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第十八章
第301話 世界の理
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突然の話で驚いたが、確かにシドの不老不死を知っているという警告が濃厚のようだ。
「ふうう、本当に驚いたな」
「過去に私の不老不死を知った人間はいるが、古代王国に関わることを知っている人間はいない」
「どうして今になって送ってくるんだ?」
「分からんが、まあこんな本を送ってくるってことは……恐らく……暇なのだろう。ハッハッハ」
シドは呑気に笑っていた。
しかし、こんなに重要なことを笑っていていいのだろうか?
俺は気持ちを落ち着かせるため、一度珈琲を口にする。
「それで本の内容は?」
「ああ、これまでの通説を覆す内容だ。公表するかは分からん。まずはここにいる者たちだけに留める」
「分かった」
「簡単に説明するとだな、竜種と始祖は対になる存在で、住処の土地に多大な影響を与えていた。竜種は活動を活性化させ、始祖は沈静化させる」
「竜種と始祖が対?」
「そうだ。分かりやすい例だとアフラ火山だな。竜種と始祖がいただろう?」
「ああ。火竜ヴェルギウスと火の神のヴァルディだ」
「そうだ。ヴェルギウスはアフラ火山を活発化させ、ヴァルディは沈静化させる。つまり、アフラ火山の噴火はヴェルギウスの影響で、ヴァルディが抑えていたということだ」
「な、なんだって!」
「君が住んでいたフラル山は世界一高い山なのに、天候は非常に穏やかだっただろう?」
「た、確かに」
「フラル山には竜種がいない。でも君は始祖を見ただろう?」
「ああ、山の神を見たよ」
言われてみればフラル山の天候は常に安定していた。
山の天気はすぐに変わるというが、フラル山は一年を通してほぼ快晴だ。
もちろん雨や雪が降ることもあるが、大きく荒れることはない。
「……ま、まさか! じゃあ、昔はフラル山にも竜種がいて、何らかの理由で山の神だけになったと?」
「そうだ。竜種がいなくなった理由までは分からんがな。現在は山の神だけだから、気候が安定しているのだろう。それに近年はエルウッドが住んでいた影響もあるだろう」
標高五千メデルトに住みながら、その生活は驚くほど快適だった。
だが、言われてみると、あれほどの高山であの安定は確かに異常だ。
「我々はヴェルギウスを討伐している。だから、今後アフラ火山の噴火の可能性は低いだろう」
「ヴァルディとエルウッドが安定させてるってこと?」
「そういうことになるな。竜種と始祖は互いに敵対している。活性化の竜種と沈静化の始祖だ」
そういえば、ヴェルギウスを討伐する際、ヴァルディが助けてくれた。
「だから俺がヴェルギウスを討伐する時、ヴァルディは協力してくれたのか」
「きっとそうだろうな」
今やモンスター学の権威であるオルフェリアですら、驚きすぎて声も出ないようだ。
「そして、竜種と始祖の個体数に関してだが、竜種は個で始祖は種だった」
「始祖は群れだったのか?」
「ああ。だから始祖の数が減ると、竜種の影響が大きくなる。火の神はヴァルディが最後の一柱だったから、近年は何度かアフラ山が噴火した」
「俺が生まれてから何度か噴火している。火山灰がラバウトまで飛んで来たよ」
「さすがに始祖といえども一柱で竜種を抑えきれないようだ」
そこで俺はエルウッドを思い出す。
エルウッドは始祖雷の神と判明していた。
「言われてみると、不老不死の石の素材となる銀狼牙は種族だったんだよな」
「そうなのだが、銀狼牙という種はそもそも存在しない。狼牙に似ているため、昔の人間が勝手に名付けたのだろう。正式には雷の神だ」
「え? じゃあエルウッドという名前は?」
「雷の神が不老不死の素材と知られ、人間に狩られるようになった。雷の神たちを個別に識別するため、当時の人間が名前をつけたのだろう」
この話を聞いて一つだけ疑問が浮かんだ。
「でもさシド。そもそも人間が始祖である雷の神を狩ることなんてできるのか? だって、エルウッドは以前三十人もの暗部を全員倒したぞ」
「その通りだ。だが、人間は最も数がいる種族だ。どれほどの犠牲を出そうと目的を果たしたのだろう。命を捨てる者が五万人もいれば、竜種や始祖だって狩れるだろう」
「人の命を……」
「数千年前の出来事だ。今よりも狂った人間どもがいたのは確かだな。……私もその狂った人間の……被害者だ」
シドの声が一瞬詰まった。
その様子を見ながら、オルフェリアは涙を流している。
夫であるシドに、オルフェリアがそっと寄り添う。
レイが自然な振る舞いで、俺とシドに珈琲のお代わりを淹れる。
こういう時のレイは常に冷静だ。
その姿と珈琲の香りで、俺は少し落ち着くことができた。
「竜種を討伐した俺が言うものおかしいけど、竜種も始祖も数を減らしているわけでしょ? もう増えないのかな?」
「そのことについても記載があったぞ」
シドが言うには、竜種と始祖は時代によって増減がある。
長寿とはいえ生物だから寿命もあるそうだ。
そして悠久の年月をかけ、新しい竜種や始祖が誕生するとのこと。
「この本の最後の文章が印象的でな。『初めに竜種と始祖が生まれる。竜種が壊し、新たに作る。始祖が育み、終りを告げる。世界は破壊と創造の繰り返し』だそうだ。私はこの文章に惹かれたよ」
例えばアフラ火山が大噴火すると、一帯が溶岩で覆われ全てが焼き尽くされる。
だが、その溶岩は樹海を生み、湖を作り、新しい生態系を育む。
そしていつかまた噴火で焼き尽くす。
あまりに壮大な話だ。
「世界の理……」
「そうだな。竜種と始祖は、生命や世界の成り立ちに関係してるだろう。だが人間という種族は、竜種や始祖が作った世界すら破壊する。人間が最も残酷で罪深き生き物かもしれん」
人間の闇を見てきたシドの言葉が突き刺さった。
「ふうう、本当に驚いたな」
「過去に私の不老不死を知った人間はいるが、古代王国に関わることを知っている人間はいない」
「どうして今になって送ってくるんだ?」
「分からんが、まあこんな本を送ってくるってことは……恐らく……暇なのだろう。ハッハッハ」
シドは呑気に笑っていた。
しかし、こんなに重要なことを笑っていていいのだろうか?
俺は気持ちを落ち着かせるため、一度珈琲を口にする。
「それで本の内容は?」
「ああ、これまでの通説を覆す内容だ。公表するかは分からん。まずはここにいる者たちだけに留める」
「分かった」
「簡単に説明するとだな、竜種と始祖は対になる存在で、住処の土地に多大な影響を与えていた。竜種は活動を活性化させ、始祖は沈静化させる」
「竜種と始祖が対?」
「そうだ。分かりやすい例だとアフラ火山だな。竜種と始祖がいただろう?」
「ああ。火竜ヴェルギウスと火の神のヴァルディだ」
「そうだ。ヴェルギウスはアフラ火山を活発化させ、ヴァルディは沈静化させる。つまり、アフラ火山の噴火はヴェルギウスの影響で、ヴァルディが抑えていたということだ」
「な、なんだって!」
「君が住んでいたフラル山は世界一高い山なのに、天候は非常に穏やかだっただろう?」
「た、確かに」
「フラル山には竜種がいない。でも君は始祖を見ただろう?」
「ああ、山の神を見たよ」
言われてみればフラル山の天候は常に安定していた。
山の天気はすぐに変わるというが、フラル山は一年を通してほぼ快晴だ。
もちろん雨や雪が降ることもあるが、大きく荒れることはない。
「……ま、まさか! じゃあ、昔はフラル山にも竜種がいて、何らかの理由で山の神だけになったと?」
「そうだ。竜種がいなくなった理由までは分からんがな。現在は山の神だけだから、気候が安定しているのだろう。それに近年はエルウッドが住んでいた影響もあるだろう」
標高五千メデルトに住みながら、その生活は驚くほど快適だった。
だが、言われてみると、あれほどの高山であの安定は確かに異常だ。
「我々はヴェルギウスを討伐している。だから、今後アフラ火山の噴火の可能性は低いだろう」
「ヴァルディとエルウッドが安定させてるってこと?」
「そういうことになるな。竜種と始祖は互いに敵対している。活性化の竜種と沈静化の始祖だ」
そういえば、ヴェルギウスを討伐する際、ヴァルディが助けてくれた。
「だから俺がヴェルギウスを討伐する時、ヴァルディは協力してくれたのか」
「きっとそうだろうな」
今やモンスター学の権威であるオルフェリアですら、驚きすぎて声も出ないようだ。
「そして、竜種と始祖の個体数に関してだが、竜種は個で始祖は種だった」
「始祖は群れだったのか?」
「ああ。だから始祖の数が減ると、竜種の影響が大きくなる。火の神はヴァルディが最後の一柱だったから、近年は何度かアフラ山が噴火した」
「俺が生まれてから何度か噴火している。火山灰がラバウトまで飛んで来たよ」
「さすがに始祖といえども一柱で竜種を抑えきれないようだ」
そこで俺はエルウッドを思い出す。
エルウッドは始祖雷の神と判明していた。
「言われてみると、不老不死の石の素材となる銀狼牙は種族だったんだよな」
「そうなのだが、銀狼牙という種はそもそも存在しない。狼牙に似ているため、昔の人間が勝手に名付けたのだろう。正式には雷の神だ」
「え? じゃあエルウッドという名前は?」
「雷の神が不老不死の素材と知られ、人間に狩られるようになった。雷の神たちを個別に識別するため、当時の人間が名前をつけたのだろう」
この話を聞いて一つだけ疑問が浮かんだ。
「でもさシド。そもそも人間が始祖である雷の神を狩ることなんてできるのか? だって、エルウッドは以前三十人もの暗部を全員倒したぞ」
「その通りだ。だが、人間は最も数がいる種族だ。どれほどの犠牲を出そうと目的を果たしたのだろう。命を捨てる者が五万人もいれば、竜種や始祖だって狩れるだろう」
「人の命を……」
「数千年前の出来事だ。今よりも狂った人間どもがいたのは確かだな。……私もその狂った人間の……被害者だ」
シドの声が一瞬詰まった。
その様子を見ながら、オルフェリアは涙を流している。
夫であるシドに、オルフェリアがそっと寄り添う。
レイが自然な振る舞いで、俺とシドに珈琲のお代わりを淹れる。
こういう時のレイは常に冷静だ。
その姿と珈琲の香りで、俺は少し落ち着くことができた。
「竜種を討伐した俺が言うものおかしいけど、竜種も始祖も数を減らしているわけでしょ? もう増えないのかな?」
「そのことについても記載があったぞ」
シドが言うには、竜種と始祖は時代によって増減がある。
長寿とはいえ生物だから寿命もあるそうだ。
そして悠久の年月をかけ、新しい竜種や始祖が誕生するとのこと。
「この本の最後の文章が印象的でな。『初めに竜種と始祖が生まれる。竜種が壊し、新たに作る。始祖が育み、終りを告げる。世界は破壊と創造の繰り返し』だそうだ。私はこの文章に惹かれたよ」
例えばアフラ火山が大噴火すると、一帯が溶岩で覆われ全てが焼き尽くされる。
だが、その溶岩は樹海を生み、湖を作り、新しい生態系を育む。
そしていつかまた噴火で焼き尽くす。
あまりに壮大な話だ。
「世界の理……」
「そうだな。竜種と始祖は、生命や世界の成り立ちに関係してるだろう。だが人間という種族は、竜種や始祖が作った世界すら破壊する。人間が最も残酷で罪深き生き物かもしれん」
人間の闇を見てきたシドの言葉が突き刺さった。
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