鉱夫剣を持つ 〜ツルハシ振ってたら人類最強の肉体を手に入れていた〜

犬斗

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第十六章

第269話 国家の名前

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 続いてユリアが立ち上がった。

「国家の憲法もほぼ仕上がったわ。シド様も仰った通り、特殊な国なのでそれほど難しくないわよ。今後、状況に応じて新しい法律を作っていくという感じね」

 憲法の草案はシド、ユリア、レイで作成。
 それをシドとユリアでまとめたそうだ。

「それと予算の話だけど、竜種討伐の金貨十万枚はまだ残ってるわ。アフラの建築でかなり使ったけどね。これはまた正式に書類で収支報告するわね。今後の収入は、トーマス工房の売上がメインよ。シド様保有の土地収入もギルドと調整中。私たちは税収がないから、アフラの食材の輸出やアルの出版社など他の手段も作っていくつもりよ」

 シドの土地収入で疑問に思ったが、シドは以前ギルドの土地を全て手放すと言っていた。
 そのことで、ヴィクトリアは世界のバランスが崩れることを懸念していたほどだ。

「シドが保有している土地はどうするんだ?」
「ああ、ユリアと詰めている。本当は手放す予定だったのだが、状況が変わってきた」
「状況?」
「うむ、現ギルマスのルイス・フィンズの体調が芳しくないのだ」
「え? ルイスさんの?」

 ギルマスのルイス・フィンズは、ギルドで唯一シドの不老不死を知っている。
 ここにいるユリアすら知らない極秘中の極秘事項だ。

「場合によっては当面の間、私がギルドの面倒を見るかもしれん。ルイスの容態次第だな」
「ルイスさんに迷惑かけたからなあ」
「な! アル! 君もそんなレイみたいなこと言うのか!」
「ちょっと! 私がいつそんなこと言ったのよ!」

 シドが大きく咳払いをした。
 レイを無視して、そのまま話を続けるようだ。

「ま、まあ、その話はまた後日しよう。さて、ようやく全員の給与体系も決まった。特にユリア、ジョージ、ローザはここまで無給ですまなかったな」

 三人とも給与なんて不要といった表情を浮かべている。

「その給与の金額は私が決めますけどね」

 ユリアが笑いながら答えていた。
 ここにいる幹部となる者たちの月給は金貨十枚。
 他国に比べるとかなり少ないが、必要なものは別途用意する。
 食事に関しても、アフラの豊富な食材が届くので無料だ。

 なお、俺とレイ、シドとオルフェリアには給与がない。
 現時点で十分な資産があるから不要とした。
 それに必要なものは全て国家予算から出る。
 そもそもシドにいたっては、莫大な資産を持つ。
 恐らく世界で最も資産を持っているだろう。

 金の話で俺は思い出した。

「あ、そうだ。ユリア。これを渡すよ」
「何かしら?」
「王国と皇国で剣の稽古したんだけど、その報酬をもらったんだ。あと、レイのモデル報酬もあるよ」

 俺は三十セデルトほどの木箱をテーブルに置いた。
 フタを開け金貨を見せる。

「報酬? そ、それにしては多すぎないかしら?」
「ステムに確認してもらったら金貨四千枚あったよ」
「よ、四千枚ですって! 嘘でしょう? ちょっと出掛けただけで、そんなに稼いでくるなんて……」

 シド以外の全員が驚いている。
 特にリマとトーマス兄弟は口を大きく開けていた。

 ユリアが大きく息を吐く。

「世界最高の剣士と世界最高の美女って稼げるのね」
「何かに使ってよ」
「予算は確保してるわ。あなたたちの財産にしなさい。あなたたちの給与はないのだから」
「うーん、でも使う予定ないからなあ」
「大丈夫よ。国王ともなれば、個人的な出費も増えるわよ」
「分かった」

 ユリアは少し意地悪な表情でレイに視線を向けた。

「それにしても、レイのモデルは国家の収入になるわね。あなた続けなさいよ」
「嫌よ! お世話になってるカミラさんだから受けただけよ」
「ふーん。じゃあ私たちの国家でもブランドを立ち上げましょう。デザイナーを募集するわよ?」
「嫌よ!」
「国家のためです。税収がない国家のために女王陛下には助力をお願いしたく」
「もう! 分かったわよ!」
「うふふふ、ありががとうございます。女王陛下」

 ユリアが優雅にお辞儀をした。
 そしてシドが立ち上がり、話題を変えるように両手を叩く。

「さあ、では次で最後だ。建国の発表のタイミングと皆の肩書。そして国名だ」

 シドが言うには、近日中に建国を発表するそうだ。
 すでに各国には認知されてるので、建国可否を取るために臨時の世界会議ログ・フェスが開催されることになる。

「皆の肩書だが、アルが国王でレイが王妃だ。私は宰相、オルフェリアが宰相補佐。ユリアは外務大臣と財務大臣を兼任。ジョージは法務大臣。ローザは内務大臣。リマは国防大臣。兄マルコは運輸大臣。弟アガスは工房の最高経営者だ」

 ユリアは元々帝国議員で、女帝と呼ばれていたほどの人物だ。
 ジョージやローザはギルドの主要機関で最高責任者だっだし、リマもクロトエ騎士団の近衛隊長で一時は団長代理も努めた経歴を持つ。
 マルコとアガスも、今や大会社の立派な経営者である。
 皆何でもできるだろう。

 シドが全員を見渡す。

「だがな、今までとやることは変わらん。対外的に大層な名前をつけただけで、ただの肩書だ。正直意味はない。全員できることは何でもやるぞ。国王のアルなんて、剣士として最も危険で最も肉体労働をしてもらうからな。ハッハッハ」
「もちろんさ。俺にはそれしかできないもん。何でもやるさ」

 俺には皆のような知識や経験がない。
 これからたくさんのことを覚えるが、できることは全てやっていくつもりだ。

「そして、国名はラルシュにしたいと思う。これは古代語で永遠の絆という意味でな。まさにこの国に相応しい名だ。私の好きな言葉でもある」
「ラルシュか。いいじゃん!」

 全員納得しているようだ。
 全員一致で、そのままラルシュに決定した。

「アルの正式な名前は、アル・ラルシュ・パートになるからな」
「なんか変な気分だよ」
「ハッハッハ、すぐに慣れるさ」

 シドがトーマス兄弟に顔を向ける。

「トーマス工房は、ラルシュ工業に名称変更だ」
「「分かりました!」」

 国名も決まり、これで会議は終了。
 全員が立ち上がったところで、リマが手を挙げた。

「あ、そうだ。アル君とレイの結婚祝いを大量に持って来たんだ。ユリアさんがすでに正式なお礼を送ってるけど、二人とも確認してくれ」
「そうなのね。分かったわ」

 ユリアが両手を腰に当てて、俺とレイに笑顔を向けた。

「リマが持って来た物以外にも続々と送られてきてるわ。王国の貴族、豪商はもちろん、他国の王族や貴族、教皇猊下からも来てたわよ。あの教皇猊下よ、本当に信じられない。それと、エマレパ皇国のキルス皇帝からも届いているわ。あなたたち本当に何者なのかしらね。目を通して必要な方にはアルとレイからお礼をして頂戴。それ以外は私がやっておくから」
「分かったわ。ありがとうユリア」

 シドが笑いながら、マルコの肩に手を置いた。

「そのために街道整備を優先したからな。なあマルコ」
「はい、そうです。そのおかげで街道はかなり快適になって、イーセ王国の街道と遜色ないほどになりました」
「うむ、都市の発展は街道が最も重要だ。マルコはそれをよく分かっている」
「あ、ありががとうございます」
「ハッハッハ。あまりにも献上品が多くて、アフラへ進む街道は今や奉呈の道シャイールと呼ばれているぞ」

 レイが苦笑いしていた。
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