鉱夫剣を持つ 〜ツルハシ振ってたら人類最強の肉体を手に入れていた〜

犬斗

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第十六章

第271話 旅する宮殿

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 シドに促され、マルコが巨大な建物を指差した。

「あれが飛空船を造船するドック区画です。正面にあるのが、最大の大きさを誇る一番ドック。全長百メデルト、高さ四十メデルトあります。あのドックで我々の飛空船を造船しています。我々専用の飛空船ドックです」
「す、凄い!」

 あまりに巨大な建物を見上げたことで口が開いてしまい、レイに笑われてしまった。

「続いて二番から五番ドック。大型の造船所です。今後国家から注文が入ると予想されるために建造しました。騎士団など軍隊の輸送でも使われるでしょう」

 今後の移動に革命が起こることは間違いない。
 各国はこぞって飛空船を購入するだろう。

「あちらが六番から十番ドック。中型の造船所です。そして十一番から二十番ドック。あそこは小型の飛空船や気球を製造するドックです。軌道に乗れば、ラルシュ工業で最大の収益を誇る部門になるでしょう」

 造船区画には超大型ドック一棟、大型ドック四棟、中型ドック五棟、小型ドック九棟が建てられていた。

「さあアルよ。一番ドックに入るぞ。マルコ頼む」
「はい!」

 マルコが合図すると、一番ドックの扉がゆっくりと開く。
 大きな音を立て、左右に開いていく巨大な扉は圧巻だ。

「こ、これが飛空船!」
「す、凄いわ……」

 俺もレイもありきたりの言葉しか出てこない。

「これが我々ラルシュ王国の技術を集結した飛空船だ! レイの言葉をそのままいただいた。旅する宮殿ヴェルーユと名付けたぞ!」

 ◇◇◇

 飛空船
 旅する宮殿ヴェルーユ

 全長 七十メデルト
 全高 三十メデルト
 全幅 二十メデルト

 世界最大の飛空船。
 形状は超巨大な楕円形。
 真紅の機体が特徴。

 軽い空気と、ヴェルギウスの振臓アンプの浮力で空を飛ぶ。
 振臓アンプの動力はエルウッドの雷の道ログレッシヴ

 軽い空気は船体の上部に収納。
 飛行に最も重要なヴェルギウスの振臓アンプは船体の中心部にあり、厳重に施錠された部屋に設置。

 船体の骨格は、軽量で最高硬度を誇るヴェルギウスの骨。
 軽い空気の収納部分は、頑丈でよく伸びる巨兵蛙ゴラエルの革を三重にして使用。
 さらに飛空船全体をヴェルギウスから作った特殊素材でコーティングしているため、強度も耐火性もヴェルギウスと同一レベル。

 ヴェルギウス素材は温度を一定に保つ特殊能力を持つ。
 寒冷地でも熱帯地でも船内の温度は変わらず快適に過ごすことが可能。

 船体下部は居住区。
 居住区の全長は四十メデルトあり、高さ十五メデルト、幅十五メデルトの五階建て。

 一階はモンスターの保管場所兼解体場、倉庫。
 二階は洗濯場、大浴場、歓談室、自由作業室、三等相部屋。
 三階は食堂、キッチン、二等個室、一等個室。
 四階は操舵室、会議室、船長室、特等室、宰相部屋、国王部屋。
 トイレは各階に完備。

 五階は高さ一メデルトの広大な空間で、全てが水のタンクとなっている。
 最上階にあるため全階に水が流れる仕様。

 なお、どの階層も組み立て式で、容易に間取りの変更が可能。
 有事の際は一個小隊が搭乗できる。

 ◇◇◇

 マルコが旅する宮殿ヴェルーユの扉を開く。
 一階は驚くほど広い空間で、巨大なモンスターを保管できる。
 二階からの居住区も広く、装備品も船とは思えないほど快適さだ。
 これはまさに宮殿と言っても過言ではない。

 俺とレイの部屋なんて、正直自宅以上だった。
 個室二部屋、寝室一部屋、大きなリビング、小さなキッチン、さらに風呂トイレがある。
 シドとオルフェリアの部屋も全く同じだ。

 これまで旅で使った寝台荷車キャラバンも凄かったが、この旅する宮殿ヴェルーユはレベルが違う。

「これは本当に凄いな」
「そうだろう。私の知識、トーマス兄弟の技術が全て注ぎ込まれている」
「ああ、本当に凄いよ。元々空を飛ぶことはオルフェリアの夢だったけど、今や我々の夢どころか世界の希望だ」
「うむ。彼女の想いが世界を変えるのだ。だがな、そのきっかけがアルとレイなのだよ。むしろ君たちに感謝だ」
「え? 俺とレイ?」
「そうだ。まあ詳しくはオルフェリアに聞くのだな。ハッハッハ」

 そういえば、俺とレイの初めてのクエストに解体師として参加したのがオルフェリアだった。
 今度聞いてみよう。

「この旅する宮殿ヴェルーユだが、同じ機体は作れん。というのも、竜種は個体によって特殊能力が違う。ヴェルギウス素材は硬度十以上という最高硬度と、温度を一定に保つという性質だった。だから超上空でも飛行可能だ。他の飛空船は高度数百メデルトが限度だが、この旅する宮殿ヴェルーユは数千メデルトでも飛行できる。山脈も越えられるぞ」
「す、凄いな……」

 乗り物で山脈を超えるなんて信じられない。
 他国は喉から手が出るほど欲しがるだろう。

「もし他国が旅する宮殿ヴェルーユと同レベルの飛空船を注文してきたら?」
「製造は無理だから断るしかない。そもそも、この巨大飛空船は竜種の能力に依存する。仮に竜種ルシウスを討伐したとしても、ルシウスの素材の硬度が分からん。それに特殊能力も不明だ」
「そうか。そうだなよ。じゃあ、ヴェルギウスの素材は本当に運が良かったんだな」
「そうだな。飛空船に最も適した素材だったと言えよう」

 軽い空気があるアフラ山を縄張りにしていたヴェルギウス。
 飛空船にとって最も重要な、軽い空気とヴェルギウスの素材が両方とも揃っていたことは僥倖だった。

「で、マルコ。飛空船はいつ完成するの?」
「一ヶ月後には完成予定です。試運転はアル様とレイ様にご同行願います」
「分かったよ」

 マルコの呼び方に慣れないが、これはもう受け入れるしかない。
 俺の横では、もうとっくに敬称を諦めたレイが、両手を腰に置いてマルコを見ている。

「ねえマルコ。私も行ってもいいの?」
「もちろんです。お二人はこの飛空船の主なのですから」
「主って……。国の物でしょう?」 
「いえ、アル様とレイ様のために作りました」

 俺もレイも苦笑いだ。

「はっはっは、トーマス兄弟の君たちへの愛は本当に深いからな。建造中もここはアルのため、ここはレイのためと言いながら作っていたぞ」

 そう言いながら大笑いするシド。
 俺たちは、その後も旅する宮殿ヴェルーユを見学し、船体の凄さと、マルコたちの仕事に感動していた。
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