246 / 394
第十三章
第238話 アルの嘘
しおりを挟む
俺はヴィクトリアに、予め用意しておいたシドの秘密を話すことにした。
「ふう。わ、分かった。シドの秘密を話すよ」
「は? アル!」
珍しくレイが大きな声を上げた。
大きな目を見開いて、俺の顔を凝視している。
「いいんだ。ヴィクトリアとはこれから長いつき合いになる。知ってもらいたい」
「ちょ、ちょっと!」
レイが本気で心配している。
なるほど、確かにレイがこの反応なら、ヴィクトリアも信じる可能性は高まるだろう。
ヴィクトリアの表情が変わった。
俺の話に喰いついたようだ。
ジルやエレセンは、非常に驚いた表情を浮かべている。
「実はシドには絶対に秘密と言われたんだ。だから、これは本当にここだけの話にして欲しい。ヴィクトリア、誓えるかい?」
「わ、分かったわ。ヴィクトリア・イーセは、イーセ王国国王としてその王冠に誓います」
「この部屋に暗部はいる?」
「だ、大丈夫よ。盗聴はしていないわ。そうよね、ジル」
「ハッ! 左様でございます。し、しかし、アルさん、この話は私やエレセン宰相も伺っていいのですか?」
ジルも動揺している。
「はい。ここにいるのは王国トップの皆さんですから問題ないです。俺の国はイーセ王国と最も深い関係性を持つでしょうから」
「ア、アル……」
レイが心配そうな表情で、俺を見つめている。
これほどまでに焦るレイを見るのは初めてだ。
俺はヴィクトリアに視線を向けた。
「まず、シドの秘密だけど、古の薬を一度だけ偶然再現できたそうだ。それは不老長寿の薬だ」
わざと声のトーンを落とし、ゆっくりと慎重に話す。
「不老長寿? シド様はその薬を飲んだと?」
「そうだ。その薬を飲むと寿命は……二百年ほどになる」
「二百年!」
「シドは二十歳の頃にその薬を飲んだため、今もその年齢から老化してないそうだ。そして今のシドは百五十年近く生きている。だから、自分の寿命はあと五十年ほどだろうって笑っていたよ」
ヴィクトリアは、両手で口を抑え驚いている。
「それと、冒険者ギルドが保有している世界中の土地などの資産に関してだけど、ギルドには千年の歴史があるのは知ってるよね?」
「ええ、もちろんよ。イーセ王国とほぼ同じ歴史ですもの」
「そうだったね。シドは元々冒険者ギルドに興味があったんだ。国家でもないのに、世界的組織として千年も続いていることがあり得ないという理由だ。偶然、薬を発明し長寿となったことから、様々な手を使ってギルドへ潜り込み、その資産を百年かけて徹底的に調べ上げたそうだ。だから千年前の資産にも、各国の歴史にも詳しいんだって。百年もあれば大抵のことは調べられると自慢してたよ」
「そ、そうよね。人の寿命を超えた年月ですもの」
「で、二十年くらい前、ギルマスになったそうだ」
「そうね。確か私が生まれた年くらいに、シド様がギルマスになっているもの」
「あ! そうだ! 一度だけシドが自慢してきたけど、ブラッド闘技場ってシドが百年前に設計したそうだよ」
「は?」
「アハハ、そりゃ驚くよね。でもシドは言っていたよ。当時の名前は、えーと確か……。そうだ、クライス・ベリーと名乗っていて、設計図一枚目の右下にサインを書いたんだって。さらに柱の設計図のページに、当時の国王陛下だったブラッド国王の名前が浮かぶように、線を書いて遊んだって笑ってたよ」
「ジル!」
ヴィクトリアがジルの名前を呼ぶ。
「ハッ! アルさん、一度失礼します!」
ジルが席を立った。
きっと設計図を確認するためだろう。
「でも……。そ、そんな秘密を話していいの?」
ヴィクトリアは驚きながらも、まだ少し疑っているようだ。
「こうなったら仕方がないよ。話すことがお互いのためでしょ? レイも知らなかった話だけどね」
「そ、そうね。私もそこまで詳しいことは知らなかったわ」
この時点で俺が本当のことを伝えてないことは、レイも理解しているはずだ。
だが、意図には気付いたようで、レイも合わせてくれている。
ヴィクトリアはレイの表情もうかがっている。
もうひと押しだろう。
「それを踏まえた上で伝えるけど……。これも本当にここだけの話だよ? もしかしたらシドは、ギルドが保有している土地を全て手放すかもしれない」
「ほ、本当に!」
「これは絶対に内密に。他国にしてみれば国家機密だから」
「わ、分かったわ」
「シドが言うには、ギルドは一度大きな改革が必要だそうだ。シドがギルドの文献を調べ尽くした時に、数々の不正を見つけた。だが巨大になりすぎたギルドを解体するわけにもいかない。だから、一旦他国の土地などを売却して整理した方がいい。それにギルド内の収益だけで、十分賄えると言っていた」
ヴィクトリアは紅茶を口にする。
気持ちを落ち着かせているようだ。
「ふう、凄いことになったわね」
ヴィクトリアが呟く。
一旦メイドのマリアが入室し、新たな紅茶と軽食を出してくれた。
そしてマリアはすぐに退室。
俺たちが紅茶を飲み、軽食を口にしているとジルが戻ってきた。
「陛下! 設計図には、アルさんの仰る通りの記載がありました!」
「そうなのね。分かったわ。ありがとう、ジル」
ヴィクトリアが俺の顔を見つめる。
「アル、シド様の秘密を言ったことは平気なの?」
「帰ったら正直に伝えるよ。でも、シドもいつかは話さなければならないと言っていたし、大丈夫だと思うよ」
「ふう、本当に凄い話ね。でもこれで、シド様が世界の史実に詳しい理由が分かったわ。アル、話してくれてありがとう」
ヴィクトリアの様子を見ると、もう大丈夫だろう。
完全に俺の話を信じたようだ。
「ふう。わ、分かった。シドの秘密を話すよ」
「は? アル!」
珍しくレイが大きな声を上げた。
大きな目を見開いて、俺の顔を凝視している。
「いいんだ。ヴィクトリアとはこれから長いつき合いになる。知ってもらいたい」
「ちょ、ちょっと!」
レイが本気で心配している。
なるほど、確かにレイがこの反応なら、ヴィクトリアも信じる可能性は高まるだろう。
ヴィクトリアの表情が変わった。
俺の話に喰いついたようだ。
ジルやエレセンは、非常に驚いた表情を浮かべている。
「実はシドには絶対に秘密と言われたんだ。だから、これは本当にここだけの話にして欲しい。ヴィクトリア、誓えるかい?」
「わ、分かったわ。ヴィクトリア・イーセは、イーセ王国国王としてその王冠に誓います」
「この部屋に暗部はいる?」
「だ、大丈夫よ。盗聴はしていないわ。そうよね、ジル」
「ハッ! 左様でございます。し、しかし、アルさん、この話は私やエレセン宰相も伺っていいのですか?」
ジルも動揺している。
「はい。ここにいるのは王国トップの皆さんですから問題ないです。俺の国はイーセ王国と最も深い関係性を持つでしょうから」
「ア、アル……」
レイが心配そうな表情で、俺を見つめている。
これほどまでに焦るレイを見るのは初めてだ。
俺はヴィクトリアに視線を向けた。
「まず、シドの秘密だけど、古の薬を一度だけ偶然再現できたそうだ。それは不老長寿の薬だ」
わざと声のトーンを落とし、ゆっくりと慎重に話す。
「不老長寿? シド様はその薬を飲んだと?」
「そうだ。その薬を飲むと寿命は……二百年ほどになる」
「二百年!」
「シドは二十歳の頃にその薬を飲んだため、今もその年齢から老化してないそうだ。そして今のシドは百五十年近く生きている。だから、自分の寿命はあと五十年ほどだろうって笑っていたよ」
ヴィクトリアは、両手で口を抑え驚いている。
「それと、冒険者ギルドが保有している世界中の土地などの資産に関してだけど、ギルドには千年の歴史があるのは知ってるよね?」
「ええ、もちろんよ。イーセ王国とほぼ同じ歴史ですもの」
「そうだったね。シドは元々冒険者ギルドに興味があったんだ。国家でもないのに、世界的組織として千年も続いていることがあり得ないという理由だ。偶然、薬を発明し長寿となったことから、様々な手を使ってギルドへ潜り込み、その資産を百年かけて徹底的に調べ上げたそうだ。だから千年前の資産にも、各国の歴史にも詳しいんだって。百年もあれば大抵のことは調べられると自慢してたよ」
「そ、そうよね。人の寿命を超えた年月ですもの」
「で、二十年くらい前、ギルマスになったそうだ」
「そうね。確か私が生まれた年くらいに、シド様がギルマスになっているもの」
「あ! そうだ! 一度だけシドが自慢してきたけど、ブラッド闘技場ってシドが百年前に設計したそうだよ」
「は?」
「アハハ、そりゃ驚くよね。でもシドは言っていたよ。当時の名前は、えーと確か……。そうだ、クライス・ベリーと名乗っていて、設計図一枚目の右下にサインを書いたんだって。さらに柱の設計図のページに、当時の国王陛下だったブラッド国王の名前が浮かぶように、線を書いて遊んだって笑ってたよ」
「ジル!」
ヴィクトリアがジルの名前を呼ぶ。
「ハッ! アルさん、一度失礼します!」
ジルが席を立った。
きっと設計図を確認するためだろう。
「でも……。そ、そんな秘密を話していいの?」
ヴィクトリアは驚きながらも、まだ少し疑っているようだ。
「こうなったら仕方がないよ。話すことがお互いのためでしょ? レイも知らなかった話だけどね」
「そ、そうね。私もそこまで詳しいことは知らなかったわ」
この時点で俺が本当のことを伝えてないことは、レイも理解しているはずだ。
だが、意図には気付いたようで、レイも合わせてくれている。
ヴィクトリアはレイの表情もうかがっている。
もうひと押しだろう。
「それを踏まえた上で伝えるけど……。これも本当にここだけの話だよ? もしかしたらシドは、ギルドが保有している土地を全て手放すかもしれない」
「ほ、本当に!」
「これは絶対に内密に。他国にしてみれば国家機密だから」
「わ、分かったわ」
「シドが言うには、ギルドは一度大きな改革が必要だそうだ。シドがギルドの文献を調べ尽くした時に、数々の不正を見つけた。だが巨大になりすぎたギルドを解体するわけにもいかない。だから、一旦他国の土地などを売却して整理した方がいい。それにギルド内の収益だけで、十分賄えると言っていた」
ヴィクトリアは紅茶を口にする。
気持ちを落ち着かせているようだ。
「ふう、凄いことになったわね」
ヴィクトリアが呟く。
一旦メイドのマリアが入室し、新たな紅茶と軽食を出してくれた。
そしてマリアはすぐに退室。
俺たちが紅茶を飲み、軽食を口にしているとジルが戻ってきた。
「陛下! 設計図には、アルさんの仰る通りの記載がありました!」
「そうなのね。分かったわ。ありがとう、ジル」
ヴィクトリアが俺の顔を見つめる。
「アル、シド様の秘密を言ったことは平気なの?」
「帰ったら正直に伝えるよ。でも、シドもいつかは話さなければならないと言っていたし、大丈夫だと思うよ」
「ふう、本当に凄い話ね。でもこれで、シド様が世界の史実に詳しい理由が分かったわ。アル、話してくれてありがとう」
ヴィクトリアの様子を見ると、もう大丈夫だろう。
完全に俺の話を信じたようだ。
14
お気に入りに追加
181
あなたにおすすめの小説
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
ダブル魔眼の最強術師 ~前世は散々でしたが、せっかく転生したので今度は最高の人生を目指します!~
雪華慧太
ファンタジー
理不尽なイジメが原因で引きこもっていた俺は、よりにもよって自分の誕生日にあっけなく人生を終えた。魂になった俺は、そこで助けた少女の力で不思議な瞳と前世の記憶を持って異世界に転生する。聖女で超絶美人の母親とエルフの魔法教師! アニメ顔負けの世界の中で今度こそ気楽な学園ライフを送れるかと思いきや、傲慢貴族の息子と戦うことになって……。
レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした
桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。
生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】
雪乃カナ
ファンタジー
世界が退屈でしかなかった1人の少年〝稗月倖真〟──彼は生まれつきチート級の身体能力と力を持っていた。だが同時に生まれた現代世界ではその力を持て余す退屈な日々を送っていた。
そんなある日いつものように孤児院の自室で起床し「退屈だな」と、呟いたその瞬間、突如現れた〝光の渦〟に吸い込まれてしまう!
気づくと辺りは白く光る見た事の無い部屋に!?
するとそこに女神アルテナが現れて「取り敢えず異世界で魔王を倒してきてもらえませんか♪」と頼まれる。
だが、異世界に着くと前途多難なことばかり、思わず「おい、アルテナ、聞いてないぞ!」と、叫びたくなるような事態も発覚したり──
でも、何はともあれ、女神様に異世界召喚されることになり、生まれた世界では持て余したチート級の力を使い、異世界へと魔王を倒しに行く主人公の、異世界ファンタジー物語!!
母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)
いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。
全く親父の奴!勝手に消えやがって!
親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。
俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。
母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。
なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな?
なら、出ていくよ!
俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ!
これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。
カクヨム様にて先行掲載中です。
不定期更新です。
転生弁護士のクエスト同行記 ~冒険者用の契約書を作ることにしたらクエストの成功率が爆上がりしました~
昼から山猫
ファンタジー
異世界に降り立った元日本の弁護士が、冒険者ギルドの依頼で「クエスト契約書」を作成することに。出発前に役割分担を明文化し、報酬の配分や責任範囲を細かく決めると、パーティ同士の内輪揉めは激減し、クエスト成功率が劇的に上がる。そんな噂が広がり、冒険者は誰もが法律事務所に相談してから旅立つように。魔王討伐の最強パーティにも声をかけられ、彼の“契約書”は世界の運命を左右する重要要素となっていく。
ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜
むらくも航
ファンタジー
ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。
幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。
そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。
故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。
自然と共に生き、魔物たちとも触れ合ってきた。
だが、エアルは知らない。
ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。
遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。
これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる