鉱夫剣を持つ 〜ツルハシ振ってたら人類最強の肉体を手に入れていた〜

犬斗

文字の大きさ
上 下
259 / 414
第十四章

第250話 氷の女王

しおりを挟む
 翌日、アタシたちが除雪作業をしていると、村の中心部でモンスターの気配を感じた。

「お、おい! ウィル! これって!」
「カル・ド・イスクだ! ナタリーとレイさんを呼んでくる!」
「アタシは準備しておく!」

 いつ現れてもいいように道具は準備してある。
 道具を揃えていると、ナタリーとレイを連れてウィルが戻ってきた。

 ナタリーが右手を挙げる。

「作戦通りに戦えば絶対勝てる! いいか、無理はするな!」

 甲高いモンスターの咆哮が鳴り響く。
 四人で集落の中心部へ走った。

「カル・ド・イスク!」

 アタシは思わず叫び声を上げた。

 目の前で翼を羽ばたかせ、吹雪を巻き起こしながら宙に浮くカル・ド・イスク。
 身体の周囲には美しく雪が舞う。
 その雪と純白の鱗に反射する日光は、もはや神々しくもある。
 カル・ド・イスクの名前の意味は氷の女王。
 名前通りの存在だ。

「リマ! 弓だ!」

 アタシはナタリーの声で我に返り、力の限り長弓ロングボウを射る。
 だが、カル・ド・イスクは翼を羽ばたかせ矢を弾く。

 当然この行動は予想しており、気配を消しカル・ド・イスクの背後に回っていたウィルが、同時に分銅ボーラを投げていた。
 ボーラは三本のロープに重りを括りつけ、それを一本に結び獲物に投げつける狩猟武器だ。
 今回は重りの代わりに、塗料が入った容器をつけている。
 このボーラは攻撃ではなくマーキングだ。

「よし! 塗料がついたぞ!」

 ウィルの叫び声が聞こえた。
 これでカル・ド・イスクを見失わない。

 それを合図に、ナタリーとレイが同時に剣を抜き、カル・ド・イスクに飛び込む。
 カル・ド・イスクは長い尻尾の攻撃を繰り出すが、二人は華麗に避けつつ、神速の突きを叩き込む。

「凄いぞ! 二人ともさすがだ!」

 アタシたちの攻撃は確実にカル・ド・イスクへ届いている。
 Aランク冒険者が四人も揃い、徹底的に準備したのだ。
 これくらいは当然だろう。

「キィエィィィィ!」

 カル・ド・イスクが耳をつんざく咆哮を上げた。
 先程よりも超高音の咆哮だ。
 すると、レイの動きが止まってしまった。
 一切の表情を失くし、氷のような冷たい眼差しをナタリーへ向ける。
 
狂戦士バーサーカーだ!」

 叫ぶナタリーを薄ら笑うかのように、カル・ド・イスクがもう一度咆哮を上げる。
 ついにレイがナタリーに攻撃を始めた。

 超高速の突きから上段下段へ自在に剣を振る。
 恐ろしいほどの技術だ。
 そしてスタミナ計算も何もない。
 一撃一撃を全力で打っている。
 あんな動きを続けていたら、レイが死んでしまう。

「レイ! 正気を保て!」

 ナタリーが呼びかけるも、レイは攻撃をやめない。
 だが、これも想定済みだった。
 レイを止めることができるのはナタリーだけだ。
 レイが狂戦士バーサーカーになったら、作戦通りナタリーが相手をする。

「ウィル! 今だ!」
「分かってるよ! アンタもだ!」

 アタシとウィルは、側面と背後からカル・ド・イスクを攻撃。

 アタシは両手剣グレートソードでカル・ド・イスクを斬りつけた。
 手には肉を深く抉った感触が残る。

 ウィルは二刀流だ。
 恐ろしいほどの手数で、確実に斬り刻んでいく。

「さすがだな! ウィル!」
「アンタもな!」

 アタシたちは、お互いを称え合い鼓舞する。
 だが、カル・ド・イスクは翼を大きく羽ばたかせ、瞬間的に吹雪を発生させた。

「グッ! ち、近付けない」

 風が巻き起こり雪が舞う。
 視界も遮られる。
 その吹雪の中から、カル・ド・イスクの尻尾の先端が突きのように飛んできた。
 尻尾の毒針に刺されたら助からない。

 しかし、尻尾には発光性の塗料が付着している。
 舞った雪で遮られても見えていた。

「あ、危ねー! 塗料がなかったら死んでたぞ!」
「オイラのおかげだろ!」

 ウィルの声が聞こえるということは、アイツも無事だ。
 というより、意外と余裕がありそうだった。

 アタシが尻尾の攻撃を弾くとウィルが攻撃。
 ウィルが尻尾の攻撃を躱すとアタシが攻撃。
 いつの間にかカル・ド・イスクが起こした吹雪は収まり、舞い上がった雪は散っていた。

 少しずつ傷を負うカル・ド・イスク。
 純白の鱗には鮮血が付着している。

「いいぞ! ウィル!」
「おう! この調子だ!」

 確実に攻めていたアタシとウィル。
 だが、激怒したカル・ド・イスクが叫び声を上げた。
 そして、大きく息を吸う。

「リマ! 冷気を吐くぞ!」

 カル・ド・イスクは吸い込んだ冷気を溜めて、瞬間的に圧縮して吐き出す。
 ナタリーが言うにはカル・ド・イスクの能力の一つで、この超低温の冷気を浴びた人間は瞬時に凍るそうだ。

「リマ! 狙いはお前だ!」
「アタシか!」

 カル・ド・イスクの視線がアタシを捉え、口を大きく開く。
 吐き出された冷気の塊。
 その瞬間、アタシはマントの紐を引き、目の前にマントを投げつけ真横に大きくダイブ。

 冷気を受け、砕け散るマント。
 地面までも凍っている。
 あれを喰らったらアタシも全身が凍っていただろう。
 知識がない状態で躱すのは無理だ。
 固有名保有特異種ネームドモンスターの名に相応しい化け物。
 一対一ならアタシは絶対に勝てない相手。

 だが、この戦いは予め入念に準備していたし、徹底的にシミュレーションしていた。
 何より仲間がいる。

「一人じゃないんだよ!」

 アタシは体勢を立て直しながら叫ぶ。

 カル・ド・イスクの背後で、その背中を切り刻むウィル。
 ウィルの二刀流の手数は圧倒的だ。
 血飛沫が上がる。
 あの若さでどうやってあれほどの剣技を身に着けたのか。
 レイもそうだが、世の中にはとんでもない怪物がいると感心する。

 カル・ド・イスクが吐く冷気の塊は多用できず、一回の戦闘で一回が限度らしい。
 そのため、これを乗り切ればほぼ勝ちが見えるのだった。
 
 残る問題はレイの狂戦士バーサーカーだ。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。

玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!? 成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに! 故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。 この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。 持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。 主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。 期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。 その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。 仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!? 美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。 この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

異世界をスキルブックと共に生きていく

大森 万丈
ファンタジー
神様に頼まれてユニークスキル「スキルブック」と「神の幸運」を持ち異世界に転移したのだが転移した先は海辺だった。見渡しても海と森しかない。「最初からサバイバルなんて難易度高すぎだろ・・今着てる服以外何も持ってないし絶対幸運働いてないよこれ、これからどうしよう・・・」これは地球で平凡に暮らしていた佐藤 健吾が死後神様の依頼により異世界に転生し神より授かったユニークスキル「スキルブック」を駆使し、仲間を増やしながら気ままに異世界で暮らしていく話です。神様に貰った幸運は相変わらず仕事をしません。のんびり書いていきます。読んで頂けると幸いです。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

処理中です...