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第十四章
第240話 賭博場の少女
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イーセ王国クロトエ騎士団近衛隊隊長リマ・ブロシオン。
アルとレイによるヴェルギウス討伐クエストが完了したことで、騎士団退団が承認された。
リマは、ヴェルギウス討伐の報酬である金貨十万枚分の古金貨千枚をアフラへ届ける。
アフラ行きの騎士団輸送部隊隊長が、リマにとって最後の任務だった。
なお、アルとレイの結婚祝いが王城へ大量に届いたため、その運搬も同時に行う。
特にレイの結婚ということで、王国の貴族や商人たちが競うように自慢の品を贈った。
その量は荷馬車十台分だ。
「まるで王族の結婚ね。まったくもう……レイの影響力は凄いわ」
大量の祝いの品を見たヴィクトリアは苦笑いしていた。
リマは全ての退団手続きと、各方面への挨拶を終え王都を出発。
アルとレイはアセンの街へ向かったが、リマは直接アフラへ向かう。
リマは愛馬に乗りながら、離れゆく王都を振り返る。
「入団して九年か。本当に世話になった。感謝しかない」
王都へ一礼したリマ。
「だけど、これでまたレイと一緒にいられる」
リマはレイと初めて会った日を思い出していた。
リマが十八歳、レイが十三歳、今からもう十一年前のことだった。
◇◇◇
「おい、リマ! お前また借金しただろ!」
「うるせーな!」
「またギャンブルだろーが! やめろ!」
「アタシの金をどう使おうがアタシの勝手だろ!」
「チッ! 腕は良いのに。だからお前は未だにDランクなんだよ!」
「うるせー!」
アタシはDランクの冒険者として、小銭を稼ぎ日々暮らしていた。
金なんてギャンブルで稼げる。
クエストで元手を稼ぎ、ギャンブルで何倍にもする。
これが最高だ。
今はまだ勝てないが、次は絶対に勝てる。
それに冒険者のランクを上げるための試験は、莫大な金貨だ必要だった。
共通試験の受験料が金貨一枚。
Cランクの討伐試験は金貨五十枚だ。
金貨五十一枚なんて、Dランクのクエストで貯めるには数年かかる。
だからギャンブルだ。
ギャンブルで大勝ちすれば一日で稼げる。
アタシは金さえあれば、Cランク、いやBランクだって受かる自信はある。
昨日のクエストは、久しぶりの大きな案件だった。
報酬は金貨三枚。
Dランクの平均報酬の数倍だ。
この金貨に、さっき借金した金貨二枚。
金貨五枚もの元手があれば、百枚にするのも夢じゃない。
はやる気持ちを抑え、アタシは賭博場へ入った。
ルーレット台から少し離れた場所に、一人の少女が立っている。
なぜこんなところに少女がいるのだろう。
「十八」
「は?」
少女がルーレットを眺めながら、数字を口にした。
回転板が止まると、十八の目に白球が入っている。
「おいおい、お嬢ちゃん幸運だな。賭ければ大金持ちだったぞ。フハハハ」
少女は何も答えない。
少女の視線の先には、三十代くらいの女がルーレット台に座っていた。
女は顔の向きをルーレットから動かさず、目線だけを動かし少女を見ている。
ディーラーがルーレットに白球を投げ入れた。
すると少女が手をかざす。
「七」
両手で数字を示すと同時に、小声でも数字を呟く。
その様子を見た女が七に賭ける。
他の客はこの少女に気付いてない。
「七に一点賭けだ」
女は全てのチップを七に賭けた。
結果は宣言通り七だ。
「お、おい、キミは」
アタシが少女に話しかけると同時に、先程の女がルーレット台を立ち、少女に向かって手招きしている。
そして、女に連れられ、少女は賭博場を出ていった。
――
数日後、賭博場へ行くと、また少女と女がいた。
その少女は、よく見ると、いや、よく見なくても、恐ろしいほどの美少女だ。
真っ白な肌はきめ細かく、切れ長の目、紺碧の瞳、綺麗に通った鼻筋、ほのかに桃色をした薄い唇。
少女というには大人っぽい容姿。
これほどの美少女は見たことがない。
まるでお伽話の妖精だ。
「お嬢ちゃん、また来たのかい?」
「うちの子に話しかけないでくれるか?」
答えたのは少女じゃなかった。
「うちの子って、アンタの子なのか?」
「関係ないだろう?」
先日少女と一緒にいた三十代の女だ。
黒髪のその女は、引き締まった細身の長身、日に焼けた肌、性格のキツそうな顔立ちだった。
腰には細剣を吊る下げ、軽鎧を着ている。
恐らく冒険者だろう。
「アンタ、冒険者かい?」
「人の名を聞く時は、自分から名乗るのが礼儀だぞ?」
「そうだったな。すまん。アタシはリマ・ブロシオン。Dランク冒険者だ」
「お前がリマか……。なるほど、噂通りできそうだな。Bランクでもおかしくないだろう」
「なんだよ。偉そうに」
「威勢がいいな。私はナタリー・ステラー、Aランク冒険者だ」
「A? Aだって! 嘘だろ!」
Aランク冒険者なんて初めて見た。
世界でも僅かしかいない、凄腕の冒険者たちだ。
驚くアタシに対し、冒険者カードを見せるナタリー。
「ほ、本当にAランクだ……。初めて見た」
「で、リマ。うちの子に何か用か?」
「い、いや、こんな少女が賭博場に来てたら不審に思うだろ? 心配で声をかけたんだよ」
「それはお気遣い感謝する」
女が優雅に一礼した。
とても上品で自然な動きだった。
「この子のことは心配無用だ。それにリマ、お前を探していたんだ」
「アタシを?」
「明日の朝一でギルドに顔を出せ。いいな。それでは失礼する」
ナタリーと少女が出口へ歩いて行った。
扉の前で少女が振り向き、アタシの顔を見る。
一瞬だけ目が合ったが、少女と思えないその美しさに心を奪われそうになった。
「な、なんて恐ろしい子なんだ。綺麗すぎるだろ」
アタシは雑念を振り払うように頭を振り、ルーレット台の席に座った。
アルとレイによるヴェルギウス討伐クエストが完了したことで、騎士団退団が承認された。
リマは、ヴェルギウス討伐の報酬である金貨十万枚分の古金貨千枚をアフラへ届ける。
アフラ行きの騎士団輸送部隊隊長が、リマにとって最後の任務だった。
なお、アルとレイの結婚祝いが王城へ大量に届いたため、その運搬も同時に行う。
特にレイの結婚ということで、王国の貴族や商人たちが競うように自慢の品を贈った。
その量は荷馬車十台分だ。
「まるで王族の結婚ね。まったくもう……レイの影響力は凄いわ」
大量の祝いの品を見たヴィクトリアは苦笑いしていた。
リマは全ての退団手続きと、各方面への挨拶を終え王都を出発。
アルとレイはアセンの街へ向かったが、リマは直接アフラへ向かう。
リマは愛馬に乗りながら、離れゆく王都を振り返る。
「入団して九年か。本当に世話になった。感謝しかない」
王都へ一礼したリマ。
「だけど、これでまたレイと一緒にいられる」
リマはレイと初めて会った日を思い出していた。
リマが十八歳、レイが十三歳、今からもう十一年前のことだった。
◇◇◇
「おい、リマ! お前また借金しただろ!」
「うるせーな!」
「またギャンブルだろーが! やめろ!」
「アタシの金をどう使おうがアタシの勝手だろ!」
「チッ! 腕は良いのに。だからお前は未だにDランクなんだよ!」
「うるせー!」
アタシはDランクの冒険者として、小銭を稼ぎ日々暮らしていた。
金なんてギャンブルで稼げる。
クエストで元手を稼ぎ、ギャンブルで何倍にもする。
これが最高だ。
今はまだ勝てないが、次は絶対に勝てる。
それに冒険者のランクを上げるための試験は、莫大な金貨だ必要だった。
共通試験の受験料が金貨一枚。
Cランクの討伐試験は金貨五十枚だ。
金貨五十一枚なんて、Dランクのクエストで貯めるには数年かかる。
だからギャンブルだ。
ギャンブルで大勝ちすれば一日で稼げる。
アタシは金さえあれば、Cランク、いやBランクだって受かる自信はある。
昨日のクエストは、久しぶりの大きな案件だった。
報酬は金貨三枚。
Dランクの平均報酬の数倍だ。
この金貨に、さっき借金した金貨二枚。
金貨五枚もの元手があれば、百枚にするのも夢じゃない。
はやる気持ちを抑え、アタシは賭博場へ入った。
ルーレット台から少し離れた場所に、一人の少女が立っている。
なぜこんなところに少女がいるのだろう。
「十八」
「は?」
少女がルーレットを眺めながら、数字を口にした。
回転板が止まると、十八の目に白球が入っている。
「おいおい、お嬢ちゃん幸運だな。賭ければ大金持ちだったぞ。フハハハ」
少女は何も答えない。
少女の視線の先には、三十代くらいの女がルーレット台に座っていた。
女は顔の向きをルーレットから動かさず、目線だけを動かし少女を見ている。
ディーラーがルーレットに白球を投げ入れた。
すると少女が手をかざす。
「七」
両手で数字を示すと同時に、小声でも数字を呟く。
その様子を見た女が七に賭ける。
他の客はこの少女に気付いてない。
「七に一点賭けだ」
女は全てのチップを七に賭けた。
結果は宣言通り七だ。
「お、おい、キミは」
アタシが少女に話しかけると同時に、先程の女がルーレット台を立ち、少女に向かって手招きしている。
そして、女に連れられ、少女は賭博場を出ていった。
――
数日後、賭博場へ行くと、また少女と女がいた。
その少女は、よく見ると、いや、よく見なくても、恐ろしいほどの美少女だ。
真っ白な肌はきめ細かく、切れ長の目、紺碧の瞳、綺麗に通った鼻筋、ほのかに桃色をした薄い唇。
少女というには大人っぽい容姿。
これほどの美少女は見たことがない。
まるでお伽話の妖精だ。
「お嬢ちゃん、また来たのかい?」
「うちの子に話しかけないでくれるか?」
答えたのは少女じゃなかった。
「うちの子って、アンタの子なのか?」
「関係ないだろう?」
先日少女と一緒にいた三十代の女だ。
黒髪のその女は、引き締まった細身の長身、日に焼けた肌、性格のキツそうな顔立ちだった。
腰には細剣を吊る下げ、軽鎧を着ている。
恐らく冒険者だろう。
「アンタ、冒険者かい?」
「人の名を聞く時は、自分から名乗るのが礼儀だぞ?」
「そうだったな。すまん。アタシはリマ・ブロシオン。Dランク冒険者だ」
「お前がリマか……。なるほど、噂通りできそうだな。Bランクでもおかしくないだろう」
「なんだよ。偉そうに」
「威勢がいいな。私はナタリー・ステラー、Aランク冒険者だ」
「A? Aだって! 嘘だろ!」
Aランク冒険者なんて初めて見た。
世界でも僅かしかいない、凄腕の冒険者たちだ。
驚くアタシに対し、冒険者カードを見せるナタリー。
「ほ、本当にAランクだ……。初めて見た」
「で、リマ。うちの子に何か用か?」
「い、いや、こんな少女が賭博場に来てたら不審に思うだろ? 心配で声をかけたんだよ」
「それはお気遣い感謝する」
女が優雅に一礼した。
とても上品で自然な動きだった。
「この子のことは心配無用だ。それにリマ、お前を探していたんだ」
「アタシを?」
「明日の朝一でギルドに顔を出せ。いいな。それでは失礼する」
ナタリーと少女が出口へ歩いて行った。
扉の前で少女が振り向き、アタシの顔を見る。
一瞬だけ目が合ったが、少女と思えないその美しさに心を奪われそうになった。
「な、なんて恐ろしい子なんだ。綺麗すぎるだろ」
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