鉱夫剣を持つ 〜ツルハシ振ってたら人類最強の肉体を手に入れていた〜

犬斗

文字の大きさ
上 下
292 / 414
第十七章

第280話 水竜ルシウス

しおりを挟む
 ルシウスの全体が見えた。

「で、でかい!」

 全長は四十メデルトもある。
 首だけで二十メデルトだ。
 身体は十メデルトで、尻尾の長さも十メデルト。
 首と同じように全身の鱗の色は薄群青色で、腹などの内側は白色だ。
 四本の手足は巨大なヒレのようになっている。
 
 俺はこれほどの巨体の生物を初めて見た。

「ギャオォォウゥゥゥゥ!」

 その超巨体が叫びながら、海面から五十メデルト近くも飛び上がっている。
 どれほどの勢いをつけて海中を泳いだのか。
 もし海面に浮く船だったら、あの体当たりでどんな船であろうと木っ端微塵になるだろう。
 空を飛ぶ旅する宮殿ヴェルーユも無事では済まない。

 巨体故に、動きがゆっくりに見えるルシウス。
 そのまま落下し、爆音を轟かせ着水。

 着水時も大量の海水を巻き上げ、巨大な波を発生させた。
 もしあのまま近くにいたら、俺たちは大波に飲み込まれていたはずだ。

「あ、危なかった。ヴァルディありがとう」

 ヴァルディはあの攻撃を知っていたようだ。
 少し遅れて巨大な波が俺たちを襲ってきたが、ヴァルディは華麗にジャンプして難なく大波を避ける。

 ルシウスの攻撃は水の槍、水中からの突撃と空中ジャンプ、巨大な波、そしてあの恐ろしい歯による噛みつきだろう。
 徐々に分かってきた。

「皆いいぞ! しっかりと情報収集できている!」

 ヴァルディは着水すると同時に走り出し、再度ルシウスへ接近。
 エルウッドが雷の道ログレッシヴを放つ。
 吸い込まれるようにルシウスの角に直撃する。

「ギャオォォォォ!」

 ヴァルディがもう一度ジャンプすると、エルウッドが超特大の雷の道ログレッシヴを海面に放出。
 水は雷を通す。
 俺たちが空中にいる間に、ルシウスは全身で雷の道ログレッシヴを喰らった。
 空気が破裂するかのような爆発音と共に、ルシウスの身体から黒煙が立ち上り、焦げ臭さが広がる。

「ギャオオオオォォォォ!」

 絶叫するルシウス。
 動きが一気に弱まった。

 これでフルパワーの雷の道ログレッシヴを三発放ったエルウッド。
 以前よりも確実に力を増しているのは間違いない。

「エルウッド、雷の道ログレッシヴはもう空じゃないのか?」
「クウゥゥン」
「休んでてくれ」

 雷の道ログレッシヴを使い切ったようだ。
 だが、おかげでルシウスの動きは鈍っている。

「ヴァルディ! 俺をルシウスの頭部へ運んでくれ!」

 ヴァルディは着水すると、海面を蹴りルシウスの頭上へ大きくジャンプ。
 俺は紅竜の剣イグエルを抜く。
 そして、眼下に見えるルシウスの頭部めがけて飛び降りた。
 落下の勢いを保ったまま、ルシウスの額に剣を突き刺す。

「ギャオオオオォォ!」
「よし! 通るぞ!」

 致命傷とまではいかないが、鎧のような鱗を突き通した。
 今までの剣だったら、竜種に傷をつけることは難しかっただろう。
 だが、紅竜の剣イグエルはこの世で最も硬いヴェルギウスの素材だ。
 その硬度は最高硬度の十を超える。

 ルシウスに紅竜の剣イグエルで攻撃ができることを確認した俺は、とどめを刺そうと剣を振りかぶる。
 しかし、額に傷を負ったルシウスは、絶叫しながら首を大きく振り、海へ潜る動作を見せた。
 俺はすぐに頭部からジャンプし離脱。
 海面に落ちる寸前で、ヴァルディが俺を拾ってくれた。

「ヴァルディ! 助かった、ありがとう!」

 ルシウスが一旦海へ潜った。
 あのまま海水に潜られたら、俺は為す術なく死んでいただろう。

「ヴァルディ! 奴が顔を出したらもう一回だ!」
「ヒヒィィン!」

 ルシウスは首を出すと同時に、これまでで最も強烈な水の槍を吐いた。
 海中から俺たちを確実に狙っていたようだ。
 だが、ヴァルディは華麗に回避し、ルシウスの顔に近付く。

 ヴァルディの動きは凄まじい。
 どう考えても、今回初めてルシウスと戦うとは思えない。
 過去にルシウスと戦ったことがあるような印象だ。
 その証拠に、どの攻撃も完全に見切っている。

「ヴァルディ! 行くぞ!」

 俺はヴァルディの背から、剣を振り上げながら上空に大きくジャンプ。
 ルシウスの額に向かって力一杯振り下ろす。

 鱗を砕き、額にめり込む紅竜の剣イグエル
 だがまだ頭蓋骨には届かない。

「ギャオォォォォォォ!」

 絶叫するルシウスは、首を左右に大きく動かし俺を振り落とす。

「くそ!」

 落下した俺は、海面ギリギリでルシウスの首を蹴り宙に舞う。
 空中でヴァルディが俺を受け止めてくれた。

「ありがとうヴァルディ! もう一回だ!」

 ヴァルディが海面を蹴りジャンプ。
 俺はもう一度ルシウスの頭部へ飛び移る。

「これで! 終わりだぁぁ!」

 俺は紅竜の剣イグエルを大きく振りかぶり、まるで鉱石を採掘するかのようにルシウスの頭部めがけて振り下ろした。
 頭部の強固な鱗を斬り裂き、返り血を浴びながら頭蓋骨を砕く。
 巨大な脳を抉る渾身の攻撃だ。

「ギギャッ」

 短く小さく叫んだルシウス。
 脳を斬ったことで、身体が瞬間的に大きく動く。
 そして、黄金に輝く瞳孔から、瞬く間に生きる光が消えた。

「やったぞ!」

 喜びも束の間、力を失った巨大な頭部が海面に崩れ落ちていく。
 俺は紅竜の剣イグエルを頭部に突き刺し、そのまま剣に掴まり衝撃に備えた。

 爆音と激しい水飛沫を上げて、激しく海面に打ちつけられたルシウスの頭部。
 俺は何とかふんばり、頭部の上でバランスを取った。

「ふうう。あ、危なかった。あのまま海に投げ出されたら死んでたよ」

 鎧を着たままでは溺れ死んだだろう。
 それに俺は山育ちのため泳げない。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

異世界でパッシブスキル「魅了」を得て無双する〜最強だけど最悪なスキルに振り回されてます〜

蒼井美紗
ファンタジー
突然異世界に飛ばされた涼太は、何故か最大レベルの魅了スキルを得た。しかしその魅了が常時発動のパッシブスキルで、近づいた全ての人や魔物までをも魅了してしまう。 綺麗な女性ならまだ良いけど、ムキムキの筋肉が目をハートにして俺に迫ってくるとか……マジで最悪だ! 何なんだよこのスキル、俺を地球に帰してくれ! 突然異世界に飛ばされて、最強だけど最悪なスキルを得た主人公が、地球への帰り方を探しながら異世界を冒険する物語です。 ※カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。

異世界でただ美しく! 男女比1対5の世界で美形になる事を望んだ俺は戦力外で追い出されましたので自由に生きます!

石のやっさん
ファンタジー
主人公、理人は異世界召喚で異世界ルミナスにクラスごと召喚された。 クラスの人間が、優秀なジョブやスキルを持つなか、理人は『侍』という他に比べてかなり落ちるジョブだった為、魔族討伐メンバーから外され…追い出される事に! だが、これは仕方が無い事だった…彼は戦う事よりも「美しくなる事」を望んでしまったからだ。 だが、ルミナスは男女比1対5の世界なので…まぁ色々起きます。 ※私の書く男女比物が読みたい…そのリクエストに応えてみましたが、中編で終わる可能性は高いです。

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅

聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。

異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~

ファンタジー
 高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。 見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。 確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!? ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・ 気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。 誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!? 女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話 保険でR15 タイトル変更の可能性あり

無能スキルと言われ追放されたが実は防御無視の最強スキルだった

さくらはい
ファンタジー
 主人公の不動颯太は勇者としてクラスメイト達と共に異世界に召喚された。だが、【アスポート】という使えないスキルを獲得してしまったばかりに、一人だけ城を追放されてしまった。この【アスポート】は対象物を1mだけ瞬間移動させるという単純な効果を持つが、実はどんな物質でも一撃で破壊できる攻撃特化超火力スキルだったのだ―― 【不定期更新】 1話あたり2000~3000文字くらいで短めです。 性的な表現はありませんが、ややグロテスクな表現や過激な思想が含まれます。 良ければ感想ください。誤字脱字誤用報告も歓迎です。

異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。 異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。 せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。 そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。 これは天啓か。 俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

処理中です...