鉱夫剣を持つ 〜ツルハシ振ってたら人類最強の肉体を手に入れていた〜

犬斗

文字の大きさ
上 下
251 / 414
第十四章

第242話 噂の少女

しおりを挟む
「何をバカなことを言ってるんだ……。レイが誘うわけないだろ」

 男はレイの美貌に我慢できなくなったのだろう。
 だが、あと三日で街へ着くのだ。
 金貨五十枚もあれば花街で豪遊できる。
 なぜ我慢できないのか。
 本当にバカな男だ。

「オマエ! その手を離」

 アタシが剣を抜き警告の声を張り上げた瞬間、レイは男の手を振りほどき突きを放つ。

 恐ろしいほどのスピードと正確さで、急所へ放たれた突き。
 男の喉に突き刺さった。

「ゴボッ! ゴゴッゴボッ……ヒュー……ヒュー……ヒュ……」

 男の口から血が溢れ、呼吸をする度に喉から血が飛び散る。
 そして、男は前のめりに倒れた。

「し、死んだ……」

 アタシは剣を抜いたが、さすがに殺すつもりなんてない。
 だが、レイは躊躇なく男を殺した。
 アタシは驚いて声が出ない。
 冒険者のアタシでも、今まで人を殺したことはないからだ。

「だからあれほどレイに構うなと言ったのに……。仕方がない。この始末は私がする」

 後ろから声が聞こえた。
 振り返るとナタリーが立っている。

「だ、だからといって、十三歳の子が躊躇なく人を殺すのか? ど、どういうことなんだよ!」
「事情があるのだ」
「じ、事情だと!」
「……今はこうだが、この子はきっと変わる」

 ナタリーの顔はどこか悲しげだった。

 その日の夜はレイをテントに寝かせ、アタシとナタリーで見張りを交代。
 そして数日後、アタシたちはギルドへ帰還。

 ナタリーはそのまま支部長室へ向かった。
 クエストの報告と、男の後始末だろう。
 しかし、どう責任を取るのだろうか。

 その間、アタシはレイとロビーで待つ。
 正直気まずい。
 アタシから何か話題を振らねば、この間は持たない。
 レイから話しかけてくるようなことは絶対にないからだ。

「なあレイ。賭博場のルーレットで数字が分かったのはなぜだい?」
「ルーレットの回転速度、白球を投げ入れる角度、ディーラーのくせで分かる」
「は? わ、分かるわけねーだろ!」

 さらっと凄まじいことを言ってのけた。
 そんなことは人間に不可能だ。
 だが、私は閃いた。

「待てよ? レイと賭博場へ行けば大金持ちじゃん!」
「ギャンブルなんて嫌い」

 レイが細剣レイピアの柄に手を置く。
 まずい、斬られるかもしれない。

「ま、待て! 冗談だろ! ってかナタリーとは行ってただろ!」
「あなたを探すため。あの時に稼いだ金貨は全て寄付した」
「き、寄付だと?」

 表情はほとんど動かないものの、レイの言うことは私よりもだけ立派だった。

「レイ、リマ。待たせたな」

 次に何を話そうか悩んでいると、ナタリーが戻ってきた。
 もう話すことはなかったので助かる。

「あの男のことは不問になった。少しだけ権力も使ったがな。ギルドはこちらの言い分を全て聞いてくれたよ」
「権力? Aランクにもなるとそんなこともできるのか?」
「まあそんなところだ。ふふふ」

 ナタリーは笑いながら革袋を出してきた。

「リマ、今回の報酬だ。金貨が七十五枚入っている」
「な、七十五枚だと!?」
「そうだ。あの男の分が不要になったから上乗せしたぞ」
「マジか! それはありがたい!」

 ずっしりと重い革袋を持つ。
 これほどの報酬は初めてだ。
 クエストは大変だったし、信じられない事件も起こったが、参加して本当に良かった。

「くうう! やったぜ! これで大金持ちだ!」

 アタシは小躍りした。
 そして、今後もナタリーたちとクエストへ行けば、大儲けできるんじゃないかと思った。

「ナタリー! これからも……」

 だが、冷静に考えると二人はAランクとBランクの冒険者だ。
 Dランクのアタシなんかと格が違う。
 今回は特別に支部長権限の承認があったが、通常なら一緒のクエストへ行けない。

「あ、やっぱダメだ」

 そんなアタシの姿を見ていたナタリーは、腕を組み笑っていた。

「リマ。良かったら、私たちのパーティーに参加しないか?」
「え? アンタたちのパーティーに?」
「ああ、そうだ。レイが珍しく人に懐いた。レイはリマのことを気に入ったようだ」

 レイがアタシに懐いただと?
 そうは思えないが……。
 だが、正直嬉しい。

「で、でもランクが……。アタシはランクが足りないよ」
「その報酬でBランクを受けに行け。足りない分は私が払おう」
「え! ヤダよ! この金でギャンブルするんだよ!」
「ダメだ!」

 アタシは後日、強引に試験場へ連れてかれ地獄の共通試験を受けた。
 なんとか合格し、Bランクの討伐試験を受験。
 これも無事に合格した。
 
 試験代の金貨は合計で百一枚。
 アタシが七十枚支払い、足りない分をナタリーが払ってくれた。
 なお、先日の金貨七十五枚の報酬から、五枚は強制的に借金返済に充てられたのだった。

 それからアタシたちは、いくつものクエストをクリア。
 Aランクを筆頭にした女三人パーティーだ。
 冒険者ギルドで話題になっていたのは言うまでもない。
 さらに最年少で十三歳のレイは、その強さと容姿から冒険者の中で大きな噂となる。

「女三人組のパーティーを知ってるか?」
「ああ、Aランク一人とBランク二人だろ?」
「そこに妖精の生まれ変わりがいるらしい」
「違う。世にも恐ろしい残虐な少女だ」
「悪魔の子供と聞いたぞ?」
「バカ! あの子は地上に舞い降りた天使だよ!」
「ああ、実際には見たが、驚くほど美しいぞ」

 様々な噂が飛び交い、レイは瞬く間に時の人となった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す

紅月シン
ファンタジー
 七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。  才能限界0。  それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。  レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。  つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。  だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。  その結果として実家の公爵家を追放されたことも。  同日に前世の記憶を思い出したことも。  一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。  その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。  スキル。  そして、自らのスキルである限界突破。  やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。 ※小説家になろう様にも投稿しています

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

処理中です...