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第十三章

第238話 アルの嘘

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 俺はヴィクトリアに、予め用意しておいたシドの秘密を話すことにした。

「ふう。わ、分かった。シドの秘密を話すよ」
「は? アル!」

 珍しくレイが大きな声を上げた。
 大きな目を見開いて、俺の顔を凝視している。

「いいんだ。ヴィクトリアとはこれから長いつき合いになる。知ってもらいたい」
「ちょ、ちょっと!」

 レイが本気で心配している。
 なるほど、確かにレイがこの反応なら、ヴィクトリアも信じる可能性は高まるだろう。

 ヴィクトリアの表情が変わった。
 俺の話に喰いついたようだ。
 ジルやエレセンは、非常に驚いた表情を浮かべている。

「実はシドには絶対に秘密と言われたんだ。だから、これは本当にここだけの話にして欲しい。ヴィクトリア、誓えるかい?」
「わ、分かったわ。ヴィクトリア・イーセは、イーセ王国国王としてその王冠に誓います」
「この部屋に暗部はいる?」
「だ、大丈夫よ。盗聴はしていないわ。そうよね、ジル」
「ハッ! 左様でございます。し、しかし、アルさん、この話は私やエレセン宰相も伺っていいのですか?」

 ジルも動揺している。

「はい。ここにいるのは王国トップの皆さんですから問題ないです。俺の国はイーセ王国と最も深い関係性を持つでしょうから」
「ア、アル……」

 レイが心配そうな表情で、俺を見つめている。
 これほどまでに焦るレイを見るのは初めてだ。

 俺はヴィクトリアに視線を向けた。

「まず、シドの秘密だけど、古の薬を一度だけ偶然再現できたそうだ。それは不老長寿の薬だ」

 わざと声のトーンを落とし、ゆっくりと慎重に話す。

「不老長寿? シド様はその薬を飲んだと?」
「そうだ。その薬を飲むと寿命は……二百年ほどになる」
「二百年!」
「シドは二十歳の頃にその薬を飲んだため、今もその年齢から老化してないそうだ。そして今のシドは百五十年近く生きている。だから、自分の寿命はあと五十年ほどだろうって笑っていたよ」

 ヴィクトリアは、両手で口を抑え驚いている。

「それと、冒険者ギルドが保有している世界中の土地などの資産に関してだけど、ギルドには千年の歴史があるのは知ってるよね?」
「ええ、もちろんよ。イーセ王国とほぼ同じ歴史ですもの」
「そうだったね。シドは元々冒険者ギルドに興味があったんだ。国家でもないのに、世界的組織として千年も続いていることがあり得ないという理由だ。偶然、薬を発明し長寿となったことから、様々な手を使ってギルドへ潜り込み、その資産を百年かけて徹底的に調べ上げたそうだ。だから千年前の資産にも、各国の歴史にも詳しいんだって。百年もあれば大抵のことは調べられると自慢してたよ」
「そ、そうよね。人の寿命を超えた年月ですもの」
「で、二十年くらい前、ギルマスになったそうだ」
「そうね。確か私が生まれた年くらいに、シド様がギルマスになっているもの」
「あ! そうだ! 一度だけシドが自慢してきたけど、ブラッド闘技場ってシドが百年前に設計したそうだよ」
「は?」
「アハハ、そりゃ驚くよね。でもシドは言っていたよ。当時の名前は、えーと確か……。そうだ、クライス・ベリーと名乗っていて、設計図一枚目の右下にサインを書いたんだって。さらに柱の設計図のページに、当時の国王陛下だったブラッド国王の名前が浮かぶように、線を書いて遊んだって笑ってたよ」
「ジル!」

 ヴィクトリアがジルの名前を呼ぶ。

「ハッ! アルさん、一度失礼します!」

 ジルが席を立った。
 きっと設計図を確認するためだろう。

「でも……。そ、そんな秘密を話していいの?」

 ヴィクトリアは驚きながらも、まだ少し疑っているようだ。

「こうなったら仕方がないよ。話すことがお互いのためでしょ? レイも知らなかった話だけどね」
「そ、そうね。私もそこまで詳しいことは知らなかったわ」

 この時点で俺が本当のことを伝えてないことは、レイも理解しているはずだ。
 だが、意図には気付いたようで、レイも合わせてくれている。

 ヴィクトリアはレイの表情もうかがっている。
 もうひと押しだろう。

「それを踏まえた上で伝えるけど……。これも本当にここだけの話だよ? もしかしたらシドは、ギルドが保有している土地を全て手放すかもしれない」
「ほ、本当に!」
「これは絶対に内密に。他国にしてみれば国家機密だから」
「わ、分かったわ」
「シドが言うには、ギルドは一度大きな改革が必要だそうだ。シドがギルドの文献を調べ尽くした時に、数々の不正を見つけた。だが巨大になりすぎたギルドを解体するわけにもいかない。だから、一旦他国の土地などを売却して整理した方がいい。それにギルド内の収益だけで、十分賄えると言っていた」

 ヴィクトリアは紅茶を口にする。
 気持ちを落ち着かせているようだ。

「ふう、凄いことになったわね」

 ヴィクトリアが呟く。

 一旦メイドのマリアが入室し、新たな紅茶と軽食を出してくれた。
 そしてマリアはすぐに退室。
 俺たちが紅茶を飲み、軽食を口にしているとジルが戻ってきた。

「陛下! 設計図には、アルさんの仰る通りの記載がありました!」
「そうなのね。分かったわ。ありがとう、ジル」

 ヴィクトリアが俺の顔を見つめる。

「アル、シド様の秘密を言ったことは平気なの?」
「帰ったら正直に伝えるよ。でも、シドもいつかは話さなければならないと言っていたし、大丈夫だと思うよ」
「ふう、本当に凄い話ね。でもこれで、シド様が世界の史実に詳しい理由が分かったわ。アル、話してくれてありがとう」

 ヴィクトリアの様子を見ると、もう大丈夫だろう。
 完全に俺の話を信じたようだ。
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