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第十八章
第309話 命に代えても
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紅竜の剣を抜き、焦げた腹部へ斬りつける。
だが、手応えは硬く、甲高い音が鳴り響いた。
「え?」
リジュールの腹部を斬る直前で、紅竜の剣が止められている。
止めたのは蒼い装飾が施された美しい剣。
「レ、レイ!」
レイが蒼彗の剣を抜き、俺の攻撃を防いでいた。
「レイ! どうしたんだ!」
レイは何も答えない。
そのまま棒立ちになる。
すると、リジュールの毒針がレイの首筋に突き刺さった。
「しまった! レイ!」
「ギイイイイィィィィ!」
すぐさま高音の咆哮を上げるリジュール。
その顔は邪悪そのものだ。
俺たちをあざ笑っているようにも見える。
次の瞬間、レイが俺に向かって必殺の七段突きを放ってきた。
「クッ! こ、これは!」
恐ろしく速い。
人間の動きじゃない。
いや、これはもうネームド以上だ。
辛うじて七段の突きを紅竜の剣で弾く。
「レイ! どうしたんだ! レイ!」
再度レイが神速の突きを放つ。
「回転突きか!」
レイは剣を回転させることで突きの貫通力を上げる。
回転を加えると突きの速度は落ちるため、五段突きが限度なのだが……。
「七段突き!」
俺はレイの回転七段突きに対し、逆回転の回転七段突きを放ち相殺させた。
俺でもこれは限界の動きだ。
こんな動きをすれば、レイの身体が壊れてしまう。
「レイ! レイ!」
レイは完全に無表情だ。
感情をなくしている様子。
「エルウッド! ヴァルディ! レイはなんとかする! リジュールを頼む!」
「ウォン!」
「ヒヒィィィン!」
始祖二柱が答えてくれた。
今のレイに対応しながらリジュールと戦うのは無理だ。
リジュールはひとまず始祖二柱に任せる。
はっきり言って、今のレイは竜種の数倍強い。
「これが狂戦士か!」
間違いない。
レイは狂戦士化している。
一度目の高音の咆哮が合図となり、過去の狂戦士が復活。
そして、リジュールから直接毒を注入され、新たな狂戦士となったのだろう。
カル・ド・イスクを討伐したことで、レイの狂戦士は完治したかと思われたが、それは間違いだった。
諸悪の根源はこの竜種リジュールだ。
「レイ! すぐ助ける!」
人間が限界を超えた圧倒的なパワーを誇る剣撃。
残像で二重三重にも見える蒼彗の剣の剣速。
これらの攻撃をまともに受けても、躱したとしてもレイの身体には莫大な負担がかかる。
攻撃のたびに身体を壊し命を削る。
「レイ! 俺が守る!」
全ての攻撃を紅竜の剣で受け、なおかつその衝撃を全て俺が引き受けた。
レイの身体に負担はかけない。
俺の最愛の人。
俺に全てを教えてくれて、全てを与えてくれた人。
命に代えても守り抜く。
レイの攻撃が激しさを増す。
俺でなければとっくに死んでいるだろう。
レイにとって不幸中の幸いは、相手が俺だったことだ。
レイの身体にかかる衝撃を全て俺が負担してなお、どんな攻撃でも俺の肉体は壊れない。
「レイ! 大丈夫だ! 俺は壊れない! 全部受け止める! すぐに助けるからな!」
レイに悲しい思いはさせない。
レイを狂戦士から救う。
すると、レイが過去最速の突きを放ってきた。
それはこれまで戦ったどの相手よりも速い。
俺は剣を斜めに構え、神速を超えた突きを受ける。
激しくこすれる剣と剣。
飛び散る火花。
剣の摩擦で抵抗を増やし、突きの威力を削ぐ。
この瞬間を待っていた。
レイが近付く瞬間を。
俺は剣から手を離し、レイに抱きつく。
レイは激しく暴れるが、俺は強く抱きしめる。
狂戦士といえども、俺の力であれば抑えられるはずだ。
「レイ! レイ! 俺だ! アルだ!」
「グ、グググ」
「レイ! レイ!」
レイは激しく暴れる。
身体を大きく捻り、地面を大きく蹴る。
その場を離れようと必死の抵抗だ。
「レイ! 思い出すんだ! レイ! 思い出せ!」
「ググ……グ」
「アルだ! レイ! アルだ! 思い出せ!」
レイの力が徐々に弱くなってきた。
「ア、ア……ル」
「レイ! そうだ! アルだ!」
「ア……アル。身体が……言うこと……聞かな……」
「レイ!」
「ごめん……なさい。ごめん……なさい。ごめ……んな……さい」
「レイ! 大丈夫だ!」
「アル……お……願い」
「どうした! レイ!」
「私は……ナタリーと……アル。愛する人に二度も……剣を向けた。もう……やだよ。……やだよ」
「レイ! 大丈夫だ! もう大丈夫だ!」
「アル、アル。私を……殺して。もう……これ以上は……耐えられない。アルを傷付け……たくない。やだよ。お願い……死にたい。もう……やだよ」
レイの言葉を聞いて戦慄した。
殺せ?
死にたい?
レイにこんな言葉を吐かせる原因は何だ。
何が原因だ。
「レイ、聞くんだ。俺が絶対に助ける」
「アル……お願……い。憎しみが……殺意が……湧いてくるの……早く……お願い……早く……殺……して」
「レイが死ぬ時は俺も死ぬ時だ。一人にさせない」
レイが何をしたというのだ。
両親を殺され、養母も殺され、それでも強く生きてきた。
やっと掴んだ幸せだ。
それなのにまた壊される。
絶対に……絶対に許さない。
リジュール。
だが、手応えは硬く、甲高い音が鳴り響いた。
「え?」
リジュールの腹部を斬る直前で、紅竜の剣が止められている。
止めたのは蒼い装飾が施された美しい剣。
「レ、レイ!」
レイが蒼彗の剣を抜き、俺の攻撃を防いでいた。
「レイ! どうしたんだ!」
レイは何も答えない。
そのまま棒立ちになる。
すると、リジュールの毒針がレイの首筋に突き刺さった。
「しまった! レイ!」
「ギイイイイィィィィ!」
すぐさま高音の咆哮を上げるリジュール。
その顔は邪悪そのものだ。
俺たちをあざ笑っているようにも見える。
次の瞬間、レイが俺に向かって必殺の七段突きを放ってきた。
「クッ! こ、これは!」
恐ろしく速い。
人間の動きじゃない。
いや、これはもうネームド以上だ。
辛うじて七段の突きを紅竜の剣で弾く。
「レイ! どうしたんだ! レイ!」
再度レイが神速の突きを放つ。
「回転突きか!」
レイは剣を回転させることで突きの貫通力を上げる。
回転を加えると突きの速度は落ちるため、五段突きが限度なのだが……。
「七段突き!」
俺はレイの回転七段突きに対し、逆回転の回転七段突きを放ち相殺させた。
俺でもこれは限界の動きだ。
こんな動きをすれば、レイの身体が壊れてしまう。
「レイ! レイ!」
レイは完全に無表情だ。
感情をなくしている様子。
「エルウッド! ヴァルディ! レイはなんとかする! リジュールを頼む!」
「ウォン!」
「ヒヒィィィン!」
始祖二柱が答えてくれた。
今のレイに対応しながらリジュールと戦うのは無理だ。
リジュールはひとまず始祖二柱に任せる。
はっきり言って、今のレイは竜種の数倍強い。
「これが狂戦士か!」
間違いない。
レイは狂戦士化している。
一度目の高音の咆哮が合図となり、過去の狂戦士が復活。
そして、リジュールから直接毒を注入され、新たな狂戦士となったのだろう。
カル・ド・イスクを討伐したことで、レイの狂戦士は完治したかと思われたが、それは間違いだった。
諸悪の根源はこの竜種リジュールだ。
「レイ! すぐ助ける!」
人間が限界を超えた圧倒的なパワーを誇る剣撃。
残像で二重三重にも見える蒼彗の剣の剣速。
これらの攻撃をまともに受けても、躱したとしてもレイの身体には莫大な負担がかかる。
攻撃のたびに身体を壊し命を削る。
「レイ! 俺が守る!」
全ての攻撃を紅竜の剣で受け、なおかつその衝撃を全て俺が引き受けた。
レイの身体に負担はかけない。
俺の最愛の人。
俺に全てを教えてくれて、全てを与えてくれた人。
命に代えても守り抜く。
レイの攻撃が激しさを増す。
俺でなければとっくに死んでいるだろう。
レイにとって不幸中の幸いは、相手が俺だったことだ。
レイの身体にかかる衝撃を全て俺が負担してなお、どんな攻撃でも俺の肉体は壊れない。
「レイ! 大丈夫だ! 俺は壊れない! 全部受け止める! すぐに助けるからな!」
レイに悲しい思いはさせない。
レイを狂戦士から救う。
すると、レイが過去最速の突きを放ってきた。
それはこれまで戦ったどの相手よりも速い。
俺は剣を斜めに構え、神速を超えた突きを受ける。
激しくこすれる剣と剣。
飛び散る火花。
剣の摩擦で抵抗を増やし、突きの威力を削ぐ。
この瞬間を待っていた。
レイが近付く瞬間を。
俺は剣から手を離し、レイに抱きつく。
レイは激しく暴れるが、俺は強く抱きしめる。
狂戦士といえども、俺の力であれば抑えられるはずだ。
「レイ! レイ! 俺だ! アルだ!」
「グ、グググ」
「レイ! レイ!」
レイは激しく暴れる。
身体を大きく捻り、地面を大きく蹴る。
その場を離れようと必死の抵抗だ。
「レイ! 思い出すんだ! レイ! 思い出せ!」
「ググ……グ」
「アルだ! レイ! アルだ! 思い出せ!」
レイの力が徐々に弱くなってきた。
「ア、ア……ル」
「レイ! そうだ! アルだ!」
「ア……アル。身体が……言うこと……聞かな……」
「レイ!」
「ごめん……なさい。ごめん……なさい。ごめ……んな……さい」
「レイ! 大丈夫だ!」
「アル……お……願い」
「どうした! レイ!」
「私は……ナタリーと……アル。愛する人に二度も……剣を向けた。もう……やだよ。……やだよ」
「レイ! 大丈夫だ! もう大丈夫だ!」
「アル、アル。私を……殺して。もう……これ以上は……耐えられない。アルを傷付け……たくない。やだよ。お願い……死にたい。もう……やだよ」
レイの言葉を聞いて戦慄した。
殺せ?
死にたい?
レイにこんな言葉を吐かせる原因は何だ。
何が原因だ。
「レイ、聞くんだ。俺が絶対に助ける」
「アル……お願……い。憎しみが……殺意が……湧いてくるの……早く……お願い……早く……殺……して」
「レイが死ぬ時は俺も死ぬ時だ。一人にさせない」
レイが何をしたというのだ。
両親を殺され、養母も殺され、それでも強く生きてきた。
やっと掴んだ幸せだ。
それなのにまた壊される。
絶対に……絶対に許さない。
リジュール。
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