鉱夫剣を持つ 〜ツルハシ振ってたら人類最強の肉体を手に入れていた〜

犬斗

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第十八章

第288話 二年

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 ラルシュ王国を建国して二年が経過。
 ここまで道のりは容易ではなかった。
 様々な問題が発生。
 だが、素晴らしい仲間たち、そして新たな頼もしい仲間たちと乗り越えてきた。
 その結果、今では他国に引けを足らないほどの国になったと自画自賛している。

 開拓したアフラの街は、ラルシュ王国の首都として大きく発展。
 といっても、ラルシュ王国には都市が二つしかない。
 一つは首都のアフラ。
 もう一つはイーセ王国の国境の町サルガとアフラを結ぶ街道、奉呈の道シャイールにある宿泊街だけだ。

 首都アフラの人口は三万人を軽く超え、商業区、居住区が充実。
 大きな空港も建設され、何隻もの飛空船が飛び交っている。
 現在もアフラ火山の麓にある広大な草原を開拓中だ。

 アフラの中心地には王城が建造され、俺やレイ、シドやオルフェリアが住んでいる。
 その他の幹部たちは、アフラの一等地に自宅を構えていた。

 王城は超大型飛空船旅する宮殿ヴェルーユと一体化している。
 城の一部を飛空船が形成するという世界で唯一の建物だ。
 もちろん旅する宮殿ヴェルーユは、いつでも飛び立てる。

 その王城の廊下をシドと二人で歩く。

「今日は渋かったなあ」
「アル陛下はいつまで経っても釣りが苦手なようですな。一向に上手くなりませぬ。ハッハッハ」
「シ、シドだって!」
「私はしっかりと釣っております」

 シドと話していると、背後に恐ろしい気配を感じた。

「ア、アル陛下! やっと見つけました! どこへ行かれていたのですか!」

 後ろから聞こえたのは、張りのある美しくも厳しい女性の声。

「え? あ、あの……アフラ湖でシドと釣りしてた……」
「まったく! 何を遊んでるんですか!」

 ユリアが迫ってきた。
 ユリアは宰相となり、実質的にこの国の全てを取り仕切っている。
 五十三歳となったユリアだが、その美しさと迫力はさらに増していた。
 なお、シドは宰相の地位を退き、現在は冒険者ギルドのマスターに就任している。

「ユ、ユリアよ、そのくらいで」
「シド様! アル様を甘やかしすぎですよ? というか、マスターになったシド様が一緒に遊んでどうするんですか!」
「い、いいじゃないか。我々はこの間だってネームドを討伐したのだから」
「まったくもう……。現役の国王が冒険者をやってるなんて前代未聞ですわ」

 ユリアが深い溜め息をついて呆れている。
 シドはギルドの総本部をフォルド帝国からアフラに移設。
 アフラの広大な草原に巨大なギルド総本部と、主要機関の本部を建築した。

 冒険者ギルドは現在ラルシュ王国の国営組織となっている。
 当初は予想通り各国の反対にあった。
 ラルシュ王国に巨大組織が集中しすぎるという理由だ。
 そのため、ラルシュ王国は軍隊を持たないことを明文化することで、冒険者ギルドの国営化が認められた。

 ラルシュ王国は世界最大の組織である冒険者ギルドと、飛空船で世界に革命を起こしたラルシュ工業という二つの巨大組織を抱えている。
 ラルシュ王国の国民は、全員が冒険者ギルドの職員かラルシュ工業の社員だった。
 ギルドの主要機関のトップたる局長によっては、国家の要職を兼任している者もいる。

 俺はユリアとシドを引き連れて執務室へ入った。

「さて、ちゃんと働こうか」

 ひときわ豪華な机につき書類に目を通す。
 ユリアがミニキッチンへ向かうと、シドが俺の机の前に立った。

「陛下、この書類に目を通してください」

 俺とシドの関係性でも、基本的に王都内では主従関係でいることを約束している。
 いや、一方的にシドが言ってきてるだけで俺は別に構わないのだが、切り替えが大事だと言って聞かない。

「ん? この書類は?」
「クエスト依頼書です。こちらを陛下にお願いしたいのです」
「え? クエスト? この間もネームドを討伐したばかりでしょ?」

 今や冒険者ギルドは国家の柱を支える大切な収入源の一つだ。
 そのため、超高難易度のクエストに関しては俺が対応する。
 元々、俺とレイはギルドを卒業するという話だったのだが、国営になったことで、俺はむしろ率先して冒険者として働いていた。

 国王自ら超高難易度のクエストに行く。
 他国から見ると考えられないことだが、ラルシュ王国では「アル陛下なら心配ない」と皆が口を揃える。
 それに始祖であるエルウッドとヴァルディが一緒なので、正直ネームドクラスでも問題ない。

「シド様、今度は何のクエストですか?」

 ユリアが俺とシドに珈琲を淹れてくれた。

「今回は調査だ」
「調査ですか?」
「ああ、我が国とクリムゾン王国の国境付近で、モンスターに不審な動きが見られるそうだ」

 ユリアに答えるシド。

「それって俺が行く必要あるの?」

 その内容を聞いて、俺は思わず声を上げた。

「はい陛下。これはギルドマスターである私からの依頼です」
「どういうこと?」
「国境とはいえ我が国の領土内です。クリムゾン王国に影響が出るとまた何を言われるか分かりません」
「なるほど。ロート老陛下からご忠告をいただきそうだな。でも調査なら俺が行く必要ないんじゃない?」
「まあたまには良いじゃないですか」
「シドがそう言うなら行くけどさ。今回レイは行ける?」
「王妃は常に忙しいでしょう」
「まるで俺が暇みたいな言い方だな」
「王妃はユリア以上に国家の中枢を担う方ですから」
「まあ確かに……。レイに暇はないよな」

 この国の政治はレイとユリア、そして俺が行っている。
 特にレイは内政、外交に大きな影響力を持つ。
 俺も当然政治に関わるが、どちらかというとラルシュ工業の経営面を見ることが多い。
 幼い頃から一人で商売をしていた強みだ。
 シドは政治面にアドバイスをすることはあるが、基本的にギルドの運営に注力している。

「オルフェリアは?」
「もしかしたらクエスト中に討伐もあるかもしれません。解体師は必要でしょう」
「分かった。じゃあ、オルフェリアと二人で行くよ」
「承知いたしました。オルフェリアに伝えましょう」
「あ、元々そのつもりだった?」
「見抜かれましたか。最近のオルフェリアは論文執筆で行き詰まってたので、息抜きさせたいのですよ」
「なんだよ。オルフェリアのためか」
「ハッハッハ、愛する妻ですから」

 俺はクエスト依頼書に受諾のサインをしてユリアに渡す。
 ユリアが内容をチェックし、宰相の許可であるサインを記入。

「ユリア、クエストは明日から行くよ。調査だから一週間はみておいて」
「はい、承知いたしました。レイ王妃にはご自分でご報告してください」
「うん、分かった」
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