鉱夫剣を持つ 〜ツルハシ振ってたら人類最強の肉体を手に入れていた〜

犬斗

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第十八章

第307話 鼓動

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 ◇◇◇

 私はヴァルディの背に乗りながら、白い凍蝙蝠竜ラヴィトゥルを引きつける。
 思惑通りこちらの誘いに乗ったラヴィトゥル。
 私とヴァルディを追いかけてきた。

「ヴァルディ、壁際まで引きつけるわよ」
「ヒヒィィン!」

 ヴァルディはそのまま壁に向かってジャンプ。
 百メデルトなんて、本気のヴァルディにとっては一歩にも満たない距離だ。
 一瞬で壁際まで届き、全身で衝撃を吸収しながら着地。
 背に乗る私のことを考えてくれているのだろう。
 ヴァルディは本当に優しい。

「ありがとうヴァルディ」
「ヒヒィィン!」

 振り返ると、ラヴィトゥルは翼をはばたかせ、猛然と追いかけてきた。

 あの白いラヴィトゥルは、私たちが討伐したカル・ド・イスクと全く同じ容姿をしている。
 思い出したくもない白い悪魔。
 だけど、カル・ド・イスクと同じ種なのは間違いない。
 ここに二頭いるということは、カル・ド・イスクと同種の個体が他にもまだいるのかもしれない。

「もしかして、白いラヴィトゥルはリジュールが作り出した?」

 私は我に返る。
 戦いの最中に余計なことを考えてはいけない。
 相手はネームドと同種。
 危険極まりない相手だ。

 それに……ナタリーを殺した相手。

 私の心の中で、黒い感情がこみ上げてきた。

「いけない」

 私は大きく息を吐く。
 戦いは常に冷静でいなければならない。
 雑念を振り払う。

 ラヴィトゥルが宙に浮いたまま五メデルトほどの距離から、尻尾の先端部にある毒針を突き刺してきた。
 あの毒針から、麻痺性と防腐作用がある毒を注入し、獲物の動きを止める。
 さらに生物の攻撃性を高める成分を持ち、生物を兵隊として酷使する忌まわしい毒を持つ。
 その兵隊は狂戦士バーサーカーと呼ばれ、死ぬまで戦う。

 以前の私は狂戦士バーサーカーだった。
 だけど、ナタリーの愛で自我を取り戻した。

 ヴァルディが毒針を避けると、岩を砕く鈍い音が響く。
 毒針は地面に突き刺さっていた。
 岩盤をも突き刺す威力。
 カル・ド・イスクの毒針に、これほどのスピードとパワーはなかった。
 この個体はカル・ド・イスクよりも強いかもしれない。

 恐ろしいスピードで、何度も毒針を突き刺してくるラヴィトゥル。
 だが、こちらは始祖ヴァルディだ。
 スピードの次元が違う。
 容易に避けている。

「キィエィィィィィィィィ!」

 苛ついたのか、ラヴィトゥルがひときわ甲高い咆哮を上げた。
 すると、私の心臓の鼓動が一度だけ大きく反応。

「クッ! こ、これは……」

 この感覚は記憶にある。
 狂戦士バーサーカーだった時の感覚だ。

 さらにラヴィトゥルが大きく息を吸い込む。

「あれは! 凍る冷気!」

 カル・ド・イスクの奥の手である、圧縮した冷気と同じ動作だ。
 その冷気に当たると人間なんて簡単に凍る。

 お父さんも、お母さんも、あの冷気で凍らされた。
 憎い。

「ヴァルディ! あれは危険よ!」

 そう叫けぶも、もう冷気は吐き出された。
 吐き出す速度が尋常ではない。
 やはりカル・ド・イスクより強力な個体だ。

 だが、ヴァルディも負けてない。
 冷気が届く前に、ラヴィトゥルの頭上へジャンプ。
 私たちが浴びるはずだった冷気は岩盤を凍らせていた。

 カル・ド・イスクの冷気は一回の戦闘で一度きりだったはず。
 私はヴァルディから飛び降り、ラヴィトゥルに向かって落下しながら蒼彗の剣エルスを抜く。

 すると、ラヴィトゥルが顔を上げ、口を大きく開ける。

「まさか! カル・ド・イスクは一回が限度だったのに!」

 吐き出された冷気が私の身体に直撃。
 鎧の表面が凍っていく。
 それでも私は構わず剣を振り下ろし、そのまま着地した。

 私の着地から僅かに遅れて、鈍く大きな音が二つ響く。
 ラヴィトゥルの身体が落下した音だ。
 蒼彗の剣エルスはラヴィトゥルを真っ二つにしていた。

「これが通常の鎧だったら、私は凍っていたわね」

 鎧の表情は凍ったものの、ヴェルギウス素材の蒼炎鎧エリオルには効果がなかった。
 剣を鞘に収め、私は冷たくなった蒼炎鎧エリオルをさする。

「ありがとう」

 すると、ヴァルディが顔を近付けてきた。

「ブウゥゥ」
「ヴァルディもありがとう。あの毒針は厄介なのに、あなたが全部避けてくれたおかげで無傷よ。本当に凄いわね」
「ヒヒィィン」

 ヴァルディの顔を撫でると、笑顔で喜んでいた。

「そうだ。アルは大丈夫かしら」

 そう言いながらリジュールの方向へ振り向くと同時に、それは起こった。

「ギイイイイイィィィィィ!」

 耳をつんざく超高音の咆哮。
 心臓が大きく跳ねる。

 ……憎い。
 ……憎い、憎い。

 憎い、憎い、憎い、憎い。
 殺す、殺す、殺す、殺す。

 全てを殺す。

 ◇◇◇
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