鉱夫剣を持つ 〜ツルハシ振ってたら人類最強の肉体を手に入れていた〜

犬斗

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第十五章

第258話 驚愕の事実

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 皇都タルースカへの道中では、何度か盗賊やモンスターに遭遇した。
 だが、特に問題はなく、俺とレイの二人で対処。
 特に盗賊は街道の治安維持に繋がるため、レイは容赦しなかった。
 さすがは元騎士団団長だ。

 国境を超えてから十六日目、街道を進むと、広大な平野に石造りの建物が増えてきた。
 建物は薄黄色の砂岩で作られており、建物の形状は全体的に四角い。
 エマレパ皇国の特徴的な建物だ。
 そして、その先に巨大な城門が建っている。

「あれが第三城壁。あの城門の中が皇都タルースカよ」

 巨大都市は、人口が増えると城壁の外にも家が建つようになる。
 城壁内では土地が足りなくなるからだ。

 特にタルースカはそれが顕著で、何度も城壁を拡張しているそうだ。
 そのため、タルースカは三重の巨大な城壁に囲まれており、千年城タル・ルルスと呼ばれ難攻不落の都市として有名だった。

「城壁外のこの街は城外区画と呼ばれていて、治安はあまり良くない貧困街なのよ。城壁内に入ると治安は上がって行くわ。タルースカは中心部に巨大な宮殿があって、その周りを第一城壁、第二城壁、第三城壁が大きく囲んでいるのよ。そしてこの城外区画があるのわ」

 俺も世界事典で読んだことはあるが、本を読んだ印象と実際にこの目で見た感想は全く違う。

 城壁の高さは約十メデルト。
 城壁には数キデルトおきに、八角形の塔が建てられている。
 その塔の高さは約十五メデルトほどで、監視用の塔だった。
 城壁は地平線の彼方まで続いているかのように、延々と続いている。

 俺たちは城門で入都手続きを行う。
 冒険者カードを見せ、通行税を払おうとしたところで兵士の対応が変わった。

「アル・パート様! レイ・パート様! お待ちしておりました!」

 俺はここまでレイとエマレパ語を勉強したおかげで、ほとんど理解できるようになっていた。
 確かにレイの言う通りイーセ語に似ている。

 俺たちは兵士に案内され、馬車に乗るよう促された。

「レイ、これ乗っても平気なの?」
「そうね。なんというか……あなたの予感は当たったみたいよ」
「え? どういう?」
「この馬車は皇族の紋章がついてる。恐らく宮殿に行くのでしょう」
「ま、まさか。本当に?」

 俺たちは馬を預け、馬車に乗り込む。
 向かう先は宮殿だと御者が教えてくれた。

「本当に宮殿へ向かってるんだね」
「ええ、そうね。私も驚いてるわよ」
「も、もしだよ。その、皇帝と結婚するとなると……」
「ええ、ファステルが皇后ね」

 ファステルが皇后?
 俺は信じられなかった。

 広大なタルースカを進む馬車。
 太陽はすでに頭上を超えていた。
 そして、宮殿に到着。

 俺とレイは、数々の調度品が並ぶ広い部屋に案内された。
 応接間だろう。
 ソファーに座り待っていると、大きな音を立てて扉が開く。
 それと同時に、ドレスを着た美しい長身の女性が、髪をなびかせながら走ってきた。
 俺は立ち上がり、女性を出迎える。

 腰まで伸びた銀髪は絹のような光沢。
 真っ白な肌に、翠色の瞳が特徴的なその女性は、満面の笑みを浮かべ俺に向かって飛びついてきた。

「アル! 来てくれたのね!」

 ファステルだ。
 そのまま俺に抱きつき、首の後ろに腕を回すファステル。

「ファステル! 元気だった?」
「もちろんよ!」

 再会を懐かしむように、しばらく俺に抱きついたままのファステル。
 俺もそっとファステルの背中と肩に腕を回す。

「ねえ、アル? なんだか女性の扱いが上手くなってない?」
「え? そ、そうかな?」

 レイがソファーから立ち上がる。

「ふふふ、ファステル。久しぶりね」
「レイさん! 来てくれたんですね!」
「もちろんよ」

 ファステルが俺から離れ、レイに向かって優雅にお辞儀をする。
 エマレパ式だ。

「レイさん、アルとのご結婚を祝福します」
「ありがとう。嬉しいわ、ファステル」

 レイもエマレパ式のお辞儀で返す。
 俺もレイに教わっていたエマレパ式のお辞儀をする。

「ファステルも結婚おめでとう!」
「ふふ、ありがとう。相手は内緒にしてたのに、バレちゃったかな?」
「アハハ、そうだね。ここまで来れば分かるさ。それにしても、まさかファステルが皇帝陛下と結婚するとは思わなかったよ」
「私も驚いてるのよ。ふふ」

 部屋の扉が再度開いた。
 十人ほどの使用人たちが入室し整列。
 そして全員が頭を下げた。

「ファステル! 宮殿を走るでない!」

 入室してきたの男性が声を上げる。
 低く腹に響く声だ。

 年齢は三十代くらい。
 身長は俺よりも高く、均整の取れた引き締まった身体。
 頭にターバンを巻いており、褐色の肌、鋭い眼光、整えられた黒い顎髭。
 そして、剣士が持つ独特な空気を纏っている。
 この人は戦っても強いと、俺は瞬時に判断した。

「貴殿がアル・パート殿か。そして、久しぶりだなレイ・ステラー殿。いや、今はレイ・パート殿か」

 その言葉を聞いたレイが跪く。
 俺もすぐに跪く。
 この男性こそ、エマレパ皇国の皇帝キルス・エマレパその人だ。

「よい! 不要だ! それよりも私が礼を伝えたいのだ」

 陛下は俺の肩に手を置く。

「アルの活躍は聞いておる。なにせファステルはお前の話しかしないからな。わははは」

 豪快に笑う皇帝陛下。
 第一印象ですでに惹かれるのが分かるほど、気持ちのいい御仁だ。

「陛下、お久しぶりです」

 レイが優雅にエマレパ式のお辞儀をする。

「レイ殿、久しぶりだな。ジョンアー前陛下の国葬以来か。それにしても美しさに一層磨きがかかったな。わははは」
「ありがとうございます、陛下」
「しかも剣の腕も上げたようだな。何度か試合をした時は互角かと思っていたが、もう貴殿には敵わんぞ」
「何を仰っしゃいますか。陛下も相当腕を上げましたね?」
「そう見えるか? ふむ、世界最高の冒険者に言われると嬉しいな。滞在中は剣を交えようではないか」
「承知いたしました」

 続いて陛下は俺の顔を見る。

「アルよ。そなたもぜひ私と試合をしてくれ」
「私がですか? そ、そんな、私なんて」
「おいおい、竜種ヴェルギウスを倒した男だぞ? 今やお前は世界最強の剣士だ。お前と剣を交えることは剣士の憧れなんだ」
「わ、分かりました」
「ヴェルギウス討伐の話も詳しく聞かせてくれ。ファステルなんて、その話を聞きたいと毎晩私に言ってくるからな。わははは」

 ファステルの頬が、茹でた大挟甲蟹アキュラータのように赤く染まっていた。

 俺たちは場所を移動。
 夕方を迎えようとしていたので、そのまま夕食を取ることになった。
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