鉱夫剣を持つ 〜ツルハシ振ってたら人類最強の肉体を手に入れていた〜

犬斗

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第十七章

第287話 冒険者ギルドの返還

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 世界会議ログ・フェス終了後、飛空船の予約を開始。
 ラルシュ工業最高経営者であるアガスが受付した。

 まずは各王家に旗艦を一隻納入する。
 船体建造費は莫大で金貨三十万枚だ。
 だが、どの王家も最高級の装備を希望し、三十万枚を超える金額となった。
 アガスは喜びながらも、人手が足りないとシドに人員増員を訴えるほどだ。

 その日の夜は盛大な晩餐会が開催。
 皇后となったファステルのドレス姿に溜め息が漏れた。
 レイに至っては王妃となって初めての公の場だ。
 出席者全員がレイの美しさに魅了されていた。
 自分の妻ではあるが、未だに正装したレイの美しさには緊張してしまう。

 そのファステルとレイのドレスは、二人がモデルを努めているブランド、カミーユ製だった。
 当然のように評判になり、エマレパ皇国の販売代理店に問い合わせが殺到。
 キルスが両手を上げて喜んでいた。

 ――

 それから数日間、世界会議ログ・フェス加盟国の君主と個別に会談を行った。
 内容は当たり障りのない話から、国家の関係性、政治や軍事、竜種討伐、飛空船についてだ。
 これで世界会議ログ・フェス加盟国全ての国家君主と、国家の繋がりを持つことに成功。

 そして全ての日程を終えた。
 関係者に別れを告げ、旅する宮殿ヴェルーユに乗船。
 各国の君主たちは数十日もかけて帰国するが、俺たちは機動力を活かし、一旦フォルド帝国の帝都サンドムーンへ移動する。
 冒険者ギルドの総本山へ立ち寄る予定だ。
 現冒険者ギルドマスター、ルイス・フィンズの容態が芳しくないそうだ。

「アルよ。サンドムーンへ寄るから帝国のシルヴィア陛下をお送りする」
「え! 皇帝陛下を? そ、それは良いけど、帝国は問題ないの?」
「うむ。話はついている」

 帝国皇帝のシルヴィアは五十代の女性だ。
 帝国の女性は皆少し若く見えるのだが、皇帝陛下も三十代女性にしか見えない。
 身長はそれほど大きくないのだが、ショートカットの金髪で、どことなくレイに似ているような気がする。
 そういえば以前シドが持っていた初代皇帝の絵画を見たが、レイに似た美しい女性だったことを思い出した。

 皇帝陛下を迎え乗船していただく。
 陛下を前にローザは、かなり緊張している様子だ。

「陛下! ご無沙汰しております」
「ローザ久しぶりじゃの。そなたに与えた神の金槌シャイオンは役に立っておるか?」
「は、はい。もちろんでございます」
「それは良かった。ラルシュ王国はどうじゃ?」
「はい、帝国時代と変わらず良くしていただいてます」
「シド様に感謝するのじゃ。そうじゃ、そなたの神の金槌シャイオンはそのままにするから安心するがよい。だけど、たまには帝国のためにも剣を打って欲しいものじゃのう」
「も、もちろんでございます!」

 いつも不敵な態度のローザだが、ここまで緊張する姿を初めて見た。
 確かに皇帝陛下の迫力は凄い。
 俺もなぜか緊張してしまう。

「アル陛下。そう緊張せぬとも……」

 苦笑いしているシルヴィア。

「あ、いや、恐縮ですシルヴィア陛下」
「レイ王妃を見るのじゃ」

 レイが俺の横で、シルヴィア陛下に対し美しい笑顔を向けていた。

「シルヴィア陛下。私だって陛下とお会いする時は緊張しますわよ?」
「どこがじゃ?」
「陛下はあのユリアでさえ従えた女帝ですもの」
「レイも言うようになったのう。ウフフ、ユリアは元気でおるか?」
「はい。今はアフラで大臣として働いてます」
「ユリアならきっとラルシュ王国の中枢を担うから、これから会う機会も増えるじゃろうて。よろしく伝えて欲しい」
「かしこまりました。ユリアも喜びます」

 陛下には旅する宮殿ヴェルーユの特等室を案内。
 国王部屋と同等の豪華な部屋に、満足していただけた様子だった。

 旅する宮殿ヴェルーユは一日半で帝都サンドムーンに到着。
 通常なら一ヶ月以上かかる距離だ。

 シドがシルヴィア陛下に、到着の報告を行った。

「陛下いかがですか?」
「こ、こんなにも早く到着するとは……。驚きました。飛空船の完成が楽しみです。シド様」
「それは良かったです、シルヴィア陛下。ハッハッハ」

 さすがにシルヴィアも驚いていた。
 やはり飛空船は世界に革命を起こすだろう。

 旅する宮殿ヴェルーユはギルド総本部の中庭に着陸。
 皇帝陛下の帰還ということで、帝国騎士団フォルロスが出迎えた。
 その姿は壮観だった。
 フォルド帝国は現存する世界最古の国家で、当然ながら騎士団も伝統と歴史がある。
 なお、この国の建国を手伝ったのがシドで、フォルド帝国はシドの名前であるフロイドから来ている。
 そしてシドは初代皇帝と恋仲だったそうだ。
 遠い遠い千五百年前の話。

 皇帝陛下と別れ、俺たちは冒険者ギルドの総本部へ向かう。
 受付嬢はシドが帰ってきたことに驚きながらも、マスター室へ案内してくれた。
 ベッドに横たわるギルマスのルイス・フィンズ。

「シ、シド様、来てくださったのですね」
「当たり前だろう。私と君の仲だぞ」
「う、嬉しいです。死ぬ前に会えるとは思いませんでした」
「バカなことを言うものではない」
「私も元冒険者。自分の身体は分かります。死期が近いです」
「どうにかならないのか?」
「ははは、冒険者時代の無理がたたったようです」

 ギルドには世界最先端の技術を誇る医療機関シグ・シックスがある。
 そのため、ルイスはギルド本部で治療を行っているそうだ。
 以前会った時よりも随分と痩せ細ったルイス。
 俺にも分かる。
 もう先は長くないだろう。

「シド様、お願いがあるのです」
「なんだ、言ってみろ」

 小声ながらもハッキリと話すルイス。
 ルイスは元Aランクの凄腕冒険者だ。
 病気になろうとも、死期を悟ろうとも、気力は衰えていない。

「冒険者ギルドをラルシュ王国で買い取ってください。国営にして、今一度あなたがマスターとして管理するのです。今ならできます。シド様にもやっと仲間ができたでしょう?」
「仲間か……そうだな」
「私の最後の……お願いでございます」
「君はズルいぞ。最後の願いなんて聞かなければならないだろう?」
「こうまでしないと聞いてくださらないでしょう」

 ルイスはギルド内で唯一シドの不老不死を知っている人物だ。

「ふうう、分かった。ギルドを引き受けよう」
「あ、ありがとうございます。や、やっと肩の荷が下りました。私はシド様にギルドを返すために……」

 俺たちは部屋を出た。
 シドとルイスで一晩語り尽くすだろう。

 ギルドの職員が俺たちの部屋を用意してくれた。
 夕食を取り就寝。
 翌日、早朝に部屋へ行くと、シドとルイスはまだ会話していた。

 見た目はベッドに横たわる老人と、その横に座る若い男性。
 祖父と孫の関係に見えるが、年齢はその逆で千九百歳以上離れている。
 俺たちの姿を見ると、ルイスが笑顔を浮かべた。

「シド様、申し訳ございません。そろそろお先に逝かせていただきます」

 シドは何も答えない。

「アル、レイ、オルフェリアよ。シド様を頼む。どうか頼む。孤独にさせないでくれ」
「はい。もちろんです」
「たの……む。シド様は、私の……命の恩人で……師匠なんだ」

 徐々に呼吸が弱くなってきたルイスの手を握るシド。

「ルイス、今までありがとう。君と知り合えて良かった。先に行って待っていろ。いつか必ず行く」
「き、来て下さいますか? 不老不死の……シド様」
「もちろんだ」
「はは……待っております」

 ルイス・フィンズが息を引き取った。
 翌日、葬儀を行う。
 世界最大組織である冒険者ギルドのマスターの逝去だが、葬儀は簡素だった。

 それから数日間、ギルド本部で会議が行われ俺たちも参加。
 満場一致でシドのマスターが決定した。
 とはいえ、すぐには対応できない。
 それに冒険者ギルドを国営にするには様々な障壁がある。
 他国がすんなりと認めるとも思えない。
 ラルシュ王国の国力上昇に批判が出るだろう。

 俺たちはひとまず帰国。
 帰路はフォルド帝国からイーセ王国の上空を飛行。
 これに関しては、国家の上空を飛行する許可を得ている。

 アフラで世界会議ログ・フェスの報告を行い、建国承認を祝福。
 シドはすぐにユリアを連れてギルド本部へ出航。
 当面の間、シドとユリアはラルシュ王国とフォルド帝国を行き来するだろう。
 だが、旅する宮殿ヴェルーユであれば移動はたったの二日だ。
 飛空船のおかげで、これまで不可能な移動が実現した。

 国家運営、飛空船建造や航空権利の整備、冒険者ギルドの国営化とやるべきことは山積みだが、この国には素晴らしい人材が揃っている。

 俺たちは全員一丸となり、新国家を形にしていった。
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