鉱夫剣を持つ 〜ツルハシ振ってたら人類最強の肉体を手に入れていた〜

犬斗

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第十七章

第282話 王の威厳

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 満月はまだ頭上に来ていない。
 夜はまだまだこれからという時間帯だ。

 ルシウスの収納を終え、全員が操縦室に集まった。

「さて、ルシウスを討伐してしまった非常識な国王がいるのだが、私ですらどうしていいのか困っている」
「アハハ、酷い言われようだな。ひとまず俺に考えがある。皆聞いてくれ」
「分かった」

 俺は全員の前に立った。
 これまで国王らしいことなんてしてこなかったが、今後はこういった機会も増えるだろう。
 少しでも慣れる必要がある。

「ルシウスはエマレパ皇国から討伐依頼が来る予定だったんだ。先に倒してしまったけど問題はない。ただし、討伐報酬は見込めない。理由は皇国領地内での討伐ではないからだ」
「確かにそうね」

 レイが大きく頷いた。

「だが実は良いことでもあるんだ。我々が欲しいものは何か分かる? オルフェリア」
「はい、竜種ルシウスの素材です」
「うん、その通りだ。討伐は皇国領地内ではないからこそ、ルシウスの所有権を主張できる。竜種は特殊能力を持っているはずだ。その研究をシド、オルフェリア、ジョージの三人に任せたい。それとオルフェリア、後で素材研究用にサンプルを採取してくれ」
「仰せのままに」

 オルフェリアが深くお辞儀をした。

「アガス、防腐処理はどれくらい持つ?」
「ハッ! 何度か処理を重ねれば、最長で一か月は持つと思われます」
「分かった。じゃあその処理を全て任せる」
「ハッ! お任せください!」

 アガスが敬礼した。

「シド、エマレパ皇国での世界会議ログ・フェスからアフラ帰還まで、全ての日程を一か月以内で終えたい。そのスケジュール調整を頼むよ」

 シドが驚きつつも嬉しそうな表情を浮かべ、フォルド式の敬礼をした。

「かしこまりました。仰せのままに」

 俺は続いてリマに目線を向ける。

「リマ、世界会議ログ・フェスの間は旅する宮殿ヴェルーユの警備が必要だ。君にそれを任せるがいいか?」
「ハッ! かしこまりました!」

 リマがイーセ式の敬礼をした。

「ローザ、君も元Bランク冒険者だ。リマと警備をしつつ、ルシウスのサンプル素材から新装備の研究を進めてくれ。帰還したら本格的に開発を頼む」
「承知いたしました」

 ローザはフォルド式の敬礼だ。

「エルザとマリンは、食事や客室の掃除など皆のサポートを頼む。君たちの仕事が最も重要だ。なぜなら君たちの食事で皆のやる気が出るからね。頼んだよ」
「アル様の仰せのままに」

 エルザは優雅に、マリンはしっかりとお辞儀をした。

「ふふふ、皆の礼式がばらばらね。シド、我々のラルシュ式を考えましょう」
「ああ、そうだな。世界会議ログ・フェスまでには考えよう」

 俺は最後にレイに視線を向ける。

「レイ。ルシウスに関して、キルス皇帝陛下との交渉は全て俺がやる。だけど、足りない部分や抜けてる部分のサポートはお願いしたい」
「かしこまりました。国王陛下」

 レイは優雅にイーセ式でお辞儀をした。
 流れるような動作は流石だ。
 イーセ王国で最も美しいと言われていた礼式だった。

 ひとまず全員に伝えることができた。
 だが俺は皆の態度に不満だった。

「もう! 皆なんだよ! 普通に接してくれよ!」

 シドが不敵な笑みを浮かべていた。

「陛下こそ、君主たる威厳を持っていただきませんと困ります。陛下は国の代表です。我らを導く存在なのですぞ」
「う、わ、分かったよ」

 全員が笑っていた。

 ――

 一旦落ち着いたことで、俺は風呂に入り夕食を取った。
 そして、シドの研究室に向かう。
 レイとオルフェリアも一緒だ。

 この狭い空間に俺、レイ、シド、オルフェリアの四人。
 シドがデスクの椅子に座り、残りの三人は立っている。
 折りたたみ椅子があっても、広げるスペースがないからだ。

「それにしてもアル。今回は本気で驚いたぞ。偵察だと言ったのだがな……」
「まあいつかは討伐しなければならなかったし、結果的に無傷だったから良かったよ」
「まあそうだな。竜種に遭遇できたことも、倒せたことも僥倖だった」

 マリンが淹れてくれた珈琲を飲みながら、俺は全員を見渡した。

「今回はエルウッドとヴァルディの力が大きかったんだ。雷の道ログレッシヴは水との相性が良い。そして、ヴァルディは水の上も走る。この二柱ふたりがいたから倒せた」
「君の言ってることは分かる。確かに水は雷を通す。水棲モンスターにとって、エルウッドの雷の道ログレッシヴは強烈だろう。ヴァルディが海上を走ったことには驚いたがな。しかしだな、世の中に始祖を二柱従えている人間などいないのだ。何よりおかしいのは君だぞ?」

 レイとオルフェリアが固まった。
 俺は二人に事情を話す。

「ああ、二人には伝えるけど、エルウッドは始祖なんだ」
「え! エルウッドが始祖?」
「ああ、どうやら十四柱目の始祖のようだ」

 レイもオルフェリアも目を見開いている。
 無理もない。
 竜種と双璧をなす生物の頂点と呼ばれる神の如き存在が、ずっと身近にいたのだ。
 一緒に旅をしたことで、オルフェリアはエルウッドと仲が良かった。
 それにレイはすでにエルウッドと家族だ。

「シド、これは俺の考えなんだけど、どうやら始祖と竜種は敵対しているようなんだ」
「ふむ、それは興味深いな」

 俺はここ最近考えていたことをシドに伝えた。

 ◇◇◇

 始祖と竜種は相手の血を舐めることで、その特殊能力を獲得する。

 ヴァルディは過去、ルシウスと戦ったことがあると言っていた。
 その際にルシウスの血を舐めた影響で、水の上を歩く能力を獲得したのだろう。

 逆にルシウスもヴァルディの血を舐め、異常なジャンプ力を獲得したと思われる。
 そうでなければ、あれ程の巨体が五十メデルトも飛べるわけがない。
 だが、水中に住むルシウスにはあまり有効な能力ではない点は、不運だったのかもしれない。

 それを裏付けるように、エルウッドがルシウスの血を舐めた後、海上を歩いた。
 今後はエルウッドも水の上を歩けるだろう

 ◇◇◇

「エ、エルウッドも海上を歩いた? ……な、なるほど。確かに全ての辻褄は合うか」

 俺の話を聞いたシドは納得していた。

 レイは腕を組んでいる。
 何かを思い出したような表情を浮かべた。

「となると、二柱はヴェルギウスの血も舐めてたでしょ? ヴェルギウスの特殊能力は何かしら?」
「ああ、実はまだ分からないんだ」
「判明しているヴェルギウスの特殊能力は……」

 俺がオルフェリアに視線を向けると、オルフェリアが小さく頷いた。

「ヴェルギウスの能力はいくつかありました。溶岩に浸かることのできる身体。溶岩を飲み込める内蔵器官。温度を一定に保つ鱗。でも、どれもエルウッドに備わるとは思えない能力ですね」
「溶岩の上を歩く能力はあると思う。言われてみると、ヴァルディは溶岩の上も走っていたから。さすがに、溶岩を飲み込むのは無理だと思うけど、気温に対しての耐性はあるだろうね」

 シドが椅子の背もたれ体重をかけると、部屋に木が軋む音が響く。

「まあそこら辺はエルウッドが理解しているだろう。始祖の知能は我々以上なのだからな。ハッハッハ」

 俺はもう一つの変化を思い出した。

「あ、それと俺の紅炎鎧ファラムも変化があったんだ」
「変化?」

 すでに着替えているため、紅炎鎧ファラムは自室の鎧立てに置いてある。

「ルシウスの返り血を浴びたことで、少しだけ色が変わった。ほんの僅か青みがかっているんだ」
「なるほど。竜種の血液は、同素材である紅炎鎧ファラムにも影響があるのか」
「そうみたいだね。効果はまだ分からないけどさ」
「ふむ。ルシウスの素材を研究しながら、ローザと解明していこう」
「分かった」

 この四人は、俺達の国でも極秘の内容を共有している。
 その最たるものがシドの不老不死だ。
 それらも含めて、今後の対応を話していかなければならない。

 オルフェリアがその美しい髪をかき上げ、夫であるシドを見つめていた。

「それよりシド。勝手にこんな立派な研究室なんて作って。旅する宮殿ヴェルーユの完成間近、急に家に帰ってこないと思ったのですが、こういうことだったのですね」
「あ! いや、す、すまん。ちゃんと帰る」
「別にいいですよ? ここは居心地が良さそうなので、ここに住むと良いでしょう。私は陛下と皇后の家にお邪魔するので」

 レイが満面の笑みを浮かべた。
 シドの困ってる顔を見るのが嬉しいそうだ。
 昔、散々嫌がらせをされたお返しとのこと。

「ふふふ、宰相補佐殿。いつでも歓迎ですわ。良ければ一緒に住みませんか?」
「いいのですか? ありがとうございます皇后陛下。陛下はいかがですか?」
「もちろん大歓迎です。オルフェリア殿の料理は美味しいですから」

 シドだけが脂汗をかいていた。
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