鉱夫剣を持つ 〜ツルハシ振ってたら人類最強の肉体を手に入れていた〜

犬斗

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第十五章

第256話 吉報と祝福

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「え! ど、どういうことですか!」

 ファステルが誘拐なんて信じられない。
 ここは最強騎士団がいる王国だ。

「騎士団への連絡は! 犯人は! クソッ! 俺がすぐ助けに行きます!」
「お、落ち着いてください!」
「カミラさん、場所は分かりますか!」
「アルさん! 落ち着いてください! 違うんです!」
「え?」
「ごめんなさい! 悪い方じゃないのです!」
「ど、どういう……」
「実は……ファステルは嫁ぐことになったのです」
「嫁ぐって……。え? け、結婚!」
「そうです! ごめんなさい!」
「え? ど、どういうことで? え?」

 ファステルの結婚と聞き、俺は落ちつくどころか、さらに驚き混乱していた。

「詳しい話はファステルに直接聞いてください。ファステルもアルさんと話したいことがたくさんあるはずです」
「で、でも、ファステルはもういないんですよね?」
「大丈夫です。二ヶ月後に結婚式があるので会えますよ。私とデイヴに招待状が来てますが、往復の間に出産するかもしれないので、お断りの連絡を入れます。デイヴには姉の晴れ姿を見に行きなさいと言っているのですが、出産が大事だと聞かないのです。ですので、もし良かったらアルさんが代理で行ってもらえませんか?」
「そ、それであれば喜んで行きますが……代理なんて歓迎されますかね?」
「ウフフフフ、もちろんです。手紙も送っておくので安心してください。ファステルは、アルさんにどうしても会いたいと言っていましたから」
「分かりました」

 俺はレイに視線を向ける。

「レイ、大丈夫?」
「もちろんよ。ファステルをお祝いしに行きましょう」

 俺たちはファステルの結婚式に出席することにした。

 その日の夜、カミラさんが盛大なパーティーを開催してくれた。
 もちろん夫であるデイヴも参加。
 デイヴは俺のことを命の恩人と呼んでくれるし、鉱夫としても師匠と呼ぶ。
 少し採掘を教えただけなのだが。

 今回こそ宿泊費を支払うと伝えるも、結局俺たちの結婚祝いということでカミラさんに押し切られた。
 またしてもカミラさんの好意に甘えることになった。

 なお、カミラさんがこっそり教えてくれたが、ファステルの結婚相手はファステルを店から引き抜くことになるので、相当な金貨を結納金として支払ったそうだ。
 カミラさんにとってファステルは大切な従業員だし、今や家族でもあるが、俺が連れてきた身寄りのない女性が莫大な利益をもたらしたと、商売人らしい考え方をしていた。

 パーティーが終了し、最高級の部屋に宿泊。
 レイが珈琲を淹れてくれた。

「ファステルが結婚とは驚いたわね」
「うん。でもファステルはあの容姿であの性格だもん。常にモテてたし、こうなるのは当然でしょ」
「ふふふ、そうね。……ねえ、アル。」
「ん? どうしたの?」

 珍しくレイが甘えるように、俺の腕を抱きかかえた。

「もし私が誘拐されたら、あんな風に焦ってくれる?」
「え? レイが誘拐? アハハ、レイは強いから誘拐なんてされないでしょ?」
「バ、バカ!」

 レイを怒らせてしまった俺は、ひと晩かけてレイの機嫌を取ることになった。

 ――

 翌日、カミラさんと夫のデイヴと朝食を取る。
 実はカミラさんから、数日ほど滞在して欲しいと言われていた。 

「アルさん、レイ様、お仕事の話をさせていただいてもよろしいですか?」
「仕事ですか?」
「はい、滞在をお願いしたのはお仕事なんです」

 カミラさんは宝石店の経営者だ。
 鉱石の採掘依頼だろうか?
 だが、鉱夫のデイヴがいるから俺がやることはないはずだ。

 カミラさんは優雅に紅茶を飲む。
 さすがは上級な商人だ。
 流れるような上品な動きで、レイの瞳を見つめるカミラさん。

「レイ様、つかぬことをお聞きしますが、ファステルの結婚式に参加される際のドレスはお持ちですか?」
「今は持ってないので、現地で調達しますわ」

 俺たちの結婚式や晩餐会で使用した服は、全てヴィクトリアがプレゼントしてくれた。
 しかし荷物になるということで、リマの輸送部隊に預けている。

「それでは私に提供させてください」
「え? そこまで甘えるわけにはいきません」
「違うのです。実は宝石とは別に、高級服のブランドを作ったのです。これまではファステルにモデルをやってもらっていましたが、レイ様にもモデルをやっていただければその宣伝効果は絶大です。この世で最も美しい女性ですから」
「モデル……ですか?」

 レイが珍しく困惑している。

「アハハ、確かにカミラさんの言う通りだよ。俺がいうのも何だけど、レイは世界で一番綺麗な花嫁だったからね」
「まあ、アルさんが惚気けるなんて珍しいですね」
「い、いや、そういうつもりじゃ……」

 自分で言いながら照れてしまった。
 でもレイのモデルは賛成だ。
 先日の結婚式で話題になっているレイをモデルにすれば、間違いなく売上は上がるだろう。
 カミラさんの商人の考え方は、いつも本当に参考になる。

「ファステルの結婚式へ出席するためのドレスをご用意します。さらに私どものブランドのモデルもお願いしたいのです。もちろん契約金とモデル代をお支払いしますわ」

 カミラさんの話では、結婚式に参加するドレスの提供と、レイをイメージした新作ドレスを作りたいとのことだった。
 ブランドは男性用も展開するということで、俺の分も作ってもらえるそうだ。
 レイは少し考えつつも、カミラさんの提案を受け入れた。

 採寸するために店へ行くと、店内には華やかなドレスが並んでいた。
 展示してあるドレスには、その服を着たモデルの絵画も飾られている。
 モデルは全てファステルだ。

「レイ様にはこの絵画モデルもお願いしたいのです。最高の画家と契約しておりますのでご安心ください」

 俺は飾られてる絵画を凝視。
 この絵のタッチは見たことがあるし、そもそも最高の画家という呼び名に心当たりがある。

「あれ? カミラさん、この絵ってロズですよね?」
「え! アルさんロズ・ディール画伯をご存知なんですか?」
「はい。俺が出版した本のイラストを描いてくれたんですよ。それに確かロズはレイを描いてます」

 帝国出身で史上最高の画家と呼ばれるロズ・ディール。
 以前、シドがレイの絵画を描かせていた。
 その絵は没収され、俺の家に飾ってある。
 それにロズは、俺のモンスター図鑑のイラストも担当してくれている。
 それも本人からの描きたいと連絡が来たほどだ。

「す、凄いですね。ロズ先生に依頼するのは難しいのです。料金もですが、何より気に入ったものしか描きませんから」

 カミラさんは両手で口を塞ぎ、心底驚いている様子だった。

 ――

 レイの採寸と絵画のモデルで二日を要した。
 絵画に関しては、アセンに滞在しているロズの弟子がスケッチを描き、後日ロズに渡すそうだ。
 もしこの場にロズがいたら、きっと喜んで描いてただろう。
 俺の図鑑のことで打ち合わせをした時に、ロズはレイを描きたいとずっと言っていたから。

 レイはカミラさんのブラントとモデル契約を締結。
 内容は、ファステルの結婚式用ドレスの提供。
 店内に展示する新作ドレスの採寸と絵画モデルのセット五点で金貨五百枚。
 宝石のモデル絵画を十点で金貨五百枚。
 そして、ブランド契約料として金貨千枚。
 合計金貨二千枚の契約という、信じられないほどの莫大な金額だった。

 なお、結婚式用のドレスは、完成したら直接現地に送ってくれるそうだ。
 同じものを二着作成し、一着はレイ用、もう一着は店で展示する。
 実はファステルのウエディングドレスも、カミラさんのブランドが担当しているとのこと。

「レイ様とファステルがモデルのブランドです。間違いなく話題になります。これは国内外で売れますよ」

 カミラさんは自信に満ち溢れていた。
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