鉱夫剣を持つ 〜ツルハシ振ってたら人類最強の肉体を手に入れていた〜

犬斗

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第十五章

第257話 初めての国へ

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 全ての作業や手続きが終わり、出発の朝となった。
 カミラさんとデイヴが見送ってくれる。

「師匠、姉の結婚式をよろしくお願いします!」
「だからデイヴ、俺は師匠じゃないって。でも、君の姉さんの結婚式は盛大にお祝いしてくるよ」

 デイヴと握手した。

「アルさん、またぜひ遊びにいらしてくださいね」
「はい、もちろんです!」
「次はこの子を抱っこして欲しいです」

 そう言ってお腹をさするカミラさんだった。

 俺たちはカミラさん夫妻に別れを告げ、ファステルに会うためアセンを出発。
 カミラさんはファステルへ手紙を送ってくれたし、結婚式の招待状も持たせてくれたので問題ないだろう。
 そして、レイのドレスは一ヶ月半後に現地へ到着するとのこと。

 ファステルの嫁ぎ先はエマレパ皇国。
 イーセ王国の南東にあり、フォルド帝国の南に位置する四大国家の一つだ。
 ちなみに四大国家とは世界最古のフォルド帝国を筆頭に、クリムゾン王国、イーセ王国、エマレパ皇国となる。

 俺は初めて行く国だ。

「レイは行ったことある?」
「ええ、前陛下の外遊の護衛で行ったわ。あの国はイーセ王国やフォルド帝国とは文化が全く違うのよ。面白いわよ。特に料理が美味しいのよね」
「へえ、楽しみだな」
「そういえば、あなたはエマレパ語を話せないわよね?」
「うん、挨拶くらいは父親に教わったけど、会話まではできない。レイは?」
「まあ私は一応全世界の言語を話せるから問題ないわね」
「え! そ、それって凄くない? やっぱりレイって異常だよね?」
「そんなことないわよ! シドだって話せるし、外交官になると覚えなければいけないもの。それに覚える言語って実際は七つだもの。簡単よ」
「いやいや、簡単なわけないって……」
「エマレパ語はイーセ語に似てるから、あなたもすぐに覚えるわよ。それにあなたは国を興すのよ。覚えなさい」
「う、分かった。努力します」

 王国内の旅は安全で、盗賊やモンスターに遭遇することはなかった。
 そのおかげで、道中はエマレパ語の勉強に集中できた。

 アセンを出発してから二十日が経過。
 イーセ王国の国境の街オルモストに到着。
 オルモストを超えると、目的のエマレパ皇国だ。

 オルモストは十一番隊が守護するワインド地方にある。
 この旅ではなるべく騎士団に遭遇しないようにしているが、国境警備隊は騎士団の編成だ。
 否が応でも騎士に遭遇する。

 俺とレイが国境に来たことで、小隊長は大緊張していた。
 Sランクの冒険者カードを見せ、所定の手続きを行い、何事もなく手続きは終了。
 小隊長が見送ってくれた。

「アル様! レイ様! 旅の安全に祝福をリ・クロトエ!」
「十一番隊の未来に祝福をリ・クロトエ!」

 騎士団流の挨拶を交わし、エマレパ皇国へ入国。
 エマレパ皇国の国境の街はルピオンという。

 入国審査の受付で、冒険者カードを見せる。
 エマレパ皇国にも冒険者ギルドはあるので、冒険者カードは有効だ。
 ただ、入国管理官は初めて見るSランクの冒険者カードに驚いている様子だった。

 レイがエマレパ語で全て対応してくれたこともあり、スムーズに入国。
 街に入ると、イーセ王国側のオルモストとは全く別の景色に驚く。
 初めて見るエマレパ皇国の建物。
 異国情緒溢れる作りに、俺は目を奪われた。

 ほとんどの建物が薄黄色の砂岩で作られている。
 建物の形状も全体的に四角い。

「エマレパ皇国は台風の上陸が多いのよ。そのため石造りの家となっているわ」
「イーセ王国南のマルソル内海で発生した台風は、最南部のクラップ山脈を越えることができず、東に進路を向ける。そうすると、東のエマレパ皇国に台風が移動するんだよね。本で読んだことがあるよ」
「ええ、そうね。だから、エマレパ皇国は安定した土地を求めて、イーセ王国へ攻め込んだことがあるのよ。過去何度も戦争があったわ」

 イーセ国王とエマレパ皇国の戦争は歴史上何度も行われていた。
 とはいえ、最後の戦争は百年前だ。
 現在は和平条約が結ばれており、友好関係が続いている。

「今日はこのルピオンで一泊するわよ」
「ああ、分かったよ」

 ルピオンで最高級の宿に宿泊することにした。
 エマレパ皇国の物価は比較的安く、料金は金貨1枚だった。
 イーセ国王なら金貨3枚から4枚はするだろう。

 チェックインを済ませ、宿の高級レストランで夕食を取る。
 香辛料が効いた料理の数々に、ただ驚くばかりだった。

「ゴホッ! か、辛い!」
「ほら、お水よ」

 俺は辛さで悶絶するが、レイは平然としていた。

「ゴホッ、ゴホッ。レ、レイは平気なの?」
「そうね。辛いものは好きよ」
「辛いってレベルじゃないよ……」
「そう? 美味しいじゃない」
「うう、辛い。それにしても、レイって苦手ものがないよね? 完璧すぎてちょっと引くよ」
「やめてよ。私だって苦手な物はあるわよ」
「それって何?」
「えーと、えーと、えーと。とにかく……あるのよ!」
「アハハ。ないじゃん!」

 レイは暗闇を怖がる。
 だが、それはここではあえて触れないでおく。
 
 翌日、ルピオンを出発。
 エマレパ皇国の首都は皇都タルースカだ。
 ルピオンから南東へ約八百キデルトの距離。
 俺とレイは馬を並べ街道を進む。

「ファステルの結婚式は皇都でしょ? 詳しい状況を聞いてないけど、行けば分かるのかな」
「そうね。一応迎えがあるそうよ。あ、そうえいば、ヴィクトリアも皇帝陛下の結婚式で皇都へ行くと言っていたわね」
「確かに! ん? ね、ねえ、まさかファステルの結婚相手って皇帝陛下じゃないよね?」
「え? そ、そうね……可能性はゼロではないでしょうけど、王族や皇族の結婚って想像以上に大変なのよ。地位や家柄、血筋が最も重要だわ。ファステルは、ほら、その……」

 レイが言葉を濁す。

「そうだね。ファステルは平民だし、親もいない。弟と二人で一生懸命生きてきた」

 ファステルの生活は楽ではなかった。
 家を失った時は絶望の果てに立ち、本気で死のうと思っていたほどだ。
 それがカミラさんの宝石店に就職して、ようやく安定した生活を送れるようになった。
 そんなファステルを、俺は心から尊敬していた。
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