鉱夫剣を持つ 〜ツルハシ振ってたら人類最強の肉体を手に入れていた〜

犬斗

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第十四章

第247話 親と子

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「チッ。改めてAランクのウィル・ラトズだ」

 各自紹介が終わりクエストの話となった。
 ウィルもクエスト内容である、カル・ド・イスク討伐は知っている。

「ウィル、相手はネームドでも上位クラスのカル・ド・イスクだ。命の保証はないぞ?」
「ああ、承知の上だよ、ナタリーさん。金がいるんだ」
「分かった。お前もAランク冒険者だ。覚悟もあるだろう。命がけのクエストだが、よろしく頼む」

 ナタリーとウィルが握手している。
 そこでアタシは、ウィルに忠告することにした。

「おい、ウィル。レイに興味を持つのはやめておけよ?」
「あ? そんな小娘に興味なんかない」
「年上ぶっちゃって。オマエ可愛いとこあるな。フハハハ」
「う、うるせー! このクソ女!」

 またナタリーが割って入ってきた。 

「やれやれ、私は子どもたちの面倒を見ることになったのか」
「「うるせー!」」

 やっぱり少しだけレイが笑ったような気がする。
 気のせいじゃなければいいのだが。

 開発機関シグ・ナインから雪山専用の防寒具を提供してもらい、さらに数日かけてクエストの準備。
 そして、アタシたち四人は馬車に揺られ北を目指した。
 一ヶ月の移動だ。
 時間はあるので、道中では入念に討伐作戦を練る。

 さらに時折出現するモンスターを討伐し、盗賊も討ち取っていた。
 アタシたちの中でも、レイの強さと攻撃性は際立っている。
 モンスターも盗賊も容赦なく殺す。
 霧となった血飛沫の中に佇むレイの姿を初めて見たウィルは、あまりに驚き、その危険性を感じ取ったようだ。

「レ、レイ……さん。アンタ凄いな」
「そうだぞ、ウィル。オマエ、レイに変なことしたらマジで殺されるからな。気をつけろよ」
「し、しねーよ!」
「アタシだったら別に良いけどな」
「余計しねーっての!」

 ナタリーは、アタシとウィルのやり取りに時折苦笑いしていたが、道中を楽しんでいるようだった。
 レイは変わらず、何を考えているのか分からない。
 だが、少しだけウィルとも話すようになっていた。
 ウィルは女三人の中に入っているが、上手くやっている。

「女? この中に女なんているか?」

 悪態をついていたが、ウィルのナタリーを見る目は、アタシやレイを見る目と少し違っていた。

「コイツ、年上が好きなのか?」

 からかおうと思ったが、意外と本気そうなのでやめておいた。

 出発から一ヶ月が経ち、ついに目的地である北部の村に到着。
 村には二日ほど滞在し、情報収集しながら準備。
 この村の五キデルト先に、カル・ド・イスクに壊滅させられた小さな集落がある。

 アタシたちは、膝下まで雪が積もる街道を徒歩で進む。
 集落が襲われた影響で、除雪がされていないからだ。
 積雪時の移動は時間がかかる。
 日の出とともに出発したのに、到着したのは正午だった。

「お、おい。こんなに破壊されてるのか?」
「間違いなく……カル・ド・イスクの仕業だ」

 ナタリーは以前、カル・ド・イスクに襲撃されたレイの故郷で被害を見ていた。
 それも二度。

 集落に入ると、家屋は破壊され廃墟と化していた。
 死んだ住人の遺体は全て埋葬されており、人の気配は全く無い。
 薄気味悪いというか、不気味な雰囲気だ。

「ここに一週間ほど滞在して調査する」

 ナタリーが全員に指示を出す。
 集落の中を移動すると、辛うじて原形を留めている一軒の民家を発見。
 そこをキャンプ地とした。

 日中は集落の調査、日が暮れる前にはキャンプに戻り暖を取る。
 雪が積もるこの地で、夜の行動はとても危険だ。
 いくらAランク冒険者とはいえ、自然の脅威には勝てない。

「レイ、寒くないか?」
「大丈夫よ、ナタリー」
「ほら、これを首に巻くんだ」
「ありがとう。暖かいわ。ナタリーは寒くないの?」
「ふふふ、私は大丈夫だ。レイは優しいな」

 親子のような会話をしている二人。
 まあ実際に養子とはいえ親子である。
 ナタリーと一緒にいる時のレイは穏やかだ。
 この優しくて可愛いくて美しいレイが、本当のレイの姿なのだろう。

 調査開始から四日目となり、アタシたちは活動範囲を広げた。
 しかし、突然天候が荒れたため、昼過ぎに調査を中止。
 吹雪の中、民家に帰ってきた。

「さみー!」

 さっそく暖炉に火をつけた。

「民家でキャンプを張れて良かったぜ」

 強風が唸り、甲高い風切り音が聞こえる。
 ガタガタと音を立てるガラス窓の前に立ち、アタシは外を眺めた。
 隙間風が入るものの、暖炉のおかげで暖かい。
 もしこの民家がなければテント泊になっていた。
 この寒さでは耐えられなかったかもしれない。

「ナタリー、明日の調査はどうする?」
「調査はほぼ終わったか……」
「思ったより小さな集落だったからな。村へ帰還するか?」
「そうだな。予定より早いが帰還しよう。だが、この吹雪だ。天候が回復次第帰還する」

 ウィルがキッチンから鍋を持って来た。

「飯ができたよ。今日は熱々のシチューだ」

 今日の夕食はウィルが担当だ。
 湯気が立ち、部屋に良い香りが広がる。

「おお、オマエ気が利くじゃねーか。この寒さで熱々のシチューは良いな」
「オイラは料理も得意なんだ」
「料理もって、他に得意なものなんてあったっけ?」
「う、うるせーよ!」

 いつものようにウィルをからかっていると、突然ナタリーが立ち上がった。

「レイは! レイはどこだ!」

 その剣幕にアタシもウィルも驚く。
 そしてレイがいないことに気付いた。

「いつからいないんだ!」
「わ、分からない。でもレイのコートはあるぞ!」
「オイラがキッチンに入る前はいたぞ?」

 ナタリーがコートを羽織り、松明を持ち外へ飛び出した。
 アタシとウィルもすぐに続く。
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