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第十五章

第262話 結婚式

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 結婚式を半月後に控え、アセンからレイのドレスと俺のタキシードが届いた。

 俺はファッションのことなんて何も分からないが、カミラさんのブランドはシンプルで美しい。
 今回の主役は当然ファステルなので、レイのドレスは主張しすぎず、それでいてレイの美しさを引き立てるものだった。
 レイの試着を担当した宮殿のメイドたちは驚きと歓声を上げ、その美しさが噂として広まったほどだ。

「なるほど、レイをモデルにしたらこうなるのは当然か。やっぱりカミラさんって先見の明が凄いよね」
「私のモデルは別としても、このドレスは素晴らしいわね。全てにおいて最高級よ」

 数々のドレスを着てきたレイも褒めるほどだ。
 キルスが販売代理店を作ったことで、このブランドは皇国でも販売される。
 レイがブランドモデルで、さらに皇后のファステルもモデルだ。
 売れないわけがないだろう。

 ――

 結婚式まで残り一週間になると、イーセ王国のヴィクトリア女王陛下が到着。

「レイ! アル! まさかあなたたちがいるなんて思わなかったわ!」
「ふふふ、ヴィクトリア。アルがね、ファステル皇后陛下の友人なのよ」

 ヴィクトリアは、俺とレイが宮殿に滞在していることや、皇后になるファステルと友人関係にあることに大変驚いていた。
 だが、レイに会えたヴィクトリアはとても嬉しそうだった。

「それにしてもアルって、どうして美女ばかりと知り合うの? レイでしょ、ファステル皇后陛下でしょ、私でしょ」
「さらっと自分を入れるのね」
「別にいいじゃない!」

 相変わらず騒がしい二人だ。

 ヴィクトリアは結婚式の参加以外にも予定が詰まっており、日々忙しく活動していた。
 だが、時間が空くと俺たちとお茶を楽しんだり、一緒に食事を取っていた。

 そしてついに結婚式当日。

 皇帝陛下の結婚だ。
 それはもう盛大だった。

 宮殿には三千人を超える要人が招かれている。
 会場にはヴィクトリア以外にも、国家の君主や王族などが来ているとレイが教えてくれた。
 そのため会場警備も厳重だった。
 一緒に稽古をした将軍たちが現場を仕切っている。

「こ、これが国家のイベントか」
「そうよ。私たちも建国したらこういうイベントを主催するようになるわ。勉強しなくちゃね」
「そうだね」

 皇帝の結婚ともなると、宴は皇都の民を巻き込み三日三晩続くそうだ。

 結婚式では、参列したドレス姿のレイに大きな歓声が漏れ、注目の的だった。
 だが、主役のファステルはそれ以上に美しかった。
 皇国民も、自国の皇后がこれだけ綺麗だと鼻が高いだろう。

 式の最後で、キルスはファステルに指輪を贈る。
 以前見せてもらった緑鉱石から作った指輪だ。
 それをファステルが元々つけていた緑鉱石の指輪に重ねてはめた。
 二つで一つの指輪になるような、素晴らしいデザインだ。

「ファステル……おめでとう。本当に嬉しいよ」

 ファステルに声は届かないが、俺は言葉を発せずにいられなかった。
 そして、感動のあまり涙が止まらない。
 ファステルが結婚して幸せになる。
 当時の絶望の瞬間は、声のかけようもなかったファステル。
 それがこれほどの盛大な結婚式を挙げることになった。
 むしろ皇后となるこれからが大変だと思うが、あの地獄を乗り越えたファステルなら問題ないはずだ。

「ファステル、俺は一生君を応援するよ」

 俺が涙を拭うと、レイがそっと腕を組んできた。

「ふふふ、私もよ。ファステルのことは私も大好きだもの」
「ありがとう、レイ」

 ――

 結婚パーティーの翌日、俺とレイはヴィクトリアと会っていた。
 場所は宮殿内にあるヴィクトリアのために用意された部屋だ。
 椅子に座るヴィクトリアの横には、騎士団団長のジル・ダズが立つ。
 そしてメイド長のマリアが紅茶を淹れていた。

「ファステル皇后はとても綺麗だったわね」

 結婚式でファステルとレイが着ていたドレスが話題となった。
 皇国でカミラさんのブランドは瞬く間に大人気となり、高級服にもかかわらず一瞬で売り切れたそうだ。

「それにしても、まさか王国民がこの国で皇后になるとは。両国の和平に繋がるといいわね」
「そうね。ファステルならイーセ国王と揉めるようなことはしないでしょう」

 レイが紅茶を飲み「美味しい」と呟く。
 レイはマリアの入れる紅茶が好きだった。

「私も結婚して、ファステルも結婚した。カミラさんも結婚したし、オルフェリアも結婚したもの。アルの周りは皆結婚していくわね」
「そうだね。嬉しいよ」

 俺がレイに答えると、咳払いしたヴィクトリアがレイを睨んでいた。

「ねえ、レイ姉様。私に嫌味かしら?」
「そう聞こえたら謝罪いたしますわ。ヴィクトリア女王陛下」
「もう! 意地悪ね!」
「仕方ないじゃない。それがあなたの仕事ですもの。血筋を残すのは国王の義務よ。ねえ、ジル・ダズ団長」

 レイがジルの顔を見た。

「ハッ! 左様でございます!」

 ジルは突然話を振られて驚いていたが、レイの言葉に反応しないわけにはいかないのだろう。
 その返事を聞いて、ヴィクトリアが大きく溜め息をついた。

「そうなのよね。いっそのこと本当にアルと結婚しようかしら。私は第二夫人でもいいわよ? アルだって王国の王位を手に入れることができる。お互いのためにもいい話じゃない?」
「アルの相手は私だけよ!」

 俺は紅茶を吹き出しそうになり、レイは怒鳴っていた。
 
 その時、部屋の扉をノックする音が響いた。
 マリアが対応すると、珍しく焦ってこちらへ速歩きで近寄る。

「ヴィクトリア様、キルス皇帝陛下とファステル皇后陛下がいらっしゃいました」
「な、なんですって! すぐに入ってもらいなさい」

 俺たちは全員起立し、二人を迎えた。
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