーユを洞窟入り口まで移動させる!」
「洞窟?」
「リジュールの咆哮ポイントだ。リジュールは洞窟内にいた」
「わ、分かった。すぐに動かす」

 シドとアガスが操縦室へ走った。
 シドは俺の様子を見て、すぐに行動してくれた。

「リマ!」
「な、なんだい?」
「レイを寝室へ。気を失ってるだけだ。それとレイは狂戦士バーサーカー化した」
「な、なんだって!」
「今はもう大丈夫。俺は洞窟へ戻らなければならい。リマが頼りだ。頼んだぞ」
「もちろんさ! 任せてくれ!」
「エルウッドもレイのそばにいてくれ」
「ウォン!」

 リマがレイを両腕で抱え、部屋へ向かった。

「エルザ! マリン!」
「はい」
「二人もレイの看病をして欲しい。それと、鎮静薬を飲ませるんだ」
「かしこまりました」

 二人がリマの後を追う。

「オルフェリア、ローザ。下船の準備をしてくれ。後で説明するが、リジュールを倒した。ピックアップする」
「な、なんですって! わ、分かりました」

 オルフェリアは驚きながらも、すぐに理解したようだ。
 ローザもそれに続く。

 全員が一階から移動した後、俺はその場に座り込む。

「クソッ、何が国王だ。たった一人の大切な人も守れないで。大切な人を守るんじゃなかったのか。王都での事件を忘れたのか。何のために剣を振ってきたんだ。クソッ、国王とか言われて調子に乗ったんだ。俺はバカだ。クソッ」

 拳を握りしめる。
 頬には一筋の雫が流れていた。

 ヴァルディが心配そうに、俺の頭に顔を寄せてくる。

「ブウゥゥ」
「……ありがとうヴァルディ」

 俺はヴァルディの顔に寄りかかった。

「皆を、レイを守るんだ。そのためにも、もっと強くならなければ」

 皆を守れる強さが欲しい。

 ――

 旅する宮殿ヴェルーユが洞窟の入口に到着。
 俺、シド、オルフェリア、ローザ、ヴァルディが下船した。
 ランプに火を灯し、洞窟を進む。

 歩きながら、俺は皆に状況を伝えた。

「なるほど。リジュールの咆哮でレイが狂戦士バーサーカー化したのか。さらにリジュールの毒も受けたと……」
「レイにリジュールの断末魔を聞かせたよ」
「分かった。狂戦士バーサーカーは解かれたと思うが、リジュールの血液から血清も作ろう。バディの開発した血清だ」
「父さんの血清か……。頼んだよシド」

 道中では五十頭もの凍蝙蝠竜ラヴィトゥルの死骸に全員驚いていた。
 これはエルウッドの雷の道ログレッシヴで一気に仕留めたものだ。

 さらに、洞窟最深部のドーム状の空間に入ると、衝撃的な景色が広がっていた。
 光る鉱石、岩陰に人間の遺体、十二頭の白いラヴィトゥルの死骸、そしてリジュールの死骸だ。

「アルよ。申し訳ないが、人の遺体は多すぎて運ぶことができない。帝国へ依頼する。幸いにもラヴィトゥルの毒で腐敗しないから、帝国側で埋葬してもらおう」
「分かった」
「ローザ、頼むぞ」

 シドがローザの肩を叩く。

「かしこまりました」

 驚いたことに、ローザは帝国教会の神官資格を持っていた。
 帝国の鍛冶師は神事を行うこともあるそうで、神官の資格を持つ者が多いそうだ。
 ローザが帝国式の祈りを捧げてくれたので、俺たちもそれに続く。

「これで死者の魂は救われたぞ」
「ローザ、ありがとう」

 その後、ローザが壁際へ進み、鉱石をハンマーで削った。
 欠片を手のひらに乗せて観察している。

「アルよ。この鉱石は新発見かもしれんぞ。自ら発光する鉱石なぞ見たことない」
「ああ、俺もそう思うよ。鉱夫の俺でも見たことがないから」

 ローザの言葉を聞いたシドがこちらに歩いてきた。

「ローザの言う通りだ。新発見だろうな。これを採掘すれば、帝国はリジュールの討伐代金を支払ってなお釣りが来るだろう。我々も輸入することになるぞ」

 そしてシドは白いラヴィトゥルを指差す。

「アルよ、これはカル・ド・イスクと同じ種なのか?」
「レイもそんなことを言っていたよ」
「ふむ、ネームドとして登録された個体のカル・ド・イスクだが、実はリジュールの眷属として複数体いたのか。カル・ド・イスク含めて、リジュールが作り出した狂戦士バーサーカーたちだろう」
「ええ、私もそう思います」

 今やモンスター学の世界的権威となったオルフェリアが同意している。
 俺はその二人に視線を向けた。

「これまでの状況から判断するに、狂戦士バーサーカーの毒に関して全ての元凶はリジュールだと思う。それを眷属たちも受け継ぎ、そのうちの一頭だったカル・ド・イスクがレイを狂戦士バーサーカーにした」
「うむ、アルの言う通りだろうな」

 シドが頷き、俺に頭を下げた。

「アル、改めてカル・ド・イスク盗難は申し訳なかった。死骸の行方はギルドで調べているが厳しいだろう。すまない」
「いや、いいんだ。それは仕方ないさ。それより、リジュールと眷属たちを調べて、狂戦士バーサーカーや毒について研究してくれ。そうすれば、あのモンスターが生き返った事件のことも分かるかもしれない」
「分かった。もちろん、引き続き調査は行うぞ」

 シドがオルフェリアを一瞥した。

「はい、研究機関シグ・セブンの総力をあげて研究します」
「頼むよオルフェリア」

 今回の事件は、国境付近で百頭のモンスターが生き返ったことが発端だ。
 それがカル・ド・イスクの死骸盗難から、リジュールの討伐まで話が広がった。
 これらは慎重に、そして確実に調査していく必要がある。

「シド、リジュールのピックアップだけど、旅する宮殿ヴェルーユを洞窟に入れるのは無理か?」
「そうだな……この広さならギリギリ大丈夫だろう。やってみる。リジュールはもちろん、ラヴィトゥルの死骸も貴重だ。全て持ち帰ろう」

 その後、洞窟内に旅する宮殿ヴェルーユを入れ、全ての素材をピックアップ。
 一階の広大な倉庫がモンスターでいっぱいになったことで、アガスが驚いていた。
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