鉱夫剣を持つ 〜ツルハシ振ってたら人類最強の肉体を手に入れていた〜

犬斗

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第十四章

第250話 氷の女王

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 翌日、アタシたちが除雪作業をしていると、村の中心部でモンスターの気配を感じた。

「お、おい! ウィル! これって!」
「カル・ド・イスクだ! ナタリーとレイさんを呼んでくる!」
「アタシは準備しておく!」

 いつ現れてもいいように道具は準備してある。
 道具を揃えていると、ナタリーとレイを連れてウィルが戻ってきた。

 ナタリーが右手を挙げる。

「作戦通りに戦えば絶対勝てる! いいか、無理はするな!」

 甲高いモンスターの咆哮が鳴り響く。
 四人で集落の中心部へ走った。

「カル・ド・イスク!」

 アタシは思わず叫び声を上げた。

 目の前で翼を羽ばたかせ、吹雪を巻き起こしながら宙に浮くカル・ド・イスク。
 身体の周囲には美しく雪が舞う。
 その雪と純白の鱗に反射する日光は、もはや神々しくもある。
 カル・ド・イスクの名前の意味は氷の女王。
 名前通りの存在だ。

「リマ! 弓だ!」

 アタシはナタリーの声で我に返り、力の限り長弓ロングボウを射る。
 だが、カル・ド・イスクは翼を羽ばたかせ矢を弾く。

 当然この行動は予想しており、気配を消しカル・ド・イスクの背後に回っていたウィルが、同時に分銅ボーラを投げていた。
 ボーラは三本のロープに重りを括りつけ、それを一本に結び獲物に投げつける狩猟武器だ。
 今回は重りの代わりに、塗料が入った容器をつけている。
 このボーラは攻撃ではなくマーキングだ。

「よし! 塗料がついたぞ!」

 ウィルの叫び声が聞こえた。
 これでカル・ド・イスクを見失わない。

 それを合図に、ナタリーとレイが同時に剣を抜き、カル・ド・イスクに飛び込む。
 カル・ド・イスクは長い尻尾の攻撃を繰り出すが、二人は華麗に避けつつ、神速の突きを叩き込む。

「凄いぞ! 二人ともさすがだ!」

 アタシたちの攻撃は確実にカル・ド・イスクへ届いている。
 Aランク冒険者が四人も揃い、徹底的に準備したのだ。
 これくらいは当然だろう。

「キィエィィィィ!」

 カル・ド・イスクが耳をつんざく咆哮を上げた。
 先程よりも超高音の咆哮だ。
 すると、レイの動きが止まってしまった。
 一切の表情を失くし、氷のような冷たい眼差しをナタリーへ向ける。
 
狂戦士バーサーカーだ!」

 叫ぶナタリーを薄ら笑うかのように、カル・ド・イスクがもう一度咆哮を上げる。
 ついにレイがナタリーに攻撃を始めた。

 超高速の突きから上段下段へ自在に剣を振る。
 恐ろしいほどの技術だ。
 そしてスタミナ計算も何もない。
 一撃一撃を全力で打っている。
 あんな動きを続けていたら、レイが死んでしまう。

「レイ! 正気を保て!」

 ナタリーが呼びかけるも、レイは攻撃をやめない。
 だが、これも想定済みだった。
 レイを止めることができるのはナタリーだけだ。
 レイが狂戦士バーサーカーになったら、作戦通りナタリーが相手をする。

「ウィル! 今だ!」
「分かってるよ! アンタもだ!」

 アタシとウィルは、側面と背後からカル・ド・イスクを攻撃。

 アタシは両手剣グレートソードでカル・ド・イスクを斬りつけた。
 手には肉を深く抉った感触が残る。

 ウィルは二刀流だ。
 恐ろしいほどの手数で、確実に斬り刻んでいく。

「さすがだな! ウィル!」
「アンタもな!」

 アタシたちは、お互いを称え合い鼓舞する。
 だが、カル・ド・イスクは翼を大きく羽ばたかせ、瞬間的に吹雪を発生させた。

「グッ! ち、近付けない」

 風が巻き起こり雪が舞う。
 視界も遮られる。
 その吹雪の中から、カル・ド・イスクの尻尾の先端が突きのように飛んできた。
 尻尾の毒針に刺されたら助からない。

 しかし、尻尾には発光性の塗料が付着している。
 舞った雪で遮られても見えていた。

「あ、危ねー! 塗料がなかったら死んでたぞ!」
「オイラのおかげだろ!」

 ウィルの声が聞こえるということは、アイツも無事だ。
 というより、意外と余裕がありそうだった。

 アタシが尻尾の攻撃を弾くとウィルが攻撃。
 ウィルが尻尾の攻撃を躱すとアタシが攻撃。
 いつの間にかカル・ド・イスクが起こした吹雪は収まり、舞い上がった雪は散っていた。

 少しずつ傷を負うカル・ド・イスク。
 純白の鱗には鮮血が付着している。

「いいぞ! ウィル!」
「おう! この調子だ!」

 確実に攻めていたアタシとウィル。
 だが、激怒したカル・ド・イスクが叫び声を上げた。
 そして、大きく息を吸う。

「リマ! 冷気を吐くぞ!」

 カル・ド・イスクは吸い込んだ冷気を溜めて、瞬間的に圧縮して吐き出す。
 ナタリーが言うにはカル・ド・イスクの能力の一つで、この超低温の冷気を浴びた人間は瞬時に凍るそうだ。

「リマ! 狙いはお前だ!」
「アタシか!」

 カル・ド・イスクの視線がアタシを捉え、口を大きく開く。
 吐き出された冷気の塊。
 その瞬間、アタシはマントの紐を引き、目の前にマントを投げつけ真横に大きくダイブ。

 冷気を受け、砕け散るマント。
 地面までも凍っている。
 あれを喰らったらアタシも全身が凍っていただろう。
 知識がない状態で躱すのは無理だ。
 固有名保有特異種ネームドモンスターの名に相応しい化け物。
 一対一ならアタシは絶対に勝てない相手。

 だが、この戦いは予め入念に準備していたし、徹底的にシミュレーションしていた。
 何より仲間がいる。

「一人じゃないんだよ!」

 アタシは体勢を立て直しながら叫ぶ。

 カル・ド・イスクの背後で、その背中を切り刻むウィル。
 ウィルの二刀流の手数は圧倒的だ。
 血飛沫が上がる。
 あの若さでどうやってあれほどの剣技を身に着けたのか。
 レイもそうだが、世の中にはとんでもない怪物がいると感心する。

 カル・ド・イスクが吐く冷気の塊は多用できず、一回の戦闘で一回が限度らしい。
 そのため、これを乗り切ればほぼ勝ちが見えるのだった。
 
 残る問題はレイの狂戦士バーサーカーだ。
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