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第十七章
第281話 アルの功罪
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◇◇◇
旅する宮殿はルシウスの強烈な水の槍に備え、上空百メデルトほどまで避難していた。
そこで全員がアルの戦いを見つめている。
満月の光は眩しく、この距離であれば目視可能だ。
「シ、シド。アルが偵察どころか、普通に戦ってるんですけど……」
オルフェリアが呟く。
額から脂汗が流れていることに気付かない様子だ。
シドは戦いから目を離さず、オルフェリアに答えない。
いや、答えられない。
リマが横に立つレイの腕を掴む。
「な、なあ、レイ。このままだと、アル君はルシウスを倒すんじゃないか?」
「そ、そんなことあり得ないわ。相手は竜種よ。しかも今日初めて遭遇したのよ。いくらアルとはいえ……」
リマに問われたレイは言葉を濁す。
現実的にあり得ないと思っていても、初見で竜種を追い詰めているアルの姿を目の当たりにしている。
リマの言葉に同意せざるを得なかった。
ローザは腕を組みながら、真剣な眼差しで戦いを見ている。
自分が打った紅竜の剣の性能を冷静に確認していた。
アガスやメイド二人も、その尋常ではない戦いぶりに驚いている。
そして、戦いから僅かな時間で、海面に崩れ落ちるルシウス。
「レイ! アル君が! と、と、と、討伐……してしまったぞ……」
叫ぶリマ。
だが、誰も答えない。
操縦室に広がる静寂をシドが破った。
「とりあえず、アルをピックアップしよう……」
ルシウスを討伐したにもかかわらず、船内は重い空気が流れていた。
◇◇◇
海面に浮かぶルシウスの巨体。
俺は頭部に立ったまま、完全に死んだことを確認。
「やったぞ! エルウッド! ヴァルディ! 竜種相手に勝ったぞ!」
「ウォンウォン!」
「ヒヒィィン!」
「二柱とも本当に凄いぞ!」
ヴァルディが海の上を歩いて近付いてきた。
エルウッドはヴァルディの背に乗っている。
「エルウッド! 雷の道の威力が上がったな。あれは竜種でも耐えられないよ!」
「ウォンウォン!」
「ヴァルディ! 君の走りは本当に凄い! 海の上も走れるなんて! そのうち空も走れそうだな。アハハ」
「ヒヒィィン!」
超巨大な肉塊となったルシウスが海の上に漂う。
シドが言うには、海は塩分の影響で浮力が上がるそうだ。
「なあ、ヴァルディ。君は昔、ルシウスと戦ったことがあるんじゃないか?」
「ブフゥゥ」
「やっぱりね。あの水の槍を初見で避けられるわけがない。本当にヴァルディのおかげだよ」
海上に立つヴァルディの背中から、エルウッドがルシウスの首に飛び降りる。
そして、ヴァルディと二柱で、ルシウスの血を舐め始めた。
そのままエルウッドが海に向かって歩き始める。
「お、おい! エルウッド!」
エルウッドが海上を歩く。
「え? う、嘘だろ? エルウッドも?」
信じられないものを見たのだが、考えがまとまらないうちに旅する宮殿が高度を下げてきた。
後部のハッチが開くとシドの姿が見える。
「アルよ! ひとまず上がれ! ルシウスを回収する! 説教はその後だ!」
なんで説教なんだ?
意味不明だが、とりあえず俺たちは船内へ入った。
――
「アル!」
レイが駆け寄ってきた。
俺の両腕の上腕をさする。
「身体は? 怪我は?」
「大丈夫だよ。無傷だ」
「良かった。もうあなたのすることには口を出さないけど、本当に無理だけはしないで。竜種相手に……あなたは一度……」
「ご、ごめん」
珍しくレイが声を震わせている。
そして俺に抱きついてきた、
「お願いよ……もう私を一人にしないで」
「もちろんだよ。今回だって偵察の途中から、確実に勝てると思ったから戦ったんだ」
「うん。分かってるわ」
怪訝な表情を浮かべながらリマが近付いてきた。
「か、勝てるだって?」
「ああ、エルウッドとヴァルディがいたからね。俺一人なら絶対に無理だったよ」
「だ、だからって……りゅ、竜種が相手だぞ……。な、なあレイ。竜種って、偵察ついでに倒せるものなのか……」
レイが俺から離れ、リマの顔を見つめる。
「できるわけないわ……アルだからよ」
「そ、正直、アタシはアル君が恐ろしいよ。個人の強さ、始祖を従えるカリスマ性……」
リマはそれ以上言葉が出ないようだ。
船内一階は討伐したモンスターを収容できる。
倉庫の全長は四十メデルトほどあり、どんなモンスターでも収容可能とのことだった。
だが、ルシウスの全長も約四十メデルトある。
「さて、ルシウスを回収しよう」
シドが作業用のグローブをはめる。
オルフェリアもモンスターの革で作られた解体師用エプロンを装着。
「アガス! クレーンを出すぞ!」
「はい!」
一階の天井に設置されたクレーンと呼ばれる大きな装置。
シドが開発した特殊な装置で、いくつもの歯車や滑車が連結している。
これにより、どんな巨体のモンスターでも、簡単に運ぶことができるそうだ。
シド、オルフェリア、アガスがルシウスの身体にロープを結ぶ。
「俺も手伝うよ」
「アルは休んでいてください! ルシウスを討伐したばかりなんですよ!」
オルフェリアが両手を俺に向けて大きく振る。
俺を近付けないようにしていた。
「アガス! クレーンを巻け!」
「はい!」
アガスが歯車の取っ手を回すと、ロープが巻き取られていく。
これは以前トーマス兄弟が作った釣り竿のリールを巨大化させ、さらに発展させた装置だ。
小さな力で巨大なものも運べる。
すでに国際特許を取得していた。
あっという間に超巨体のルシウスが海上から引き上げられた。
乗り物とは思えないほどの広い倉庫だが、その全てを占領してしまったルシウスの死骸。
「アルよ! いきなり設計の最大値を超えるようなモンスターを討伐しないでくれ」
「本当ですよアル様。旅する宮殿は、どんなモンスターでも収容可能と謳っているんです」
「解体しなければ乗らないかもしれません。ですが、勝手に解体するとジョージ様に怒られますね」
シド、アガス、オルフェリアが文句を言ってきた。
「アハハ、それを何とかするのが皆の仕事だろ?」
「き、君も言うじゃないか。ハッハッハ」
やられっぱなしでは俺も悔しかったので、少しだけ国王の威厳を使わせてもらった。
だが、アガスとオルフェリアは、俺の発言に対し嬉しそうに笑っている。
「かしこまりました!」
アガスが敬礼した。
引き上げたルシウスに対し、三人は迅速に対応していく。
「アガス! 防腐処理を頼む!」
「はい!」
「オルフェリア! 解体は必要か?」
「そのまま乗りそうです!」
シドが指示を出す。
アガスは元運び屋だし、オルフェリアは凄腕の解体師だ。
自分たちの仕事を理解している。
手際良くルシウスを収容した。
「まったく……。旅する宮殿の処女飛行で、この倉庫に初めて収容するモンスターが竜種なんてあり得んぞ」
「フフ、本当ですね。アルはどこまで行くのでしょう」
シドとオルフェリアが話し合った結果、ルシウスは解体せずに運ぶことになった。
旅する宮殿はルシウスの強烈な水の槍に備え、上空百メデルトほどまで避難していた。
そこで全員がアルの戦いを見つめている。
満月の光は眩しく、この距離であれば目視可能だ。
「シ、シド。アルが偵察どころか、普通に戦ってるんですけど……」
オルフェリアが呟く。
額から脂汗が流れていることに気付かない様子だ。
シドは戦いから目を離さず、オルフェリアに答えない。
いや、答えられない。
リマが横に立つレイの腕を掴む。
「な、なあ、レイ。このままだと、アル君はルシウスを倒すんじゃないか?」
「そ、そんなことあり得ないわ。相手は竜種よ。しかも今日初めて遭遇したのよ。いくらアルとはいえ……」
リマに問われたレイは言葉を濁す。
現実的にあり得ないと思っていても、初見で竜種を追い詰めているアルの姿を目の当たりにしている。
リマの言葉に同意せざるを得なかった。
ローザは腕を組みながら、真剣な眼差しで戦いを見ている。
自分が打った紅竜の剣の性能を冷静に確認していた。
アガスやメイド二人も、その尋常ではない戦いぶりに驚いている。
そして、戦いから僅かな時間で、海面に崩れ落ちるルシウス。
「レイ! アル君が! と、と、と、討伐……してしまったぞ……」
叫ぶリマ。
だが、誰も答えない。
操縦室に広がる静寂をシドが破った。
「とりあえず、アルをピックアップしよう……」
ルシウスを討伐したにもかかわらず、船内は重い空気が流れていた。
◇◇◇
海面に浮かぶルシウスの巨体。
俺は頭部に立ったまま、完全に死んだことを確認。
「やったぞ! エルウッド! ヴァルディ! 竜種相手に勝ったぞ!」
「ウォンウォン!」
「ヒヒィィン!」
「二柱とも本当に凄いぞ!」
ヴァルディが海の上を歩いて近付いてきた。
エルウッドはヴァルディの背に乗っている。
「エルウッド! 雷の道の威力が上がったな。あれは竜種でも耐えられないよ!」
「ウォンウォン!」
「ヴァルディ! 君の走りは本当に凄い! 海の上も走れるなんて! そのうち空も走れそうだな。アハハ」
「ヒヒィィン!」
超巨大な肉塊となったルシウスが海の上に漂う。
シドが言うには、海は塩分の影響で浮力が上がるそうだ。
「なあ、ヴァルディ。君は昔、ルシウスと戦ったことがあるんじゃないか?」
「ブフゥゥ」
「やっぱりね。あの水の槍を初見で避けられるわけがない。本当にヴァルディのおかげだよ」
海上に立つヴァルディの背中から、エルウッドがルシウスの首に飛び降りる。
そして、ヴァルディと二柱で、ルシウスの血を舐め始めた。
そのままエルウッドが海に向かって歩き始める。
「お、おい! エルウッド!」
エルウッドが海上を歩く。
「え? う、嘘だろ? エルウッドも?」
信じられないものを見たのだが、考えがまとまらないうちに旅する宮殿が高度を下げてきた。
後部のハッチが開くとシドの姿が見える。
「アルよ! ひとまず上がれ! ルシウスを回収する! 説教はその後だ!」
なんで説教なんだ?
意味不明だが、とりあえず俺たちは船内へ入った。
――
「アル!」
レイが駆け寄ってきた。
俺の両腕の上腕をさする。
「身体は? 怪我は?」
「大丈夫だよ。無傷だ」
「良かった。もうあなたのすることには口を出さないけど、本当に無理だけはしないで。竜種相手に……あなたは一度……」
「ご、ごめん」
珍しくレイが声を震わせている。
そして俺に抱きついてきた、
「お願いよ……もう私を一人にしないで」
「もちろんだよ。今回だって偵察の途中から、確実に勝てると思ったから戦ったんだ」
「うん。分かってるわ」
怪訝な表情を浮かべながらリマが近付いてきた。
「か、勝てるだって?」
「ああ、エルウッドとヴァルディがいたからね。俺一人なら絶対に無理だったよ」
「だ、だからって……りゅ、竜種が相手だぞ……。な、なあレイ。竜種って、偵察ついでに倒せるものなのか……」
レイが俺から離れ、リマの顔を見つめる。
「できるわけないわ……アルだからよ」
「そ、正直、アタシはアル君が恐ろしいよ。個人の強さ、始祖を従えるカリスマ性……」
リマはそれ以上言葉が出ないようだ。
船内一階は討伐したモンスターを収容できる。
倉庫の全長は四十メデルトほどあり、どんなモンスターでも収容可能とのことだった。
だが、ルシウスの全長も約四十メデルトある。
「さて、ルシウスを回収しよう」
シドが作業用のグローブをはめる。
オルフェリアもモンスターの革で作られた解体師用エプロンを装着。
「アガス! クレーンを出すぞ!」
「はい!」
一階の天井に設置されたクレーンと呼ばれる大きな装置。
シドが開発した特殊な装置で、いくつもの歯車や滑車が連結している。
これにより、どんな巨体のモンスターでも、簡単に運ぶことができるそうだ。
シド、オルフェリア、アガスがルシウスの身体にロープを結ぶ。
「俺も手伝うよ」
「アルは休んでいてください! ルシウスを討伐したばかりなんですよ!」
オルフェリアが両手を俺に向けて大きく振る。
俺を近付けないようにしていた。
「アガス! クレーンを巻け!」
「はい!」
アガスが歯車の取っ手を回すと、ロープが巻き取られていく。
これは以前トーマス兄弟が作った釣り竿のリールを巨大化させ、さらに発展させた装置だ。
小さな力で巨大なものも運べる。
すでに国際特許を取得していた。
あっという間に超巨体のルシウスが海上から引き上げられた。
乗り物とは思えないほどの広い倉庫だが、その全てを占領してしまったルシウスの死骸。
「アルよ! いきなり設計の最大値を超えるようなモンスターを討伐しないでくれ」
「本当ですよアル様。旅する宮殿は、どんなモンスターでも収容可能と謳っているんです」
「解体しなければ乗らないかもしれません。ですが、勝手に解体するとジョージ様に怒られますね」
シド、アガス、オルフェリアが文句を言ってきた。
「アハハ、それを何とかするのが皆の仕事だろ?」
「き、君も言うじゃないか。ハッハッハ」
やられっぱなしでは俺も悔しかったので、少しだけ国王の威厳を使わせてもらった。
だが、アガスとオルフェリアは、俺の発言に対し嬉しそうに笑っている。
「かしこまりました!」
アガスが敬礼した。
引き上げたルシウスに対し、三人は迅速に対応していく。
「アガス! 防腐処理を頼む!」
「はい!」
「オルフェリア! 解体は必要か?」
「そのまま乗りそうです!」
シドが指示を出す。
アガスは元運び屋だし、オルフェリアは凄腕の解体師だ。
自分たちの仕事を理解している。
手際良くルシウスを収容した。
「まったく……。旅する宮殿の処女飛行で、この倉庫に初めて収容するモンスターが竜種なんてあり得んぞ」
「フフ、本当ですね。アルはどこまで行くのでしょう」
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