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第十七章

第278話 危険で幸運な遭遇

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 双眼鏡を覗くシドの身体が固まり無言になった。

「シド、見えたか?」

 返答がない。
 どうしたのだろう。
 シドの顔に目線を移すと、明らかに焦った表情へ変わっていた。
 シドがこれほど焦るなんて珍しい。

「て、停止だ! 緊急停止だ!」
「な、なんだ? どうしたんだ?」
「アルよ! モンスターどころではない!」
「え? 何が?」
「竜種だ!
「竜種? ま、まさか!」
「そうだ! あれはルシウスだ!」
「な、何だって!」

 シドがすぐさま伝声管の蓋を開ける。

「全員操縦室へ来るんだ! メイドの二人もだ! 今すぐ来るんだ!」

 シドが伝声管に向かって叫んだ。
 すぐに振臓アンプの操縦レバーを倒し、空中停止に変更。
 機体は上空でそのまま停止した。

 操縦室に全員が揃う。

「皆聞いてくれ。竜種ルシウスを発見した」

 全員、声も出ないほど驚いている。

「このまま素通りもできる。だが、可能な限り観察して情報収集したいのだ。場合によっては衝撃が発生するかもしれない。全員操縦室で待機してくれ」

 全員が頷く。
 すると、レイが手を挙げた。

「シド。ルシウスの情報はどこまで持ってるの?」
「マルソル内海に住むことくらいしか知らないんだ。文献にも詳しい情報はない。私も過去一度目撃したことがあるだけだ」
「そうなのね。じゃあ危険だけど情報収集は必要か……」

 リマが両手を大きく広げた。

「情報収集って言ったって、どうするんだレイ? 海の上には降りられないだろう?」

 リマの意見はもっともだ。
 だが、俺に案があった。

「俺が偵察してくるよ。こっちはエルウッドとヴァルディがいるからね」

 シドの表情が急変。

「何を言っている! 無理だ! 飛空船から観察するのだ! この飛空船はヴェルギウスのコーティングで強度は竜種並み。安全だ」
「違うんだよシド。ヴァルディは水の上を歩けるんだ」
「は?」
「始祖の能力はよく分からないんだけど、アフラ湖の上を普通に走り回った。ただ海の上は初めてだから、それも実験したい」
「ま、待て! ダメだ! 危険なんてものではないぞ!」
「大丈夫だ! 満月だし、俺なら夜目が利く!」

 シドが反論しようとしていたが、俺は構わずレイの肩に手を置く。

「レイ。行ってくる」
「……ダメって言っても聞かないんでしょ?」
「ああ。今後のために少しでも情報が欲しい。ファステルやキルスのためだ」
「もう……仕方ないわね。分かったわ」

 続いてシドに視線を移す

「シド。いずれにせよ竜種の情報は必要だ。きっと俺たちが討伐を受け持つことになる」
「そ、そうだが……」
「むしろ、この広大な海で出会えたんだぞ? だからこの遭遇は幸運と捉えるべきだ」

 シドは諦めたよう様子で、大きく溜め息をついた。

「臣下として、君のような破天荒な君主を持つと大変だな」
「シドが俺を選んだんだよ?」
「確かにそうだな。私も腹を括ろう。ハッハッハ」

 シドが俺の肩に軽く手を置く。

「アルよ。無理はするなよ。いいか、ルシウスの能力は分からんのだ。君は竜種相手に一度死んでいる。レイにあんな思いをさせるな」
「ああ、もちろんだ。二度と死なないと誓うよ」 

 俺はエルウッドと操縦室を出た。

「エルウッド雷の道ログレッシヴは出せるか?」
「ウォン!」

 階段を駆け下り、一階の倉庫にいるヴァルディの元へ走った。

「ヴァルディ! 竜種ルシウスが出現した!」
「ブフゥゥ!」
「出るぞ!」
「ヒヒィィン!」

 俺はヴァルディの背に乗る。
 すると、倉庫の伝声管が振動した。

「アルよ! 可能な限りヴェルーユの高度を下げる。そこで後部のハッチを開ける。君が戻るまでそのまま待機してるかなら。何かあったらすぐに戻って来るんだ!」

 伝声管からシドの声が聞こえた。

「了解! だけど旅する宮殿ヴェルーユも危険だと思ったら逃げてくれよ! こっちはヴァルディがいるから問題ない!」

 ヴァルディに飛び乗ると、エルウッドも俺の後ろに座った。
 俺はヴァルディの鬣を撫でる。
 炎の色をした美しい毛並みだ。

「ヴァルディはルシウスを知ってる?」
「ブルゥゥゥ!」

 大きく頷くヴァルディ。

「本当か! 見たことあるのか?」
「ブルゥゥゥ!」

 首を縦に大きく振る。
 その表情は自信に満ちあふれているようだった。

「そうか! じゃあ君に頼るけどいいか?」
「ヒヒィィン!」

 またも首を縦に振るルシウス。
 しばらく待つと、倉庫後部のハッチが動き始めた。

 ハッチが開くと同時に光が差し込む。
 雲一つない満月の夜。
 まるで夜の太陽のように輝いている。

「これならよく見えるな。二柱ともいいか?」
「ウォン!」
「ヒヒィィィン!」
「よし! 行くぞ!」

 俺は号令を出し、海へ飛び出した。
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