上 下
323 / 394
第十八章

第311話 強さを求め

しおりを挟む
「レイ!」

 俺はレイの元へ駆け寄った。
 エルウッドとヴァルディがレイに寄り添っている。

「二柱ともありがとう」

 レイは気を失っているようだ。
 ぐったりと倒れている。
 顔色は雪のように白い。

「ヴァルディ、すぐに旅する宮殿ヴェルーユへ戻ろう」
「ヒヒィィン!」

 レイをヴァルディにまたがせ、俺が後ろから支えながら騎乗。
 洞窟を駆け抜け、雪原を飛び越え、ほんの僅かな時間で旅する宮殿ヴェルーユに到着。
 ヴァルディはレイに負担をかけないよう優しく、それでいて最速で運んでくれた。

 ――

 旅する宮殿ヴェルーユの入り口では、全員が揃って出迎えていた。
 だが、そこに笑顔はなく、皆心配そうな表情を浮かべている。
 俺はレイを両腕で抱えたまま、全員の前に立つ。

「シド! 説明は後だ! まず旅する宮殿ヴェルーユを洞窟入り口まで移動させる!」
「洞窟?」
「リジュールの咆哮ポイントだ。リジュールは洞窟内にいた」
「わ、分かった。すぐに動かす」

 シドとアガスが操縦室へ走った。
 シドは俺の様子を見て、すぐに行動してくれた。

「リマ!」
「な、なんだい?」
「レイを寝室へ。気を失ってるだけだ。それとレイは狂戦士バーサーカー化した」
「な、なんだって!」
「今はもう大丈夫。俺は洞窟へ戻らなければならい。リマが頼りだ。頼んだぞ」
「もちろんさ! 任せてくれ!」
「エルウッドもレイのそばにいてくれ」
「ウォン!」

 リマがレイを両腕で抱え、部屋へ向かった。

「エルザ! マリン!」
「はい」
「二人もレイの看病をして欲しい。それと、鎮静薬を飲ませるんだ」
「かしこまりました」

 二人がリマの後を追う。

「オルフェリア、ローザ。下船の準備をしてくれ。後で説明するが、リジュールを倒した。ピックアップする」
「な、なんですって! わ、分かりました」

 オルフェリアは驚きながらも、すぐに理解したようだ。
 ローザもそれに続く。

 全員が一階から移動した後、俺はその場に座り込む。

「クソッ、何が国王だ。たった一人の大切な人も守れないで。大切な人を守るんじゃなかったのか。王都での事件を忘れたのか。何のために剣を振ってきたんだ。クソッ、国王とか言われて調子に乗ったんだ。俺はバカだ。クソッ」

 拳を握りしめる。
 頬には一筋の雫が流れていた。

 ヴァルディが心配そうに、俺の頭に顔を寄せてくる。

「ブウゥゥ」
「……ありがとうヴァルディ」

 俺はヴァルディの顔に寄りかかった。

「皆を、レイを守るんだ。そのためにも、もっと強くならなければ」

 皆を守れる強さが欲しい。

 ――

 旅する宮殿ヴェルーユが洞窟の入口に到着。
 俺、シド、オルフェリア、ローザ、ヴァルディが下船した。
 ランプに火を灯し、洞窟を進む。

 歩きながら、俺は皆に状況を伝えた。

「なるほど。リジュールの咆哮でレイが狂戦士バーサーカー化したのか。さらにリジュールの毒も受けたと……」
「レイにリジュールの断末魔を聞かせたよ」
「分かった。狂戦士バーサーカーは解かれたと思うが、リジュールの血液から血清も作ろう。バディの開発した血清だ」
「父さんの血清か……。頼んだよシド」

 道中では五十頭もの凍蝙蝠竜ラヴィトゥルの死骸に全員驚いていた。
 これはエルウッドの雷の道ログレッシヴで一気に仕留めたものだ。

 さらに、洞窟最深部のドーム状の空間に入ると、衝撃的な景色が広がっていた。
 光る鉱石、岩陰に人間の遺体、十二頭の白いラヴィトゥルの死骸、そしてリジュールの死骸だ。

「アルよ。申し訳ないが、人の遺体は多すぎて運ぶことができない。帝国へ依頼する。幸いにもラヴィトゥルの毒で腐敗しないから、帝国側で埋葬してもらおう」
「分かった」
「ローザ、頼むぞ」

 シドがローザの肩を叩く。

「かしこまりました」

 驚いたことに、ローザは帝国教会の神官資格を持っていた。
 帝国の鍛冶師は神事を行うこともあるそうで、神官の資格を持つ者が多いそうだ。
 ローザが帝国式の祈りを捧げてくれたので、俺たちもそれに続く。

「これで死者の魂は救われたぞ」
「ローザ、ありがとう」

 その後、ローザが壁際へ進み、鉱石をハンマーで削った。
 欠片を手のひらに乗せて観察している。

「アルよ。この鉱石は新発見かもしれんぞ。自ら発光する鉱石なぞ見たことない」
「ああ、俺もそう思うよ。鉱夫の俺でも見たことがないから」

 ローザの言葉を聞いたシドがこちらに歩いてきた。

「ローザの言う通りだ。新発見だろうな。これを採掘すれば、帝国はリジュールの討伐代金を支払ってなお釣りが来るだろう。我々も輸入することになるぞ」

 そしてシドは白いラヴィトゥルを指差す。

「アルよ、これはカル・ド・イスクと同じ種なのか?」
「レイもそんなことを言っていたよ」
「ふむ、ネームドとして登録された個体のカル・ド・イスクだが、実はリジュールの眷属として複数体いたのか。カル・ド・イスク含めて、リジュールが作り出した狂戦士バーサーカーたちだろう」
「ええ、私もそう思います」

 今やモンスター学の世界的権威となったオルフェリアが同意している。
 俺はその二人に視線を向けた。

「これまでの状況から判断するに、狂戦士バーサーカーの毒に関して全ての元凶はリジュールだと思う。それを眷属たちも受け継ぎ、そのうちの一頭だったカル・ド・イスクがレイを狂戦士バーサーカーにした」
「うむ、アルの言う通りだろうな」

 シドが頷き、俺に頭を下げた。

「アル、改めてカル・ド・イスク盗難は申し訳なかった。死骸の行方はギルドで調べているが厳しいだろう。すまない」
「いや、いいんだ。それは仕方ないさ。それより、リジュールと眷属たちを調べて、狂戦士バーサーカーや毒について研究してくれ。そうすれば、あのモンスターが生き返った事件のことも分かるかもしれない」
「分かった。もちろん、引き続き調査は行うぞ」

 シドがオルフェリアを一瞥した。

「はい、研究機関シグ・セブンの総力をあげて研究します」
「頼むよオルフェリア」

 今回の事件は、国境付近で百頭のモンスターが生き返ったことが発端だ。
 それがカル・ド・イスクの死骸盗難から、リジュールの討伐まで話が広がった。
 これらは慎重に、そして確実に調査していく必要がある。

「シド、リジュールのピックアップだけど、旅する宮殿ヴェルーユを洞窟に入れるのは無理か?」
「そうだな……この広さならギリギリ大丈夫だろう。やってみる。リジュールはもちろん、ラヴィトゥルの死骸も貴重だ。全て持ち帰ろう」

 その後、洞窟内に旅する宮殿ヴェルーユを入れ、全ての素材をピックアップ。
 一階の広大な倉庫がモンスターでいっぱいになったことで、アガスが驚いていた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

ダブル魔眼の最強術師 ~前世は散々でしたが、せっかく転生したので今度は最高の人生を目指します!~

雪華慧太
ファンタジー
理不尽なイジメが原因で引きこもっていた俺は、よりにもよって自分の誕生日にあっけなく人生を終えた。魂になった俺は、そこで助けた少女の力で不思議な瞳と前世の記憶を持って異世界に転生する。聖女で超絶美人の母親とエルフの魔法教師! アニメ顔負けの世界の中で今度こそ気楽な学園ライフを送れるかと思いきや、傲慢貴族の息子と戦うことになって……。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】

雪乃カナ
ファンタジー
世界が退屈でしかなかった1人の少年〝稗月倖真〟──彼は生まれつきチート級の身体能力と力を持っていた。だが同時に生まれた現代世界ではその力を持て余す退屈な日々を送っていた。  そんなある日いつものように孤児院の自室で起床し「退屈だな」と、呟いたその瞬間、突如現れた〝光の渦〟に吸い込まれてしまう!  気づくと辺りは白く光る見た事の無い部屋に!?  するとそこに女神アルテナが現れて「取り敢えず異世界で魔王を倒してきてもらえませんか♪」と頼まれる。  だが、異世界に着くと前途多難なことばかり、思わず「おい、アルテナ、聞いてないぞ!」と、叫びたくなるような事態も発覚したり──  でも、何はともあれ、女神様に異世界召喚されることになり、生まれた世界では持て余したチート級の力を使い、異世界へと魔王を倒しに行く主人公の、異世界ファンタジー物語!!

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

転生弁護士のクエスト同行記 ~冒険者用の契約書を作ることにしたらクエストの成功率が爆上がりしました~

昼から山猫
ファンタジー
異世界に降り立った元日本の弁護士が、冒険者ギルドの依頼で「クエスト契約書」を作成することに。出発前に役割分担を明文化し、報酬の配分や責任範囲を細かく決めると、パーティ同士の内輪揉めは激減し、クエスト成功率が劇的に上がる。そんな噂が広がり、冒険者は誰もが法律事務所に相談してから旅立つように。魔王討伐の最強パーティにも声をかけられ、彼の“契約書”は世界の運命を左右する重要要素となっていく。

ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜

むらくも航
ファンタジー
ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。 幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。 そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。 故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。 自然と共に生き、魔物たちとも触れ合ってきた。 だが、エアルは知らない。 ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。 遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。 これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。

処理中です...