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第十五章

第260話 思い出の指輪

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 翌日、俺はキルスに街を案内してもらっていた。
 レイはファステルと結婚式について話している。
 ファステルが色々と聞きたいことがあるとのことだった。

 キルスは相当自由奔放な皇帝のようだ。
 皇帝自ら俺を案内し、たった二人で街を歩く。
 もちろん変装はしているし、存在は気付かれていない。
 ただ、周りに護衛がついている気配を感じる。

「横にいるのは世界最強剣士だ。何も起こらんよ。わははは」

 キルスは笑っていた。
 そして一軒の店に入る。
 店員はどうやらキルスの存在を知っており、非常に丁寧な対応をしながら奥の部屋に通してくれた。

「アルよ。この店に見覚えはないか?」
「なんというか、カミラさんの店に似てるかな」
「うむ、そうだ。実はな、この店はカミラのブランド品をこの国で売るための販売代理店なのだ。私が出資し、オーナーはファステルにした」
「え? 販売代理店?」
「うむ。あの店の商品を見て素晴らしい品質に驚いてな。この国でも取り扱いを打診したんだ。だが、カミラはやり手でな。ファステルがモデルを継続するのであれば、輸出を認めると言ってきたのだ」
「あはは、さすがカミラさん」
「ファステルはこれから我が皇国の皇后となる。皇后がモデルなんて前代未聞だ。だが、国民は喜んで購入するだろう」

 その話を聞いて俺も思い出した。

「あ、そうだ。カミラさんのブランドは、レイもモデルをやるよ?」
「な、なんだと! 本当か?」
「すでに契約も済ませたからね。今はレイモデルのドレスや宣伝用の絵画も作られてるよ」
「それは凄いな。レイをモデルにしたいブランドなぞ山ほどあるだろうに」
「アハハ、でもカミラさんの依頼以外は断ると思うよ。カミラさんにはお世話になりっぱなしだからね」
「そうえいば、冒険者ギルドの開発機関シグ・ナインが販売しているアルとレイの装備品も相当売れてるそうだしな。今やお前たちの人気は凄まじいものだ」

 そんな話をしていると、一人の店員が部屋に入ってきた。
 手に持つトレーには赤い布が敷かれ、その上に鉱石が一つ乗っている。
 トレーごとテーブルに置いて店員は退室した。

「ファステルからお前は元鉱夫だと聞いた。この鉱石を見て欲しい」

 鉱石を手に取り確認する。
 緑鉱石だ。
 レア五の希少鉱石で、宝石の素材として使用される。
 とても美しい鉱石で、その価値は高い。

「結婚式では国宝のティアラなど、代々国に引き継がれたものを贈る。だが、私は個人的に指輪を贈りたいのだ」
「ファステルに指輪を?」
「そうだ。ファステルは緑鉱石が好きでな。もっとレア度の高い鉱石もあるのに、緑鉱石が良いと言うのだ。理由を聞いたら、原因はアルだったがな。わははは」

 俺はファステルと鉱石を採りに行き、緑鉱石を採掘したことがあった。
 その時の緑鉱石は火災でなくなってしまったが、僅かに残っていた欠片をファステルに贈った。

「ファステルが今も身につけている指輪は、お前が採った緑鉱石なんだろ?」
「俺というか、ファステルと一緒に採りに行ったんだ」
「そうか。ファステルにとっては最も大切な宝物で、あの指輪があるから頑張れると言っていた」

 ファステルは、俺が贈った緑鉱石で指輪を作っていた。
 俺も見せてもらったことがある。

「私もファステルに緑鉱石の指輪を贈りたいのだ。その緑鉱石で作ろうと思っている。アルの目から見てどうだ?」
「これは凄いよ。俺が見た中でもトップレベルの品質だ。うん、これは素晴らしい緑鉱石だよ」
「そうか。ではさっそく製作に回そう」

 キルスが手を叩くとさっきの店員が部屋に戻り、改めて緑鉱石を持って退室。
 部屋に二人なったところで、俺はファステルについて思ってることを伝えることにした。

「キルス。ファステルのことは俺も好きだし、最も大切な存在の一人だ。ファステルが俺のことを好きでいてくれるのは嬉しい」
「そうか。ファステルが聞いたら喜ぶぞ」

 キルスは笑顔で俺の話を聞いている。

「だけどさ、その……ファステルはキルスと結婚するんだ。だから、俺のことなんかもう考えずに、前に進むべきだと思う」
「わははは。お前は優しいな。そういうところにファステルも惹かれたのだろう。そして、そのファステルを私は好きになったのだ。気にせんよ。むしろファステルには気持ちを隠さないでいて欲しいのだ。常に自分の心に正直なファステルを見ていたい」

 確かに俺とファステルの関係は特別だ。
 あの時の状況によっては、人生が変わっていたかもしれない。
 だが、レイもキルスも大人の余裕というのか、寛大な心で俺たちの関係を認めてくれている。

「なに、心配するな。ファステルは私の結婚を受け入れてくれたから、私のこともちゃんと愛してくれているよ。だがな、恋愛ごと以前に、ファステルにとって人生で最も大切なのがお前なのだ。それはそうだろう? お前がいなかったらファステルは絶望で死んでいた。これはもう愛などを通り越している。だから私もお前に感謝してる。それにな、お前とファステルは二人とも真面目だから、絶対に浮気なんてできない。わははは」
「ファステルと? いやいや、俺にはレイがいるよ」
「そうだな。世界一の美女と言われるレイがいるからな。しかも世界一強い。浮気したら殺されるだろうよ。わははは」

 キルスは豪快に笑っていた。
 キルスのファステルに対する想いは本当に深くて広い。
 ファステルがキルスに惹かれた気持ちが分かるような気がした。
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