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第十八章
第295話 最も大切な人
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翌日、レイが寝ている診察室へ行くと、医療機関のソフィ局長が敬礼して迎え入れてくれた。
「ソフィ、おはよう」
「陛下、おはようございます」
「様子はどう?」
「王妃はもう大丈夫かと思いますが、念のために今日も一日休んでください」
「分かった。ありがとう」
俺は部屋の奥まで進み、レイの病室へ入った。
ベッドの上で上半身だけ起こしているレイ。
窓の外を眺めていた。
「レイ、起きてたの?」
「ええ……」
「ゆっくり寝てなきゃ」
「もう大丈夫よ。迷惑かけてごめんなさい」
「迷惑なんてかかってないよ。それであの……」
「やっぱり、リマから私の過去を聞いたのね」
「うん」
レイは視線を窓の外から移し、うつむいている。
部屋に入ってから一度も俺の顔を見ない。
「あ、あの、アル」
「ん?」
「私のこと……嫌いになった?」
「え? どうして?」
「だ、だって……その、狂戦士……だった……から」
視線を下に向けたまま、哀しげな笑顔を浮かべているレイ。
もしかして、俺が嫌うとでも思っているのだろうか。
何かを諦めているような重く暗い表情だ。
「レイ、君は何も間違ってないよ。君の人生は……あまりに壮絶だった。それでもこうして真面目に生きている。人のために生きている。どうして……どうしてそんなことができるんだ?」
「え?」
「君は本当に、本当に素晴らしい人間だと思う」
俺はいつの間にか涙を流していたようだ。
頬を伝わる雫を感じ取り、腕で拭う。
レイの境遇を知り心が痛むと同時に、深く尊敬していた。
「レイ、こっちを向くんだ」
「……はい」
俺はレイの瞳を真っ直ぐ見つめる。
「レイ。君の過去に何があろうと、君が何者であろうと、俺がレイを想う気持ちは変わらない。レイは俺にとって最も大切な人だ」
「あ、ありがとう」
「レイ、これからも変わらず一緒にいて欲しい」
「私で……いいの?」
「いいも何も、俺はレイを愛してる。一生守る。何があろうと、その手は絶対に離さない」
「……はい」
「今度さ、落ち着いたらレイのご両親、そしてナタリーお養母さんの墓参りに行こう」
「……はい」
レイが涙を流していた。
両手で顔を覆う。
「アル……アル。私……本当にあなたで良かった。あなたを好きになって良かった。あなたがいてくれるから私は生きていけるの。こんな私と一緒にいてくれて、愛してくれてありがとう」
レイが泣く姿は俺もほとんど見たことがない。
立場から気丈に振る舞っていたと思うし、カル・ド・イスクの毒の影響だったかもしれないが、今はこうして感情も表に出す。
「何言ってるんだ。愛してるから一緒にいるし、愛してるから結婚した。レイを愛する気持ち、大切な気持ちは俺が世界で一番だ。その気持は永遠に変わらないよ」
「ありがとう。嬉しい……。嬉しい。ふふふ」
涙を流しながら笑顔を見せるレイ。
俺は一旦外に出て紅茶を淹れる。
ソフィが慌てて走ってきた。
「陛下! 私がやります!」
「いいんだ。俺がやるよ。ありがとうソフィ」
「陛下……」
「ソフィ、今日は俺も病室にいるよ。申し訳ないけどマリアに伝えてもらえるかな?」
「はい、かしこまりました。……陛下は本当に王妃を愛しておられますね」
「そりゃそうさ。レイだよ? 世界一のお嫁さんだもん」
「ウフ、その一途なところは師匠そっくりです」
「師匠?」
「はい、陛下のお父様、バディ様です」
「え! ソフィって父さんの弟子だったの?」
「そうですよ。師匠も今と同じようなことを仰って、ギルドを退職されました」
「あ、なんか恥ずかしい……」
「そんなことないですよ。とても美しいと思います」
親の恋愛話なんて恥ずかしいけど、思わぬところで父の話が聞けて嬉しかった。
病室に戻り、しばらくレイと紅茶を飲む。
レイの表情は明るく、いつもの柔らかい表情に戻っていた。
「レイ、明日また会議を行う。どうする?」
「私も参加するわ。それに……これは私がやるべきことよ。ナタリーお養母さんの犠牲を無駄にしない」
「分かった。でも辛い時は遠慮なく言って欲しい」
「ありがとう」
俺はレイの手を握った。
これまでの壮絶な人生を感じさせない、陶器のような美しく艷やかな肌。
苦労や悩みだって絶対あったはずなのに、人に弱みを見せず、これまでたくさんの人々を助けてきた。
そして俺のことも助けてくれた。
何度も何度も助けてくれた。
今の俺があるのはレイがいるからだ。
俺は本当にこの女性に出会えて幸せだと思う。
今こそレイに恩を返す時だ。
「ソフィ、おはよう」
「陛下、おはようございます」
「様子はどう?」
「王妃はもう大丈夫かと思いますが、念のために今日も一日休んでください」
「分かった。ありがとう」
俺は部屋の奥まで進み、レイの病室へ入った。
ベッドの上で上半身だけ起こしているレイ。
窓の外を眺めていた。
「レイ、起きてたの?」
「ええ……」
「ゆっくり寝てなきゃ」
「もう大丈夫よ。迷惑かけてごめんなさい」
「迷惑なんてかかってないよ。それであの……」
「やっぱり、リマから私の過去を聞いたのね」
「うん」
レイは視線を窓の外から移し、うつむいている。
部屋に入ってから一度も俺の顔を見ない。
「あ、あの、アル」
「ん?」
「私のこと……嫌いになった?」
「え? どうして?」
「だ、だって……その、狂戦士……だった……から」
視線を下に向けたまま、哀しげな笑顔を浮かべているレイ。
もしかして、俺が嫌うとでも思っているのだろうか。
何かを諦めているような重く暗い表情だ。
「レイ、君は何も間違ってないよ。君の人生は……あまりに壮絶だった。それでもこうして真面目に生きている。人のために生きている。どうして……どうしてそんなことができるんだ?」
「え?」
「君は本当に、本当に素晴らしい人間だと思う」
俺はいつの間にか涙を流していたようだ。
頬を伝わる雫を感じ取り、腕で拭う。
レイの境遇を知り心が痛むと同時に、深く尊敬していた。
「レイ、こっちを向くんだ」
「……はい」
俺はレイの瞳を真っ直ぐ見つめる。
「レイ。君の過去に何があろうと、君が何者であろうと、俺がレイを想う気持ちは変わらない。レイは俺にとって最も大切な人だ」
「あ、ありがとう」
「レイ、これからも変わらず一緒にいて欲しい」
「私で……いいの?」
「いいも何も、俺はレイを愛してる。一生守る。何があろうと、その手は絶対に離さない」
「……はい」
「今度さ、落ち着いたらレイのご両親、そしてナタリーお養母さんの墓参りに行こう」
「……はい」
レイが涙を流していた。
両手で顔を覆う。
「アル……アル。私……本当にあなたで良かった。あなたを好きになって良かった。あなたがいてくれるから私は生きていけるの。こんな私と一緒にいてくれて、愛してくれてありがとう」
レイが泣く姿は俺もほとんど見たことがない。
立場から気丈に振る舞っていたと思うし、カル・ド・イスクの毒の影響だったかもしれないが、今はこうして感情も表に出す。
「何言ってるんだ。愛してるから一緒にいるし、愛してるから結婚した。レイを愛する気持ち、大切な気持ちは俺が世界で一番だ。その気持は永遠に変わらないよ」
「ありがとう。嬉しい……。嬉しい。ふふふ」
涙を流しながら笑顔を見せるレイ。
俺は一旦外に出て紅茶を淹れる。
ソフィが慌てて走ってきた。
「陛下! 私がやります!」
「いいんだ。俺がやるよ。ありがとうソフィ」
「陛下……」
「ソフィ、今日は俺も病室にいるよ。申し訳ないけどマリアに伝えてもらえるかな?」
「はい、かしこまりました。……陛下は本当に王妃を愛しておられますね」
「そりゃそうさ。レイだよ? 世界一のお嫁さんだもん」
「ウフ、その一途なところは師匠そっくりです」
「師匠?」
「はい、陛下のお父様、バディ様です」
「え! ソフィって父さんの弟子だったの?」
「そうですよ。師匠も今と同じようなことを仰って、ギルドを退職されました」
「あ、なんか恥ずかしい……」
「そんなことないですよ。とても美しいと思います」
親の恋愛話なんて恥ずかしいけど、思わぬところで父の話が聞けて嬉しかった。
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「ありがとう」
俺はレイの手を握った。
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苦労や悩みだって絶対あったはずなのに、人に弱みを見せず、これまでたくさんの人々を助けてきた。
そして俺のことも助けてくれた。
何度も何度も助けてくれた。
今の俺があるのはレイがいるからだ。
俺は本当にこの女性に出会えて幸せだと思う。
今こそレイに恩を返す時だ。
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