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第十四章

第246話 討伐依頼

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 その日、アタシたちは冒険者ギルドの支部長室に案内された。

 ソファーに座るナタリーとレイとアタシ。
 正面にはウグマ支部長リチャード・ロートが座っている。

「ナタリー、大変なことが起こった」
「どうしたんですか?」
凍蝙蝠竜ラヴィトゥルが出現した」
「ラヴィトゥル! それって……まさか?」

 冷静沈着なナタリーの顔が青ざめていた。
 アタシはナタリーの表情に驚く。
 こんな表情を見るのは初めてだ。

「察したか。そうだ、ラヴィトゥルの……ネームドだ」

 アタシはナタリーの話を思い出した。
 レイの両親を殺し、村を壊滅させたあのネームド。
 アタシも恐怖から身体がこわばる。

 この場の大人たちが沈黙する中、レイがゆっくりと口を開く。

「カル・ド・イスク」

 ◇◇◇

 カル・ド・イスク

 凍蝙蝠竜ラヴィトゥル固有名保有特異種ネームドモンスター
 名前の意味は氷の女王。

 体長八メデルトで、全身を純白の鱗に覆われている。
 通常種よりも倍以上の大きさを誇り、巨大な翼を羽ばたかせることで周辺に吹雪を発生させる。
 また、圧縮した冷気を吐き出すことで、対象を凍らすことが可能。

 尻尾の長さは五メデルトあり、先端の毒針から麻痺性と防腐作用がある毒を注入する。
 さらに、生物の攻撃性を高める成分を持ち、注入した相手を兵隊として酷使する。
 その兵隊は狂戦士バーサーカーと呼ばれ、死ぬまで戦う。
 
 ◇◇◇

 リチャードが珈琲をすする。
 そして、ナタリーの顔を見つめた。

「ナタリー、討伐を依頼したい」
「カル・ド・イスクの討伐……。つ、ついにこの時が……。し、しかし、カル・ド・イスクは王国北部を縄張りとしていたはず……」
「今まではな。調査機関シグ・ファイブ研究機関シグ・セブンが共同で調査した結果、どうやら帝国北部に住み着いたそうだ」

 リチャードが膝に手をつき、頭を下げた。

「Aランク三人となったお前たちのパーティーは、今や帝国で対モンスターの最高戦力だ。カル・ド・イスクを討伐できるのはお前たちしかいないのだ」
「まだ早い……。だが、このチャンスは逃したくない……」

 ナタリーが呟いていると、レイがナタリーの袖を引っ張った。

「ナタリー、被害が出てるのでしょう? やりましょう」
「レイ!」

 ナタリーが珍しく声を荒げ、立ち上がる。

「レイ! カル・ド・イスクは本当に危険なんだ! まだ早い!」
「私は大丈夫よ」
「レ、レイ」
「それにナタリーとリマが一緒だもの」
「……いつかは倒さなければいけない、か」

 ナタリーが息を大きく吐き、ソファーに深く腰掛け、瞳を閉じ考え込む。
 アタシがゆっくり時間をかけ珈琲を飲み終わると、ナタリーが目を開いた。

「リチャードさん、分かりました。クエストを受けましょう」
「やってくれるか! ありがたい。こちらも最大限の協力はするから安心してくれ」

 アタシたちは、改めてクエストの詳細を聞いた。

 北部の集落がカル・ド・イスクに襲われ壊滅。
 村中凍っていたそうだ。
 狩りから戻った住人が発見し通報。
 このクエストの依頼主は帝国とのこと。
 だが、アタシは疑問に思った。

「リチャードさん、なぜ帝国が依頼主なんだ? 帝国には帝国騎士団がいるのでは?」
「ああ、もちろんだ。しかし、カル・ド・イスクは大人数であればあるほど不利になる。吹雪を発生させることができるからな。少数精鋭がいいのだ。そこで、対モンスター最強のお前たちに白羽の矢が立ったのだ。皇帝陛下自らの依頼だ。とんでもないことだぞ」
「こ、皇帝陛下が!」

 リチャードが説明しながらクエスト依頼書を取り出した。

◇◇◇

 クエスト依頼書

 難度 Aランク
 種類 討伐
 対象 カル・ド・イスク
 内容 凍蝙蝠竜ラヴィトゥル固有名保有特異種ネームドモンスターカル・ド・イスクの討伐
 報酬 金貨二千枚
 期限 半年以内

 編成 ナタリー・ステラーパーティー
 解体 ギルド手配
 運搬 ギルド手配
 特記 出現場所は指示書参照 詳細は契約書記載 冒険者税徴収済み

◇◇◇

 アタシは報酬を見て驚いた。

「き、金貨二千枚だって!」
「ああ、そうだ。だが四人で分けることになるから一人五百枚だ」
「四人? アタシたちは三人だけど?」
「もう一人、Aランク冒険者を用意した」
「え? だ、だけど……」
「これがその者の経歴だ」

 リチャードが一枚の書類をナタリーに手渡した。
 書類に目を通すナタリー。

「十六歳の男の子か」
「ウィル・ラトズ。十六歳でAランクになった二刀流の天才だ。レイに引けを取らないと思うぞ」
「確かに天才だな。十六歳か。まあ、大丈夫か……。分かりました」

 全ての手続を終え、アタシたちはギルドを出る。
 今回は特別に、クエスト準備金として百枚もの金貨が支払われた。

「ナタリー、十六歳とはいえ男だぞ? 平気か?」

 これまでレイがいるから、男の冒険者をパーティーに入れることはなかった。
 だが、今回はネームド討伐とはいえ、なぜナタリーは承諾したのだろうか。

「レイは同世代の異性と話したことがない。これも経験だ」
「そりゃそうかもしれないけど……」
「何かあったら私が止める」

 ナタリーが納得するのであれば、私も異存はない。
 以前、レイに手を出そうとして殺された冒険者の二の舞いにならないことを祈るだけだ。

 ウィルと待ち合わせ場所の開発機関シグ・ナインへ行く。
 防寒装備の提供を受けるためだ。

 シグ・ナインのロビーに入ると、気だるそうに立つ一人の少年がいた。
 両腰に一本ずつ、二本の剣を吊るしている。
 身長はレイと同じくらいだ。
 十四歳の少女と同じ身長だから、背は低い方だろう。

「アンタがナタリー・ステラー? オイラはウィル・ラトズ。二刀流で双竜って呼ばれてる」

 ナタリーに挨拶するウィル。
 だけど、アタシはその発言に対し、突っ込まずにはいられない。
 というか盛大に吹き出し大爆笑した。

「フハハハ、オ、オマエ、双竜って! じ、自分で言うのか? こじらせてんな! フハハハ! 腹いてー! 双竜!」
「う、うるせー! オマエがリマって奴だろ! 賭博師とかダセー異名の!」
「な! カッコイイだろ! このクソチビ!」
「うるせー、この大女!」

 ナタリーが割って入った。

「やめないか二人とも。私から見たらどっちもどっちだ」
「「うるせー!」」

 一瞬だけレイが笑ったような気がしたが、気のせいだったか。
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