291 / 352
第十七章
第279話 水の槍
しおりを挟む
旅する宮殿から飛び出し、海の上を疾走するヴァルディ。
湖を走った時も驚いたが、海の上ですら走ってしまう火の神は尋常ではない。
エルウッドも含めて、始祖の能力は生物のそれを越えている。
「本当に信じられない」
海の走った感触としては湖上と変わらない。
硬い地面というわけではなく、ゆるい泥道の上を走っているような感覚だ。
ルシウスまでは約一キデルトの距離。
エルウッドは当然ながら水の上を歩くことができないので、俺の後ろで振り落とされないように座っている。
ヴァルディにとって一キデルトの距離なんて一瞬だ。
すぐルシウスに近付いた。
「あ、あれがルシウスか」
海面から長い首を出しているルシウス。
その長さは二十メデルトはあるだろう。
首の長さだけで二十メデルトだと、全身はどれほどの体長になるのか想像もつかない。
ルシウスもこちらの存在に気付く。
その瞬間、ルシウスは口を大きく開いた。
「うわっ!」
巨大な口から、突然から海水を吐き出した。
いや、もはや水ではない。
凄まじい威力で、水というより巨大な槍を発射したように見える。
水飛沫を上げ、海面を真っ二つにする水の槍。
あんなものが当たったら即死は間違いない。
だが、ヴァルディが超高速で避けてくれた。
「た、助かった! ありがとうヴァルディ」
もしかしたらヴァルディはあの水の槍を知っているのかもしれない。
いくら始祖とはいえ初見で躱すのは無理だ。
それほどの速さと威力を持っていた。
続いてルシウスは、旅する宮殿に向かって水の槍を吐き出した。
見境ないその姿から凶暴な性格が分かる。
「シド!」
水の槍は旅する宮殿に直撃。
衝撃で船体が大きく揺れている。
一キデルト離れていても、威力が落ちない水の槍。
直撃した瞬間は心臓が止まるかと思ったが、どうやら無事なようだ。
ヴェルギウスの素材でコーティングをしていなかったら、間違いなく船体は砕け散っていただろう。
「シド! 頼む! 逃げてくれ!」
すると、ヴェルーユの高度が上がっていった。
シドも水の槍を脅威と感じたはずだ。
「ひとまず安心だ。ヴァルディ、シドが逃げるためのサポートだ」
俺は牽制するために、ルシウスの正面に回る。
そもそも偵察が目的だ。
情報を引き出さなければならない。
俺は観察を始めた。
ルシウスの長い首は、まるで巨樹のようだ。
直径は五メデルトほどあるだろうか。
鱗の色は薄群青色で、首の内側は白色。
眼球は黒く、縦長の瞳孔は金色に輝く。
ヴェルギウスと同じ目だ。
竜種の目は皆同じなのだろうか。
巨大な頭部は七、八メデルトはあるだろう。
額の中心には、五メデルトほどの一本の長い角が伸びている。
口の中には数百本のノコギリ状の歯が並んで見えた。
しかもその歯は三重になっている。
首下は海の中で、その様子は全く見えない。
「あの水の槍が厄介だ!」
一キデルトの距離でも届く水の槍。
至近距離で直撃したら、身体は跡形もなく消える威力だ。
ルシウスが眼球を大きく動かし、こちらに視線を向けた。
そして口を開ける。
「水の槍だ! ヴァルディ!」
ヴァルディは俺の言葉の前に、すでに避けていた。
水の上を信じられないスピードで駆け抜けるヴァルディ。
そのまま大きくジャンプし、ルシウスの顔面スレスレを通り過ぎる。
「エルウッド! 今だ!」
エルウッドが雷の道を放つ。
閃光と轟音が発生し、ルシウスの長い角に落雷した。
「ギャオォォウゥゥゥゥ!」
叫ぶルシウス。
雷が落ちて平気な生物などいない。
エルウッド以外は。
ヴェルギウスにも効いた雷の道は、ルシウスにも有効のようだ。
いや、ヴェルギウス以上に効いている。
水棲生物と雷の相性はいいのだろう。
それに、ルシウスの角はまるで雷を落としてくれと言わんばかりの形状だ。
「いいぞエルウッド! 効いてるぞ!」
だが相手も竜種だ。
これだけで勝てるわけないだろう。
ルシウスは一旦海へ潜った。
以前戦ったヴェルギウスは溶岩を飲み、体内で固めて岩石として吐き出した。
その数は六発が限度だったが、ルシウスの周囲には水が無限にある。
水の槍は限度なく吐き出すと見るべきだろう。
「ヒヒィィン!」
突然、ヴァルディが叫ぶ。
同時にルシウスが潜った方向に背を向けて、超高速で走り出した。
俺は振り落とされないように、鞍の取っ手を握る。
ヴァルディには手綱が必要ない。
全て口頭で通じるからだ。
それに超高速で走るので、しっかりと身体を固定できる取っ手のほうが人馬共に安全だった。
「グ、ググ……。ど、どうしたヴァルディ」
あまりのスピードに呼吸ができない。
あっという間に数キデルト離れたヴァルディは、水飛沫を上げながら海面を滑るように停止。
そして、そのまま海上で立ち止まり振り返った。
その瞬間、ルシウスが潜った地点を中心に、海面が山のように盛り上がる。
そして高さ百メデルト以上も海水を巻き上げ大爆発した。
「ルシウス!」
海面から飛び出すルシウスが、海面上で爆発を起こした。
爆発地点を中心に、猛烈な勢いで飛び散る海水。
凄まじい量の海水を巻き上げ、上空へ大きくジャンプするルシウス。
湖を走った時も驚いたが、海の上ですら走ってしまう火の神は尋常ではない。
エルウッドも含めて、始祖の能力は生物のそれを越えている。
「本当に信じられない」
海の走った感触としては湖上と変わらない。
硬い地面というわけではなく、ゆるい泥道の上を走っているような感覚だ。
ルシウスまでは約一キデルトの距離。
エルウッドは当然ながら水の上を歩くことができないので、俺の後ろで振り落とされないように座っている。
ヴァルディにとって一キデルトの距離なんて一瞬だ。
すぐルシウスに近付いた。
「あ、あれがルシウスか」
海面から長い首を出しているルシウス。
その長さは二十メデルトはあるだろう。
首の長さだけで二十メデルトだと、全身はどれほどの体長になるのか想像もつかない。
ルシウスもこちらの存在に気付く。
その瞬間、ルシウスは口を大きく開いた。
「うわっ!」
巨大な口から、突然から海水を吐き出した。
いや、もはや水ではない。
凄まじい威力で、水というより巨大な槍を発射したように見える。
水飛沫を上げ、海面を真っ二つにする水の槍。
あんなものが当たったら即死は間違いない。
だが、ヴァルディが超高速で避けてくれた。
「た、助かった! ありがとうヴァルディ」
もしかしたらヴァルディはあの水の槍を知っているのかもしれない。
いくら始祖とはいえ初見で躱すのは無理だ。
それほどの速さと威力を持っていた。
続いてルシウスは、旅する宮殿に向かって水の槍を吐き出した。
見境ないその姿から凶暴な性格が分かる。
「シド!」
水の槍は旅する宮殿に直撃。
衝撃で船体が大きく揺れている。
一キデルト離れていても、威力が落ちない水の槍。
直撃した瞬間は心臓が止まるかと思ったが、どうやら無事なようだ。
ヴェルギウスの素材でコーティングをしていなかったら、間違いなく船体は砕け散っていただろう。
「シド! 頼む! 逃げてくれ!」
すると、ヴェルーユの高度が上がっていった。
シドも水の槍を脅威と感じたはずだ。
「ひとまず安心だ。ヴァルディ、シドが逃げるためのサポートだ」
俺は牽制するために、ルシウスの正面に回る。
そもそも偵察が目的だ。
情報を引き出さなければならない。
俺は観察を始めた。
ルシウスの長い首は、まるで巨樹のようだ。
直径は五メデルトほどあるだろうか。
鱗の色は薄群青色で、首の内側は白色。
眼球は黒く、縦長の瞳孔は金色に輝く。
ヴェルギウスと同じ目だ。
竜種の目は皆同じなのだろうか。
巨大な頭部は七、八メデルトはあるだろう。
額の中心には、五メデルトほどの一本の長い角が伸びている。
口の中には数百本のノコギリ状の歯が並んで見えた。
しかもその歯は三重になっている。
首下は海の中で、その様子は全く見えない。
「あの水の槍が厄介だ!」
一キデルトの距離でも届く水の槍。
至近距離で直撃したら、身体は跡形もなく消える威力だ。
ルシウスが眼球を大きく動かし、こちらに視線を向けた。
そして口を開ける。
「水の槍だ! ヴァルディ!」
ヴァルディは俺の言葉の前に、すでに避けていた。
水の上を信じられないスピードで駆け抜けるヴァルディ。
そのまま大きくジャンプし、ルシウスの顔面スレスレを通り過ぎる。
「エルウッド! 今だ!」
エルウッドが雷の道を放つ。
閃光と轟音が発生し、ルシウスの長い角に落雷した。
「ギャオォォウゥゥゥゥ!」
叫ぶルシウス。
雷が落ちて平気な生物などいない。
エルウッド以外は。
ヴェルギウスにも効いた雷の道は、ルシウスにも有効のようだ。
いや、ヴェルギウス以上に効いている。
水棲生物と雷の相性はいいのだろう。
それに、ルシウスの角はまるで雷を落としてくれと言わんばかりの形状だ。
「いいぞエルウッド! 効いてるぞ!」
だが相手も竜種だ。
これだけで勝てるわけないだろう。
ルシウスは一旦海へ潜った。
以前戦ったヴェルギウスは溶岩を飲み、体内で固めて岩石として吐き出した。
その数は六発が限度だったが、ルシウスの周囲には水が無限にある。
水の槍は限度なく吐き出すと見るべきだろう。
「ヒヒィィン!」
突然、ヴァルディが叫ぶ。
同時にルシウスが潜った方向に背を向けて、超高速で走り出した。
俺は振り落とされないように、鞍の取っ手を握る。
ヴァルディには手綱が必要ない。
全て口頭で通じるからだ。
それに超高速で走るので、しっかりと身体を固定できる取っ手のほうが人馬共に安全だった。
「グ、ググ……。ど、どうしたヴァルディ」
あまりのスピードに呼吸ができない。
あっという間に数キデルト離れたヴァルディは、水飛沫を上げながら海面を滑るように停止。
そして、そのまま海上で立ち止まり振り返った。
その瞬間、ルシウスが潜った地点を中心に、海面が山のように盛り上がる。
そして高さ百メデルト以上も海水を巻き上げ大爆発した。
「ルシウス!」
海面から飛び出すルシウスが、海面上で爆発を起こした。
爆発地点を中心に、猛烈な勢いで飛び散る海水。
凄まじい量の海水を巻き上げ、上空へ大きくジャンプするルシウス。
18
お気に入りに追加
171
あなたにおすすめの小説
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります
古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。
一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。
一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。
どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。
※他サイト様でも掲載しております。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる