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第十八章
第310話 逆鱗
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俺はレイの美しい瞳を見つめた。
毎日見ても、何万回見ても、吸い込まれそうになる紺碧色の瞳。
初めて会った時からレイの美しさは変わらない。
容姿も、その心も。
「レイ、君は幸せになるんだ」
「ア……ル」
「もう一度誓うよ。いや、何度でも誓うよ。俺が君を幸せにする。一緒に生きて行こう」
俺はレイに口づけした。
そしてレイから手を離す。
「アル……お願い……逃げ……」
◇◇◇
狂戦士化したレイに背を向けて紅竜の剣を拾い上げるアル。
レイはそのアルに向かって、蒼彗の剣を構える。
今のレイに背を向けるなんて、殺せと言っているようなものだ。
レイは右足に力を入れ、まるで瞬間移動のようにアルの背中に向かって突きを放つ。
……はずだった。
レイがそれ以上動くことはなかった。
生き物として、本能が身体を止めていた。
アルの身体から、オーラのようなものが溢れ出ている。
禍々しいと形容してもいいだろう。
頂点までに達した怒りだ。
温厚なアルだが、これまで何度か激しい怒りを覚えたことがある。
王都でのエルウッド捕獲事件、ファステル宅の放火、ダーク・ゼム・イクリプスの殺戮、ヴェルギウスの破壊。
だが今回はそれを遥かに越えている。
感情をなくし、死ぬまで相手を殺し続ける狂戦士となったレイですら恐怖で足が震えていた。
その場に崩れ落ちるレイ。
アルは散歩にでも出かけるかのように、ゆっくりと歩いてリジュールへ近付く。
「エルウッド、ヴァルディ、ありがとう」
リジュールと戦っていたエルウッドとヴァルディが、アルの変化に気付いた。
すぐさまリジュールから離れ、レイの元へ駆け寄る。
「リジュール。絶対に許さない」
静かに言葉を発するアル。
リジュールも、ただならぬ空気を出すアルの変化を感じ取った。
「ギイイイィィィィィィィィ!」
猛烈な咆哮を上げる。
すると、天井の隙間から白い凍蝙蝠竜 が顔を出す。
眠りから覚めたラヴィトゥル、その数は十頭。
一頭一頭がカル・ド・イスクを超える強さを持つ、リジュールの最強眷属。
その白いラヴィトゥルたちが一斉にアルヘ飛びかかる。
そして、十本の毒針を同時にアルへ突き刺す。
だが、アルの視線はたった一体の竜種に向けられていた。
「リジュール」
アルに向かって飛びかかったラヴィトゥルが、次々に地上へ落ちていく。
誰にも見えない速度で剣を振るアル。
ネームド以上の強さを誇るモンスター十頭を文字通り瞬殺。
血飛沫で白いラヴィトゥルが赤く染まった。
「リジュール!」
ゆっくりとリジュールに近付くアル。
リジュールが大きな口を開け、圧縮した冷気を吐き出した。
その瞬間、アルはリジュールに向かって走り出す。
冷気がアルのいた場所に届く頃には、すでにリジュールへ剣を振り下ろしていた。
これまで剣で斬れなかったリジュールの皮膚に傷が生まれる。
あまりの鋭さに、血が出ないほどの切創だ。
「ギイイィィ!」
リジュールが叫ぶ。
だが、斬られてもアルに向かって毒針を突き刺す。
アルは毒針を左手で掴み、右手の剣で尻尾ごと斬り落とした。
「ギイイィィィィ!」
尻尾を切られたリジュールだが、好機とばかりに真下にいるアルに向かって冷気を吐き出す。
まさに肉を切らせて骨を断つ判断だ。
さすがの竜種。
最強種である証拠だ。
「バフアァァァァァァ!」
冷気は圧縮されておらず、広範囲に広がった。
さらに振臓で空気を振動させた後、翼を大きくはばたかせ冷気の渦を作る。
全てを凍らせるリジュール最大の攻撃だ。
死んでいるラヴィトゥルも、岩盤も、壁面も、天井も真っ白に凍った。
これを雪原で行うと吹雪が発生する。
リジュールの起こした空気の渦が天然の風を呼び込み、雲を作り、吹雪となるのだ。
そこに狂戦士の咆哮を混ぜ、広範囲で眷属たちを使役する。
それがこのナブム氷原の帝王、リジュールの秘密だった。
あまりの強烈な冷気に、外部の気温に影響されない紅炎鎧といえども表面は凍っている。
だが、アルの身体に影響はない。
どんな状態でも内部は一定の気温を保つ紅炎鎧。
もしアルがヴェルギウスの素材を持っていなかったら、この瞬間に死んでいただろう。
リジュールの最大の不幸は、アルにとって最大の幸運だった。
「リジュールッ!」
アルが剣を振り上げると、紅炎鎧の表面を覆う薄氷が音を立てて剥がれ落ちていく。
全力で剣を振り下ろすアル。
まるでツルハシを振るように。
その速度は音すら引き離していた。
リジュールの腹部を大きく縦に斬る。
内臓に届き、傷は背中まで達した。
その直後、大きな斬撃音が発生し音が追いつく。
振り下ろした剣圧は凄まじく、凍った岩盤まで地下深く切り裂いていた。
「ギイイイイイイィィィィィィ!」
リジュールが超高音の断末魔を上げ崩れ落ちる。
巨体が崩れたことで凍った地面が砕け、リジュールの身体を半分飲み込む。
リジュールは胸から下が完全に両断されていた。
たった一振りで竜種に致命傷を与えたアル。
だが、目撃者はいない。
その空間に冷たい空気が流れるだけだった。
毎日見ても、何万回見ても、吸い込まれそうになる紺碧色の瞳。
初めて会った時からレイの美しさは変わらない。
容姿も、その心も。
「レイ、君は幸せになるんだ」
「ア……ル」
「もう一度誓うよ。いや、何度でも誓うよ。俺が君を幸せにする。一緒に生きて行こう」
俺はレイに口づけした。
そしてレイから手を離す。
「アル……お願い……逃げ……」
◇◇◇
狂戦士化したレイに背を向けて紅竜の剣を拾い上げるアル。
レイはそのアルに向かって、蒼彗の剣を構える。
今のレイに背を向けるなんて、殺せと言っているようなものだ。
レイは右足に力を入れ、まるで瞬間移動のようにアルの背中に向かって突きを放つ。
……はずだった。
レイがそれ以上動くことはなかった。
生き物として、本能が身体を止めていた。
アルの身体から、オーラのようなものが溢れ出ている。
禍々しいと形容してもいいだろう。
頂点までに達した怒りだ。
温厚なアルだが、これまで何度か激しい怒りを覚えたことがある。
王都でのエルウッド捕獲事件、ファステル宅の放火、ダーク・ゼム・イクリプスの殺戮、ヴェルギウスの破壊。
だが今回はそれを遥かに越えている。
感情をなくし、死ぬまで相手を殺し続ける狂戦士となったレイですら恐怖で足が震えていた。
その場に崩れ落ちるレイ。
アルは散歩にでも出かけるかのように、ゆっくりと歩いてリジュールへ近付く。
「エルウッド、ヴァルディ、ありがとう」
リジュールと戦っていたエルウッドとヴァルディが、アルの変化に気付いた。
すぐさまリジュールから離れ、レイの元へ駆け寄る。
「リジュール。絶対に許さない」
静かに言葉を発するアル。
リジュールも、ただならぬ空気を出すアルの変化を感じ取った。
「ギイイイィィィィィィィィ!」
猛烈な咆哮を上げる。
すると、天井の隙間から白い凍蝙蝠竜 が顔を出す。
眠りから覚めたラヴィトゥル、その数は十頭。
一頭一頭がカル・ド・イスクを超える強さを持つ、リジュールの最強眷属。
その白いラヴィトゥルたちが一斉にアルヘ飛びかかる。
そして、十本の毒針を同時にアルへ突き刺す。
だが、アルの視線はたった一体の竜種に向けられていた。
「リジュール」
アルに向かって飛びかかったラヴィトゥルが、次々に地上へ落ちていく。
誰にも見えない速度で剣を振るアル。
ネームド以上の強さを誇るモンスター十頭を文字通り瞬殺。
血飛沫で白いラヴィトゥルが赤く染まった。
「リジュール!」
ゆっくりとリジュールに近付くアル。
リジュールが大きな口を開け、圧縮した冷気を吐き出した。
その瞬間、アルはリジュールに向かって走り出す。
冷気がアルのいた場所に届く頃には、すでにリジュールへ剣を振り下ろしていた。
これまで剣で斬れなかったリジュールの皮膚に傷が生まれる。
あまりの鋭さに、血が出ないほどの切創だ。
「ギイイィィ!」
リジュールが叫ぶ。
だが、斬られてもアルに向かって毒針を突き刺す。
アルは毒針を左手で掴み、右手の剣で尻尾ごと斬り落とした。
「ギイイィィィィ!」
尻尾を切られたリジュールだが、好機とばかりに真下にいるアルに向かって冷気を吐き出す。
まさに肉を切らせて骨を断つ判断だ。
さすがの竜種。
最強種である証拠だ。
「バフアァァァァァァ!」
冷気は圧縮されておらず、広範囲に広がった。
さらに振臓で空気を振動させた後、翼を大きくはばたかせ冷気の渦を作る。
全てを凍らせるリジュール最大の攻撃だ。
死んでいるラヴィトゥルも、岩盤も、壁面も、天井も真っ白に凍った。
これを雪原で行うと吹雪が発生する。
リジュールの起こした空気の渦が天然の風を呼び込み、雲を作り、吹雪となるのだ。
そこに狂戦士の咆哮を混ぜ、広範囲で眷属たちを使役する。
それがこのナブム氷原の帝王、リジュールの秘密だった。
あまりの強烈な冷気に、外部の気温に影響されない紅炎鎧といえども表面は凍っている。
だが、アルの身体に影響はない。
どんな状態でも内部は一定の気温を保つ紅炎鎧。
もしアルがヴェルギウスの素材を持っていなかったら、この瞬間に死んでいただろう。
リジュールの最大の不幸は、アルにとって最大の幸運だった。
「リジュールッ!」
アルが剣を振り上げると、紅炎鎧の表面を覆う薄氷が音を立てて剥がれ落ちていく。
全力で剣を振り下ろすアル。
まるでツルハシを振るように。
その速度は音すら引き離していた。
リジュールの腹部を大きく縦に斬る。
内臓に届き、傷は背中まで達した。
その直後、大きな斬撃音が発生し音が追いつく。
振り下ろした剣圧は凄まじく、凍った岩盤まで地下深く切り裂いていた。
「ギイイイイイイィィィィィィ!」
リジュールが超高音の断末魔を上げ崩れ落ちる。
巨体が崩れたことで凍った地面が砕け、リジュールの身体を半分飲み込む。
リジュールは胸から下が完全に両断されていた。
たった一振りで竜種に致命傷を与えたアル。
だが、目撃者はいない。
その空間に冷たい空気が流れるだけだった。
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